第10章2節 ガイアズ・ジャッジメント
第10章12話 巨いなる力
私たちの目の前に現れた巨大な『腕』――腕だけで顔らしきものは見当たらないけど、しっかりとこちらを認識しているようだ。
ずず、と地面がまるで意思を持っているかのように蠢き、『腕』がこちらへと距離を詰めようとしてくる。
ふむ……。
「アレがラスボスそのものとは到底思えんな――前座なのか、それとも……」
アリスがそう言う。私も同意見だ。
確かに超巨大モンスターといったサイズだけど、だからと言って『強敵』とは到底思えない。
もちろん油断してはならないが……大きさはともかくとして『三界の覇王』よりも強いとは感じられないのだ。
”あいつを倒したらラスボスが出てくるのか、それともラスボスの遠隔攻撃とかなのか……わからないけど、放置はできない、かな”
「だな。よし、やるぞ!」
時間経過でガイア本体が出てくる……というパターンもありえるけど、下手にあの『腕』を放置していたら被害が広がる可能性が高い。
撃破自体がトリガーになるのかもしれないし、とりあえず危険は排除できるうちに排除しておいた方がいいには違いないだろう。
とにかく、まずはあの『腕』を撃破する。そう私たちは判断した。
「よし、あの巨体だ。オレの魔法の方が良いだろう!」
「サブマスター、当機も援護します」
「うむ、頼むぞルナホーク!」
相手が何をしてくるのか読めないが、見た目だけなら超巨大モンスターだ。
ならば、対巨大モンスターを得意とするアリスの出番だ。
加えてルナホークも同じく巨大な目標を相手にするのは不得手ではないし、アリス同様に戦えるだろう。
流石に相手がデカすぎるし、ジュリエッタやガブリエラが近づいて殴るってのはちょっとね……。
「コンバート《キャノン・デバイス》」
ルナホークが遠距離砲撃用兵装へとコンバートする。
飛行能力はそのままに、両肩に巨大な砲台を背負い、更に手にはかなり大きな……スナイパーライフルとでも言うのだろうか、そういう感じの銃を手にしている。
ちなみにだけど、ルナホークの各種兵装はコンバート使用時に魔力消費をし実際に兵装を使った時には魔力は使わない、となっているが全てというわけではない。
具体的には今装着しているような『実弾』を発射するタイプの場合には消費なし、逆に『オービタルカノン』のようないわゆる『レーザー』系の場合には発射ごとに消費するようになっているのだ。
『レーザー』系は物理法則を完全に無視した魔法攻撃と言える。距離によって威力が減衰することもなく、また重力に引かれて弾道が下がるということもなく……アリスたちの放つ射撃系魔法とほとんど同じ効果を持っている。まぁだからこそ発射ごとに消費するんじゃないかなって思うけど。
対する『実弾』系は、実弾なのに弾数無制限かつ消費なしというのが売りだ。レーザー系に比べて飛距離が短かったりとかデメリットはあるけど、大口径の砲であっても使い放題というのは大きなメリットと言える。
「……これだけ的が大きければ、特に狙わずとも当たりますね」
「ああ」
前に出たルナホークとアリスが『腕』に向けて攻撃を開始する。
ルナホークが言う通り、相手が大きければ大きいほど精密な狙いは不要だ。
とりあえず『撃てば当たる』相手なのだから、魔力を消費するレーザー系よりも節約できる実弾系の方が良い、というわけだ。
……『腕』がガイア本体ではないのは確実だ。戦いの本番はまだ先なのだ、節約できるところでは節約すべきだろう。まぁルナホークはともかく、アリスは節約が難しいんだけどね……。
”……うーん……?”
『腕』への攻撃は順調だ。
二人の攻撃はガンガン当たっているし、食らった『腕』はボロボロと崩れていっている――が、土でできているせいか再生はしている。再生より破壊のスピードの方がまだ勝っているが……。
順調なんだけど、正直『手応え』が全く感じられないのだ。
その辺は他の皆――特に攻撃しているアリスたちはなおさらだろう――も同じようだ。
「……やはり『三界の覇王』と同じ、でしょうか……?」
”まだわからないけど……何かあるのは間違いなさそうだね”
『腕』を倒した後に『本体』が現れる、という流れなのはほぼ間違いないだろう。
「タフなだけだな」
と、そうこうしているうちにアリスが攻撃を中断して戻ってきた。
『腕』の大きさは脅威だけど、離れた位置から射撃しているだけで十分な相手だ。ならば、魔力消費のないルナホークだけで十分と判断したのだろう。
確かにアリスの言う通り『タフ』ではあるが……それだけの相手と言える。
まぁ本体が出てきたわけじゃないからまだ楽勝と断言できるような状況ではないが……。
その後、しばらく『腕』を撃ち続けるルナホークを見守りつつ周囲の警戒をしていた私たちだったが――ついに変化が現れた。
”! また『腕』!?”
「しかし、距離が離れているな……?」
同じような『腕』が何本も一気に地面から生えてきた。
が、アリスの言う通り距離はだいぶ離れている……いや、これは――
”……違う? 向こうに誰かいるのか!?”
私たちに比較的近い距離に新たに三本の『腕』が現れ、かなり離れた場所に別の『腕』が現れている。
ちょっと不自然な感じに離れているし、これは離れた位置に別のチームがいると考えた方がいいんじゃないだろうか。
「! ロアたちか!?」
”それだけじゃない――最低2チームがいると思っていいんじゃないかな”
最初からいた『腕』と新しいのを合わせて、私たちの近くにいるのが計4本。
私たちから見て右手側――かなり遠く離れた方向にも4本。
そして前方遥か彼方の山の向こうに同じく4本。
4本ずつ、不自然な距離が開いていることを考えれば……右手と前方にそれぞれ別の使い魔たちがいて、『腕』と戦闘を開始している、と思うのは自然だろう。
……まぁ物凄く広い間隔で現れる4本1セットの『腕』を順番に倒していって本体が現れる――とかそんなギミックなのかもしれないけど……。
どっちにしても、今私たちの近くに現れている分は早めに片付けた方が良いのには変わりなさそうだ。
”ガイア『本体』もまだ現れてないし……急いだ方がいいかもしれない”
「ああ。となれば――ちょっと派手にいった方が良さそうだな!」
……アリスがウキウキしてるように見えるのは気のせいではないだろう。
今までは『様子見』と言ってもいいくらいだったしね。
「ヴィヴィアン、使い魔殿を借りるぞ」
「はい、姫様」
”えー……”
ひょいっとヴィヴィアンから私を取り上げるアリス。
まるでアイテム扱いだけど……いや、まぁ実際アイテム係だし間違っちゃないけどさぁ……。
まぁいいや。
”ルナホーク! アリスと一緒に『腕』を本気で壊すよ!
他の皆は新しく現れた奴に注意しながら、『本体』が来ないか――それと、他のユニットの警戒をお願い!”
流石に全員でぶつかる必要はないだろう。元々超大型相手だ、アリスとルナホーク以外の攻撃は効果が薄いだろうし。
それよりもどこかから現れるであろう『本体』、そしてそれ以上にいるかもしれない別のユニットへの警戒を続けた方が良いという判断だ。
……後者については悩ましい。積極的に戦いたいわけではないけど、ガイア討伐を先にされたら……ということを考えれば戦った方がいいのかもしれないし、かといってそこで苦戦してしまったら……と色々と考えがまとまらない。
何にしても『腕』退治はアリスたちに任せ、他の皆は温存しつつ警戒……これが手堅い選択には違いないはずだ。
「ふん、他のユニットの可能性がある以上、『横取り』されるわけにはいかんな。
ルナホーク、まずはさっさと前座を沈めるぞ!」
「イエス、サブマスター」
アリスも巨星魔法を連発、ルナホークも更なる重火器型の兵装へと換装し一気に『腕』へと攻撃を開始する。
……相変わらず二人とも馬鹿げた火力をしているなぁ。
あっという間に最初の『腕』が砕け散ってしまう。
……しかし。
”再生か……”
「むぅ……面倒な」
『腕』を粉々に砕いたとしても、また地面から新しい『腕』が生えてきてしまう。
これではさっさと片付けたくても片付けられない。
「
今までの攻撃の最中に【
「再生スピードは徐々に落ちていっています。それに、今再生した『腕』の大きさも出現当初より10%ほど質量が減少しているようです」
”なるほど――つまりは”
「ぶっ飛ばしまくっていればいいってわけだな!」
そういうことだ。
……無限に再生し続けるわけではなさそうだけど、かといってこれはこれで消耗が激しくなるからあんまり歓迎できない事態ではあるんだけど……いや、だからと言って放置できることでもない。
私は二人の魔力を回復し、攻撃を続行させる。
やがて一本目の『腕』が目に見えて小さくなった頃。
”そろそろ他の『腕』も射程距離だね”
私たちの近くに出現していた残り三本も射程範囲にやってこようとしていた。
こいつら、地面から直接生えているように見えるけど実際にはどうなんだろう? よく見ると周囲の地面が都度隆起しているようにも見える。
ふむ……『ガイア』が大地の神の名であることから、土とか地面を自在に操る能力なのだろうか?
ともあれ、相手が全員アリスたちの射程距離に入ったということは――
「よし、では一気に殲滅するとしよう」
こうなることを見越してアリスは準備していた。
ここで使用するのはもちろん、対個人はもちろん対群・対巨大モンスター戦においてこれ以上ないくらいの威力を発揮する最大最強の魔法――
「awk《
無数の巨星が四本の『腕』へと無差別に降り注ぐ。
……地上にいるクロエラたちにも事前に言ってある。まぁどっちにしても仲間同士ならダメージはないだろうけど、心臓に悪いのには違いない。
「コンバート《オービタルリンク・デバイス》――照射」
次々と降り注ぐ巨星の勢いに勝てず、崩れ去っていく『腕』ではあったがやはりどれも再生を行おうとしている。
そこに更にルナホークの追撃が襲う。
拠点破壊用の極大レーザー砲が同じく雨のように『腕』たちを穿ち、大地ごと焼き払ってゆく……。
”…………なんというか、君たちは本当にすごいね……”
「ふふん、何をいまさら」
「お褒めに与り光栄です」
どちらの攻撃も、相手に当たりさえすればまず間違いなく一撃必殺となりうる威力と範囲だと思う。
まぁ流石に素早く動き回ったり特殊な魔法を使ってくるようなユニット相手には厳しいかもしれないけど、それでも本当にまともに食らえば一撃必殺だろう。
「最初からこうすれば良かったかもな」
……そう言うアリスだけど、今の一撃で二人ともかなりの魔力を消費してしまっている。
この後のことを考えたらちょっと痛い消費なのには違いない。
でもまぁ……先のことを考えて温存して時間を食ってしまうよりは、確かにアリスの言う通りだったかもしれない、と少し反省する。
”……まだ再生しようとはしているけど、ルナホークの計算通りだったね”
最初の『腕』はもう虫の息――と言っていいのかわからないけど――という体でものすごく小さな『腕』にしかなっていない。
他の三本も一気に削れたせいか出現当初の半分以下の大きさにまで縮んでいる。
これならアリスたちの大魔法を使わずとも、他のメンバーの魔法でも倒せるだろう。特にガブリエラなら魔法を使わずに殴って壊せるくらいの大きさだ。
「……『本体』が現れませんね」
”! 確かに……!”
ここまで追い詰めたというのに、未だガイア『本体』が現れる気配がない。
遠くに現れた『腕』の方を見ると、やはり他のユニットが戦っているのか激しく動き回っているようには見えるが、私たち側と同じく少し小さくなっているようだ。
”むぅ……12本の『腕』全てを倒さないと現れない、とか……?”
「となると――ここを片付けた後に他の『腕』のところに向かうしかないが……」
「……他ユニットと接敵する可能性がありますね」
そこが悩みどころだ。
『腕』の動きを見る限り、やはり他の場所にユニットがいると考えて良いだろう。
で、全部の『腕』を倒すためには――そちらに向かう必要があるけど、そこで他のユニットと遭遇してしまうというのはちょっと悩ましい。
……皆して仲良く戦ってラスボス撃破、となれる優しい世界なら良かったんだけど……残念ながらラスボス戦で『勝者』となれるのは一組だけ、だと思う。
下手に他のユニットと接触はしたくない、かな……トンコツたち知り合いだったら話は別だけど、あいつらがラスボス戦に来れないのは事前に確認してわかってる。
だから、今戦っているユニットたちは私たちの『仲間』ではなく――『ライバル』なのだ。
「憂いを断ち切るために戦うというのも手だが――ふむ、モンスターと戦っているところを横から、というのはちょっとな……」
「サブマスター、戦術としては有効ではあります。が、サブマスターの想いは当機にも理解できます」
……アリス的には戦うなら真正面から互いに全力で、という想いがあるのだろう。
モンスターと戦っている最中に攻撃すれば勝率は高くなるだろうけど……まぁあんまりやりたくはないね、確かに。自分たちがやられたら最高にムカつくだろうし。
”……いや、心配ないみたいだね”
遥か遠くに見える『腕』が粉々に吹っ飛ばされるのがちょうど見えた。
……アレ、とんでもない攻撃だな……。
ふと空中要塞で見た、
アリスも同じことを思い出したのだろう、ニヤリと笑みを浮かべている。
「ふん、どうやらそのようだな。そして、おそらくあそこにいるのは――ロアたちか」
”……多分ね”
私たちがナイアと戦っている最中、ピースの群れをたった二人でずっと押しとどめていたくらいの戦闘力だ。
ケイオス・ロアとBPならば『腕』くらいなんともないだろうと確信できる。
もう一方の方も、派手にぶちかましている様子ではないが、着実に『腕』を削っていってるみたいだ。
ふーむ……私たち以外二組が来ているのは間違いなさそうだ。一方はまぁケイオス・ロアたちだろうけど、もう一方は誰だろう? 知り合いではないのだろうけど……。
まぁそれは遭遇した時に考えるしかないか。
とにかく私たちは目の前の『腕』を倒して『本体』に備えるか、あるいは別の『腕』を狙いに行くかを考えるべきだろう。
……そう思っていた時だった。
『ぼ、ボス、皆! ちょっとヤバいかも!?』
『”クロエラ!?”』
地上に残っていたクロエラから遠隔通話が入る。
慌てて下を見ると――
”なっ……!?”
「
大地が大きく裂けようとしていた。
『”クロエラ、地上はもういいから空へ!”』
『う、うん!』
空を飛んでいる私たちにはわからないけど、きっと地上は大きく揺れているのだろう。
『腕』が常に動いているから見た目ではわからなかったが……。
クロエラも慌てて空へと飛びあがり地割れに飲み込まれるのは避けられたが……。
「やはり大地の神か」
「しかし、地震であろうとも当機たちには――……え!?」
攻撃目標を地面――いや、その下に潜んでいるであろう『本体』へと切り換えようとしたルナホークだったが、何かを見たのかぎょっとした様子で動きが止まる。
「……な……!?」
”…………っ!?”
同じく下へと視線を向けた私たちも思わず動きが止まってしまった。
……大地の裂け目は止まらず、どんどんと大きくなってゆく。
まるでゆで卵の殻を剥くかのように、大地が裂ける。
あっという間に地平線の彼方まで広がるほど大地が裂け――もしも地上にいたら避けられないだろう大きさにまでなるが、それでも尚止まる様子はない。
だが、問題はそこではない。
大地の裂け目……地下にある物を見て、私たちは絶句した。
……ぼんやりと赤い光があった。
最初見た時はそれが何かわからなかったけど――すぐに私たちは気付いた。
”め、
それは――『目玉』だった。
異様に血走った赤い眼球――かつての魔眼を思わせるような、しかしアレよりも生々しい――が、裂け目の中から私たちをぎょろりと睨んでいた……。
地下に潜む『本体』の目なのは間違いない、とは思う。
が、問題はその『大きさ』だ。
「……バケモンか……」
流石のアリスも言葉を失っている。
地下から私たちを睨む眼球……その大きさは、正直どれほどのものなのかわからない。
なぜならば、上空から見ているから辛うじて『目玉』だと理解できただけだ。もし地上から見ていたらただの『赤いもの』としかわからなかっただろう。
……大きさは優にキロメートル単位だと思う。
かつて戦った超巨大ムカデのに匹敵するくらいの大きさの『目玉』だ。
そして、『目玉』だけでその大きさということは――
――ドンッ!!!
”うわぁっ!?”
「くっ……これは……!」
突如、世界が揺れた。
と同時に裂け目の下にあった目玉が消える。
「地下で何かが蠢いています」
……そう、地下にいる『何か』――おそらくはガイア『本体』が動いたのだろう。
その衝撃が大地を伝わり、大気をも震わせているのだ。
”と、とんでもない奴だ……!”
未だ姿を現してはいないが、身動きしただけでこの衝撃だ。
……本格的に動き出したら一体どうなるのか、想像もつかない。
だが、そんな相手を見てもアリスは恐れることはない。
「驚かされはしたが――ふん、ラスボスに相応しい相手ではないか」
次々と裂けてゆく大地……その下にいるであろう『本体』を見てアリスは笑うのだった。
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