第9章66話 最後の危機

 クエストクリアも確定……今度こそ、本当に、ようやく終わったはずだ。


「ん……なんか、疲れた……?」

”!? ありす!”


 魔力を使い果たしたありすがそういうと、ぐったりとしてしまう。

 力を抜いて回復を……とかではない。

 本人も身体に力が入らなくなってしまったことに戸惑っているようだ。


「……精魂尽き果てた、という感じですね」

”……そっか……”


 魔法の副作用とかヘパイストスに何かされたとかではないようだ。

 そりゃそうか、リザレクションボトルで復活して身体のダメージは『見た目上』は消えたとは言っても、ずっと戦い続けてきたのには変わりない。

 特に即時復帰したが故に、ありすの『精神』は休まる暇もなかったのだろう。

 身体の元気はまだ残っているけど、心の方がもう限界を迎えてしまった……だからか。


”お疲れ様、ありす”

「んー……眠い……」

”ルナホーク、魔力は大丈夫?”

肯定ですアファーマティブ。マスターたちを地上へと確実に送り届けてみせます」


 うん、良し。


”じゃあ、皆のところに戻ろう。ヘパイストスも倒したし、地上の方も落ち着いてくれていると思うんだけど……”


 現状、中枢内にいるせいかあるいは星の外にいるせいか、いつもの通り遠隔通話が通じなくなっている。

 ……レーダーさんに引き続き、遠隔通話さんも微妙にポンコツ疑惑が浮かんできているような気が……って、そんなことを考えるくらい余裕はできた。

 来た時同様、ありすと私をルナホークに抱きかかえてもらって宇宙を飛んでもらうことになる。

 流石にここからまた戦闘をすることもないだろうし、ありすの魔力回復は自然に任せて、いざという時のために私のアイテムは温存だ。

 ここまでやって、地上に帰れず全滅……なんて笑えない結末はごめんだ。




 戦いは完全に終わった。

 後は無事に地上に変えるだけ……と流石に私たちも緊張感が薄れた時だった。


「……!?」

”? どうしたの、ルナホーク”


 ルナホークが何やら緊張した面持ちで周囲を見渡している。

 ……まさか、まだモンスターがいるのか!?

 と私も気を引き締めてレーダーを監視するが……特になにも見えない。いやまぁこの世界に来てからレーダーさん何の活躍もしてないから期待してなかったけどさ……。


「いえ――ような気がします」


 なんだって……?

 《アストロノート・デバイス》を装着している彼女には、おそらく自分の位置を正確に知る術があるのだろう。

 中枢は人工衛星のように惑星の自転・公転についていっているのだから『動いている』というのは間違いではないが、ルナホークの様子を見る限りそういうことではないだろう。


「……まさか……!? マスター、すぐに脱出します」

”う、うん”


 何かに気付いたルナホークが有無を言わさず来た道を辿って中枢から脱出しようとする。

 ……移動の最中に私もルナホークが何に気付いたのか理解し始めていた。

 もし、私たちの気付きが正しければ――になりかねない。




 そして再び宇宙空間に出た私たちは、『悪い予想』が当たってしまったことを確認してしまった……。


”! 中枢が…………!?”


 ルナホークの感覚は正しかった。

 ゆっくりと、だが確実に中枢の高度が下がっていっている。

 つまり――このままだと地上へと墜落するということだ。


”拙い……!”


 中枢の正確な大きさはわからないけど、『宇宙に浮かぶ要塞』だ。かなりの大きさなのは間違いない――少なくとも数百メートルは超えている。下手をするとキロメートル単位かもしれない。

 そして詳しい材質はわからないが大部分は金属でできている。とてつもない密度と重さだろう。

 そんなものが地上に落下したとしたら……。


『”――楓、椛! 聞こえる!?”』


 躊躇わず私は地上の楓たちへと遠隔通話を飛ばす。

 通じるか……!?


『……うーちゃん!? 何かあったの!?』


 良かった、通じた!

 携帯の電波が悪い時みたいにちょっと途切れ途切れな感じはするけど、お互いの声は届いている状態だ。


『”拙いことになってる!”』


 私たちは地上へと向かって移動しつつ、状況を説明した。


『……!』


 大きさ不明、しかしとてつもなく巨大な要塞が地上へと墜落しようとしていることを聞いて、二人は絶句する。

 ……ぐぅ……笑って私の心配を否定してほしかったけど、やっぱりそんな楽観はできないか……! 二人の反応がそれを裏付けてしまっていた。


『……どこに落ちるかは――わからない、よね……』

『”うん……ちょっとそこまでは予想できない”』


 というか、私たちの現在地もどこらあたりかわからないしね……。真っすぐ地上に降下する、というわけにもいかないし。




 ヘパイストスは倒したものの、状況は『最悪』へと向かっている――と言わざるを得ない。それが私たちの考えだ。

 もしも地上に中枢が落下したとしたら、それは要するに『隕石』が落ちてきたのと同義だと思う。

 もちろん本物の隕石に比べればスピードとか勢いが違うのはあるだろうけど、結局重力に引かれて落下していくうちにとんでもない速さになるのは間違いない。

 ……で、中枢が大気圏とかで燃え尽きてくれれば何の問題もないんだろうが……そうなる見込みはかなり低い。多少は摩擦で小さくなるかもしれないが、それでも直径数百メートルの隕石が落下してくるのと同等以上の破壊力はあるだろう。

 前世でも、恐竜絶滅の原因として隕石の衝突が挙げられていた。その時の隕石よりは中枢は小さいだろうけど……。


『……もし落下場所がエル・アストラエアだったら、周辺は跡形もなく吹き飛ぶと思う』

『落ちる場所にもよるけど……下手すると世界終了のお知らせになるかもしれないにゃー……』

『”うぅ、やっぱりか……”』


 詳しくは覚えてないけど、ほんの数十メートルの大きさであろうとも地上に落下したらとんでもない被害を及ぼすはずだ。

 中枢の大きさだとまず間違いなく落下地点の周囲は消し飛ぶだろう。

 それだけではない。地面に落ちたとして大量の埃を巻き上げて太陽の光を長い間遮ったり、下手したら地殻変動とか起きるかもしれない。海に落ちたらとてつもない大きさの津波が大陸を襲うかもしれない。

 ……折角ヘパイストスを倒したというのに、このままじゃアストラエアの世界は修復不能な致命的なダメージを受ける可能性があるのだ。

 …………いや、奴はおそらくは『それ』を狙っていたのだろう。

 最終手段として中枢を隕石のように落とし、星そのものを破壊する――そのための調整のために、ヘパイストスは中枢へと移動し、私たちを足止めするためにラグナ・ジン・バランをけしかけていた……そういうことだと思う。

 奴にとっての計算外は、ルナホークの魔法によって私たちが宇宙空間まで追いかけてきて、奴自身を倒されてしまったことか。

 そのせいで狙いは不十分なまま、中枢が落ち始めてしまった……。

 今の状況はそういうことなのだと思う。


『”ど、どうしよう……!?”』


 中枢が落ちる前に破壊する……くらいしか思いつかないけど、宇宙空間まで来れる手段が他にない。

 大気圏よりも下に落ちてしまった時ならユニットも攻撃できるだろうけど、正直間に合うとも思えない……アリスとガブリエラが復活してリュニオンしても、スケールが違いすぎてどこまで壊せるか……それに、そもそもそんな位置まで落ちてきてしまっていたら、破壊するだけの時間がないだろう。


『…………とにかく、うーちゃんは一旦戻ってきて』

『それと、こっちからも報告が一個あるにゃ』

『”? なに?”』


 これ以上のバッドニュースは勘弁してほしい……。

 しかし、楓たちから話を聞くよりも早く、『異変』をルナホークが察知した。


「! マスター、が迫ってきます!」

”え、ちょっ……!?”


 宇宙空間で私たち以外に『何か』がやってくる!?

 しかもそれは方向的には向かってきているのだ。


「――は……!?」


 ルナホークの眼が迫る『何か』を捉えるのと同時に、椛が私に向けて言った。


んにゃ!』

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