第9.5章 進撃少女 -Go ahead, make my day-

第9.5章1話 性能評価試験 ~ルナホーク編

 翌月曜夕方――

 ありすたちも学校へと行って、特に何事もなく帰宅。

 近くに『眠り病』患者がいなかったため直接様子を見たわけではないみたいだが、どうやら退院した『眠り病』患者はもう今日には学校に来ていたそうだ。

 ……うーん、これはやっぱり……ジュウベェだった少女の時と同じ、かな……。

 とりあえずこの件に関しては皆も首を傾げてはいたものの私から説明できることもなく、当分の間は『謎』のままあるいは『ゲームの方で誤魔化してくれた』という風にしておくしかない。




 それはともかくとして、今日は色々とやることがある。


”えーっと、チャートは明日?”

「うん。今晩中に印刷して明日皆に渡せるようにしておく」


 流石に33体分のチャートを作るのには苦労したみたいだ……。


”ありがとう。……その、徹夜とかはしないでね?”

「にゃはは、そこは大丈夫にゃー」


 まぁ寝不足な感じはしないし、信じるしかないか。


「ん、じゃあ今日はどうするの?」

「お姉さまたちのチャート? が完成するまではいつも通りでしょうか?」


 そこについては考えがある。


”そうだね……33体の特殊モンスターにちゃんと挑むのはチャート完成してからにしようと思う。まぁ先に覚えている範囲から挑戦していってもいいんだけど、間違えて無駄足踏みたくないしね。

 で、今日は――まずはあやめ”

「はい、ラビ様」

”今日のメインはルナホークの能力の確認と、ガブリエラたちが加わった時と同じくチーム内での相性確認だね”


 私たちのチーム恒例の性能確認だ。

 後は、8人になったことでまた色々と各ユニットの相性の確認も行う。

 ……まぁルナホークについては結構アストラエアの世界でも戦ってて、私自身もスカウターで能力を全部見ていたので大体は知っていると思っていいんだけど、例によってスペックが当てにならないことも多いしね。

 特にユニット同士の相性については実際に動いてみないとわかりづらい面が多い。


”それと、時間に余裕がありそうだったら――改めて皆のレベルアップをしようかなって思ってる”

「お、そういやクエストの報酬入ったんでしたっけ」

「……すっかり忘れてたね……」


 私もほとんど忘れかけてたんだよね……ピッピから言われて思い出したくらいだ。


「んー、どのくらいもらえたの?」

”ふふふ……”


 クエスト終了→すぐに『未来への道』を受領していたためその場で驚くことができなかったんだけど、本当はその場で叫びそうになったのだ。

 もちろん、即新しいクエストに行くこと優先で堪えたけど。

 ともあれ、私たちは無事に『救援要請』のクリア報酬を受け取れていた。


”なんと――334万ジェムももらえたよ!”

「……おー……!」

「おー!」


 流石にありすも驚いたみたいだ。なっちゃんはよくわからないけど『えいえいおー』としている。かわゆい。


「……なに、その……34万の端数……?」

「34万は端数じゃないと思うけどにゃ……」


 うん、まぁ確かに私もこれはわからなかった。

 ピッピが『色付ける』って言ってたし、300万が基本報酬で34万は追加報酬ってことなのかなって納得しておくことにした。


”元からあった分とこの報酬で一通りレベルアップしておきたい。もちろん、減っちゃったアイテムの補充もするけど”


 アイテム補充をある程度してからレベルアップ、余ったら貯金分を残して更なるアイテム補充を追加で、かな。

 回復アイテムと『ポータブルゲート』は先にある程度確保しておかないと怖いしね。

 レベルアップについては、アリスはまぁもうどうしようもなさそうだけど、他の子はまだまだ伸びる余地がある――ルナホークもある程度は育っているけど、当然こちらも伸びるはず。

 ラスボス目指していく以上戦力の強化は必須だ。33体はまだ何とかなりそうだけど、『三界の覇王』はラスボス相当の強敵と思っておいた方がいいだろう。


「ふむ……差し出がましいかもしれませんが、ラビ様」

”うん、なに?”

「レベルアップについては、週末に皆さま揃って時間の余裕のある時でよろしいのではないでしょうか?」


 あやめの提案は確かにそうかもしれない。

 どうせ今週中に『三界の覇王』に挑むことは無理だろうし、33体は今のまま挑んでいってどうしようもなさそうならそこでレベルアップ……という方がいいかもしれない。


”なるほど、確かにそうだね。

 じゃああやめの言う通りレベルアップは週末にして、なんか危なそうならその場で考えるってことにしよう”

「ん。じゃあ今日はあや姉の能力確認?」

”そうだね”


 アイテムについては私が一人でも買えるし、レベルアップもちょこちょことモンスターを倒して稼いでからの方がいいかもしれないしね。


”ごめん、回り道しちゃったね。

 それじゃあクエストに挑もうか”


 いつも通り、中くらいの難易度――敵が弱すぎず、強すぎずなクエストに何度か挑み、ルナホークの性能把握と皆との相性確認を行うことにし、私たちはクエストへと挑んでいく――




*  *  *  *  *




 さて、何度かクエストに挑んでわかったことは――


”ルナホークもアリスと同じく、どの距離でも戦える感じだね”


 強力な遠距離砲撃が印象深いが、実際には近接戦もできる。

 ……というより、あやめ自身の能力を活かせるのは近接戦の方と言えるかもしれない。

 まぁどっちかに絞る必要もない。

 これまたアリス同様に、状況に応じて臨機応変に対応してもらうのが一番いいだろう。

 『ゲーム』の経験は浅くとも、あやめは現実世界でも様々な経験をしている。咄嗟の判断とかはきっと『ゲーム』にも適用できるだろう。


「それじゃあ鷹月さんはあーちゃんと同じ配置でいいかな?」

”だね”


 私たちが一番欲しかった『後方からの援護射撃の専門家』ではないけど、同等の活躍は見込めるし何よりも近接戦もできるというのは本当にありがたい。

 大型モンスターとか相手なら遠距離攻撃が有効になることは多いとは思うが、小型とかユニット相手だとどうしても近接戦をするケースが多くなるしね……後は比較的狭い場所での戦いとかも考えると、遠距離オンリーだと戦いづらい場面が出てくるだろう。

 よって配置は、アリスと同じく中間あたり。ただ、本人の希望でヴィヴィアンと私の護衛を重視したいということでやや後ろ寄り……という感じに落ち着いた。

 まぁバランスとしてはちょうどいい感じだろう。特に装着している『ギア』によって、ガブリエラたちみたいに魔法を個別に使わずとも空を飛べるというのが利点だ。


 彼女の魔法――兵装転換魔法コンバートについてちょっとおさらいしておこう。

 コンバートは、『ギア』『モジュール』『デバイス』を自在に切り替える魔法だ。

 ギアはルナホークの両手足、および身体を覆うパーツ。

 モジュールは銃や剣などの武器。

 デバイスは、ギアとモジュールを特定の目的に沿ったセット……という感じだ。アリスのextやclに近いものと考えて良いだろう。


 で、重要なのはギアとモジュールの組み合わせは自由にできるという点だ。

 飛行能力を持ったギアを装着し、近距離用のモジュールを装備して『飛行しながら剣を振るう』ということもできるし、防御重視のギアにして遠距離用のモジュールを沢山装備して固定砲台化することもできる。

 デバイスを切り換えつつ、追加でモジュールを装備することだってできる。

 コンバートのいいところは、魔法使用時には魔力を消費するけど、一部の兵装を除いて以降は魔力消費なしで攻撃も移動もできるというところだ。

 火力だって高い。

 ……本人的には黒歴史かもしれないけど、『封印神殿』を一人で吹っ飛ばすくらいできてしまうのだ。素でアリス並の火力を出せるというのは凄まじいと思う。


 敢えて欠点を挙げるとするならば、コンバートを使用してから新しいデバイス等に切り替える際に少し隙ができてしまう、ということくらいか。

 そんなに長時間かかるわけではないが、一瞬を争うような戦いの時にはもしかしたら致命的なことになるかもしれない。

 まぁその辺はあやめもわかっているだろうし、戦闘の判断は優れているだろうから私が心配しても仕方のないことかもしれないね。


「うーん、あやめちゃんの魔法にはあたしの能力は使えないのが残念だにゃー」


 ああ、他にも欠点があった。

 椛の言う通りで、洗練魔法ブラッシュによる強化も【贋作者カウンターフェイター】も無効だったのだ。まぁ【贋作者】については予想はしていたけど。

 それと、これはナイア戦での経験から実験したものなんだけど……。


「あとは、ガブリエラのリュニオンも難しいみたい」

「うゅ……めーたん……」

「まぁ仕方ねーんじゃねーのか」


 残念そうななっちゃん。

 そう、ナイア戦の時に使った『切り札』――仲間同士のリュニオンを試してみたのだが、ルナホークの場合は『ガブリエラとのリュニオン』しかできないようなのだ。

 なっちゃんがうまい具合に説明できないが、そこは楓たちが補足してくれた。

 どうもリュニオンをする場合、メインとなるユニットの『キャパシティ』が重要になってくるらしい。

 各ユニットのキャパシティは大体『3』くらい、ウリエラ・サリエラが『2』くらいとのことだ。

 リュニオンする際に、小型サイズのウリエラ・サリエラが『0.5』だとしたらアリスたちは『1』キャパシティを消費するとする。

 アリス+ガブリエラの時点で既に『2』消費しているので、後は誰か一人かウリエラ・サリエラとのリュニオンができるということになる。

 ところが、ルナホークはどうやらこの消費するキャパシティが『2』くらいあるそうだ。

 なので、ルナホーク+ガブリエラのみしかリュニオンできない。


”まぁ千夏君の言う通り、アレはもう本当に『最後の切り札』だし頼りにしすぎちゃうのもね……”


 使えば大概の相手をぶっ飛ばせるだろう強さだけど、アレはあれでデメリットも大きい。

 回復ができない、こちらの手数が実質減ってしまう……というのが割と痛い点だ。


「アレは……そうですわねぇ。使いどころは実は結構難しいかもしれませんわね」

”うん。特に桃香ヴィヴィアンは魔力回復ができないってのが結構致命的だしね”


 アイテムでの回復ができなくなってしまう以上、ヴィヴィアンは実はリュニオンとは相性が良くない。

 ……まぁこれもナイアの【支配者ルーラー】みたいなとんでも能力でもない限り、都度リュニオン解除して回復……で解決可能かもしれないが、さっきのルナホークの時に考えたように一瞬を争う戦いの最中には危ないかもしれない。


「んー……アレはあんまり使いたくない」

「ですわねぇ……」

「するにしても、ありんことはゴメンだな……」

「あはは……強いことは強いんだけどね……」


 ……覚悟の上とは言え、ナイア戦でのリュニオンはかなり堪えたらしい。精魂尽き果ててたしね、皆……。


「それに、ナデシコが遊べない」

「う? なっちゃんも遊びたい!」

「ん」


 ガブリエラをメインにしない場合、そういう見方もあるか。なっちゃん本人も暴れん坊さんだからねぇ……。




 っと、話がズレたけど――

 ともかく、ルナホークはどちらかというと単騎での戦いに優れたユニットであると言えよう。

 良く言えば『単独で完成されたユニット』だ。

 もちろんだからと言ってチームプレイができないというわけではない。彼女がメインになって戦ってもいいし、他の仲間のサポートとして立ち回ることもできる。

 ……うん、やっぱり万能型だな。うちのユニット、そういう子多いけどルナホークは特にそうだと言えると思う。


 ちなみにルナホークのステータスは、実は結構低めだ。

 突出したステータスはなく、全体的に平均的――強いて言うなら体力はちょっと高めなくらいだ。とはいっても体力お化けヴィヴィアンとは比べるべくもない。

 意外に低いとは思うが、これは各種ギアの性能を除いた素のステータスのせいらしい。ギアをコンバートすると、その分だけステータスが増えているのは確認した。

 ギアでの補正を前提としているため、低めのステータスということなんだろう。

 もう一つ、意外と魔力は高くない。これはコンバートの消費自体はともかくとして、一度装着した兵装を使う分には基本的には魔力を消費しないためだと思う。

 マサクルがどこまで育成したのかよくわかってないし、これはレベルアップするときにでもまた確認しよう。何ならルナホークだけ個別で先に上げてもいいかもしれない。




 で、もう一つ。

 対戦を想定したチーム分けだけど、これは今まで通り。

 Aチーム……アリス・ヴィヴィアン・ジュリエッタ

 Gチーム……ガブリエラ・ウリエラ・サリエラ

 クロエラとルナホークは適宜両方のチームに加わるって感じだ。前にも言ったけど、この組み合わせ自体が絶対というわけではないけどね。

 ……ガブリエラがなぁ、もう少しウリエラたち以外の言うこと聞いてチームプレイができるようになれば、もう少し自由に編成組めるようになるんだけどなぁ……ま、これは言っても仕方ないか。




 さて、そんなこんなでルナホークについては大体皆わかったかな。


”それじゃ、今日は――”

「ん、最後に大物狩っておく」


 …………助けを求めるように楓たちへと視線を向けるが、


「……そうだね、8人での全力も確認しておきたいかな」

「お、ちょうどいい感じに33体のうちの1体のクエストがあるにゃー」

「んじゃー、最後にそれ行くか」

「ぼ、僕も大丈夫だよ!」

「あやめお姉ちゃん、時間は大丈夫だよね?」

「ええ、後一戦くらいなら問題ないでしょう」

「なっちゃんもやるー!」


 ……全員揃って戦意十分なようだ。


”……わかった。じゃあ行こうか”


 時間的には皆そろそろ……って感じだけど、椛の言う『33体のうちの1体』がいるってのは見逃せない。

 いきなりチャート無視になっちゃうけど、倒せる時に倒しておいた方が結果的にいいのには違いない。チャートだって倒した奴は除いていけばいいだけだしね。




 というわけで、本日最後のクエストへと私たちは挑み――




 ――やはりと言うべきか、8人の全力であっさりとクリアしたのであった。


”……前にも思ったけど、やっぱり数の暴力は脅威だね……”


 ナイア戦で嫌というほど思い知らされたけど、自分たちでやるとなると……何というか相手の方が可哀想に思えてきてしまう。

 今回のモンスターもレベル8というかなりの高レベルだったけど、本当に『余裕の勝利』で終わったのだった。

 うーむ……『三界の覇王』とかもこのくらいなら問題ないんだけどねぇ……きっとそんなことはないんだろうし、戦いは避けられないのはわかってるけど慎重に立ち回った方が良さそうだ。


「これなら、やっぱりある程度分散してチャート潰していく方がいいかも」

「相手の強さによりけりだけどにゃー……」

”事前にわからないからねぇ……”


 実際に戦ってみないと強さがわからないモンスターの方が多いしねぇ。

 クエスト名見ても33体が出てくるかどうかわからないこともあるし、分散はちょっとリスクがあるから躊躇われる。ユニットだけで挑んでいざ撤退した後に、二度と挑めなくなるってのは怖いしね。


”ま、とにかく今日はここまでだね”


 微妙に物足りなさそうな暴れん坊ズありすとなっちゃんだけど、反論はなかった。

 いや、まぁ反論してもダメなもんはダメだって言うけど。

 私の言葉にお姉ちゃんズは即オーケー。暴れ出す前になっちゃんを抱きかかえて撤収準備に入る。


「じゃあ、さっき話した通り明日チャート配るから」

「各自でチェックしつつ、遠隔通話でやり取りして今後の方針を決めるにゃ」

”うん、それでいこう”


 明日からはチャートを元に攻略に取り組んでいくことになる。

 ちょっと記憶が曖昧なところとか、モンスターの情報を得たい時はピッピに会いにいけばいいかな。なっちゃんもピッピに会いたいだろうし。

 ……と思ってたら、


「ラビ様」

”…………”


 あやめから目で訴えかけられた。

 ……そうだった。次の週末までのんびりもしてられないか。


”わかったよ……昼間は暇だしね”

「助かります。私もこの一週間は昼間に家にいるようにしますので」


 修羅場は続くなぁ……いや、いいけどさ。




 とまぁそんな感じで、私たちの新たな挑戦は始まりを迎えたのであった。

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