第9章74話 エピローグ ~未来へ -3-
「本当にありがとう、ラビ……あなたたちのおかげで、私の世界は守り切ることが出来たわ……」
”ピッピ……”
巻き込まれた面もないわけではないが、結局のところ私たちの目的――あやめの救出のために、結局は奴とは戦う必要があったのだ。
言葉は悪いけど、あくまでもこの世界を救ったのは『結果的に』そうなったというだけの話だ。
……まぁ正直なところ、もう何度もお礼を言われてしまっているのでこれ以上は勘弁して欲しいという思いもあるんだけど。
私の思っていることは分かっているのだろう、それでも、とピッピは続ける。
「いくらお礼を言っても足りないくらいよ」
”う、うーん……でもさ、結局あちこち被害は出ちゃったわけだし……”
この世界にとっては完全勝利、とはとても言い難い結果だと思う。
私たちにとってはもちろん完全勝利と言える結果ではあったが。
……流石に『この世界がどうなっても構わない』と言えるほど、冷徹に切り捨てることはできないな……それもこれも、私たち自身の目的が無事達成できたからこその話だが。
「きゅぅ~……被害は確かにあるけど、それはあなたたちが気に病むことではないでしょう?
……建物の被害はそれなりだったけど、人的被害は最小限で済んだし、あなたたちがいなければもっと大変なことになっていたのだから」
そう、意外と人的被害は少なく済んだんだよね。
エル・アストラエアは二度の襲撃を受けたけど、一度目は避難所へと素早く逃げ込むことができたし、二度目はゾンビ化はしたものの残らず治療はできた。
その後はピッピがどこかに逃がしたみたいだったので、街自体が崩壊した割には死者は私の知る限りいないようなのだ――怪我人は流石に結構出たみたいだけど……。
「200年の被害は――正直取り戻しようもないわ。死者の蘇生も考えたけれど……」
……そういや、できるって言ってたっけ……。
「もう既にこの世界の『歴史』は進んで行っている……私がそれを否定することはできないわ」
”うん……”
失われた命が返ってくる――家族や友人、大切な人を失った者にとっては夢のような話ではあるが、ピッピならばできてしまうのだ。
でも、『夢』は夢だ。
現実は過去を置き去りにして未来へと向かっている。
ここでピッピが『神』として全てを元通りにしてしまうということは、今を生きている人たち――ブランたちやトッタたちの現在を否定することに他ならない。ピッピはそう言っているのだ。
……ピッピが『そういうことができる』と他の人は知らないわけだし、責められることはないだろう。
何が正解なのか、あまりに現実を超越しすぎていて私にはわからない。ピッピにだってわからないはずだ。
でも彼女がそう決断したのであれば、私には否はない。言える義理もない。
”……そういえば、『
私たちにとってこの2国については他人事ではない。
「きゅ、まだ私が……というより『ゲーム』側で保護した状態ね。『ゲーム』終了までは状況は変わらないけど、終了後どうするかは……悩みどころね」
……既に10年が経過している。
その状態でいきなり『炎』『天』の住人たちを呼び戻したとしても、大混乱が起こるだけだろう。
「まぁそのことについては先の話だし、前にも言ったけどあなたが気にする必要はないわ」
”……わかった”
この件についてはこれ以上突っ込んでも進展はないか。
気にならないと言えばウソにはなるけど、どっちにしても私の側からできることも言えることもない。ピッピの言葉に甘えさせてもらうとしよう。
「この世界の復興は、さっきもブランが言ったけど私たち――この世界の人間の手でやっていくわ。それが、歴史というものでしょう」
”……そうだね。どうしても無理そうなところはまだ手伝うつもりだけど”
エル・アストラエアの復興を見る限り、多分出番はないかなって気はする。
敢えて言うなら、プラムの魔法で荒地だったりに植物を植えるというのがあるけど、まぁ私のユニットじゃないしね……。
「きゅふっ、どうしようもないくらい強いモンスターがいたりしたら、またクエストを発行させてもらいましょうか」
”だね”
私たちにできるのは、後はそんなくらいしかないか。
もっとも、ルージュたちが今も世界中を巡っていてそういったモンスターに遭遇していないらしいし、多分大丈夫だとは思うけど。
”……そっか、やっぱりゼウスか……”
その後、私たちはピッピの『死』後の話、そしてナイアとの最終決戦のことについての話をしていた。
私からはよくわからない動きを裏でしていたっぽいしね。
で、それによればピッピは裏でゼウスと『取引』をして、協力をしてもらっていたとのことだ。
流れとしては大体こんな感じだ。
まずピッピは肉体と生命をブランへと譲り、生き返らせた。
『アストラエアの力』の一部を扱えるブランはそのまま戦場へと赴き、ガブリエラたちを助け空中要塞へ。
肉体を失ったピッピもまた空中要塞へと行き、『キューの抜け殻』を新しい身体として利用させてもらうことにしたのだとか。
そして、
ゼウスの方の詳しい動きはわからないけど、結果を見ると何となく想像できる。
トンコツたち――『私の知り合い』に声を掛けて緊急クエストに召集、ユニットの子たちも強制的にクエストに連れて行った……という感じだろうか。皆が皆、夜中中待機していたわけではないだろうしね。
”……うーん……”
「きゅぅ~……悩ましいところよね……」
私が何を悩んでいるのか、ピッピもわかっているのだろう。
以前に話した時の懸念が現実味を帯びてきてしまっている。
”ゼウスが管理者として介入してきただけ、だとしてもちょっと怖いんだけど――”
「……多分、使い魔として紛れ込んでいると思った方がいいでしょうね」
だよねぇ。
『確定』とまでは言いきれないけど、可能性としてはかなり高いと思う。
『ゲーム』を滅茶苦茶にしかねないヘパイストスを、『ゲーム』のルールに則って排除するために自ら手を下すつもりだった……んではないかとは思うんだけど……。
私たちを助けに来てくれた使い魔は5人。
……この5人の中にゼウスがいるとはちょっと思えないし思いたくない。
「あなたと共に戦った使い魔の中にゼウスはいないわ。それは確定」
”そうなんだ?”
「きゅ。
ふむ、ここはまぁピッピの言うことを信じるしかないかな。
「……あなたたちの戦いに加わらなかったけど、もう一人使い魔が参加したことは私の方で確認しているわ」
”そいつがゼウス……の可能性が高い、か”
加勢してくれなかったことについては別に文句はないけど、何か『別の目的』がありそのために私たちの戦いを口実にした――という可能性はある。
……もう一人の使い魔は限りなく怪しいが、だからと言ってゼウスであるとも言い切れない。
”うーん、もう一人怪しいのがいるんだよね”
「? それは?」
”
どちらかと言うと、私はこっちの方がゼウスなんじゃないかって気がしている。
なにせ最初から私たちと同じクエストに挑んでいたのだ。これが本当に偶然である――とは私には思えない。
……本当の本当に偶然オルゴールが単独でクエストに参加して、状況を見て仲間のケイオス・ロアたちを呼び出して……という可能性はゼロではないけど、ぶっちゃけその可能性は低いんじゃないだろうか。
ただ、どっちにも言えることだけど『怪しい動きはしているが証拠はない』状態だ。
”何とも言えないね……極端な話、今回の件に全く絡んでない使い魔がゼウスで、管理者として介入してきただけって可能性もありえるし”
「きゅー……そうねぇ……」
何にせよ、ゼウスが本格的に『ゲーム』に介入した、という事実だけは確定だ。
”警戒のしようもないけど、前にピッピと話した内容を考えると――これから先ゼウスからの妨害があるかもしれないとは頭に入れておく”
「そうね、それしかないわね……」
備えられるなら備えたいけど、相手は『ゲーム』の管理者なのだ。
下手に備えようとしてもあっさりと見抜かれてしまうのがオチだろう。そのせいで余計に目をつけられて、私が『イレギュラー』として強制排除される、なんてなったら目も当てられない。
ヘパイストスについては一応は『正式な参加者』ではあったから、あくまでも『ゲーム』のシステムに則って排除しようとしていたみたいだけど……私については強制排除の可能性は捨てきれないのだ。
……頭に入れておくだけして、対策は現状不可。
……まぁ、目を付けられないように注意しておくくらいかなぁ……『ゲーム』のクリアが近づくにつれて嫌でも目を付けられそうではあるけど……マジで何もやれることないしね……。
さて、とりあえず『今回の件』については一通り終わったかな?
ここからがある意味本題だ。
”でさ、ピッピ――こんなこと言うのもアレなんだけど、『報酬』についてなんだけど……”
「もちろん忘れてないわ。迷惑をかけちゃった分、色付けるわよ♪」
いやっほぅ!
”ありがとう。ありがたく受け取らせてもらうよ。
で、報酬としては――まずは『ゲームの勝利条件』についてだね”
これはジュウベェ戦前にピッピから提示された報酬だ。
ありすは当時『いらない』とは言ってたけど、ピッピ曰く『時間がない』そうだしもらっておいた方が良い、と私は思っている。
……これは『ゲーム』の勝利時に与えられる賞品にかかっている。
ぶっちゃけ『ゲームの運営権』は私はいらないけど、副賞の方はどうしてもこちらで確保したい。そのためにも『勝利条件』は知っておかないと。
「ええ、それに加えて――『あーちゃんについて』『ゼウスの動きについて』『プロメテウス様について』……かしらね。これらはちょっとすぐに回答できるとは限らないけど……」
”うん。できれば、で大丈夫。その中で最優先は――ゼウス関連かな、やっぱり”
ピッピがその場で即答できるものであれば良いけど、これらについては調べてもらわないとダメだろう。
……調べるにしても、ピッピ的にはこの世界の復興と安定が優先される。まぁ情報が私に流れてくれば御の字、くらいに考えておこう。
どれも知りたい情報ではあるんだけど、差し迫った『危機』と言えるのはゼウス関連になる。これを優先してもらいたいかな。もちろん、ピッピが情報を得られるかどうかにかかっているので保証はないのはわかっている。
「ゼウスについては、実は一点気になることがあるわ」
”それは?”
「メルクリウスたち援軍を呼ぶためのゲートを開くことをゼウスと取引した時のことなんだけど……」
……ふむ? ゼウスは色々と警戒すべき対象なのは間違いないけど、彼がピッピと取引してくれなかったら私たちは負けていたんだし……複雑だけどその点は感謝すべきだろう。
それはともかくとして、その取引の際に何かあったのだろうか?
「ゼウスから私出した取引の条件がね、ちょっと不可解なのよ……」
ピッピも意図がわからず戸惑っているみたいだ。キューの姿だとよくわからないけどさ……。
”うーん? まぁゼウスの意図がわからないにしても、一応情報は欲しいかな”
「そうね。どう判断するかは――私も考えるけどあなたに任せるわ。
それで、ゼウスが私に出した条件なんだけど――
……むぅ?
それってつまり……。
”ゼウスの方から、私に『ゲーム』のクリア条件を説明しろって言ってきたってこと……? なんで……?”
「そういうことになるわよね……取引の後、ゼウスから私の把握してなかった条件も教えてもらったし……」
うーん……? ついさっき『ゼウスに目を付けられないように』と思っていたけど、2つの意味でよくわからなくなってきた……。
1つは既にゼウスは私の存在を明確に認識しているということ。
もう1つは、それでもなぜか私がクリアできるように情報をピッピ伝えに与えようとしている……。
これで実はゼウスは物凄くいい人で、私の協力をしてくれている――とかだったらいいんだけど……まぁ楽観するわけにはいくまい。
”……わけがわからないけど、とりあえず頭に入れておくよ。
そのほかに何か情報が掴めたらお願い”
「きゅっ、わかったわ」
全く安心材料にならないし、余計にゼウスについて不信感が募るけど……どっちにしても私から調べることはできないし、ピッピ頼りになってしまうのには変わりないか。
気を取り直して私たちは会話を続ける。
「情報関連の他には、今回のクエストクリア報酬ね。『ポータブルゲート』使ってる限りもらえないでしょう?」
”あー……確かに”
「だから、一旦クリアした後に再度私の方からあなた専用のクエストを開くわ」
おお、それは助かる。
ユニット数もルナホークが加わり8人だ、成長にかかるジェムも半端ない。今回もアイテムいっぱい使っちゃったし、ジェムはいくらあっても困らないくらいだ。
だから一旦『救援要請』はクリアして報酬を受け取り、別のクエストを使ってエル・アストラエアに戻れるようになるのは助かる。マジで。
遊びに来るなり、何か困ったことがあるなり、あるいはピッピが新たな情報を得て私に伝えようとする時なりに使えるだろう。
ゼウスの妨害でクエストへの入り口が塞がられると困るから、これは今日中に時間を調整してやってしまおう。
で、新しいクエストに入ったら、後は『ポータブルゲート』で出入り……かな。
私の提案にピッピはうなずく。
「きゅっ、それでいいと思う。『ポータブルゲート』を展開する場所は、あなたたちがやってきた場所――『英雄門』を使うといいわ」
あそこなら入り口を閉じちゃえば外からは見えないし、急に現れたり消えたりしても不自然にはならな……いや、まぁ不思議現象にはなってしまうか。仕方ないけど。
「勝利条件についてだけど、ちょっと複雑よ?」
”あー……そうだね。メモしても持ち帰れないし、聞かれても構わない話だから楓と椛に同席してもらってからの方がいいかな”
別に全員そろってでもいいけど。
なので、これは新クエストに入ってからということにした。
ピッピとの時間調整をその後行い、一旦私たちの話は終わったのだった……。
ーーーーーーーおまけーーーーーーー
本編中にまとめて明かす機会がおそらくないので、ここで各使い魔の本名纏めて紹介します。
ラビ(猫?)=冠城りょう
ジュジュ(鼠)=ユノー
トンコツ(牛)=メルクリウス
クラウザー(虎)=アレス
プリン(兎)=アルテミス
リュウセイ(龍)=???
ミトラ(蛇)=???
バトー(馬)=クピド
ヨーム(羊)=ハデス
マサクル(猿)=ヘパイストス
ピッピ(鳥)=アストラエア
タマサブロー(犬)=アテナ
ライドウ(猪)=ポセイドン
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