第10章11話 最終クエスト:星獣ガイア戦へ

*  *  *  *  *




 ……とまぁ、『三界の覇王』との戦いはこんな感じだった。

 オオカミはともかく、アンリマユとインティはどっちかというと『特殊クエストのギミック攻略』という側面が大きかったと思う。

 ありすなんかは、『今度は真正面からリベンジしたい』とどこまで本気かわからないことを呟いていたっけ……。

 …………いや、ありすのことだしガチかもしれないな……ドラゴンハンターでもギミックを駆使して戦うような相手を、真正面からのガチンコで倒そうとしていたことあったし――散々苦労はしたみたいだけど実際に倒してガッツポーズしてたっけなぁ……。

 まぁ流石にありす以外はそこまでは考えてないみたいで、『二度と戦いたくない』という思いの方が強いみたいだけどね……。

 何にしても、ラスボス戦が終わって『ゲームクリア』――いや、私たちの『ゲーム勝利』を確信してからだね。そういうの『やりこみプレイ』の領域だろうし。




 それはともかくとして、とにもかくにも『三界の覇王』を全て倒してラスボス戦の条件を整えた私たちの次なる課題は『いつ』『どこで』ラスボスに挑むか……だった。

 挑むはいいんだけど、どれだけ長丁場になるかわからないしね。皆、十全の態勢で挑みたいという気持ちはあったみたいでそこは色々と相談した。

 結局、あやめが桜家の別荘を押さえ、そこに集まって挑もう――という話に落ち着いた。もし一日で決着がつけられないようなら、まぁ仕方ないので後は各自の家で親に見つからない時間帯――具体的には夜遅くにやる、ということに。できれば避けたいところだけどね……小学生ズやなっちゃんのことを考えると、どうしてもねぇ……。

 で、別荘に集まる都合上、土日に集まることは確定だ。

 ただ年度末ということで学校関係は色々とある時期でもある。

 あやめについては卒業式――そしてクラスメートとの『卒業旅行』があるので、あまり早くも遅くもできない。

 小中学生組には卒業生はいないけど、まぁ大体同じような時期に終業式があったりするし……ということで、あやめの卒業式後、かつ終業式前という時期に決まった。

 三月のちょうど中間くらい……『ゲーム』の期間がピッピ曰く三月いっぱいまでらしいので、マージンも取れるしでちょうどいい時期だと言えるだろう。




 ……んで、後は前に話した通り、別荘へと集まりラスボス戦のクエストに挑戦――という流れだ。




*  *  *  *  *




 さて、過去の振り返りはこのくらいにして――そろそろこれからのことに目を向けるとしよう。

 私たち全員の準備はオーケー。各自のコンディションもばっちりだし、現実世界の肉体の方もとりあえず心配はない――『親バレ』については別荘に集まっているから問題ないだろう。流石に『冥界』や『眠り病』のような状態に陥らなければ問題ないはずだ。まぁその時は私もゲームオーバーに追い込まれるくらいだろうし、気にするだけ無駄だというのが皆の意見だったけど。

 アイテムの補充も万全。脱出=クエスト失敗を意味しているので、ユニットの子は全員が回復アイテムのみを持っている。

 レベルアップは……まぁまだする余地がないわけではないけど、これはどうしてもラスボスに勝てない場合に改めて考えれば良しということで一旦終わったものとしている。

 後はリスポーン代かな。これもまぁ2桁回数はリスポーンできるだけのジェムは温存してある。ぶっちゃけ、そんな回数リスポーンするようならラスボスには勝てない、と同義だとは思うけどね……。

 リスポーンについて心配なのは、ラスボスよりもむしろ他の使い魔がいるかどうか――だ。

 こればかりは行ってみないことにはわからない。

 ……私たちが『三界の覇王』を倒してからそこそこ日数は経っているし、その間に他の使い魔が条件を満たしていないとは限らない。

 トンコツに聞いてみたけど、少なくとも私の知り合いはラスボスには来れないとは聞いているけど……美鈴たちのような強豪が来ないとは限らないだろう。

 ありすも言っていたけど、『他の使い魔がいる』というのを前提に考えた方がいいとは思う。


 実はこのラスボス戦のクエスト――条件を満たしてから出現するまでに妙にが開いていたんだよね。

 だから何か条件を満たしていないのか? と少し不安にもなった……この点について、ピッピに確認もしたんだけど原因は不明だった。

 まぁなんだかんだで数日経ったらクエスト出てきたし、予定通り別荘に集まることにしたんだけど……。

 この『間』がひょっとしたら他の使い魔が条件を満たすのを待っていた、ということでできたものなんじゃないかと今は思う。

 ……何にしても、本当のところはクエストに参加してみないとわからないけどね。もしかしたら単にラスボス到達が運営の想定より早くて、実装が追いついてなかっただけというオチなのかもしれないし――楽観はすべきではないのはわかっているが。




 ラスボス戦のクエストについて、簡単におさらいしておこう。

 まず、『三界の覇王』と同じくいかなる手段であってもクエストを撤退したら問答無用で『クエスト失敗』扱いとなる。

 どうしようもなかったら撤退はするかもしれないが……この点については皆も『絶対退かない!』という意思を見せていた。本当にどうしようもないくらい追い詰められたら……だね。『三界の覇王』の時みたいに数度の挑戦をして……というのは今回は考えない。

 なぜならば、2つ目の条件にも関わっているけど『他の使い魔がいるかもしれない』からだ。


 ……あんまりのんびりとしていられる状況ではない、と考えて間違いないだろう。悠長に挑戦を繰り返していたら、その間に先を越されるかもしれない。

 で、ラスボス戦のクエストは『常時乱入対戦』となっている。他の使い魔がいなければ気にする必要もない条件ではあるけどね……。

 これに加えて仮に対戦で倒されたとしても、再度対戦可能にはなるけれどもリスポーンでの復活になってしまう――メリットはあるけど、復活までの時間がかかるのはデメリットでもある。

 また、リスポーン地点も普通のクエストなら使い魔の近くになるが、このクエストでは体力がゼロになった地点でのリスポーンとなってしまう。


 最後にこのリスポーンにも絡むけど、『強制移動不可』という条件もある。

 リスポーン地点が離れてしまった上に、私から強制移動できないということだ。

 ……リスポーンしなければいい、と言えばそれまでだけど……地味に厳しい条件かなと私は思っている。

 特に仲間が分断されてしまった時に、自力で合流しなければならないのだから状況次第では合流できなくなる可能性だってあるのだから。




”皆、準備は大丈夫かな?”


 念のためクエスト出発前に声を掛けて確認。

 『分断』の可能性を考えれば、各自のアイテム補充は特に万全を期しておきたい。

 いつものクエストと違う点は、魔力回復だけでなく体力回復にも注意を払う必要がある、というところだ。

 私が近くにいればいいんだけど……『分断』されたらそうもいかない。

 そして乱入対戦がデフォルトということ、リスポーンできるけど場所が離れてしまう、更に強制移動で呼び戻せない……ということを考えればある程度は自分で回復すること前提でいた方がいいだろう。


「大丈夫みゃー」

「りえら様の分もあたちたちで確認してるにゃー」


 ……うん、まぁお姉ちゃんズが確認してるなら大丈夫かな。

 ちなみにクエスト離脱系アイテムは私が一個だけ持つことにしている。

 各自の判断で……とも考えたのだけど、皆とも相談してそれはやめておいた。私がリスポーンを怠らなければ済む話だし、撤退するかどうかの最終判断は私に委ねる……ということに。

 もちろん、撤退すべきかどうかの判断材料として皆からの意見があれば聞くけどね。


”リスポーンについてだけど、基本的に問答無用でする……でいいね?”


 いつもならばタイミングを見計らって……というやり方だったけど、今回はリスポーン待ちになったら即復帰開始という方針にしている。

 これももちろん、私が近くにいて互いに相談できるような状況だったら話は別だけど――今回は『分断』と『対戦』を前提として考えている。

 私の目の届かないところでリスポーン待ちになってしまうことは十分考えられるし、基本は問答無用の復帰でいいはずだ。


「ああ、それで問題ない。

 使い魔殿は――ヴィヴィアン、ルナホーク。貴様らに任せるぞ」

「かしこまりました、姫様」

「イエス、サブマスター」


 私の配置はいつも通りだ。

 ただ、ラスボス戦の状況次第ではどうなるかはわからない――魔力消費のことを考えたら、アリスと一緒にいた方がプラスになる状況もあるだろうし。


”最後に、強制移動はできないけど遠隔通話は多分大丈夫だとは思う。

 だから、もし分断することになってしまったら……状況次第だけど連絡を取り合って合流を優先する、でいいね?”

「う、うん。わかった」


 他の皆も異論はないようだ。

 対戦状態になってしまったら下手に合流しようとしない方が安全かもしれないけど、基本は『合流』優先だ。集まって行動しない理由はないしね。

 他に事前に確認しておきたいところは……もうないかな?

 皆の反応を見ても、特にこれ以上意見は出てこないようだった。


「よし、じゃあ早く行こうぜ!」


 ……むしろ『早くラスボス戦行きたい』という気持ちが抑えきれないみたいだ。

 流石にウリエラたちは慎重だけど、アリスやジュリエッタ、ガブリエラあたりはワクワクが抑えきれないといった雰囲気が溢れ出ている。

 ま、大なり小なり皆そんな感じみたいだけどね。

 かくいう私も、『ゴール』が見えてきたということもあって少し気持ちが逸っている自覚はある。


”ふふっ、だね。それじゃ――ラスボス戦、行くよ皆!”


 これ以上待たせたら戦意を損ねることになりかねない。

 事前にやれることは全てやりつくした……と思うし、もう後は実際にクエストに行ってみないとわからないことだろう。


「おう! いよいよだな……!」

「はい。ご主人様と姫様――いえ、今やわたくしたちにとっての『目標』……必ずや果たしましょう」

「うん、ジュリエッタも楽しみ。『肉』も十分だし、今まで培ってきたもの、全部ぶつける」

「うふふっ♪ 『三界の覇王』とはあんまり遊べなかったですし、楽しみです♪」

「……みゃー、りえら様のコントロールはしとかなきゃだみゃー」

「にゃはは、まーいつものことにゃー。ラスボスだって、『いつも通り』でいけるはずにゃ」

「……広くて走れる場所だといいなぁ……ボクも全力を出したいし」

「救われたこの命と力――『未来』のために……!」


 ――うん、私たちなら……この子たちならきっと大丈夫だ。


”最後の戦い……私たちが必ず勝つ!”


 私たちと『ゲーム』との最後の勝負――絶対に負けるわけにはいかないのだ……!




*  *  *  *  *




 ラスボス――『星獣ガイア』との決戦の舞台となるクエストへとやってきた私たちだけど……。


”……ゲートがないね……”


 やってきた場所を振り返ってみても、ゲートが見えない。


「みゅー……アンリマユと同じパターンはないとは思うけどみゃー……」

「ああ。それは流石にないとは思うぜ。ただ、倒すまでゲートが出てこないパターンなのかもしれないがな。

 ――ま、なんにしてもオレたちがガイアを倒すかどうか、だ。ゲートの有無なぞ気にせんでも良かろう」


 ふむ。まぁアリスの言う通りではあるか。

 倒した後にクエストから出る方法を考えれば済む話っちゃその通りか。いざとなったら離脱アイテム使えばいいだろうし――アンリマユみたいな特殊クエストでもない限り、討伐目標を達成さえすれば離脱してもクエスト失敗にはならないとは思う。

 とりあえずはアンリマユと同じパターンだったら、その時は一旦撤退してからまた考えればいいか。


「……広い、ですね」

”うん。インティのところに似てるかな?”


 どこまでも広がる草原、遠くには山とかも見えるし……見た目だけなら非常にのどかな場所だ。

 ……まぁインティの時はやつが落下してきた途端、地獄絵図に変えられちゃったけどね……。


”うーん? レーダーには反応ないな……”


 頼りにならないのはわかっているけどね!

 皆もレーダーに頼らず自分の目で確認しようとしているけど……誰もガイアを見つけられないみたいだ。

 インティや『嵐の支配者』のような上空に陣取っていてレーダー全域を覆うような相手の可能性もあったが、これもどうやら違うみたいだ。

 空は青空だけど『太陽』は見えない――ふむ、ここも『デジタル異世界』なのは確定かな? まぁだからどうしたって話ではあるけど。


「ふん、とりあえず移動しながらだな」

”そうだね。そうしようか”


 陣形はアンリマユの時と同じにして、私たちはガイアを探して平原を進むことにした。

 不意打ちを警戒しつつ、私たちはのどかな平原をあてどなく進む。


「……こういうところでゆっくりとしたいですねぇ~」

「そうだにゃー」


 緊張感がないように見えて、これでもガブリエラはしっかりと周囲を油断なく見張っている。

 他の子ももちろん同じだ。

 ……が、それはそれとして、


”全部終わったら、ちょっと大きめの公園とかに遊びにいくってのもいいかもね”

「! 我が主よ、是非に!」


 うおっ、ものすごい勢いでガブリエラが食いついてきた。

 まぁガブリエラなっちゃんだけで遠出するわけにもいかないし、これまた皆集まって打ち上げがてら……って感じになるかな、多分。

 少し緩んでるとも言えないこともないが、緊張しっぱなしよりは少し『余裕』をもたせた方が全力を出しやすいだろう。

 私も、他の皆も特に突っ込みはせずにそんなガブリエラの様子を見ていた。




「……! 使い魔殿!」

”うん、私にも見えてる! ……でも――”


 そのまましばらく散策を続けていた私たちの視界に、ついに『異物』が現れた。

 いや、正確には地面から大きな影が持ち上がって突然現れた、という感じだ。

 ……気になることが一点ある。


「――レーダーに反応なしみゃ……?」


 そう、レーダーさんはその現れた影を認識していないのだ。

 モンスターではない……とは到底思えない。

 地面そのものが盛り上がってできたような、巨大な『腕』だ。明らかに自然物ではないし、遺跡とかの人工物ではない。

 何よりもその『腕』は動いているのだ。あれがモンスター的な何かなのは間違いない。


「ふん、では本体ではなくその一部ってところか。

 まぁいい。使い魔殿、アレと戦う――でいいな?」

”……うん、そうだね。まずはあの『腕』と戦って様子を見よう。もしかしたら『手下』を倒していかないと『本体』が出てこないタイプなのかもしれない”


 実際そういうモンスターも過去にいたしね。

 ……ただ、そういうモンスターの『手下』って小型モンスターだったりすることが多いんだけど、今私たちの前に現れた『腕』ははっきり言って『大ボス』クラスの大きさだ。

 まだ距離が離れているのではっきりとした大きさはわからないけど、高層ビル並の大きさはあるのはわかる。

 スケールが違いすぎるな……。

 もちろん、だからと言って恐れることはない。


”皆、最終決戦――始めよう!”


 私たちには撤退するという選択はない。

 現れた『腕』に向けて、総攻撃を開始する――

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