第9.5章3話 "戦略機動兵器"ルナホーク(前編)

 夜限定クエスト――今回の相手は『月光獣ムーリオン』というモンスターだ。

 舞台となるのは、夜の草原エリア……。


”……ジュウベェとの最終決戦を思い出すね……”


 思い出すというか、あの時の舞台そのままだ。

 夜空が綺麗な、どこまでも広がる草原は眺めはとても良い。

 見晴らしがいいのでどこからモンスターが来てもわかりやすいとは言えるが、逆にこちらが姿を隠すことも難しいステージだと言える。


「レーダーに今のところ反応なしかみゃー」

「……まぁあんま当てにならないけどにゃー」


 レーダーさんの評価低いな……私も同感だけど。


「……この編成だと、殿様守るの難しいかも」

”うーん……確かに欠点と言えば欠点かもね”


 ウリエラ・サリエラは言うに及ばず、接近戦主体のジュリエッタがいつものように《大人形態トールマン》になって私を抱え込んでいるため積極的に前に出にくい。

 で、新メンバーのルナホークはというと、兵装換装魔法コンバートで手足だけでなく背中のパーツとかも入れ替わることがあるため、私が安定して掴まっているのが難しいのだ。


問題ありませんノープロブレム、パートナーズ。

 当機の実力をお見せする絶好の機会と心得ます」

”……まぁルナホークがメインで戦って、って感じかな”

「うん。今回はそれで。危なくなったらジュリエッタも前に出る。

 ……あ、倒したら肉はジュリエッタが食べる」


 ジュリエッタもちょっと変わった気がする。

 ヒルダとの完全決着がついたことで吹っ切ったのかな。余計なこだわりを捨てて『チームのため』に最善な行動を迷いなく取れるようになったみたいだ。まぁ、仲間割れしない程度に互いに我を通すくらい別にいいと思うんだけどね。

 ともあれ、ジュリエッタ的には消耗した『肉』の補充の方がメインのようだ。


「んじゃ、わたちがルナみゃんと一緒に行動するみゃー」

「んじゃ、あたちがジュリにぇったと一緒に行動するにゃー」


 流石にルナホーク一人で戦わせるわけにもいかず、ウリエラが共に行くことに。

 魔法の相性的にルナホークは自己完結しているため誰と行っても同じではあるが、唯一ウリエラとだけは連携できる。

 たとえばレーザー砲や火炎放射などの『形のないエネルギー攻撃』をする場合、ヴィヴィアンの時と同じくウリエラが操霊魔法アニメートでサポートすることができるのだ。

 そうでなくても、ウリエラならゴーレム軍団を作ったりで、壁や囮役としてのサポートも可能だ。

 というわけでウリエラがルナホークと、サリエラがジュリエッタと共に行動しつつターゲットのモンスターを迎え撃とうとする。


”……あ、来た!”


 そうこうしているうちに、モンスターの反応をレーダーさんが捉える。

 数は――ふむ、1体だけか。


「ルナみゃん、来たみたいだみゃー」

了解しましたラジャー。空戦形態で応戦します」

「みゅ、まずはそれでおっけーみゃ」


 相手がどんなモンスターかはまだわからないけど、とりあえず飛べる兵装にしておけば間違いないだろう。


”ジュリエッタ、サリエラ。私たちはルナホークたちの後についていこう”

「うん。念のため音響探査エコーロケーション使っておく」

「あたちもレーダーの監視しとくにゃー」


 ……いや、ほんと頼りになる子たちだ……。

 あれこれ言わずとも、もう彼女たちに全部丸投げしたとしても何の問題もないと思う。というより、行動の指針すら私いらないんじゃないかな……って気になってくるわ。

 それはともかく、ルナホークは《ファイターズ・デバイス》――戦闘機を模した高速飛行&攻撃形態へと兵装を変換。ウリエラがその肩に邪魔にならないようにしがみ付いて一足先に空へと舞いあがる。

 敵のいる方向はウリエラのレーダーがあるし心配ないだろう。

 後ろから地上を進む私たちは、予想外の方向からの攻撃が来ないかを警戒しつつ、いざという時のバックアップだ。




 さて、しばらくすると平原の向こう側からゆっくりとこちらへと近づいてくるモンスターが見えてきた。


”……あれがムーリオンか……”


 流石にメギストン33体の悪魔のうちの1体だ。並みのモンスターとは威圧感というかなんというか、そういうものが段違いだ。

 見た目は……とてつもなく大きい『ヘラジカ』って感じだろうか。頭から生えている大きな角が特徴的だ。

 ……と言いたいけど、もっと特徴的なものがある。

 それは奴の『色』というか、全体的な姿だ。

 全身が金色に輝く……光に包まれており、周囲へと火の粉のように光の粒が舞っている。

 とはいっても『金色の体毛』というわけではない。


「……にゅー……?」

「……まるで光そのものが動いているみたい……」


 サリエラも怪訝そうに首をかしげている。

 印象としてはジュリエッタの言葉が的を射ているだろう。

 何というか、『動物の形をした光』――そうとしか言いようのない姿なのだ。

 かといって存在感が希薄なわけではなく、明らかに目の前にいるというのが感じ取れるほどである。


”一筋縄じゃいかない、かな”


 この期に及んで『油断しないで』などと間の抜けたことを言うつもりはないが、こいつは『何をしてくるかわからない』系の厄介なモンスターなんじゃないかという予感がある。

 空中から迎え撃とうとしているルナホークたちの方はというと……。


「迎撃開始」


 って、何の躊躇いもなくルナホークが空中から機関銃を乱射してムーリオンを攻撃し始めてる!

 ……まぁ先手必勝という言葉もあるし、いつまでも様子見しているわけにはいかないし正しいとは言えるんだけど。


「にゅー、ルナにゃんもアーちゃん寄りかにゃー……」


 ……見た目思慮深そうな知的美人だけど、あやめって結構中身は残念系脳筋だからね……。

 とはいっても、頭が悪いという意味ではない。

 ある意味では、正しく『体育会系』と言うべきか、とにかくまずは行動ありきであるとも言える。


「む、でも効いてるみたい」

”ほんとだ。見た目はともかく、実体はあるのかな?”


 心配したルナホークの先制攻撃だけど、ムーリオンには着実にダメージを与えられているみたいだ。

 血飛沫の変わりに光の粒があちこちに激しく飛び散っているし、苦痛に身もだえしているようにも見える。

 実体があるのであればそこまで恐れる必要はない……かな? 攻撃が通じない系だとかなり厄介なんだけど、通じるのであればルナホークならひたすら遠距離から大火力を叩き込み続けて一方的に倒せるかもしれない。




 ……そんな期待があっさり裏切られるのではないか、と心配していた私だったけど……。


”た、倒しちゃった……”

「……ちょっと弱すぎだにゃー……」

「うん……意外過ぎる」


 そのままルナホークの射撃を受けて、ムーリオンはあっさりとその場に倒れて動かなくなってしまった。

 多少は抵抗しようとする素振りを見せたり射撃から逃れようとしていたんだけど、対空攻撃を一切持っていないし飛行能力もないようでルナホークから逃れることはできず、本当に一方的に攻撃を浴びせられ続けてしまったのだ。

 ……ちょっと意外だったけど、倒せたのであればそれはそれでいいんだけど……。


「…………」


 私たちの方はそう安心していたが、空中にいるルナホークは全く警戒を解いていない。

 むしろ……。


「攻撃続行」

”ちょっ!?”


 倒れたムーリオンの死体に向けて更なる射撃を繰り出し始めた!


「ルナみゃん!?」


 ウリエラもルナホークの行動の真意がわからず困惑している。

 もしかして脳筋というよりも見境なしの狂戦士バーサーカーなのか!?

 ……と私たちがルナホークへの認識を改めざるをえないと思った時だった。


”!? 復活した!?”


 なんとムーリオンがその場で再び立ち上がろうとしていたのだ。

 しかも、射撃を受けているにも関わらず、今度は全く堪えた様子が見えない。


”……あ、しまった。クエストクリアしてないのを見逃してた……!”


 これは私のミスだ……ナイアの時にも同じことをしたというのに……!

 ムーリオンを倒したというにも関わらずクリアになっていないということは、まだ倒しきっていないことを意味している。

 ルナホークはそれに気付いたのか、だから死体撃ちをしていたというわけだ。

 ……良かった、狂戦士じゃなくて……。

 それはともかく、完全に立ち上がったムーリオンにはもうルナホークの射撃は通用していないようだった。


「復活能力にゃ……?」

「……それも、《終極異態メガロマニア》みたいに攻撃が効かなくなるタイプみたい」


 拙いのはだ。

 復活するのはともかくとして、ジュリエッタの《メガロマニア》のように一度受けた攻撃を無効化しているとしか思えない。

 となると――大火力で一気に消滅するような攻撃をするしかないかもしれない。

 ……まぁルナホークの兵装にはそういうのあるみたいだけど。


「……【演算者カリキュレーター】」


 そこでルナホークは攻撃を続行しつつ自身のギフト【演算者】を使う。

 このギフト、魔力消費なしにあらゆる事象を『計算』して結果を導き出すという割ととんでもない能力なのだ。

 反面、アイテムでは回復できない『頭痛』というか負荷がどうしても避けられないというデメリットがある。

 そしてもう一つ、ルナホークあやめが知らない要素については計算に含めることができないため、完全な『未来予測』というわけではないという注意点もある。

 使いこなせればとても強力な能力だが、過信することは出来ない――そんなギフトだと言える。


「殿様、どうする?」


 ジュリエッタたちも加勢するか、という問いかけに即答できない。

 謎の復活能力がある以上、迂闊にジュリエッタたちまで前に出てしまうと無駄に危険に晒しかねない……という危惧がある。

 だからと言ってこのままルナホークだけに任せていても……。

 そう悩んでいた私に、ルナホークから声がかかる。


問題ありませんノープロブレム、マスター。

 

”へっ……?”


 さぁこれは思った以上に強敵だぞ、とこれからのことを考え始めたばかりだというのに、ルナホークは『ムーリオンの正体』……いや『復活の正体』を掴んだと言った。

 まさかこの短時間で【演算者】が答えを導き出したのか……?

 彼女の知る情報の範囲内で、という条件が付くが――そうか、私たちと違って上空から、しかも比較的距離が近いから何か違うものが見えているのかもしれない。


”……わかった。ルナホーク、君に任せる。援護できることがあったら言ってね”

「イエス、マスター」


 お手並み拝見、というわけではないが、今回のクエスト――ある意味でルナホークの実力を確認する意味合いもある。

 全員での組み合わせ確認で色々見てきてはいるが、彼女単体でどれだけの実力を発揮できるかはまだ見れていない。

 正直、復活能力は不可解だし厄介なのには違いないけど、ムーリオンはそこまで強敵という感じもしない。

 言葉は悪いが『ちょうどいい』相手だと言えるのだ。


”ジュリエッタ、サリエラ。聞いた通り、一旦ルナホークに任せよう。危ないと感じたら援護で”

「わかった」

「了解にゃー。……ま、多分いらない気はするけどにゃー」


 どうやら二人も同じことを考えていたらしい。

 慌てて駆け付けようとする様子もなく、私の言葉に同意してくれている。

 まぁサリエラの言う通り、『危ない』場面も早々ないような気はしてる――洗脳されている時でさえ、ヴィヴィアンが全力で戦ってようやく勝てたくらいだったのだ。

 そう滅多なことではピンチに陥ることはないんじゃないかなとは思っているけどね。ガブリエラと違って器用に立ち回れるし、ステータス異常で簡単に足止めされたりはしないだろうというところは安心できる要素だ。

 ……ルナホークはそこまで猪武者ってわけではなさそうだしね……多分。


「パートナー・ウリエラ、少々激しい機動となりますがよろしいですか?」

「みゅ!? りょ、了解みゃ。しっかり掴まってるみゃ」

「それでは――コンバート《スラッシュ・デバイス》」


 空に浮いたまま新たにコンバート――切り替え対象はデバイスだが、全体を換えたわけではない。

 左腕と右足を斬撃兵装スラッシュ・デバイスに、右腕と左足は空戦兵装ファイターズ・デバイスのままだ。

 こういう一部分だけ変更することができるのも、コンバートの強味だと思う。

 半身だけ変えたらバランスが悪くなると思ったのだろう、左右上下で異なるデバイスへと変えて移動と姿勢制御、そして近接攻撃のバランスをとろうとしているようだ。


「コンバート《ムスカ・モジュール》」


 更にもう一つ、ラグナ・ジン・バラン中枢内でも使っていた小型の無線砲台――《ムスカ》を呼び出す。

 これはルナホークの周囲に浮遊して彼女の動きに追随しつつ、ルナホークとは独立して動いて砲撃を繰り返す割と便利なモジュールだ。

 数は合計6基。小型故に一撃ずつの威力は低いが、手数とルナホークのとは別に攻撃を出せるのが便利だと思う。

 そして左手にはやや小型の刀を持ち、


「突撃します」

「みゃー!?」


 ムスカからレーザーを乱射しながら、ルナホークが復活したムーリオンの頭目掛けて急降下――接近戦を仕掛けようとする。

 ……背中にしがみついているウリエラが悲鳴を上げているが……いや、まぁ体力ゲージが減るわけじゃないから大丈夫、か……?

 まぁ助けを求めてきてはいないから大丈夫と信じよう。

 それはともかく、ルナホークは装着している兵装次第ではあるんだけど、それによるステータスの補正がかなり大きい。

 流石に地上を走るとなるとクロエラのバイクには追いつけないだろうが飛行スピードに関しては、正しくジェット戦闘機だ。

 猛烈な勢いの急降下爆撃……いや突撃で、ムーリオンの額部分へと手にした剣を突き立てる。

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