第9章62話 暗黒の宙へ

”それじゃ、皆。こっちは任せたよ!”


 ルナホークの魔法を使って宇宙にあるラグナ・ジン・バラン中枢へと私とありすは向かう。

 ……本当はアイテムの補充とかもしたいし、なっちゃんが回復するのを待ってリュニオンしてから……とも考えたけど、あんまり時間の余裕はない気がする。

 ただの予感ではあるんだけど、今は『一分一秒を争う』切羽詰まった事態なのではないかと私は感じているのだ。

 それはありすも同じみたいで、変身を解いて移動中に魔力を回復させるつもりみたいだ。ルナホークに抱きかかえられてぐだっとしている。


”おう、任せとけ”


 トンコツたちが私の言葉に頼もしく答えてくれる。

 本当に皆が来てくれて助かった……まぁそのせいでヘパイストスに彼らも狙われる羽目になってしまったのは申し訳なく思うけど、ピッピがいない今S■■の住人であろう彼らがいてくれるのは知識の面でも心強い。


”お前のとこの奴らも、しっかりと守ってやる”

”……そうだね、桃香たちのこと、お願いね”


 結局、皆の回復は間に合わなかった。

 まぁこれは仕方ない――ナイアとの戦いで神装数発分に匹敵するであろう負債や、限界を超えた肉体への負荷を全部押し付けてしまったのだから……。


「ラビ様、ありすさん……それにルナホーク様、どうかお気を付けて……」

「こっちのことは心配すんな。俺たちも復活したらすぐ加勢するからな」

「後一息だからね、僕も頑張るよ!」

「……敵ももう手札は残ってないはず。きっと死に物狂いで抵抗してくると思う」

「にゃはは、でもあーちゃんなら大丈夫にゃー」

「あーたん! がんばえー!!」


 ――きっと立ち上がっているのも辛いだろうに、皆そんなことは表情に出さずに私たちにエールを送ってくれる。

 ……本音では最後の戦いに参加できないことを歯がゆく思っているだろう。

 うちの子たちだけではない。駆け付けてきてくれた皆がそう思っているだろうことが伝わってくる。


「ん。皆の分まで、わたしたちがあいつをぶっ飛ばしてくる」


 いつも通りのぼんやり顔で、にゅっと親指を突き出サムズアップしてありすは皆に応えた。


”よし――ルナホーク!”

「イエス、マスター! コンバート《アストロノート・デバイス》!」


 魔法の発動と共に、ルナホークの装備が変わる。

 両手はありすを抱きかかえるために普通の腕のままとしているが、両足はスペースシャトルの噴射口のようなパーツへ。

 頭部から背中、そして体の前面にかけては滑らかな金属のパーツが覆い、これもまたスペースシャトルのような流線形のフォルムへ。それだけではなく、外側には幾つものパーツが備わっている。

 両足の噴射口から炎が噴き出し、ふわりとルナホークの身体が浮かび上がってゆく。

 ……流石にその場から宇宙空間へと飛び出すわけにはいかない。地上の皆を爆風で吹き飛ばしてしまいかねないからね。


「目標、ラグナ・ジン・バラン中枢――ルナホーク、離昇しますリフトオフ


 地上からある程度離れたところで一斉に全ブースター点火。

 私たちは一気に加速し――宇宙空間へと向かって飛び立っていった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「……行っちまったか」

「ええ……」


 地上に残ったラビのユニットたちは、ルナホークのブースターの残滓が消えるまで空を見上げていたが……。

 何も見えなくなったところで全員がその場に崩れ落ちた。


”お、おい!?”


 慌てるトンコツたちだが、『ゲーム』的な意味での体力が尽きたわけではない。

 ラビが想像していた通り、全員が揃って立っているのも辛い状態だったのだ。

 それでも最後の戦いに向かうラビたちに心配をかけまいと、全員が無理をして平気なふりをしていただけにすぎない。


「きゅぅ~……」


 撫子に至っては完全にダウンしてしまい、姉の腕の中で目を回してしまっている。

 彼女は特に疲れているだろう。ずっとリュニオンをし続けていた上に、最後の《エクスカリバー》で精魂尽き果ててしまっているようだ。

 他のメンバーも似たり寄ったりだ。肉体の負荷が一番強い千夏と雪彦もその場に座り込んで立ち上がることさえできなくなってしまっている。


「お疲れ、さま……後、は、私たち、に……任せなさい」

「そうそう。リスポーンしたし、あたしたち元気いっぱいだしね!」


 復活したユニットたちが改めて使い魔たちと動けないラビのユニットたちを守るため、陣形を組みなおす。

 体力や魔力が回復するのを待っているわけにはいかない。

 もうすぐそこまでラグナ・ジン・バランの残りが迫ってきているのだ。

 ラビたちがヘパイストスを今度こそ倒す――それまでこの場を守り切ることこそが、彼女たちに与えられた最後の役割である。

 幸い、ナイア戦でリスポーンしたため全員が全快している状態だ。

 その上今度は【支配者ルーラー】で操られる心配はない。《停滞の邪眼イーブルアイ・オブ・ステイシス》の効果時間を気にすることもなく、全員が全力で戦うことができる。


”……よし、もうひとふんばりだ。頼むぜ、お前ら!”


 トンコツの言葉に、否を返す者は誰もいなかった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「うーん……表でまた色々あるみたいね」


 一方、墜落した《バエル-1》内部にて――

 崩壊した『ゴエティア』大広間に、ケイオス・ロアとBPブラック・プリンセスはいた。

 墜落の衝撃は確かにあったものの、どうということはない。

 ナイアが『アルアジフ』を使い出してからはピースたちの足止めをする必要も本来はなかったはずだが、それでも彼女たちは留まっていた。


「……『アル』も目的を果たしたようですね」

「それはいいんだけど、『ピースの元は断ったよ』って一言だけで帰るのって、おかしくない?」

「……まぁ、そういう子ですから」


 どうやら彼女たちの仲間――『アル』という名の人魚姫が『ピース製造装置』を破壊したようだ。

 しかし、破壊したことだけ遠隔通話で告げて、さっさと帰ってしまったらしい。

 そのことを怒るケイオス・ロアではあったが、いつものことなのだろう。BPは特に気にしていないようだった。

 ……『ピース製造装置』はエキドナが守っていたはずだが、一体どのようにして倒したのか。

 そしてケイオス・ロアたちが知るところではないが、彼女が装置の元へと辿り着いてから実際に破壊されるまでのはどういうことなのか――不明な点は多い。


「ま、いいわ。

 ――それで、はどうするの?」


 言いながら振り返り、背後にいる少女たちへと声をかける。


「…………」


 ――そこには、クリアドーラたちピースの姿があった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 《バエル-1》墜落現場からかなり離れた荒地――エル・アストラエアの西部に広がる荒地にて。


「くく……出迎えご苦労だったな、フランシーヌ」

「……あんた……」


 深い窪地となり、周囲から見られないようになっている場所で、二人の少女が対峙していた。

 一人は鮮血の如き赤い髪のユニット・フランシーヌ。

 そしてもう一人は、……。


「まさかあんたを仲間に迎え入れるとは思ってなかったわ、……!!」

「くくくっ……あぁ、楽しいなぁ……」


 心の底から嫌そうに、嫌悪感も露わに吐き捨てるフランシーヌに対して、ドクター・フーは笑みを浮かべるのであった……。

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