第10章10話 三界制覇戦 7. "燦然たる煌翼"インティ

*  *  *  *  *




 『三界の覇王』最後の一体にして、おそらく『最強』であろうインティ戦……。

 こいつを倒さなければラスボスには挑むことは出来ないし、そもそもインティに勝てないのであればそれより強いであろうラスボスに勝つことなんて無理な話だろう。


”さて――”


 クエストへと挑み、今はジリジリと体力を削ってくる熱に耐えてながら戦闘準備を整えている最中だ。

 インティ戦はオオカミ・アンリマユ同様に『段階』がある。

 インティの第1段階は、こちらから手を出すことのできない遥か上空から真夏の太陽のように地上を照らし、熱で一方的な攻撃を仕掛けてくる。

 ……なかなかひどい仕様だけど、準備時間が取れると考えれば……まぁプラスと言えばプラスかな……体力削られるのは明らかにマイナスだけど……。

 ……言っても仕方ないか。

 とにかく、これからのインティ戦本番のことについて私は思いを巡らせる。




 インティに関しては、オオカミたちよりも今までの挑戦回数は少ない。

 なぜかというと、数度の挑戦で色々と試してみたんだけど――結局のところ、楓たちが提案した『力業の作戦』しかない、という結論に至ったからだ。

 これはおそらく『クエストのコンセプト』によるのではないか、とありすとかは推測していた。

 オオカミであれば『火力と手数の敵との戦い』、アンリマユなら『ゲートまで逃げ切る』というものだ。

 で、インティはというと――『』というクエストなのではないかという推測だ。

 アンリマユ同様、正攻法で相手を倒せばOKというわけではないので、これもまた特殊クエストと言えるだろう。

 ……『三界の覇王』でまともなモンスターって、結局オオカミくらいだったなぁ……あれは初見殺しさえ乗り切れば普通に戦える相手だったから、『わかりやすい』とは言える。それでも滅茶苦茶強かったけど。


 話を戻してインティについてだが、推測では『耐久力テスト』である。

 根拠がないわけではなく、とにかく奴に対して攻撃が通じないのだ。アリスの神装を叩きつけようとしても、霊装ですらも焼き尽くされてしまう有様だったのだ、これはもう『攻撃で倒せない』相手だと思わざるを得ないだろう。

 じゃあ耐え忍んでいれば勝てるのか? という疑問があるが――こここそが、楓たちの『作戦』の肝となる。




*  *  *  *  *




「インティはおそらく『太陽』と同じなのは間違いない」


 楓はそう語った。


「かといって本当の太陽と同じだとしたら、絶対に勝てない相手になってしまうし……きっとインティのエネルギーは有限だと思う」


 まぁ本物の太陽も無限に輝き続けるなんてことはないんだけど――確か後50億年くらいは寿命あるんだっけ。

 ……インティもそうだとしたら、到底勝ち目なんてない。ラスボスよりも強いモンスターになってしまう。

 だから、絶対にどこかに『抜け道』がある……その希望をとっかかりとして、楓たちは色々と考えたみたいだ。


「地上に落ちてきたインティとそこそこ近くまで私たちは近づいてたけど、一瞬で燃え尽きるなんてことはなかったでしょ?」

「だから本物の太陽よりは絶対に熱もエネルギーも低いはずにゃ」


 流石に火球の中に飛び込んだら霊装すらも燃え尽きるけど、近づくだけなら熱ダメージを受けるだけで一発でやられるということはない。これも最初の戦いで確認済みだ。


「私たちがやることはただ一つ――。これだけ」


 ……それがとても難しいことだというのは、言っている本人もわかっているだろう。

 皆も『それができれば苦労しない』と内心思っているだろう。

 すぐさま楓たちが続けて『耐久作戦』の内容を説明する。


「……雪彦が見た『闇の門を出した時にインティが小さくなった』という話――検証はこれからも必要だけど、それを前提に考えれば……」

「インティにエネルギーを使わせていけば次第に奴は小さくなっていく……『闇の門』の吐き出した闇もインティに払われちゃったけど、その分だけ奴のエネルギーを奪えたってわけにゃ」

「他にもインティが色々攻撃をしてきたけど、それもエネルギーを減らすことになっているはず」

「そんなこんなで奴にエネルギーを使わせて、あたしたちはそれに耐え続ける……これがインティ攻略法ってことにゃ!」


 ……皆して『マジか……』という顔をしていたけど、他に有効な手段が思い浮かばない。

 もちろん、インティがエネルギーを使って小さくなるのが本当なのかどうかはこれからも確認が必要だし、そもそもインティの攻撃を凌ぐことができるかどうかも色々と試さなければならない。

 ただ、他の二体に比べれば『力業』で何とかできる相手、というのが楓たちの意見だった。


”き、厳しいことには変わりないね……”

「うん。現状厳しいままなのは仕方ない。検証を重ねていけば勝率は上げられるかもしれないけど――」

「できる限り早めに『三界の覇王』を終わらせたいという事情もあるし、厳しいけど『力業』で何とかできるのはほぼほぼ確定だし、これが最速だと思うにゃー」


 スマートな解決方法ではない、というのは自覚しているのだろう。楓たちも自分で言いだしたことながら若干不満はありそうだった。

 でも長々と『三界の覇王』に時間を使うわけにもいかない――最終目的であるラスボスがこの後に控えているわけだし。




 ……結局、ありすたちも楓たちの作戦に同意。

 その後、何度か挑戦して『いけそうだ』と手ごたえを感じるのであった。




*  *  *  *  *




 というわけで、『ひたすら耐え忍べば勝てる』――あるいはエネルギーが尽きてこちらの攻撃が通るようになる、というのが『作戦』だ。

 そのための調査は今までしてきたし、キツイのには変わりないけどインティの攻撃も『防げる』と判断した。

 後はそれを実行するだけである。




 全員の準備が完了したところで、


<うーにゃん、そろそろにゃ>

”うん。ヴィヴィアン、移動しよう!”

「かしこまりました。ご主人様」


 サリエラたちがカウントしていた通り、インティが地上――私に向かって落下し始めてきた。

 ……この一撃、気付いていなければこれだけで全滅する可能性もあるとんでもない初見殺しだと思う。オオカミと違って通路に退避しておくとかもできないし、明確に使い魔を狙った攻撃だし、初見殺しの度合いは一番かもしれない。

 まぁ、こちらがつけ入る隙があるとも言えるんだけど。

 合図に従い、《ペガサス》に乗って全速力でその場から離れようとする。

 そんな私とヴィヴィアンを追うように、上空からインティが落下してくるが……大丈夫、《ペガサス》のスピードならば振り切れる程度なのは以前の挑戦で確認済みだ。

 私たちの予想通り、インティの落下を回避は成功した。


”よし、狙い通り!”


 ここからがインティ戦の本番。ある意味では『第2形態』と言えるだろう。

 第1形態は私たちには手を出せない上空から一方的なダメージを与えてくる。

 そこからある程度の時間――これもウリエラたちが正確にカウントしていた……――が過ぎると、突如使い魔へと向けて落下して来るのだ。この時『使い魔が見えない』とどうなるのかは気になるところだが、インティ戦においては私の安全を優先するのはやめた。

 なぜならば、『相手が使い魔を認識している』のであれば、ことを意味しているからだ。

 今の落下も《ペガサス》で回避できることはわかっていたので敢えて私に向けて落下させておき、他のメンバーとの距離をわざと開かせたというわけだ。

 『デジタルの存在』の弱いところは、こういう『思考ルーチン』から逸れることが難しいというところだろう。

 ドラゴンハンターとかのゲームでもこんな感じで動きを誘導して有利に立ち回る、というテクニックがある。

 これが本当の『異世界の生物』だと上手くいかないことも多々あるけど、『デジタルの存在』だとほぼ100%とも言える確率で成功させることができるのだ。


”皆、ここから耐えるよ!”


 ともあれ作戦通り第2段階へと無事に到達することができた。

 ここから先は、楓たちの作戦通り――インティのエネルギーが尽きるまで『耐える』ことに集中する。


「ご主人様、一度地上へと降ります」

”うん。私たちも防御に集中しよう”


 私たちは落下したインティから更に距離を取り、そこで一度地上へと降りる。

 攻撃を防ぐためにはやはり《イージスの楯》が最適だ。

 私とヴィヴィアンはインティが《イージスの楯》で防御、インティ自身がこちらへと近づいてくるようならば再度 《ペガサス》に乗って距離を取る……という感じだ。

 で、他の子たちは最初の落下攻撃を無事に回避した後はインティの気を惹きつつ、私たちの方向へと近づいてくる。

 ……結局のところ、分散して各個撃破されるのが一番拙いのだ。多少の危険は承知の上で、やっぱり集合しておいた方が安全だ――纏めて倒されてしまうようなら、元々勝てる相手ではないというある意味で開き直りもあるけど。




 ……インティの攻撃は苛烈極まりなかった。

 『太陽』のような見た目からわかる通り、とにかく『存在するだけで周囲にとんでもない被害を与える』のだ。

 しかもそれが自らの意思をもって動き回ったり、火炎を噴き出したりして積極的に攻撃してくるのだから、とても真正面から殴りあって勝てる相手ではないとしか思えない。

 一撃一撃が生物にとっては致命的な火力を持っており、しかもそれを延々と放ち続ける上にこちらからの攻撃も届かない……まともに倒さなければならないとしたら、本当に『無理ゲー』だ。

 でも、ウリエラたちの推測通り、インティのエネルギーは有限だ。それは確認済みだ。

 だから私たちはインティの攻撃をひたすら耐えつつ、奴のエネルギーを削り続ける――それしか勝ち目がないのだ。


”ヴィヴィアン、防御!”

「はい!」


 特にこちらを狙ったわけではないが、『流れ弾』が飛んでくる。

 それを《イージスの楯》で防ぐ――が、


”くぅっ……熱い……!”

「なんて熱量……! ご主人様、離れます!」


 飛んできた熱線自体は楯で防げるが、熱線の放つ『熱』自体は防げない。

 周囲の地面を一瞬でどろどろの溶岩に変えるほどの熱量だ。その場に留まっていたらいかにヴィヴィアンといえど体力が持たない。

 『耐久』しなければならないのはユニットたち全員が同じだ。

 私たちはインティからの追撃がないことを確認しつつ、その場から更に距離を取ろうとする。




 インティの攻撃パターンは大きく分けて4つ。

 周囲へと無差別に炎熱レーザーを放つ攻撃。

 ムスペルヘイムのように大爆発して広範囲を焼き払う攻撃。

 自身を中心とした熱バリア。

 そして、自ら動いての体当たりだ。

 そのどれもがユニットにとっては致命的な威力を持っている、正しく『生ける災害』だ。

 でも、だからと言って『無敵』ではない。

 現に私たちはインティの攻撃を『力業』で捌き切っている……とは言える。


”あ……ヤバい”


 インティの近くで戦っていたアリスとジュリエッタの体力が尽きてしまう。

 今回は撤退するつもりはないのですぐさま二人のリスポーンを開始――私たちの近くに二人が復活しようとしているけど、これも新たな攻撃のために移動したら置き去りになってしまうが――その点は皆も承知の上だ。

 とにかく、インティ第2段階との戦いの要となるのはまずは『こちらの数』だ。

 数が多い=攻撃目標が多いことになるので、インティはそれだけ激しい攻撃を繰り返すことになる。そうすれば、目的としているエネルギーの消耗につながるだろう。

 そしてもう一点は、、である。

 なぜならば――


「ゲート!」

「エキゾースト《ダークヘイズ》!」


 二人の魔法が周囲に『闇』を撒き散らす。

 本来ならば『目くらまし』以上の効果のない魔法だけど、インティに対しては特攻とも言える効果を持っているのだ。

 自身を覆う闇を嫌うかのようにインティが激しく発光――闇を打ち払おうとする。

 同時に放たれる熱は、ガブリエラ(リュニオン済み)はステータスの暴力で、クロエラは素早く距離を取りつつルナホークからの防御魔法の援護によって何とか防ぐ。

 ……体力の消耗は避けられないが、とにかく一撃でやられなければそれで良いのだ。

 ちなみにアリスとジュリエッタも、『的』となると同時にルナホークと同じく防御の援護を行っていた――のだが、この二人の場合は自分の身体を張って守るしかないからなぁ……。

 ともあれ、ガブリエラとクロエラ二人が作り出す『闇』は、インティに対して特攻になる。

 闇を打ち払うためにインティは余計にエネルギーを消費するためだ。

 最初の戦いの時に雪彦君が気付いた通りだった。

 『闇』を払うためにインティはエネルギーを消耗し、どんどんと小さくなっていっている……最初のうちはほんのわずかな変化だけで私たちにはよくわからなかったけど、戦闘開始から数分がすぎたころには明らかに小さくなっていっていることがわかるようになってきた。


「どうやら上手くいきそうですわね」

”うん。この調子なら――なんとかなるかも!”


 楓たちの提案した『力業』の作戦――相手の攻撃をひたすら耐えるという身も蓋もないものではあるが、インティが『エネルギーを消耗する』タイプのモンスターだということはそれ以外にやっぱり方法はなかったのだと今なら思う。

 そして、消耗を加速させるために都合のいいことに、ガブリエラの『闇の門』とクロエラの排気魔法エキゾーストがあった。

 ……もし二人がいなかったとしたら、私たちは延々と強力な攻撃を回避し続けるしかなかっただろう。それでも攻撃パターンを見切れれば何とかなったかもしれないが、戦闘時間が長引けば長引くほどこちらの集中力も切れやすくなり危険は増す。

 しっかりと計算できるわけじゃないからわからないけど、多分耐える時間が半分程度にまで短縮できているはずなのだ。


”! かなり弱ってきているみたいだ!”


 そんなこんなで、アリスたちのリスポーンも完了。

 再び戦線に戻ってはやられ――を繰り返していたが、やがてインティが目に見えて弱まってきているのがわかった。

 太陽のようなまぶしい輝きは相変わらずだけど、大きさは最初に現れた時の半分以下にまで縮んできているし、全方位への爆発の規模も大分小さくなっている。

 何よりも、炎熱レーザーの熱量がかなり弱くなっている。《イージスの楯》で防いでも、周囲の熱が高すぎて避難しなければ……ということもなくなってきているのだ。

 アリスたちもリスポーンすることがなくなってきているし、このままいけばインティのエネルギー切れも近い――私を含め、皆がそう確信しただろう。




 ――やがて。


「倒した――のか?」


 インティの身体を包んでいた高温の炎――実際には『爆発』だけど――が消え失せ、黒い岩の塊のようなものが地面へと落ちる。

 ……本物の太陽だったら、きっとあんなものはないだろう。確か太陽とかの恒星ってガスが主成分のはずだしね。

 それはともかく、存在するだけで周囲全てを焼き払う炎熱は全て消え、岩塊だけが残っている状態だ。


”……いや、まだだ!”


 誰も迂闊に岩塊に近寄ろうともしない。

 そりゃそうだろう。今までも『三界の覇王』には散々初見殺しを仕掛けられてきたのだ。

 こうやって耐えているだけで本当に終わるとは誰も思っていない。

 実際、私の元に『クエストクリア』の通知はやってきていないのだ。

 私の警告に、アリスたちは警戒を緩めず岩塊の方へと向き直るが――


”!? 何か……出てくる!?”


 岩塊の表面に大きくヒビが入る。

 これが岩が割れるだけであれば心配なかったのだろうけど、明らかに違う。

 ヒビの中、つまり岩の中から再び炎が噴き出してきているのだ。


「……まるで『卵』のようですわね」

”! そういうことか……!”


 ヴィヴィアンの感想は的を射ていると思う。

 あの岩塊、見ようによっては確かに『卵』みたいな形をしている――それも、私たちがよく知る鶏の卵のようだ。

 ということは――


”気を付けて! 多分、次こそがインティの本体だ!”


 私が叫ぶと同時に『卵』が割れ――中から炎と共に巨大な姿が浮かび上がる。




 ……インティの第3形態、それは巨大な『鳥』だった。

 元の太陽の姿に比べればだいぶ小さいし、大型モンスターの域を出ない程度ではあるが……翼を広げた時の大きさは数十メートルにも及ぶだろう。

 見た目はもう何というか……伝説の生物『鳳凰』というか、『火の鳥』というか……とにかくそういった生物そのものである。


「ふふふっ♪ やっと本当の勝負ができそうですね♪」

<そうだみゃー……>

<ま、ここから更に変身とかは――ないとは思うけどにゃー……>


 自由自在に空を飛び回り、炎を撒き散らす火の鳥――ここに至るまでは我慢し続けるしかなかったけど、ここからは『いつも通り』のモンスター戦だ。


「ふん、散々好き放題やられたんだ。ここからは全力でぶっ飛ばすぞ、貴様ら!」


 ……なんだかんだで皆鬱憤がたまってたんだろう。アリスの号令に元気よく答えていた。

 …………うん、まぁここまで来たんだ。警戒しすぎて手数が減ってしまう方がマイナスか。


”――よし。相手の攻撃がどう来るかわからないけど……皆で総攻撃をかけよう!

 ヴィヴィアン、私たちも少し前へ出て援護を!”

「かしこまりました、ご主人様」


 気を付けるべきは全方位攻撃があるかどうかというところと、オオカミの時のように最後っ屁で私への攻撃を優先するかどうかってところか。

 それでも――『普通に戦えるモンスター』であればアリスたちは絶対に負けない。

 私にはそんな確信があった。




*  *  *  *  *




 ……そして、その確信は正しかった。


”や、やった……! クエストクリアだ!”


 後方からヴィヴィアンが召喚獣で支援しつつ、他7人で総攻撃を仕掛け――やがてインティが地面へと落ちて灰となって消えていった。

 それと同時にクエストクリアの通知が私の元へとやってくる。


「ふぅー……こういう普通に戦えない相手は苦手……」


 ジュリエッタはそうぼやいている。

 ……まぁ彼女は魔法の性質と本人のステータスの問題で、『近寄れない相手』って結構苦手だしね……今回も基本的には援護に回ることが多くてあんまり戦えなかったみたいだし。

 逆に、アリスやルナホークみたいな強力な遠距離攻撃手段が豊富な子は、多少近寄れなくても問題はない。もちろん、太陽形態だったインティみたいなとんでもない相手は話は別だけど……。


「ご主人様、ピッピ様が仰っていた称号はどうでしょう?」

”うん。それも大丈夫みたい”


 マイルームに戻ってからでもいいんだけど、私も期待が抑えきれずにすぐに確認した。

 結果、私のユニット8人全員に『三界を征する者』の称号がついたことが確認できた。

 ……これで、ようやく私たちはラスボスへと挑む権利を得ることができた――そういうことだろう。

 そのことを聞き、皆も顔をほころばせる。


「よし! いよいよだな……!」


 特にアリスにとっては喜ばしいことだろう。

 美鈴ホーリー・ベルとの別れから半年近く――ずっと、『ゲームクリア』を目標に戦ってきたのだ。

 途中で色々とあって横道に逸れてはきたものの、目指すところに変わりはない。

 その最終目標についに手が届くところまでやってこれた――アリスだけでなく、私にとっても嬉しいことには違いない。


「マスター、帰還しましょう。最終クエストについてもそこで相談いたしましょう」

”そうだね。皆、一度マイルームに戻ろう。

 で、そこでラスボス戦の予定を決めようか”


 ……ぶっちゃけ、この『ゲーム』の底意地の悪さを考えたらインティを倒したからと言って安心してもいられない。

 何が起こるかわからないし、まずは安全な場所まで退避してからゆっくりと話せばいい。

 そう思い、私たちはマイルームへと戻るのであった。




 ……それにしても、『三界の覇王』という『前座』でこれだけ苦戦させられるとは……。

 果たして、これ以上であろうラスボスはどんな化け物なのか……そこだけはちょっと心配になる私なのであった……。

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