第10章13話 黄金竜と星の獣
……地下にいた『目玉』――アレがガイア『本体』であることは間違いない。
なぜならば、モンスター図鑑にとうとう『ガイア』の項目が追加されたからだ。
ただし、詳細情報は一切なし。名前のみが登録されているだけではある。
”……ちょっと予想外すぎる相手だ……”
そう呟かずにはいられない。
どんな姿をしているかはまだわからないが、もし『目玉』だけのモンスターであったとしても過去最大級のサイズであることは疑いようはない。
……『目玉』だけのモンスターでなかったとしたら……正直どれだけの巨体なのか……。
「推定される大きさは――」
【
しかし、その計算結果を口にすることはなく、噤んでしまう。
……うん、まぁ気持ちはわかる。
ぶっちゃけ規格外すぎて詳細なサイズがわかったところでどうしようもない……というか、より絶望感が増すだけであると思えてくる。
もちろん、だからと言って戦いもせずに撤退するわけにはいかないし、『ゲームクリア』のためには戦いは避けられないのもわかっているが……。
「ふん、関係ない。相手がどんな奴だろうがぶっ飛ばすだけだ」
「……イエス、サブマスター!」
ルナホークもすっかりとアリスの思想に染まってしまったなぁ……少しだけ口ごもったが、結局はアリスの言葉を全力で肯定している。
…………うん、まぁ……皆意気投合して仲良くなっているならそれでいいけどね……いや、元々現実世界で仲良しなのはわかっているけどさ。
それはともかくとして、だ。
”……でも奴の姿が消えた……みたい”
地下に見えていた『目玉』らしきものは消えてしまった。
こっちから攻撃したわけではないし、倒されて消えたというわけではない。
地下深くに消えた……という感じが近いが、どちらにしてもまだガイア本体が健在なのには間違いないだろう。
「ふーむ……あの裂け目に向かって攻撃するか? それとも突撃してみるか?」
アリスの言葉に少し考える。
モンスター図鑑に載ったということは、あの『目玉』の方を攻撃するのは間違いではないはずだ。
……が、あまりにも相手のことを知らなさすぎる。攻撃しなければ倒せないが、迂闊にあの裂け目に飛び込むのは流石に躊躇われる。
『”……皆、無事だよね? 一旦合流! そして意見を聞かせて”』
とにかく状況が色々と変わってしまった。
私たちを襲おうとしていた『腕』はひとまず落ち着いたし、地下の本体について皆の意見も聞きたい。
幸いそんなに離れた位置にいたわけではないから無事なのはわかっていたが――念のため確認。特に地上にいたクロエラとジュリエッタの無事は確認しておかねばならない。
どちらも無事という返事が来たし、そこは一安心だ。
私の指示に従い、皆合流――今後のことを相談することにした。
もちろん悠長に行動しているほど余裕はない。
周囲に新たな敵が現れないかを皆警戒しつつ……ではある。
『みゅー……わたちたちも見たけど……』
『にゃー……ちょっと考えが纏まらないにゃー……』
だよねぇ……。
私もいい考えは特に浮かんでいない。
だって、あんな大きな敵初めてだもん……『目玉』の怪物だとしても、超巨大ムカデ並の大きさだし……。
ヴィヴィアンの《ケラウノス》であっても果たして一撃で終わらせられるかは怪しいと思う。ムカデの場合、『頭』を吹き飛ばしさえすれば良かったのだけど今回も同じように済むとは限らない。
他に威力のある攻撃と言えば、《エクスカリバー》や《
「む? ……拙い、使い魔殿!?」
相談しつつ合流しようとしていた私たちであったが、その時アリスが異変に気付いた。
……いや、アリスだけではない。私も含め皆が気付いた。
”! これは――皆、下に降りよう!”
このまま上空を飛んでいるのは拙い、そう私たち全員が判断し地上へと降下する。
地上だって地割れがどこまで広がるかわからないし危険には違いないんだけど、このまま飛んでいるのだけは絶対に拙い。
なぜならば、ガイア本体が姿を見せようとしたのに呼応するかのように、青空が急速に黒い雲に覆われ――稲光が見えてきたからだ。
空を飛ぶというのはメリットは多いが、こうした荒天時にはデメリットの方が多くなってしまう。
落雷は特に最悪の部類だろう。
”これもガイアの仕業……!?”
「
皆して地上に降下しようとしている時、ルナホークがある推測を話そうとする。
が、しかし言葉を発しようとした瞬間――稲光と共に轟音が轟き……無数の雷が私たちに向かって降り注いできた!
「チッ!? 全員、なんとかかわせ!」
無茶を仰る――と言いたいところだが、『何とかする』以外に方法はない。
私はアリスの《
……まるで雷雨だ。それも、字義通りではなく『雷が雨のように降る』と言った意味での雷雨である。
逃げ場のない雷に追われ、私たちはバラバラに地上へと逃げることとなってしまった……。
* * * * *
「使い魔殿、無事か?」
”う、うん。私は大丈夫。ありがとうアリス”
流石の魔法というべきか、《ゴム》は落雷すらも防ぐ効果を持っているらしい。
私とアリスはダメージを負うこともなく無事に地上へと降りることができた。
大地の裂け目から離れた平野部――落雷は怖いけど、かといって森の中に降りるのも怖い。とにかく開けた場所へと降り立った。
”……他の皆も大丈夫そうだ。良かったぁ……”
「ハン、この程度でくたばるほど柔じゃねーさ」
『ゲーム』だからというのもあるが、落雷一発で体力がゼロになるようなことは基本的にはないのだろう。
他の子も体力が削れている子もいるけど、誰もリスポーン待ちにはなっていない。
体力的に一番不安なウリエラたちも無事である。
けど……皆とにかく回避を優先したため、バラバラの位置に降りてしまったらしくどこにいるのかがわからない……強制移動不可のクエストだし、自力で合流しなければならないんだけど……。
「! チッ……流石にアレだけでは終わらないか」
”モンスター!?”
唐突に、本当に何の前触れもなく私たちの目の前に巨大な獣が現れたのだ。
……瞬間移動、としか思えない。ここが『デジタル異世界』であれば、そういうことも可能なんだろうけど……。
「ふん、合流するにも――こいつを振り切ってとはいかないか。やるぞ、使い魔殿!」
”うん! 皆には連絡してある。アリス、戦いながら皆が来るのを待とう!”
手早く皆に現状を伝え、私とアリスは目の前に現れたモンスターと対峙する。
……不思議なモンスターだった。
獅子とか狼とか、とにかくそういう地上を素早く駆ける四脚獣のようなしなやかな姿をしているけど、背中からはドラゴンの翼が生え全身は鋭い棘のような『鱗』に覆われている。
色はとても綺麗に輝く『黄金』――
大きさは大型……というほどでもなく、中型モンスターくらいだろうか。まぁユニットに比べたら随分と大きいけど、モンスターとしてはそこまで大きなものではない。
黄金のドラゴン――どこか神々しさすら感じさせられる、不思議なモンスターだった。
”……
すぐさまモンスター図鑑を確認するものの、載ってはいるが情報は何もないに等しい。
……名前すらわからない、というのは初めてかもしれない。さっき現れていた『腕』も名前はわからないけど、あっちはそもそも図鑑に載ることはなかったから違うだろう。
以前の《メガロマニア》とかムスペルヘイムの時みたいに、本来『ゲーム』に登場しないはずのモンスターでさえ図鑑に登録された時には名前くらいは載るはずなのに……。
一番の不思議は、私たちの不意を突いて現れたというのに襲い掛かってくる気配がない、ということだ。
……かといって敵意がないとも思えない。奴の視線は真っすぐにこちらへと向けられている。
まるでこちらを見定めようとしているような……『知性』の輝きがその目には見えた。
もちろん、だからと言って話し合いが通じる相手とは到底思えない。
獲物の一挙手一投足を見逃さない――そういう方向での『知性』だ。
「……こいつ……」
アリスも『黄金の竜』に違和感を覚えたみたいだ。
今までにも変なモンスターとは戦ったことは幾度もあるけど、それらとはまた違った『何か』をこいつには感じるのだ。
……『何か』が一体何なのか、違和感は覚えるけどその正体まではわからないが……。
『うーみゃん、こっちにも新手みゃー』
『ボクたちの方も!』
……『黄金竜』と睨みあっている最中、バラバラになった他の皆の前にもモンスターが現れたとの報告がやってきた。
ちなみに、今は『ガブリエラ・ウリエラ・サリエラ』『ジュリエッタ・クロエラ』『ヴィヴィアン』『ルナホーク』の4チームに分かれている状態だ。
モンスターが出てきたのはガブリエラ組とジュリエッタ組だけだが、ヴィヴィアンたちの方にもいつ現れるかわからない。
『”……ヴィヴィアン、ルナホーク! 二人はとにかく一番近くの仲間との合流を優先して!”』
敢えて私たちの方を優先するようなことは言わなかった。
各個撃破、というわけではないけどどこか一か所突破口を開けば状況は劇的に良くなるという考えだ。
だから二人の位置から一番近くで駆け付けられるところに合流してもらうことを優先してもらう。
「……あいつらのことだから、こっちに来るかもしれねーけどな」
その可能性は否定できないけど――だったら、アリスと協力してこの『黄金竜』と戦って手早く倒すだけだ。
ともあれ、今は目の前の相手に集中だ。
……ただわからないのは、この『黄金竜』とガイアとの関係だ。
別個に図鑑に登録されているところが引っかかるのだ……。
「ともあれ、使い魔殿。今はこいつに集中だ。こいつをどうにかしなければ、ガイア本体との戦いもままならん」
”そ、そうだね……!”
謎だらけの最終クエストだけど、とにかく目の前の相手と戦わないという選択はない。
私たちは『黄金竜』を倒し、他の皆と合流……そして地下にいるであろうガイア本体と戦って他の使い魔たちよりも早く倒す。それだけだ。
――と、決意を新たに『黄金竜』と戦おうとする私たちだったが、
「!? 速い!?」
目の前にいたはずの『黄金竜』の姿が一瞬でかき消えた。
私はともかくアリスは一瞬も目を離さなかったはずなのに、全く捉えられない動きだった。
「チッ!?」
見失ったからと言って呆けているアリスではない。
すぐさまその場から躊躇わずに移動。
……アリスの立っていた位置に『黄金竜』の右前足が叩きつけられ大地を抉る。
あ、危ない……!
「くそっ、こいつ……!?」
一撃を回避できたからと言って安心はできない。
『黄金竜』は立て続けに今度は左前足を横に薙ぎ、そこから更に頭突き――というか角での突き刺し。
それをも何とか回避したアリスへと向けて、バク転するように飛び上がると同時に尻尾を振るってくる。
……ドラゴン的な見かけなのに、動きは完全に『格闘』のそれだ。
一瞬にして背後に回り込んで殴りかかってきたことと言い、見た目とは全くそぐわないインファイターみたいだ。
ゴリラみたいな体型のモンスターがそういうの多かったけど、ドラゴン型でこんな戦い方をしてくるやつは初めて……だと思う。
「……拙いな」
アリスのその呟きの意味はわかっている。
『黄金竜』――ガイアとは別のモンスターなのは間違いないし、結構な『強敵』であることも確かだ。
問題なのは、こいつとの『相性』だ。
今のところ近距離戦を仕掛けてくるだけだが、そのレベルがかなり高い。一瞬で回り込んで来た動きは不自然なくらい速かったし、その後の一連の
アリスであっても油断の出来ない相手である。相性的にはヴィヴィアンにとっては近寄られた時点でアウトレベルで『最悪』と言えるだろう。
……ガブリエラは超ステータスで耐えられるかもしれないが、相手を捉えられなければ反撃ができない。ジュリエッタは一撃でも食らえば終わり――ずっとライズを使い続けるはめに陥るだろう。クロエラだって速さにはついていけるだろうが……。
もし『黄金竜』が他の皆のところにも現れているとしたら、ガイアと戦う前にかなり追い込まれてしまいかねない。
”何とか捌いていくしかない!”
「わかってる!」
ヴィヴィアンとルナホークがそれぞれ援護に向かってくれているはずだし、どこか一か所でもいいから勝利して合流を進めていく……それしか手はなさそうだ。
目の前の『黄金竜』との戦いをアリスに任せ、私は久しぶりに『
遠隔通話でもいいんだけど、『黄金竜』と戦っているのだとしたら下手に話しかけて集中を乱してしまっては致命的な隙を作ることになりかねない。
……ここで私が見たところで何の役に立つんだって話ではあるけど……。
”! 良し、見えた!”
遠隔通話と違って視界共有は使える距離が限られている。
皆の現在地がわからないし使えるかはわからなかったけど――辛うじて大丈夫だったみたいだ。
……え!?
「どうした、使い魔殿!?」
私が他の皆の様子を見ようとしていたのは理解していたアリスが、怪訝そうに尋ねる。
……もちろん、襲い掛かってくる『黄金竜』を捌きながらだ。
それが出来るだけの実力をアリスは既に培ってきている、ってことだ。歓迎していいことなのかわからないけど……。
それはともかく。
”違う……皆の前に現れているモンスターは、
「……なに?」
襲われた、と言っていたガブリエラたちとクロエラたち……その2組の前に確かにモンスターは現れている。
でも、それは『黄金竜』ではなかった。
最初に現れた『腕』同様の、土や岩がまるで意思を持ったかのような――いわば『ゴーレム』のような存在だった。
大きな角の生えた……そう、『サイ』のような姿のゴーレムなのだ。
どういうことだ……?
考えたのはほんの一瞬。私はすぐさま『答え』を出した。
”! 拙い……! アリス、別のモンスターが……!”
『黄金竜』――
何も不思議な話ではない。例えば『レイドクエスト』みたいに複数のモンスターが出てくるパターンもあるのだ、ガイア以外のモンスターがいても『特別』ってわけじゃないだろう。
つまり、『黄金竜』はガイアのクエストに紛れ込んでいる『討伐対象外モンスター』ということだ。
……こいつと戦う理由は何もない、とは思う。もちろん、ガイア討伐の邪魔になるのであれば排除しなければならないだろうが……。
いや、それ以上に拙いことがある。
私がアリスに警告を飛ばしたと同時に……。
「!? マジかよ!?」
『黄金竜』と挟み撃ちするかのように、私たちの背後の大地が盛り上がり――他の皆の元に現れたのと同じ、巨大ゴーレムが出現したのだ……!
『黄金竜』がガイアとは別のモンスターということは……すなわち、他の皆のところに現れたの同じモンスターが、私たちのところにも現れるということを意味しているのだ……!
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