第9章10節 Beleave your justice, beleave my justice
第9章60話 The war is won, but...
* * * * *
終わった……。
墜落し、燃え盛るルールームゥの空中要塞を見下ろし、私は長かった戦いが終わったことを実感していた。
……本当に、長く苦しい戦いだった……。
何度も『もうダメだ』と思わされたし、実際私は途中で諦めかけた時もあった。
トンコツたちが助けに来てくれなかったら、私たちは本当に負けていただろう――それくらいギリギリの、勝てるかどうかわからないというよりも『負ける可能性の方が高い』、勝ち目のない戦いだったと言える。
ルナホークがそのまま私たちを空中要塞から少し離れた、エル・アストラエア寄りの平原へと運んで降ろしてくれる。
「……『カデクル』」
お互いに何かを話さないと、と思いつつも互いに言葉が出てこない。
戸惑っているうちにルナホークが自分の霊装を呼び出す。
呼び声に応え、空中に真っ黒い『異次元への穴』としかいいようのないものが現れ、その中からずんぐりとした大きな球形の『物体』が現れた。
詳しいことは聞けていないが、この球体がルナホークの武器型霊装『カデクル』らしい。
武器型と言っても直接的な攻撃力は一切持っておらず、彼女の各種兵装を格納・修復、そして魔法によってルナホークへと射出する管理装置……のような役目を持っているらしい。
で、その『カデクル』の上には――
「ラビ様!」
「アニキ!」
”終わったみたいだな、ラビ”
”皆! 無理させてごめんね……でも、おかげでナイアを倒すことができた。本当にありがとう!”
私のユニットたち、そして避難させていたトンコツたちが乗っかっていた。
リスポーンさせたユニットたちも一緒だ。
……戦闘の最中、私は自分のユニットたちと遠隔通話をし続けていて、その時に『カデクル』の存在を知らされて皆がそこに匿われているのも知った。
現れた時に見た通り、ある意味で『異次元』にいる霊装らしい。だからこそ、ナイアの【
まぁ私のユニットは皆そもそも動ける状態ではなかったんだけどね。
”オルゴールもありがとう”
「いえ……お役に立ててなによりデス」
ほんと、オルゴールには感謝してもしきれない。
彼女には最後の詰め――でナイアが呼び出すであろうエキドナとルナホークの足止めをお願いしていたのだ。
これは、ケイオス・ロアたちが来たことで思いついたことだ。
オルゴールもきっとナイアと敵対状態になっていない、だから【支配者】は通じないしエキドナたちの攻撃も効かないはず。その逆もそうなんだけど、ダメージを与える必要はない。致命的なところでアリスを守ってくれればそれでいい……と思っていた。
どういうわけかエキドナはいつの間にかやられていたみたいだし、ルナホークの洗脳は解けており事前に互いの様子はわかるようになっていた。
問題なのはナイアの放った炎の中で、隠れ続けてもらうということくらいだ。しかも、空中要塞が落ちる可能性もあったのだ。かなり危険な役目を負わせてしまった、と思っている。
……っと、そこで私は思い出した。
”そうだ、オルゴール! 時間!”
「……ア」
既に太陽が顔を出し空が明るくなっている。
現実の時間とリンクしているとなると、そろそろヤバい時間なんじゃないだろうか?
オルゴールも思い出したようで、
「……ソウですネ。申し訳ありませんガ、一度戻りマス」
”うん、そうして。『眠り病』患者と思われたら厄介だしね”
「ハイ」
まだ事後処理とかあるし、しばらくはこっちの世界と現実世界を往復することになるかもしれない。
オルゴールは手持ちの『ポータブルゲート』を使って戻ってゆく――彼女にはまだ聞きたいこともあるけど、まぁ話は後で落ち着いてからゆっくりとやればいいか。
”そういえば、ケイオス・ロアたちは大丈夫かな?”
「ああ、まぁ……あいつらなら大丈夫だろう」
”……それもそっか”
扱いが雑、とは言うまい。
何せ私たちのためにピース軍団と戦い続けていた二人だ。空中要塞が墜落しようともどうとでもなるだろう。
まだ彼女たちもこっちの世界にいるのかな……? ちゃんとしたお礼もまだ言えてないし、彼女たちにも話したいこともある。できれば一度顔を合わせておきたいけど……。
”さて――トンコツ、皆”
まずはこの場にいる、お礼を言うべき人たちにしっかりと言うべきだろう。
無事に揃った皆へと話をしようとして――私は心のどこかにまだ何か引っかかるものを感じていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お、そうだ、ブラン。貴様にこれを渡しておけばいいか?」
ラビが助けに来てくれた使い魔たちへと『挨拶』に向かったのを見て、アリスはやれやれと肩を竦める。
自分の使い魔の性格はよくわかっている。自分のところの『子』たちの無事が確認できたのであれば、次は助けに来てくれた面々への『礼』を優先するだろう。
色々と不明な事情もある、しばらくは話し込むことになるかな、と思ったアリスはふと思い出し、近くでぐでっとしているブランへと渡す。
「あ……『神核』かー……」
「元々この世界のものだろう、これは? オレたちがこのまま持っていくわけにもいくまい」
「うん……わかった。ぼくがあずかっておく」
魔法を超強化する効果を持つ『神核』は頼りになるアイテムではあるが、本来はこの世界のものだ。
返すべき場所に返すのが一番良いだろうという判断だ――ラビに相談したわけではないが、きっと結論は替わらないだろうという確信があった。
もっとも、ブランに返したところで今後どうするのか、まではアリスにはフォローも何もできないのだが。
「うーん、どうしよう……アストラエアがいればなー……」
「きゅっ、きゅー!」
「お? キュー、貴様無事だったか」
「きゅきゅっ」
ちゃっかりと『カデクル』に乗っかっていたのか、キューがブランへと駆け寄り頭の上に乗っかる。
「むー……ぼくのあたまにのらないでー……」
「きゅぃ~……」
……キューの中身が今はアストラエアになっていることを誰も知らない。
前までは桃香たちに懐いていたのに、なぜ唐突にブラン? と少々の疑問を抱きはするものの――特に誰もそのことに突っ込みはしなかった。
「さて、オレたちはどうするかな」
諸悪の根源であるナイアは消えた。
乱入対戦の勝者がラビとなったことからそれは明らかだ。
エキドナも既におらず、『眠り病』の原因となっていた『ピース製造装置』もどうやら破壊されたらしい。
ひとまずこの世界を襲う脅威は去り、アリスたちの当初の目的も全て達成できたと思っていいだろう。
以降の行動についてはラビの指示を待つしかない。
手持無沙汰になったことだし、久しぶりに顔を合わせたユニットたちもいる。
彼女たちと親交を温めるのも良いだろう。
そう考え、使い魔は使い魔同士、ユニットはユニット同士――そしてブランたち
……彼女もまた、ラビと同様に心のどこかに引っ掛かりを感じてはいたものの……。
* * * * *
「!? つかいま、なんかくる!」
突如、ブランがそう叫び――いや警告の声を上げる。
ブランの声と共に弛緩しかけていた空気が一気に張りつめ、ユニットの子たちは何も言われずとも円陣を組んで周囲の警戒を行う。
……ただ、うちの子たちはアリス以外は未だに変身できる状態になく、アリスも魔力を使い果たしかけたボロボロの状態だ。円陣の内側へと入り使い魔たちを守ろうとしている。
流石に皆状況判断が速い。もはやこの場にいる全員が、『一騎当千』の強者だと言えよう。
……と、まぁそんなある種の自画自賛はともかくとして。
”ブラン、何が迫ってるの?”
「んー、ちょっとまって……ぼくしらべものにがて……」
「我が見よう」
傷つき動くのも辛そうなノワールが、ブランに替わって周囲の様子を見てくれるようだ。
ノワールも無事、とは言い難いが生きていてくれてほんと良かった。
200年間ずっとこの世界を守り続けてきた『守護神』だ。ナイアの脅威のなくなった平和な世界を、彼女たち
「……!? これは――ラグナ・ジン・バランの大群じゃな」
”え!?”
「むぅ……しかも後期型ばかりじゃな……」
うげ、後期型ってことは、あの気色悪い人面戦車とか目玉ヘリコプターとかの大群ってこと!?
「……私たちが倒したのは、
「だから後期型は残ってるってことかにゃー……」
なるほど、そういうことか。
まだ詳しい話は聞けていないけど、地上でラグナ・ジン・バランの大群をガブリエラたちが撃退したものの、その中に後期型はいなかったみたいだ。
見た目の気持ち悪さ以外は正直大した相手ではないし、戦力にならないと思って退けていたってことかな。
――いや、
”……あ”
遅ればせながら私は先ほどから感じていた引っ掛かり――『違和感』の原因に気が付いた。
”
そう、未だに私の元に『クエストクリア』の通知が来ていないのだ。
ナイア――いや、使い魔・マサクルを倒したのは間違いない。乱入対戦での勝者が私である通知が来た、けれどもルナホークが残っているということは『使い魔がやられた』ことを明確に意味している。
通常対戦と違い、乱入対戦は『サドンデス』だ。相手のユニットが全滅するまで、ではなく『使い魔がやられるか
……あの状態からナイアがリザインを選択できたとは到底思えない。対戦自体は『ナイアがやられた』ことで決着がついたはずだ。
なのにクエストが終わってないということは――
”……そうか、ラグナ・ジン・バランの中枢が残ってるからか!”
……いや、それでもまだおかしい点がある。
ナイアがいなくなり、ラグナ・ジン・バランを操る者もいないはずだ。
なのに、ラグナ・ジン・バランたちは一直線にエル・アストラエアを目指して――もっと言えば私たちを目指して突き進んでいるようだ。これはちょっと不自然に思う。
ということは……まさか!?
”ナイア――いや、ヘパイストスは諦めていない……!?”
そういうことになりそうだ。
『ゲーム』から敗退した、それは間違いないだろう。
だが、だからと言ってヘパイストス自身がこの世から消滅したわけではない。
元々『ゲーム』外からこの世界を侵略していた奴なのだ。『ゲーム』を介さずともこの世界へと攻撃するルートは持っているだろう。
……そのルートを使って、私たちをまだ攻撃するつもりでいるのだ。
ラグナ・ジン・バランの中枢を叩いてこの世界への侵攻ルートを完全に潰さない限り、この世界の平和は訪れない。
私たちの挑んだクエストは『救援要請』――という名前だったはずだ。
ナイアたちを倒すためのクエストではない。
「おい、使い魔殿。どうするんだ?」
”…………ヘパイストスを倒すしかない”
ピッピの言葉を信じるならば、ヘパイストス自身をどうこうすることは難しいみたいだし、多分私の考え通り『ラグナ・ジン・バランの中枢を破壊する』がクエストのクリア条件なのだとは思う。
しかし――
「ふん、ならば奴を探し出して――」
アリスはやる気満々だけど、事はそう簡単にはいかない。
”ダメなんだ……”
「は? 何がだ?」
……そっか、これはピッピから話を聞いた私と、ノワールたちくらいしか知らない事実だったか。
私は言いたくないけど言わなければならない事実を口にするしかなかった。
”おそらく奴の居場所は――この星の外側、宇宙なんだ……”
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