第10章8話 三界制覇戦 5. "傲然たる死屍"オオカミ
* * * * *
さぁ、ここからは『反撃』のターンだ。
「今回こそはぶっ倒さねーとな!」
「ふふ、うふふふふ……♪」
「……ぶっ飛ばす……!」
……我がチームの誇る戦闘班もやる気満々みたいだし……。
まぁ不満がたまっているのもわかるけどさ。
オオカミの行動パターンとかを知るために、結局4回くらい戦いを挑んでは負けて撤退を繰り返してたからね……。
「みゃはは、まー今回はきっちり勝たせてあげるみゃー」
「にゃはは、追い詰めた後にまーた何かやってくるかもしれないけど、今回で終わらせるつもりにゃー」
頭脳労働班も今までの『負け』を無駄にはしていない。
しっかりと相手の動きを見て対策を考えている。
……ただ、サリエラの言う通り、まだ見ぬパターンが控えている可能性はゼロではない。追い詰められた時に何をしてくるかわからないが、それを恐れてまた撤退していたのでは話が進まない。
なので、今回の戦いで皆も決めるつもりだ。
もちろんどうしようもないとなったら安全第一で撤退は厭わないが、まだアンリマユとインティも控えているのだ。
ここらで『勝利』をしておかないと皆の士気にも関わってきてしまうしね。
「
「……ここまで何度もやりましたからね……」
「うん……まぁ初見殺しは大体潰しただろうし、後は――まぁいつも通りだよね」
”それもそうだね……”
オオカミの厄介なところは、初見殺し――『
特に広範囲攻撃は脅威だ。
なにせ雷撃だ。走って回避することなんて普通は無理だし、雷撃防御の魔法を持っていなければ一撃必殺かあるいは体力をごっそり削られてしまう。
オオカミ自身も周囲に冷気のバリアを張って体力を削り続けてくるし、雷撃とは違う氷を使った攻撃を仕掛けてくる。
……シンプルに『手数』と『火力』で攻めてくるモンスターと言えるだろう。
”そろそろオオカミのいる地下空洞だね。
皆、作戦通りに行こう!”
血気にはやるガブリエラとかが心配だけど……まぁその辺はお姉ちゃんズのコントロールに任せるしかない。
アリスとジュリエッタもいざやるとなれば頭も冷えるだろうし、事前の作戦通りにいけば問題ない――はずだ。
私の号令に全員がうなずき、配置を変更。
「それじゃ、ガブリエラ、クロエラ」
「はい♪」
「うん、行こう!」
ジュリエッタ、ガブリエラ(+ウリエラ・サリエラ)、クロエラが地下空洞へと突撃――それに反応し、オオカミが咆哮を上げる。
戦闘開始――この一戦で決めてみせる!
* * * * *
「【
オオカミがジュリエッタたちへと氷柱を投げつけて攻撃し始めたのを見届けてから、後続の私たちも地下空洞へと突入する。
入口付近にヴィヴィアンとルナホークが待機。ルナホークは【演算者】を起動して計算を始める。
そして、アリス
「頼むぜ、使い魔殿」
”うん!”
オオカミへと上から攻撃――が目的ではない。
アリスが次々と魔法を使うため魔力消費が急激に上がっていく。
私は減っていった傍からアイテムを使ってひたすらに魔力回復。
……そう、アリスがやろうとしているのは最大最強の星魔法である《
この魔法の準備のために、私は後方のヴィヴィアンではなくアリスと一緒にいるというわけだ。
ジュリエッタたちがオオカミへと接近、冷気のバリアに耐えつつも
対オオカミ戦術その1にして重要なポイントは、『オオカミへの与ダメージをできるだけ
一気に相手の体力を削ってはならない。
なぜならば、数度の挑戦の結果【演算者】と
極端な話、一度も相手に攻撃をせずに逃げ回り続けていれば、どれだけ時間をかけても『八種の雷神』は現れない――これも検証済みである。
そして、どの程度ダメージを与えたら『八種の雷神』が現れるかについても把握済みである。
もちろん相手に攻撃しなければいつまで経っても勝つことはできない――故に、戦術その1は『アリスの準備が整うまで「八種の雷神」を呼び出すギリギリまで削る』ということになる。
『パートナーズ、少し攻撃の頻度を落としてください。
パートナー・ウリエラ、サリエラ。ガブリエラを後ろへ一度下げてください』
ダメージ管理は【演算者】を発動させたルナホークが行う。
ここまでの挑戦でどの程度のダメージが必要かは把握済み――つまりルナホークが『知っている情報』になる。
【演算者】の驚異的なところは、『知っている情報』であれば見えるものだろうが見えないものだろうが、正確に計算することができるという点だ。
……戦闘力の高さに目が行きがちだけど、ルナホークの最たる能力はやはり【演算者】なのではないか、と私は思う。突発的な事態における判断力はアリスたちの経験が生きるし、頭脳労働であればウリエラたちに勝る者はない。
けど、把握済みの情報を使って正確に、それこそコンピュータのように超高速で結果を算出し続けることは【演算者】にしかできないことだ。
圧倒的な情報処理能力――それこそがルナホークの持つ『特色』と言えるだろう。
”……ほんと、皆頼りになるなぁ……”
回復しかできない私とは大違いだ……。
今もルナホークはオオカミのダメージ管理をしながら、『八種の雷神』の出現予測地点を算出し続けている。
「ああ。色々あったが、結果的にベストメンバーが揃った――オレもそう思うぜ」
アリスも素直にそれを認める。
……アリスだけでは決してここまでやってくることは出来なかっただろう。メギストン攻略すらできたかどうか怪しいくらいだ。
それはアリスの力が不足しているからというわけではなく、単純に『手数』が足りないということもあるし、ヴィヴィアンやルナホークのようなサポート系能力がなければ勝てない相手もいたということだ。
なんだかんだで、アリスの言う通りの『ベストメンバー』だと言えるのは間違いない。
「……良し、オレの方の準備は完了だ!」
”うん、了解。ルナホーク!”
アリスの『星の種』ばら撒きは完了、後は《エスカトン・ガラクシアース》をタイミングを見計らって放つだけだ。
ルナホークにそれを伝えると、
『イエス、マスター。
パートナーズ、攻撃を続行してください。「八種の雷神」出現までの予測時間は――』
すぐさまオオカミへの攻撃を再開させ、一気に『八種の雷神』が出るまで削り切らせようとする。
私とアリスはそのまま天井付近に張り付きつつ、オオカミからの流れ弾が来ないか警戒しながら魔法発動までのタイミングを見計らう。
待つことしばし――
『サブマスター・アリス、カウント開始します』
『おう!』
ルナホークからカウントダウンが開始された。
100%正確かは微妙、とは事前に聞いてはいたけど……数度の挑戦の時にはほぼ正確なカウントが出来ていたし、少しくらいならズレても問題ないはずだ。
オオカミへとジュリエッタたちの攻撃が刺さり体力を着実に削っているのを見守りながら、私たちはその時へと備える。
『――「八種の雷神」出現。3、2、1……今!』
そして予想通りのタイミングで『八種の雷神』の出現箇所を示す魔法陣が出現。
だが、魔法陣出現と同時に撃ったのでは早すぎる。
そこから3秒カウント――ルナホークの合図と同時に、
「awk《エスカトン・ガラクシアース》!!」
アリスが最大最強の魔法を眼下の『八種の雷神』に向けて放つ!
対オオカミ戦術その2は、ありすが提案した通りの『出待ち』だ。
奴との戦いで厄介なのは、やはり『八種の雷神』による広範囲攻撃とオオカミとの連携と言えるだろう。
広範囲攻撃を何とか凌いでもその後はジリ貧に陥ってしまいかねない。
ならば、ありすの言う通り『出待ち』してさっさと雷神たちを倒して数を減らしてしまった方が良い――それが可能なだけの火力を私たちは持っているのだから。
降り注ぐ巨星の雨が、出現したばかりの『八種の雷神』を頭上から押し潰してゆく……。
……こいつら、見た目通り『硬い』敵ではあるんだけど、そんなのお構いなしにアリスの魔法は連続で叩きつけ押し潰す。
ぶっちゃけ、これを食らって無事で済むモンスターとかあんまり想像したくない――いや、インティとかに全然通用しないのは確認済みなんだけど……。
それはともかく――
「チッ、やっぱり半分くらいしか潰せないか」
悔しそうに舌打ちするアリスだけど、半分も潰したのはそれはそれで驚異的なんだけどね……私からしてみれば。
だが、これはこれで狙い通りではある。
ここからが戦術その3――そしてオオカミを倒すための策だ。
『”ルナホーク、いけそう!?”』
『
アリスの魔法で潰された雷神は、入口側の4体――これも
むしろそうなるように、優先的に入口側へと向けて巨星を集中させていたと言える。
「よし、オレたちも続けるぞ!」
更にアリスは二発目の《エスカトン・ガラクシアース》のための準備を始める。
……4体の雷神を倒したとは言え、まだ残り半分。そして肝心のオオカミ本体は残っているのだ。立ち止まるわけにはいかない。
オオカミ本体に加え、残る4体の雷神に囲まれたジュリエッタたちを支援しながら、アリスは再度『星の種』をばら撒き始める――ここからは敵のヘイトがアリスに向く可能性もある。私も敵の動きに注視しなければならないだろう。
だが、むしろアリスへとヘイトが向くのは都合がいい。
もっと言えば、ルナホークにヘイトが向かないようにここからは気を付けなければならない。
なぜならば、それこそが戦術その3の核なのだから。
「
破壊された雷神に向けてルナホークが
これが戦術その3――倒した雷神をカスタマイズでこちらの味方へと変える、というものだ。
事前の挑戦で何度も確認したので間違いない。カスタマイズは雷神に通じる――ただし、完全に破壊した後、あるいはほぼほぼ破壊した後であればだ。
カスタマイズで味方に変えるまで少し時間がかかる。その間にルナホークが狙われたらひとたまりもない。
だからこそ、ジュリエッタたち前衛と遠距離から攻撃するアリスがヘイトを稼ぐ必要があるのだ。
更には同じく後方に控えていたヴィヴィアンに《ハーデスの兜》を借りて姿を隠している。
”……よし、大丈夫そうだね”
今のところは順調だ。
オオカミも残る雷神もルナホークの方へと向かう様子はない。
雷神も8体揃っていなければ広範囲攻撃の威力も範囲も大幅に減り、一気に脅威は減っている。
「ああ――ふん、どうやらリベンジは果たせそうだな」
アリスも様子を見てニヤリと笑う。
まだ油断はできない――が、散々敗北しながら検証した甲斐があったと言える。
勝てる……私にもその確信があった。
「カスタマイズ完了――これより援護開始します」
”来た!”
そのまま戦っていると、ルナホークのカスタマイズが完了。
蘇った4体の雷神が動き始め、元仲間の雷神へと襲い掛かる。
流石に雷神を操作するのが精一杯でルナホーク自身は戦うどころかその場から動くことができなくなる。
「よし、ヴィヴィアン。交代だ!」
「かしこまりました、姫様」
ここでアリスが私をヴィヴィアンへと渡し、替わりにルナホークの護衛を重視しつつ変わらず前衛への援護射撃もする。
雷神4体がこちら側へと寝返ったことで、戦力比は一気に逆転――私たち側が圧倒的優位に立てている。
何しろ厄介極まりない雷神の半分が味方になっている状態だ。本物同様にはいかずともプレッシャーは十分にかけることはできる。
そして、ジュリエッタたちもオオカミを狙いつつも残った雷神にいけそうなら攻撃を仕掛けて一体ずつ撃破していく。
”……雷神は全滅、残るはオオカミだけだね!”
倒した雷神が復活しないのは確認済みだ。念入りに片っ端からカスタマイズをかけてルナホークが支配、その後別に操らずに放置していれば確実に脅威にはならなくなるだろう。
となれば後はオオカミ本体を倒すだけだ。
「はい。……ただ、ここから先は未知の領域でございます」
”そうだね……”
確かに事前に検証したのはここまでだ。
だからここから先に奴が何をしてくるかはわからない――ただ、それについては皆揃って『いつも通りだ』と笑い飛ばしていた。
……まぁその通りだと言えばそうだけどね。『八種の雷神』による初見殺しが原因だったわけだし、そこを潰しさえすれば後はいつも通りの出たとこ勝負で何とかなる……と思いたい。
念のためヴィヴィアンは更に後方へと下がり、自由に動けるようになったルナホークとアリスがやや後方から援護。
残りのメンバーが前線でオオカミと戦う……その配置で私たちは決戦に挑む。
* * * * *
そこから先は『楽勝』……とは流石に言えなかったが、終始こちらが優位に立てたまま進められていた。
雷神との連携もできず、地下空洞の奥から動こうとしないオオカミへと攻撃が次々と突き刺さり――やがて奴の全身を覆う氷が剥がれ落ちていった。
倒したか、と思ったが違う。
”!
氷が剥がれ落ちた後に、オオカミの本体が出現したのだ。
……氷の鎧を身に纏っていた、というわけか。
本体は雷神同様、真っ黒の金属質な『何か』で造られた――巨大な『狼』と言った姿だ。
ただ雷神と違うのは、あちらは完全に人工物としか思えないものだったが、オオカミは違う。金属質な『何か』は『皮膚』なのだろう、ある意味でナイアの『アルアジフ』にも印象が似た生物的な感じも受ける。
「! 皆、気を付けて。こいつ、動く!」
最前線に立っていたジュリエッタが真っ先に気付くと共に、奥でどっしりと構えているだけだったオオカミが一吠えすると共に動き出した。
目に見えないほどの速さというわけではないが、巨体の割には素早い。むしろ、大型モンスターの共通として少し動いただけでも移動距離が稼げてしまう。
「ふん、向こうも『本気』になったってわけか。こうなった以上、後ろに控えていても埒があかないだろう。
ルナホーク、ヴィヴィアン。後衛と使い魔殿の護衛は任せたぞ! オレも前に出る!」
「かしこまりました、姫様」
「
相手が自由に地下空洞内を動くようになったのであれば、後方に三人も控えている必要はないだろう。
アリスの方も自由に動いて戦った方が良い、そういう判断だ。
護衛に専念するだけならヴィヴィアン一人で充分だし、いざという時に備えて万能なルナホークが傍についておけば更に万全だ。
”アリス、魔力は大丈夫?”
「ああ、ラスト一発分はある」
”わかった。よろしく頼むよ!”
「任せろ!」
準備だけはしておいた《エスカトン・ガラクシアース》の分の魔力はあるようだ。
まぁここまで基本私の方で魔力回復させていたから、彼女自身のアイテムはフルで残っているはずだけどね。あの魔法使ったら一気にポーチのアイテムが半分近く吹っ飛んじゃうから、それでも足りないと思うけど……。
ともかく、アリスも本格的な攻撃に加わることで、たとえオオカミが本性を現したとしてもより戦局は優位に傾くはずだ。
……おおよそ、私の思う通りに戦いは推移していった。
氷の鎧を脱ぎ捨てたオオカミは、『狼』の見た目の通り俊敏な動きでこちらを翻弄していたが……正直、『八種の雷神』との同時攻撃でなければ『いつもの大型モンスター』戦とそう大差はない。
まぁ確かに他のモンスターに比べれば動きは速いし、氷柱ミサイルの連打や巨大な氷の剣を作って口で加えて振り回したりとかはまともに食らえば痛いんだろうけど、単独の敵であれば回避も防御も難しくない。
特にこちらは8人がかりなのだ。たとえ死角から氷柱や冷気で攻撃しようとも仲間同士でカバーできる。
故に『いつもの大型モンスター』と同じと言えるのだ。
オオカミの最後の悪あがきはことごとくが潰され、確実に追い詰められていっている。
そしてそろそろ力尽きようとした時――奴が今までにない動きをした。
”! 何か来る……!?”
ぐらりと身体が力尽きたかのように傾き……だが土壇場で踏ん張り直し、大きく口を開く。
その向きは、自分のすぐ近くで攻撃してくるユニットたちではなく、明らかに後方にいる私たちの方向だった……。
そう思った次の瞬間、オオカミの開いた口から真っ白の光――周囲の大気を凍結させる冷気のレーザーが放たれ――
……私たちのいた場所の周囲を全て凍らせ、破壊していた。
まぁ、
「残念だったな、オオカミ」
「これで終わりだみゃー」
冷気レーザーが最後の切り札だったのか、それで私――使い魔を倒そうとして全部の力を使い果たしたのか……。
ともかく、もはやオオカミに為す術はなく、攻撃後の隙を突いたユニットたちの攻撃によってついに崩れ落ちていった。
「……危ないところでした。使っておいて正解でしたね」
”そうだね……”
一方、レーザーをまともに浴びた――ようにオオカミには見えていただろう――私たちはと言うと、部屋の隅から崩れ落ちるオオカミ、そしてレーザーが吹っ飛ばした跡を見て胸をなでおろす。
「リコレクト《シン》」
ヴィヴィアンが
レーザーが狙った場所……つまりオオカミから見える私たちのいた辺りにいた、小さな貝殻のような召喚獣がリコレクトされ消えてゆく。
《シン》――蜃気楼の『蜃』を模した召喚獣である。確か元ネタは中国の妖怪だかなんだかだったかな?
効果はその名の通り『蜃気楼を創り出す』ことだ。気温とか大気の状態に関係なく、任意の像を創り出すこの能力は『幻覚』と言った方が正解かもしれない――アストラエアの世界での戦いの経験から新しく創った召喚獣だ。
オオカミが何をしてくるかわかったものではないため、念のためヴィヴィアンは《シン》で私たちの幻像を作っておき『囮』として使ったのである。で、私たち自身はそこから対角線上に遠く離れた位置に《ハーデスの兜》を使って隠れていたというわけだ。
……使っておいて本当に正解だった。
もしあの冷気レーザーをまともに浴びたとしたらひとたまりもなかっただろうし、《イージスの楯》でも周囲の冷気までは防げずやられてしまっていたかもしれない。
”あ、クエストクリアだ!”
保険をかけておいて正解だったと胸をなでおろしつつ、私はクエストクリアの通知を確認。
……流石にここからアンリマユの時みたいなことは起きないだろうとは思うけど……。
「よしっ! やっと倒せたか!」
皆で集合し、互いに喜び合っている。
”どうしようか? 『離脱』アイテム使っちゃう? それとも、歩いてゲートまで戻ろうか?”
「うにゃー……多分大丈夫だとは思うけど……」
「そこまでの距離でもありませんし、念のため徒歩でゲートまで戻るでよろしいのではないでしょうか?」
アンリマユみたいに特記事項に書かれているわけでもないし大丈夫だとは思うけど、それでもここまでやってクエスト失敗になった時の方が精神的にダメージが大きい。
皆もそう思ったみたいだ。
”……わかった。念のため警戒しながら歩いて戻ろうか”
念には念を、だ。
私たちは『三界の覇王』の一角をようやく倒せたのだし、ここからクエスト失敗になったらたまったものではない。
大丈夫だとは思うけど、一応敵襲がないかを警戒しつつ来た道を引き返してゲートへと戻るのであった。
…………それにしても、一つ気になることがある。
オオカミの最後の攻撃――明らかに私を狙っていたようにしか思えない。
あの状態で仮に使い魔を倒せたとしても、オオカミ自体は残ったユニットに倒されただろうし……こちらにとってはゲームオーバーになってしまう致命的な一撃ではあったが。
気になるのは私を狙っていた、つまり使い魔を認識していた……ことにある。
過去の経験から、あんまり使い魔ってモンスターには狙われないということはわかっている。周囲にユニットがいない状態だと話は別なんだけど……。
……そういえばインティとの最初の戦いの時も、ユニットを無視して私目掛けて落下してきたような気がするし……。
”……絶対にクリアさせないっていう強い意志があるな……”
「? ご主人様、どうかされましたか?」
”ううん、何でもないよ”
まだ推測だし他の皆には話せないこともある。
――『三界の覇王』は明らかに『デジタル異世界』の存在だと思う。
そしてデジタル異世界=作り物ということは、その中身は『ゲーム運営』が自在に設定しているということだ。
……ここに運営、つまりゼウスの意思が介在していることは疑いようはない。
だとすれば、クリアを阻止するために『使い魔を狙い撃ちにする』というロジックが組み込まれているのではないだろうか? だからこその、オオカミのあの最後の攻撃があったのではないか?
私はそんな予感がしていた……。
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