第9章73話 エピローグ ~未来へ -2-
”……あんれまぁ……すっかりと別嬪さんになっちゃって……”
「? どうしちゃったの、使い魔さん?」
おっと、混乱のあまり私の中の田舎の婆ちゃんが顔を出してしまった……。
とまぁ冗談はおいといて――
”いや、びっくりした。本当に綺麗になったね、ブラン”
「ふふふ、ありがとう」
いやぶっちゃけ内心まだほんのわずかだけ別人じゃね? と疑ってはいるんだけど……10年経てば小さな子だって成長するよね……。
……ブランも見た目年齢はともかく実年齢は結構あったと思うんだけど……まぁ突っ込んでも仕方ない。
「さ、ここで立ち話もなんだし、中に入って話しましょう」
”そうだね。皆、お邪魔させてもらおう”
「トッタたちもありがとうね」
にこっと微笑みながら私たちをここまで案内してくれたトッタたちを労うブラン。
「こ、光栄であります! 巫女様!」
……トッタの方は、顔真っ赤にしてら。まぁマジでブラン、美人だしね……。
ともかく、私たちの案内はブランが交代して、そのまま再建された神殿の内部へと進んで行くのであった。
神殿は外から見た通り、前より少し小さくなっているのは間違いない。
ただ、中は前みたいな大きな広間はなくなり、『礼拝堂』っぽい感じの広間となっている。
大部分はバックヤード……というか巫女たちの生活空間になっているみたいだ。
私たちが通されたのは『巫女の間』と言う、いわゆる巫女さんの『執務室』であった。
「
”…………ふぁっ!?”
一体今日何度目の驚きだろう。これ以上驚くことはないと思っていたけど、更なる驚きがそこにはあった。
「おお、久しいな。アストラエアの遣い――否、ラビと呼ぶべきじゃな」
「らびー」
ノワールは……まぁいい。
最後の戦いでケガを負っていたみたいだけど、後遺症も特になく元気そうに見える。
彼女は元から大人の姿だったし、そんなに見た目に変化はない――強いて言うなら、髪をショートカットにしていて、服装も動きやすいアクティブなものにしている。
……こうして見ると、角とかを除けば本当に現実世界にいてもおかしくない女の人にしか見えないな……。
で、問題なのは――
”ノワール、久しぶり!
…………で、その
ノワールが抱っこしている小っちゃな子供だ。
頭に小さな角が生えているのが見えるし、この世界の人間の幼児なのは間違いないだろう。
「ひちゃしぶりー」
”………………えっと、ピッピ……?”
「そうよー」
きゃっきゃとしている幼児……が、どうやらピッピらしい。
……今朝キューの身体で復活しているのを知った時にも驚いたけど、ここでまた幼児の姿になっているとは……。
私の主観だとほんの数時間前の話だけど、こっちの世界からすれば10年の時間が経っているのだ。そのくらいの変化はある……のか?
「まぁ、ピッピ!」
「りえらー」
ガブリエラには相変わらず見た目が変わってもピッピであることはわかるようだ。
ノワールに抱っこされたままのピッピ――いや、さっきブランが『エア』って呼んでたっけ――ときゃっきゃしている。
「積もる話はあろうが、まずは腰を落ち着けよ。どれ、茶を淹れてこようぞ」
「あ、王様。ぼくも手伝うわ」
「よいよい。ブランはエアを頼むぞ」
そう言ってブランにエアを渡すと、いそいそとノワールはお茶の準備を始める。
「はーい。使い魔さんたちも座って座って!」
ニコニコと笑顔を浮かべながらブランもエアを受け取り、私たちを座るように促す。
執務室なだけあって、来客対応用の小さなテーブルとソファがあった。
まぁ立ちっぱなしってもなんだし、お言葉に甘えさせてもらおうかな……。
……で、もう危険も一切ないだろうということでアリスたちも変身を解いてソファに座って、ノワールの淹れてくれたお茶とお菓子を摘まんでいる。
なっちゃんは同い年くらいになったピッピ……いやエアと一緒に部屋の隅で遊んでいる。
楓には悪いけど、しばらくはノワールと一緒になっちゃんたちの面倒を見ていてもらうことになる。
まぁ必要な時には会話に加わってくると思うけど。
「まずは皆にはお礼を言わせて欲しい――本当にありがとう。貴女たちのおかげで、この世界からヘパイストスの脅威は完全になくなり、ラグナ・ジン・バランに怯えることもなくなったわ」
”ヘパイストスについては、私たちも戦う理由があったからね。
……10年経ってるって話だけど、その後は大丈夫だった?”
結果はわかっているが一応聞いておかないとね。
ブランは小さく頷く。
「ええ。まだ全世界を見回ったわけではないけど、心配していたラグナ・ジン・バランの『はぐれ』や他の魔物の影響は特に確認されていないわ。
今もルージュ様とジョーヌ様が各地を巡って調べているけど、これといって問題は起きていないようね」
そっか……それは一安心、かな。
ルージュたちも姿が見えないと思ったら、各地を巡回してくれているのか。彼女たちなら、魔眼でもない限りはどうとでもなるだろうし安心だ。
”それで……街の復興とかは……?”
ここに来るまでに色々と見てきたからわかるが、聞かないわけにはいくまい。
「貴女たちが来るまでの10年間で、エル・アストラエアの復興自体はほぼ終わったわ。でも……」
少しだけ表情を曇らせ、それでもブランは続ける。
「あくまでも貴女たちが来る前までに戻った、という感じでしかない。200年もの間蝕まれた世界はそう簡単に戻らないわ……」
……そりゃそうだ。
私たちが来た時点で、既に『
その他の街まで含めて10年で復興というのは幾らなんでも無理があるだろう。
そちらの復興の手伝いはできるかもしれないが……人口の問題もあるか。
「でも、たった10年でぼくたち――エル・アストラエアの民だけでここまでやれたんだもの。きっと大丈夫よ」
”ブラン……”
言外に『自分たちの力で復興する』という強い意志が含まれているのが感じられるのは、決して私の勘違いではないだろう。
……言葉は悪いけど、私たちもいつまでもこの世界の復興に力を貸し続けられるわけではない。
そもそも『神樹』を守ろうとしていたのだって、戦後復興を見据えてのことだったのだし。
「だから、貴女たちが気にすることは何もないわ。こっちの世界に来るなら、復興の手伝いじゃなくて純粋に遊びに来て欲しいわね」
”…………わかったよ、ブラン”
ブランもあやめのことを気遣ってくれている、そう感じられる。
手伝えることは手伝いたいけど、ここはブランたち――この世界の人たちの厚意に甘えさせてもらおう。
来るなら『遊びに来る』……うん、そのくらいの気持ちでいさせてもらおう。
その後、しばらくはお茶を飲みながら談笑していた。
時間は気になるけど――10年経過していたってことを考えると、私たちが前にいた時みたいに時間の流れが違っているのだろう。多少はのんびりしていても現実世界に問題は起きまい。留守番組には悪いけど……。
「ぶらんー、らびとおはなししたいー」
「エア……わかったわ。
……ガブリエラ、今度はぼくと遊びましょうか」
「ぶーたん! のあーるも!」
「ふふふ、よかろう」
私たちがこっちの世界に戻ってきた、メインの理由は
エアにべったりだったなっちゃんをどうするか悩んだけど、ブランとノワールがお世話してくれるみたいだ。
「それじゃ、わたしはトッタとレレイたちと会ってきたい」
「んじゃ、俺はありんこのお守りっすね。
「……そうね、私はメティたちと会いたいかな」
各々この世界の知り合いと会いに行くことにしたようだ――千夏君だけはありすのお守りだけど……安全だろうけど、一人で行かせるのはちょっとね。
……皆も私とエアの話が重要であることはわかってくれているようで、気を遣ってくれているのだろう。
「おひるねべやー!」
「はいはい。使い魔さん、こっちの部屋よ」
執務室から続いている別の部屋――『お昼寝部屋』と言うか、多分巫女の私室なのだろう、そこへと案内される。
で、そこに入ると、
”あ、キュー”
部屋の片隅ですやすやと眠っている子ぎつね――キューの姿があった。
朝に会った時にはキューの身体だったけど、10年の間にエアへとピッピは乗り移っているし……って、まぁこの辺りは直接聞けばいいか。
私とエアはお昼寝部屋に。他の皆はそれぞれ出かけて行った。
”えっと、エア? ピッピ?”
「うゅー……ぴっぴー」
”そ、そう。じゃあピッピ、お話しようか?”
「うん!」
……どうしよう、めっちゃ話しづらいな……。
肉体年齢に引っ張られているのか、なっちゃんと話しているのとほとんど同じ感じだ……まぁ『見えないものが見えている』らしいなっちゃんよりは話が通じやすいかもしれないけど、ピッピとの話はどうしても難しくなりがちだからな……。
「……ちょっとまってー」
話しにくさは自覚していたのだろう、ちょっと考え込んだ後にエアはとてとてと部屋の片隅にいるキューの傍へと寄ると、そのまま抱きかかえて戻ってくる。
そして、
「こっちではなすー」
そういうと、こてんとエアの身体が横になりすやすやと寝息を立て始めてしまう。
代わりにキューが目を覚まし……。
「きゅっ、お待たせ、ラビ」
”お、おう……”
ギャップがひどいな……
”ち、ちなみにこの子――エアって、まさか……?”
まさかとは思うんだけど、ブランの子供……とか……?
私が何を想像しているのか理解したピッピが軽く笑った。
「
……そういえばこれは話してなかったかしらね? 代々の巫女は、『神樹』の根元にある日突然現れる――それがエル・アストラエアの伝承であり巫女の秘密なのよ。
まぁ実際のところは、私が自分のアバターを作ってるってだけなんだけどね。前に言った通り、私のアバターは『憑依型』じゃないからね。……だから、まぁ産まれてから成長するまで時間が必要になっちゃうんだけど」
な、なるほど?
この世界の住人の身体を――悪い言い方をすれば『乗っ取る』のは、ピッピとしては本意ではないのだろう。緊急避難として一時的な手段としては使うかもしれないけど、『巫女』として生きるのであれば自分専用のアバターを用意した方が都合がいいだろうしね。
……ま、まぁ仮にブランやノワールの子供だとしても驚きこそすれ祝福すべきことだとは思うんだけどさ。
”えーっと、それじゃ――
「ええ、了解よ――きゅっ」
……突っ込むまい。
『戦後補償』とは言うものの、今回の戦いはヘパイストスとのものだ。私とピッピ間で賠償があったりするわけではないんだけど、他に適当な言葉が思いつかないのでとりあえずそう言っておいた。
彼女にも私の意図はちゃんと伝わっているようだ。
さて、それじゃ一か月前の約束を果たしてもらおうかな。
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