第9.5章8話 またまたすず姉といっしょ(後編)
その後、美鈴との話は互いの
もちろん互いの能力を明かしあうわけではない。ありすも望んでいないし、美鈴だって話さないだろう――私は聞きたくて仕方ないけど。
「マキナパイセンのことは知ってるんだよね?」
”うん。そういえば彼女入院してるって言ってたけど……大丈夫かな。受験生ってところも気になるけど……”
身体とか大丈夫だろうか?
彼女には随分と助けられたし、ちゃんとお礼も言えていないし……。
「あー……気にしないで大丈夫。この間退院したって聞いたし」
”え、そうなの?”
なんだかあっさりと退院したそうでちょっと拍子抜けだ。いや、もちろん無事に退院できたことは喜ばしいだけど。
「入院ったって、ただの盲腸だしねー」
”お、おう……”
なんだ、そうだったのか……。
とはいえ、盲腸――正確には『虫垂炎』だって、悪化したら命に係わる重大な病気には変わりないし、無事に済んで良かった。
……ちなみに、前世で何度も色々な原因で死にかけた私だけど、実は虫垂炎にはならなかったんだよね。なぜか私以外の家族全員がやったんだけど……。
「パイセンもついてないよねー。受験真っ只中で盲腸なんてさ」
あはは、と明るく笑う美鈴。
”いやー、でも盲腸だって笑いごとじゃないよ。美鈴はまだなったことないの?”
「ないねー。というか、あたし風邪ひいたことないんだよね」
…………それは自慢していいことなのだろうか……いや、健康なのに越したことはないけど。
「退院おめでとうのお祝いとかしたいけど、パイセン別の中学だし接点ないからね。まぁ言葉だけしかかけられないけど」
「ん、マキ姉退院おめでとう、って言っておいて」
”そうだね。私たちからもお祝いとお礼をお願い。直接会えればいいんだけど……”
「まー、それは難しいかもね。パイセンちょっと離れたところに住んでるし、まだ受験が残ってるみたいだから」
だよねぇ。
住所よりも『受験』の方が大事だ。
まだ2月下旬だし、私立高校なんかはこれから試験ってところもあるだろう。それに、記憶が確かなら公立高校って3月頭が試験だった覚えがある。
”……美鈴も来年には受験生かぁ……”
「う……ま、まぁね……」
何の気なしに呟いた言葉に、美鈴は顔をひくつかせる。
理解はしているみたいだけど……大丈夫なんだろうか、この子……と思わず心配になってしまう私なのであった。美鈴、成績あんまりよくないらしいしね……。
”それに、期末試験が近いんじゃないの?”
「お、思い出させないでよ……」
この子は本当に、もうね……。
反対にうちの中学生組は涼しい顔をしているもんだ。楓椛は言うに及ばず、千夏君だってかなり成績いい方みたいだし。
……あの子たちも美鈴と同じく来年受験かぁ。見届けたいという気持ちはあるけど、果たしてその時私はどうなっているのやら……。
っと暗いことを考えても仕方ない。
「そ、そういえば
「ん? 知り合い?」
同じく暗いこと――いや真剣に考えてもらいたいことなんだけど――を考えて落ち込みそうだった美鈴が話題を変えてくる。
「いや、知り合いじゃないとは思うよ。もしかしたらすれ違ったりしたことはあるかもしれないけど」
”ふーん? でもまたなんで?”
こっちに心当たりがないのに向こうから会いたがるって、なんかちょっと嫌なことを考えてしまう。
具体的にはドクター・フーの時のことをだ。あれも、こっちには心当たりがないのに妙に執着されてたしね――結局、あいつの正体も執着の理由もわからずじまいだったけど……まぁ『ゲーム』から脱落しているのであれば気にする必要はないか。
ともあれ、なんでその『茉莉ちゃん』とやらがありすに会いたがるのか、理由は気になる。
アリスと会ったのは、ナイアとの戦いの時だけのはず――後は全部終わった後にちょっと顔を合わせたくらいかな? ああ、そういえばあの時はありすは変身を解いてたっけ。
美鈴はちょっと苦笑いしつつ、その理由を答える。
「あはは……なんか、茉莉ちゃん……妙にあたしに懐いてくれてるんだよね。
だからかなぁ、ありすに『ヤキモチ』妬いちゃってるみたい」
「んー……?」
”……あー……なるほどね……”
何となく理解できた。
つまりは、茉莉ちゃんもありすと同様の『すず姉大好きっ子』というわけだ。ライバルだね。
”でも、直接はなぁ……”
渋る私。
どう思ってるのかは美鈴には理解できているのだろう、続けて言う。
「まぁ茉莉ちゃんがありすに危害を加えるとかは心配しないでも大丈夫だと思うよ。
なんたって、茉莉ちゃんまだ幼稚園児だしね。ありすの家の近くの幼稚園に通ってるから、もしかしたら顔見たことあるかもしれない」
”あ、そうなんだ……”
それはまぁ安心材料の一つと言えば一つだ。
とはいっても、以前の千夏君とアンジェリカの中の子のトラブルもあったし、絶対に安全とは言い難いけど。
「まぁ気が向いたら会ってあげてよ。案外、ありすにも懐くかもよ?」
「ん、わかった。幼稚園なら……ナデシコと仲良くなれるかも?」
”歳は近いけどねぇ”
幼稚園ってことは4~6歳くらいかな? なっちゃんよりは確実に年上なのは間違いない。
まぁなっちゃん単独では流石にアレなので、楓か椛は絶対に一緒にいるだろうけど。
「? ナデシコ?」
あ、美鈴が食いついた。
「ん、ナデシコ……わたしの仲間」
「ああ、8人の中の1人なのね。その子もちっちゃい子なんだ」
「ん。
うわぁ、止める間もなく個人情報駄々洩れしちゃったよ……美鈴なら悪用はすまいとは思うけど、もうちょっと危機管理を持ってもらいたい……。
と、『星明神社』の名を聞いて美鈴の眉がぴくっと動く。
「…………え? 星明神社ってことは――まさか残りのメンバーって……?」
そうか、美鈴は当然知り合いか……。
誤魔化してもいいんだけど、ここまで話をしてしまったのなら仕方ない。
私は頷いた。
”うん……まぁ、そういうこと”
「…………マジで……?」
「ん、マジで」
”マジなんだよなぁ、これが”
ユニットになれる子の条件は未だにわからないけど、どうも兄弟姉妹はユニットになりやすい傾向にあると思う。
そのまま沈黙し何事か考えていた美鈴だったが、やがて私に縋るような目を向けてくる。
「ラビっち……あたしたち、親友よね?」
”うわぁ、言われたら嫌なタイミングだよ、その言葉”
何を思っていきなりそんなこと言い出したのかはわかるけどさぁ……。
っていうか、言われて思ったけど確かに悩ましい問題だ……。なにせ椛は自分のユニットなわけだしね。話自体は美鈴の方が先に聞いてはいるんだけど……。
そもそも、美鈴にしたって全然進展しないし、動こうとしないし……正直目がないんじゃないかなって思い始めている。それ言ったら、実は椛の方も結構難しいんじゃないかなって思っているんだけど。
”……まぁ協力は惜しまないけどさぁ。平等ね、平等”
「そ、そんな……!」
大体、私が協力したところで大した役には立たないだろうし。
……あの件については、美鈴自身が動かないことにはどうにもならんよ、マジで。
「んー……? なつ兄のこと?」
「あ、う、えーっと……その……」
今更何言い訳しようとしてんのやら。
いつぞや千夏君を交えて顔合わせた時に、既にありすにもバレてたのわかってないのかよ……。
今度は美鈴の方がもにょもにょとしているが、構わずありすの方で色々と納得したらしい。
「
「そうかな……ん? え!? ふー姉って……楓の方!?」
おう!? どういうこと!?
ありすが楓と椛を間違えてる……わけないか。
「ん、楓の方」
合ってるよねぇ……。
楓の方、と言われてもピンと来ない。千夏君にボディタッチして猛烈にアピールしてくるのは椛の方だし……そんな素振りあったっけ……?
…………いや? そういえばなんか微妙にそういう反応をしていたことがあったような、なかったような……?
「ふ、フー子の方……!? いや、でも……確かに…………小学校の時……そ、そっか……あの時から……」
ぶつぶつと呟いていた美鈴だったけど、何やら思い当たる節があったみたいだ。
前に美鈴から聞いた話だと、椛の方が積極的に千夏君にアピールしてて、同じ頭の良さの楓が策略を練るみたいな危惧をしていたけど、そういうわけではないのか。
楓も実は椛と同じってことか……? ただ、椛よりも積極的なアピールはしないというだけで私からはわかりにくいけど、美鈴には心当たりがあるってことかな。
……まさかとは思うけど、もしその通りだとしたら実は椛は楓のサポートをしようとしている……? いやそれはないか。
”ちょ、ありす……それ本当に……?”
「んー……たぶん? はな姉もそうだけど」
あ、やっぱり椛もそうなんだ。あくまでありすから見てだけど。
……うわぁ、なんか千夏君周りの人間関係が滅茶苦茶ややこしいことになってるなぁ……。
特に楓と椛なんか薄氷の上を歩いているようなもんじゃないか……ありすの言う通りであれば、だけど。
加えて千夏君が好きなのはあやめであって、そのあやめがついに同じチームに入ったということは……。
”…………なるようになるでしょ、きっと”
何か色々と怖いことを想像してしまったけど、私から口を出すべきことではなさそうだし口を出す段階でもないだろう。
……そう思ってとりあえず『見なかったこと』にしてしまうのであった。
「……ラビさんもへたれ?」
”だまらっしゃい”
私もあんまり美鈴のこと言えないなぁとちょっとは自覚したけどさぁ。
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