第9.5章2話 33体の悪魔――メギストン攻略開始
私たちが『ゲームクリア』のために必須となるラスボス――それと戦うために必要な前座として、『三界の覇王』というものがいる。
そして『三界の覇王』と戦うためには、その配下の33体のモンスターを倒さなければならない。
……これ、普通のゲームだとしたら相当大変な条件、っていうか炎上不可避のクソ仕様だと思う。
たとえばドラゴンハンターみたいなゲームだと、『33体』ってほぼ実装されているモンスター数と同等――いやそれ以上だと思う。
まぁ、この『ゲーム』がクソゲーなのは今に始まったことじゃないけど……。
『何としてもクリアはさせない』という強い意志を感じさせる。
ただ、絶対クリア不可というような仕様ではなく、『大変だけど不可能ではない』という微妙な匙加減だとは思える。もちろん、いい意味での『匙加減』ではないけど。
それはともかく、この33体のモンスター――めんどくさいのでここからは『メギストン』と呼ぶ――を倒すことが私たちの当面の目標となる。
”…………流石、としかいいようがないねぇ……”
ありすの部屋で、雪彦君から受け取った楓・椛お手製の攻略チャートを見て、私は唸った。
いや、すごいわ。33体全部の攻略順が余すところなく書かれている。
ピッピから聞いた記憶と照らし合わせて考えても、全く無駄のないチャートだと思う。
「ん、ふー姉とはな姉、すごい」
ありすも手放しで褒めている。
ゲーム攻略サイトも真っ青の出来だ。
『ゲーム』の攻略サイトが存在していたとしたら、運営が相当疎ましく思うこと間違いなしだ。まぁこのチャート作るためには
”攻略チャートと、対象モンスターの一覧が一緒に乗っているのが見やすくていいね”
注釈とかもしっかり書き込まれているにも関わらず、図としてはすっきりとしていてとても見やすくまとめられている。
……この二人、将来どんな仕事に就いてもそつなくどころか平均以上にこなしそうだ。
頭いい人間にありがちな『他人に教えるのが苦手』ということもなさそうだし、教師とかもできそうだ。
おっと、全く別のことに考えが向いてしまった。
”…………改めて一覧を見てみると、共通点が見えてくるね”
「ん。わかりやすい」
ピッピから話を聞いた時には量に圧倒されて頭が回らなかったけど、こうして冷静に一覧化して見れば色々と共通点……というか『仕様』が見えてくる。
まず、メギストンたちの特徴としては『二つ名持ち』だということが挙げられる。
『二つ名』というのは、例えば私たちにとって因縁のあるテュランスネイルだと『荒野の暴君』というものがある。メギストンには含まれていないけど、グラーズヘイムの『嵐の支配者』やムスペルヘイムの『炎獄の竜帝』なんかもそうだ。
似たようなのでヴォルガノフの『雷精竜』とかは、二つ名ではなく『種族名』になる。
ともあれ、メギストンはそうした二つ名を全て持っているのだ。
「二つ名持ち……でも、その中でも二種類ある」
”そうなんだ?”
「……どうやらラビさんには一から教えないとダメみたいだ……」
えぇ……? なに? 私、なにか地雷踏んだ?
「パッと見た感じだと、最初から二つ名があるのと、普段は持っていない『特殊個体』がいる」
スパルタ教育されると震え上がったけど、どうやら説明してくれるみたいだ。
んで、ありすの説明によると『二つ名持ち』といいつつ二種類あるようだ。
一つは、先に挙げたテュランスネイルのような、『モンスターそのものに二つ名がある』タイプ。
もう一つは、同じくヴォルガノフのような通常二つ名のないモンスターなのに『ある特定の個体にのみ二つ名がつく』タイプである。
後者の方を『特殊個体』とありすは言っている――確かにドラゴンハンターにもそんな感じのモンスターがいた覚えがある。見た目はいつものモンスターの色違いなのに、行動パターンとかも全然変わってて滅茶苦茶強い奴がいるんだよね……。
わかりやすく言うと、おなじみの既存モンスターの『超強化版』みたいな感じかな。
”だねぇ……火龍やらの特殊個体っぽいのが混じってるしねぇ”
比率としては半々ってところかな。
見覚えのないモンスターも混じっているので確実には言えないけど……。
この『特殊個体』系が結構めんどくさいヤツなんだよね。
ピッピ曰く、こいつらの出現条件が同種モンスターの累計討伐数だったりするんだよね。弱いモンスターならいいんだけど、そこそこ強めのモンスターの特殊個体だと結構大変だ。
「んー……討伐数が必要なのがめんどくさい……」
ありすも同意見のようだ。
何よりも討伐数が必要ということは、それだけ多くのクエストに挑まなければならないのだ。
一体ずつ倒すのはいいんだけど、
……今の私たちにとって一番の敵は『時間』だ。
残り一か月半しか時間が残ってない以上、前座であるメギストンに時間をかけるわけにはいかないのだ。
”後は『運』が絡むやつがいるのもね……”
もっと厄介なのは、マジで『運』が良くないと出会えない――つまり『運』のみが条件となるモンスターが混じっていることだ。
ランダムというわけだ。本当に運に見放されたらどうにもならない系のモンスターは……マジでどうしようもないかもしれない。もしかしたら確定する条件があるのかもしれないけど……これはピッピに聞くか、それともトンコツの方でもクエストをチェックしてもらって出てきていたら一緒に参加させてもらうか等するしかないかもしれない。協力不可なクエストだとダメだけど……。
「時間限定もある……んー、わたしが参加できない……」
”ありすだけじゃないけど、全員で参加できないやつもいそうだね”
もう一つ、『時間限定』で出てくるモンスターもいるのだ。
しかも平日の朝・昼・夜限定だったりもするので、かなり厳しい。特に平日の昼間は実質
朝も朝で結構厳しい。早めに起きる必要がある……生活リズムとかもあるし、あんまり早朝にありすたちを起こしたくないんだよなぁ。滅茶苦茶寒い時期だし。
だから時間限定系については、本当に楓たちのチャートが役に立つ。無駄なく、できるかぎり皆に負担をかけず、一発で終わらせたいところだ。
”まぁチャートをどうやって攻略していくかは皆で相談しよう”
「ん」
私たちだけで考える必要はない。
今回はマイルームに集まるのではなく、手元のチャートを見ながら遠隔通話での会話だ。
遠隔通話なら現実世界で親とかに声をかけられても即対応できるし、怪しまれることもないから安心だしね。
時間が惜しい、というのはあるけどだからと言って闇雲に突進するだけだと余計に時間がかかってしまうかもしれない。
だから今日のところは相談だけで終わらせるつもりだ。その分、しっかりと相談するつもりだけど。
纏めると、大体以下のような感じだ。
最初から『二つ名』を持っているモンスター……テュランスネイルみたいな、強力なモンスターが多い印象だ。
普通のモンスターなんだけど、特殊個体が存在しているもの。
大きく分けてこの2つ。
そして、出現条件としては以下か。
通常のクエストにランダムで出てくるパターン……これは若干運が絡むけど、あんまり悩まなくても済む。
特定の条件を満たした場合に出てくるパターン……特定モンスターの討伐数が絡むのが多いかな。かなり面倒な手順――指定のモンスターを順番に倒すとか――があるモンスターもこのパターンだ。
ある時間帯のみに出てくるパターン……時間の都合さえつけられれば、確定で挑めるっぽいのでその意味では楽だと思う。
最後は完全に『運』頼みのパターンがある。これは正直どうすればいいのか見当もつかない、困ったやつだ。幸いなのはピッピ情報によれば2体しか対象がいないってことか。
『……運絡みは何とかなると思います』
『”へぇ?”』
遠隔通話会議を始めて、上記のパターンについて最初にまとめたんだけど、私の一番の懸念についてあやめがそう言ってくれた。
『桃香がいますので』
『”! ああ、そういうことか”』
『?? わたくしですか?』
本人に自覚なしなのか……。
それはともかく、ありすと雪彦君も『ああ、確かに』と納得してしまっていた。
桃香の異様な幸運頼りになってしまうが、確かにあやめの言う通りかもしれない。
……流石に一発で出てくるとは限らないけど、どっちにしても私たちから能動的に動けるものでもないので桃香の運頼みにして放置しておこう。
『よくわからないけど……運が絡まないものを一つずつ潰すという感じかな?』
『”だね。確実にいけるやつを潰していこう”』
チャートでも運絡みのやつは基本的には他と線が繋がっておらず独立しているしね。
なので、倒す順が決まっているものと、時間帯制限があるやつを優先的にこなしていき、合間合間に討伐数を稼いで条件を満たす……という感じになりそうだ。
『おっけーにゃー。んじゃー、時間制限付きについてが一番考えないといけないかにゃ?』
『だなー。夜遅い系は、俺らでやるとして……』
『昼間は私が空いているので受け持ちましょう。朝も大丈夫です』
……メインとなるのがあやめになりそうだな、これは。彼女、朝も早いし夜も普段はそこそこ遅くまで起きているので、特に無理はないようだ。
かといってソロで挑むのは何があるかわからないので、他の子も何人か担当してもらう必要はあるかな。
『なっちゃんもー!』
『”……う、うん……そうだね……”』
……何気に一番の課題は昼限定モンスターかもしれない。なにせ、あやめとなっちゃんしかまともに参加できないわけだし。
『うーん、昼休みの時間帯なら、私とハナちゃん、後バン君で何とかなるかもしれない』
『俺ら三人で眠りこけるのも拙いから、お前らのうちどっちかと俺かな』
『むー……んじゃ、あたしが残っていざという時に備えるしかないかにゃー……』
とまぁ皆の中で話が進んで行く。
……いや、ほんと頼りになるわ。
時間制限クエストに関しては、申し訳ないけど年長者組に色々と負担をかけることになってしまうけど頼らせてもらうしかない。
『んー、じゃあわたしたちはその分、数こなす』
『ですわね』
『僕もがんばるよ!』
小学生ズは年長者組に比べて夕方以降の自由時間が多めだ。
ある意味で一番大変なのは『討伐数稼ぎ』だし、長めの自由時間を使ってそれを稼いでいくって感じかな。
『”それで、週末に大物に挑んでいく……って感じかな”』
ある程度はモンスターの強さについてもわかっている。
レベル8以上の強敵モンスターは、流石に少人数では挑みたくない。最低でも4人揃って挑みたいところだ――まぁ他の使い魔で4人フルに持っているのって稀な方だと思うし、4人以上必要なくらい強いモンスターでないといいけど……。
『「三界の覇王」も週末……?』
『”かなぁ……ラスボスも合わせて、腰を落ち着けてやりたいかな”』
『ふむ……であれば私に考えがありますので、お待ちください』
私たちの言葉にあやめが意味深に返してくる。
……そっか、場所の提供とかならあやめに任せた方が良さそうだな。まぁどうしようもなかったら、各自の部屋で布団に入って……って感じかな。
『”わかった、よろしく頼むよ、あやめ。まぁまだ先の話だし、急がないで大丈夫”』
『承知しました』
ふーむ、自分で言っててなんだけど、どのくらい先になるか見通しは立ってないんだよね……。
できれば来月の半ば、ありすたちの終業式前には決着をつけたいところだけど……。
『チャート通りに躓かないで進められれば、来月の頭には「三界の覇王」の出現条件は満たせると思う」
『運絡みのとこさえ上手く抜ければ問題ないにゃー』
だといいけど……。
そんな感じで私たちは遠隔通話で話し合い、今後の方針についておおよそのところは決めることができた。
で、早速今夜の時間限定クエストに挑むということになり、あやめ、千夏君、楓、椛にお願いすることに。
まずは夜限定のクエストを早めに終わらせて、朝限定はまた次週とかかな。夜遅く起きて翌朝も早い、とかは辛いしね……。
あやめたちには明日から昼限定クエストにも挑戦してもらうことになる。
結構負担が重いけど、全員快諾してくれた。
むしろありすたちの方が出番が減るので不満を漏らしていたくらいだ――その分、夕方には小学生ズに頑張ってもらうことになるので、それで我慢してもらいたい……。
『”よし、大体方針は決まったね。
メギストン残り26体――がんばって倒していこう!”』
……最後に一つ、メギストンの残りの数についてだ。
私たちが今まで倒してきたモンスターの中に、メギストンに含まれているものが何体かいた。
ここがちょっと悩ましいところなんだけど、『私のチーム』で倒したものはいいとして、『ピッピのチーム』で倒したものが果たして引き継がれているか? という問題があった。
楓たちユニットやピッピの持っていたアイテムが引き継がれたことを考えれば、討伐モンスターも引き継がれているとは思う――モンスター図鑑も引き継がれていたし――けど、確証が全く持てない。
なので、『ピッピチーム』で倒したものはチャートの後ろ側へと置いておくことにした。
倒したことになっているのであれば、チャートの途中で『三界の覇王』が出てくるだろうし、倒したことになっていないのであれば改めて倒しにいくまでだ。
というわけで、私のチームが倒した分のみを一旦カウントして――メギストンは残り26体となっている。
テュランスネイル、テスカトリポカ、アドラメレク、ディノクリスタスなんかも実はメギストンの一員だった。他にも何体かは倒していたし、最初に思っていたよりは数は減ったけど……それでも20体は結構多い。
できるだけ急いだ方がいいだろうということに変わりはない。
『んじゃ、夜組はまた後で集合っすね』
『うん。準備は済ませておく』
夜限定クエストは、どうやら22時以降に出現するらしい。
なので、年長組と私はその時間帯に再度集合してクエストに行くことになる。
あんまり長丁場にしたくはないけど、それまでにお風呂やら済ませてもう寝るってくらいまで準備を済ませておいた方が良いだろう。千夏君も塾のある日はちょっと忙しなくなるかもしれないけど……。
残り26体――私たちの最後の戦いへ向けての活動は、ちょっとだけ慌ただしくなるのであった。
でもまぁ……クラウザーやマサクルを相手に色々やっていた時に比べれば、時間制限こそあるものの多少は気は楽かな。
『ゲーム』をゲームとして楽しめる、そんな当たり前のことを私は密かに心の中で感謝するのであった……。
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