第9章54話 EXTRAVAGANZA 3. 紡いだ絆の協奏曲

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 《停滞の邪眼イーブルアイ・オブ・ステイシス》の残り効果時間、およびアリスの魔力完全回復まで7分。

 このわずかな時間が、ナイアとの戦いの勝敗を大きく左右することになる――と誰もが理解していた。


 ナイアからすれば《停滞の邪眼》効果終了後まで持ちこたえれば、プラムたち乱入者は全て容易に始末することができる。

 それどころか、乱入対戦が始まっている以上、彼女たちの攻撃はアリスにも当てることが可能なのだ。中身のないピース軍団に加え、彼女たちを【支配者ルーラー】で操ればより盤石だろう――細かい操作は不可能だが、一撃当てることくらいはできるはずだ。 また、この7分間でダメージを受けないのも重要だ――そもそもダメージを受けることもないと思っていたが。

 多少のダメージを食らったところでナイアの超体力は削り切ることはできないだろうし、何よりも『アルアジフ』を纏っている限り傷一つ負わせることは不可能だ。

 その『アルアジフ』にしても服型霊装と言えど、武器型霊装にも劣らない硬さを持たせている。

 加えて、『アルアジフ』は『冥界』から回収した卵から孵化させたアトラクナクアの肉体を使った、いわば『生きている装甲』を持っている。魔力を使用することなく再生することが可能なのだ。

 ダメ押しに奪い取った『神核』を6つ全て使って魔力を強化――『クトゥガ』などのエネルギー源となると同時に、再生を加速させる効果を持たせている。

 ……とはいえ、無抵抗で7分を過ごすつもりはない。それはナイアのプライドを傷つけるものだ。

 だから、ナイアはこの7分間でプラムたちを撃破――仮にできなかったとしても自身は傷つくこともなく、生き残りを【支配者】で操りアリス諸共始末する、結局……。


 ――ふふふ……遠回りにはなったけど、あたしの勝ちが揺らぐことはないわ!


 自身の最終的な勝利をナイアは疑っていない。




 一方でプラムたちの方はというと、ナイアに比べて若干シビアだ。

 彼女たちの勝利条件は、《停滞の邪眼》終了まで使い魔がやられずに、かつユニットたちも可能な限り生き残ってアリスへとバトンタッチをする、ということになる。

 もちろんナイアにダメージを与える、もっと言えばアリス復活前に倒してしまえれば理想ではあるが、それが難しいことは理解できている。


「さ、て……」


 プラムは『アルアジフ』が纏った『クトゥルフ』を見て頭の中で分析する。

 事前情報ではナイアの【支配者】については聞いていたが、『アルアジフ』そしてナイア本人の魔法の種類についてまでは不明だった。

 戦いながら考え、対応するしかないのだ。

 幸いにもこの場には様々なユニットや使い魔が揃っている。自分だけで考える必要はない。


 ――……これも、『縁』というやつかしらね。


 ラビたちが今まで繋いできた『縁』がなければ、ここにプラムたちは集っていなかっただろう。

 『眠り病』を解決することもできずに現実世界の混乱に翻弄されるだけだったか、あるいは個々でナイアの元にたどり着いて敗北していたか……そうした結末を迎えるだけだったろう。

 『縁』があったからこそ、プラムには事情はわからないが使い魔たちが集められ、こうして最終決戦に集えたのだ。

 集ったメンバーの気持ちは一つ。

 ラビたちのために――そして『眠り病』解決のためにナイアと戦う。

 ただひたすらに、そのためだけに全力を尽くすだけだ。


 ――このは……。


 先ほどの戦いの最中から、プラムはある『気配』を感じていた。

 ナイア……いや『アルアジフ』から感じられる『気配』にプラムは覚えがあった。


「なるほど、ね……」


 自分の記憶をたどり、プラムは『気配』の正体を悟る。

 『気配』の数は6

 プラムの考え通りであれば、アリスのために時間を稼ぐだけでは不十分だろうし『アルアジフ』を破壊することも難しい。ならば真にやるべきことは――

 自分の考えとこれからやるべきことをタマサブローへと遠隔通話で伝え、その内容を他の使い魔たち、更にユニットたちまで伝えてもらう。

 ……自分の使い魔とユニット以外とのその場での意思疎通がしづらいのは難点ではあるが、こればかりはどうしようもない。

 全員がプラムの考えを聞いてすべきことを理解。

 自然とプラムを中心リーダーとした形でナイアと対峙する。


「行く、わよ……」


 ラスト7分、後のことを考える必要のない全力疾走のような戦いになるが、覚悟の上だ。

 プラムたちは全ての力を使い果たすつもりで、ナイアとの最後の戦いに挑む。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




『ロード《クタニド》!』


 『アルアジフ』の全身が、新たに現れた青白い軟体生物のようなものに覆われる。

 魔法生物『クタニド』はいわば追加装甲とも言うべきものだ。

 『クトゥルフ』になったことで柔らかくなった装甲を補うために、外部をさらなる装甲で覆っているのだ。

 ……もっとも、クタニドで覆ったとしても他の属性に比べて防御力が低いのには変わりはないのだが。


『ロード《ショゴス》』


 更にショゴスの群れを呼び出す。このショゴスだけは属性に関係なく呼び出せる魔法生物だ。

 ただし、特性として現在のエクスチェンジで選択した属性に沿った姿になる……というものがある。

 『クトゥルフ』に合わせたショゴスは……。


「……うわー、タコ? イカ?」

「気持ち、悪い、わね……」


 タコやイカのような触腕へとその姿を変えていた。

 それでいて元のスライムの性質も備えているようで、自在に触腕を伸縮させながらゆらゆらと蠢いている。

 見た目の気色悪さと数は脅威だが、ピースたちに比べればずっと与しやすい相手と言えるだろう。

 ――と思っていたら、やはりと言うべきかピースたちも呼び出される。


「……潰しても潰しても湧いて出てくるわね」

「やっぱ、り……大元を、潰さないと駄目、ね……」


 プラムたちは全く焦ることはない。

 余裕だからではない。

 だ。

 後のことを考えず全力を出すだけだ、そういった開き直りが敵の大群を目の前にしても揺るがない精神力の源泉となっているのだ。

 敵が出てくるなら片っ端から潰す。

 そしてナイア本体へと少しでもダメージを与える――それだけだ。




 そこからの乱戦は、プラムたちが攻めているように見えて概ねナイアの望む通りに進んでいると言えた。

 プラムたちがわざと後衛と距離を開けている理由を良く理解していた――先ほどのようにオーキッドの砲撃を警戒しているのと、後衛の足元に魔法陣を出そうとした瞬間に逃げられるとわかっているからだ。

 だから制限時間いっぱいまで前衛のみに集中、確実に数を減らしてから後衛の使い魔たちを狙う……という方針に変更したのだった。

 プラムたちに敵が集中することになるが、それは覚悟の上だ。

 ピースたちの魔法を前と同じように対処しつつ、プラムたちはあまり離れずに連携して相手を打ち倒してゆく。

 ……しかし、『数の暴力』はいかんともしがたい。


「数が、多い、わね……」

「うん……全然ナイアに近づけないよ!」


 次第にプラムたちは押されだしてきていた。

 特にピースたちの攻撃はまともに食らえば致命傷になりかねない。

 互いに死角をフォローしながら戦ってはいるものの、ショゴスたちが加わったことで徐々に追い詰められ始めている。


『ふふふ……どうやら、色々と限界が見えてきたみたいだねぇ?』


 一番の問題は『疲れ』だ。

 わずか数分の戦いとはいっても、常に全力疾走しているような状態だ。

 『ゲーム』的な意味での体力はともかく、身体能力的な体力に明らかに影響を及ぼしている。

 特に前衛5人の中では最も能力と経験の不足しているアンジェリカに『遅れ』が見え始めてきていた。

 アンジェリカをカバーするために他のメンバーも動き、そのせいで余計に体力を使ってしまっている。


「ご、ごめんなさい……私が足を引っ張ってるせいで……」


 自覚はあるのだろう、荒い息を吐きながらも悔しそうな顔でアンジェリカが謝罪する。

 『冥界』の戦いで肉体的に成長したし、これまでも修行をサボっていたわけではないが、それでもプラムやミオと言ったトップクラスのユニットには到底追いつけていない。


「気にしないで、アンジェリカ!」

「ええ、あなたのおかげでピースは何とかできているのだから」

「それに、を助けるのは当然でしょ、アンジェリカちゃん!」

「み、皆さん……」


 もちろん、誰もアンジェリカのことを責めたりなどしない。

 本気で悪いとは思っていないし、そもそも誰もが似たりよったりの状態だ――ただ少しだけ早くアンジェリカの限界が見えてきたというだけに過ぎない。


『いやー、麗しき友情だねぇ、うんうん。じゃあ、纏めて潰してあげるからねぇ!』


 そんなプラムたちの疲弊を見て取り、ついにナイア本人が動き出した。

 抜け殻のピースとショゴスの物量だけで攻めてもいずれ削り切れるだろうが、確実性はない。

 だから確実に潰すために『アルアジフ』の力で自ら潰すことにしたのだ。


『あっはははははははっ!!』


 『クトゥルフ』となった『アルアジフ』の見た目は人型をしているものの、その質感は軟体生物のそれに近い。

 見た目通りの伸縮性を持ち、振り下ろした腕が鞭のようにしなり、ピースとショゴスごとプラムたちを薙ぎ払おうとする。


「! 仲間ごとなんて……!」

「ひっどいやつね!」


 顔見知りもいるピースたちが無慈悲に潰されていくのを見て憤慨するものの……だからと言って足を止めるわけにはいかない。

 ナイア自身の攻撃が加わったことで更に回避は難しくなってしまっていく。

 ピースたちもいくら潰されてもすぐに復帰してしまう……。

 時間が経てば経つほどプラムたちが不利になっていくのは目に見えていた。


 ――残り時間は、大体4分くらい、かしらね……。


 そんな中においても、リーダーとなるプラムは冷静に周囲の状況を観察していた。

 は考えているし全員が了解してはいたが、それまでまだ時間が必要だ。

 だが、制限時間も半分を過ぎた。

 そろそろだ、とプラムは仕掛け始める。


「ミ、オ……私、に……続い、て」

「! わかったわ、プラム!」


 ちらりとミオへと目配せ、プラムが何を狙っているのか理解したミオがうなずく。


「ちぇー、何よミオったら、目と目で通じ合っちゃってさー」


 ぶつぶつとどこまで本気かわからない文句を呟きつつ、アビゲイルも二人を援護するため銃を乱射。爆発する弾丸を使ってショゴスたちの動きを牽制する。


「グロウアップ《薔薇鞭ローズウィップ》!」


 構わずプラムは前進、再び腕を振り下ろそうとした『アルアジフ』へと茨の鞭を叩きつけようとする。

 が、魔法とは言えただの鞭にすぎないそれは、ぬるぬるとした『クトゥルフ』『クタニド』の装甲にあっさりと弾かれてしまう。


『あはははっ! その程度、蚊に刺されるよりも痛くないわ!』

「あ、そう」


 嘲笑するナイアの声を軽く受け流し、プラムは鞭を操り『アラクニド』の右腕――の肘付近へと巻きつける。


『ばっかみたい! 綱引きで勝てるとでも思ってんの!?』

「まさか」


 腕を封じつつ、腕力で押さえつける――腕力強化の魔法等があれば不可能ではないが、プラムは今 《停滞の邪眼》によって自己強化が封じられた状態だ。

 到底『アルアジフ』として勝てるわけがない。

 プラムがその程度のことを理解していないわけがない。


「グラフト《棘花穿杭ペイルソーンズ・ブーゲンビリア》」

『ちぃっ、うざいのよ!』


 接木魔法グラフトで巻き付いた部分の鞭に鋭い棘を生やし、『クタニド』の柔らかい装甲に傷をつける。

 その程度では大したダメージにはならないし、すぐに再生されてしまうだろう。

 だが目的はダメージではない。

 グラフト発動と同時に、再度プラムからミオへと目配せでも合図――ミオも準備は整えていた。


閃刃きせき《遮断ノ太刀・えぐり》――【遮断者シャッター】!!」


 鞘に納めたアメノムラクモを『居合』の要領で抜き放つと同時に、彼女のギフト【遮断者】を発動。

 距離的に斬撃が当たる距離ではないが、刀はあくまで『照準』だ。

 ミオの振るった刀の軌道に沿うように【遮断者】の次元を断つ能力が発動……『アルアジフ』の右腕を切断する。


『な、なにぃぃぃぃぃっ!?』

「ふぅ……霊装とは言っても、柔らかくなってたらいけるみたいね」


 ――ミオの放った《遮断ノ太刀》、それはかつての『冥界』での忌々しき経験から編み出した、新たな技であった。

 無秩序に放ったとしても凶悪な威力を誇る【遮断者】を、斬撃と合わせることでより限定された範囲で、より鋭い精度で放ついわば『奥義』ともいえる技だ。

 打撃無効の『クトゥルフ』となっていたことが幸いした。また、服型霊装であるが故に硬度が落ちていたことも幸いだったろう。

 切断された右腕を呆然と見つめるナイアであったが――それは致命的な隙だった。


「いただきぃ! へっ、海賊の前でお宝晒すとは――さては馬鹿だな、てめー?」

『!? し、しまった!?』


 千切れた右腕部分から、一つの小さな『塊』が落ちた。

 いつの間にか前衛の近くまで寄っていたオーキッドがそれをすかさず自身の霊装――かつての海賊船から愛用していた『ロープ』を伸ばして絡めとる。


「……ほーん? おい、プラム。こいつから覚えのある『お宝』のにおいがするんだが?」

「……そう?」


 オーキッドが奪い取ったのは、『アルアジフ』の強化を行っている6つの『神核』、そのうちの一つだった。

 右腕部分に埋め込まれていた『神核』が【遮断者】により露出、そのすきを逃さずオーキッドが奪い取ったというわけである。

 ……プラムの予想通り、その『神核』には見覚えがあった。また、それを目にしたことでなぜ自分が『神核』の存在を感じ取れたのかも理解した。

 …………同時に、かつて『名もなき島』でオーキッドのギフト【探索者エクスプローラー】が反応していたのかも、彼女本人も理解したのだが――そこを今突っ込んでも仕方ない、とお互いに流すことにするのだが。


「ハッハー! お宝のにおいは後5個ってとこだな!」

「……オッケー、よ……オーキッド……」


 どこまで理解しているのか、オーキッドの言葉にニヤリとプラムは笑みを浮かべる。

 プラム自身が感じていた『気配』の数と一致している。

 つまりは、やはりこの『神核』こそが――とそこまで考えプラムは一旦思考を停止し、頭を切り替える。


「残り、4分……全力を絞り出して、いえ、絞りつくして……やるわ……!」

『こ、こいつら……』


 『クトゥルフ』の力で千切れた右腕をくっつけはするものの、奪われた――否、取り返された『神核』までは戻せない。

 相手がどういうわけか『神核』の正確な位置を掴んでいる、とナイアもここでようやく理解できた。

 ……もっとも、『神核』の位置を感じ取れるのはプラムしかいないのではあるが、それはナイアの知るところではない。

 残り4分。ここで戦況が変わった。

 ナイアは相手を倒すよりも、『アルアジフ』が持つ『神核』の防衛に意識を裂かねばならなくなってしまった。

 一方でプラムたちは、アリス復活に備えて残り5つの『神核』をできれば奪い返しておきたい。

 戦いの中心が、この時『神核』へと移っていったのだ。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 相手が『神核』のことを知っている――それはナイアに少なからず衝撃を与えた。

 よくよく考えれば、アストラエアとゼウスが絡んでいるのだ。この世界の魔法の源である『神核』のことを乱入者たちに伝えていても何らおかしくはない。

 しかし、知っていたからと言って『アルアジフ』から『神核』を引きはがしに来るとは、ナイアの予想外だった。

 たとえ『神核』が全て失われたとしても『アルアジフ』の能力は2~3割がなくなるかどうか――そして3割減だとしてもユニットたちとアリスを相手にするには十分だ。

 とはいっても長い時間をかけてようやく奪った『神核』をみすみす奪われるつもりはない。


 ――あの【遮断者】というギフト……ああ、くそっ! 前にエキドナが言ってたやつか……!


 以前の『冥界』や『名もなき島』での話は聞いていたが、ピースとならないのであれば興味なしと聞き流してしまっていた。

 まさか肝心要のアストラエアの世界で戦うことになるとは当時は思いもよらなかったというのもある。

 絶対防御を攻撃に転用した『絶対切断』――危険は危険だが、身動きが取れない状態でナイア本体が食らわない限りは問題ない。『アルアジフ』は再生可能だし、何よりも魔眼はたとえ【遮断者】であっても破壊不能だ――これは『ゲーム』のであるためである。いくら攻撃しても魔眼を壊せなかった理由はそれだ。絶対に壊れないというわけではないが、相当の力が必要になりまず不可能に近い。

 魔眼によって空間的に遮断されているナイア本体は『アルアジフ』に乗っている限りは『無敵』の存在なのだ。そのことをラビたちも乱入者たちも知ることはないだろう。




 残り4分、ナイアも加わったこと、プラムたちの疲労が蓄積したことで段々と状況が傾いてきていた。

 自身の『安全』を確信しているナイアは、優勢になったことで大分落ち着いてきていた。

 『神核』のことについては衝撃ではあったが、大きく不利になるようなものでもない――4分後に奪い返せばそれで済む話だ。

 相手が『神核』に集中するのであれば、その『隙』を突ける余地も出てくるだろう。

 優位なのには変わりない。ナイアはそう考えなおしていた。


 ――……ふふふ、思い通りね……!


 プラムたちの動きが手に取るようにわかる。

 右腕以外の残る『神核』を奪おうと狙っているのが見え見えだった。

 狙われる場所さえわかっていれば防御も回避も、そして反撃も容易だ。

 とどめを刺しきれてはいないものの、着実にプラムたちを削っている実感がある。

 プラムたちはというと、無駄に自分たちを削っているだけでナイアに対して有効打を与えられていない。


『あははははっ! そろそろ終わりかしらね!』


 残り時間1分近く。

 ここに至るまで無駄な攻防だけが繰り広げられ、プラムたちの戦いが徒労に終わることをナイアが確信した時だった。


「そう、ね……終わり、に、しましょう、か……!」

『……はぁっ!?』




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ナイアの思考は、完全にプラムたちによって誘導されていた。

 『神核』が重要な要素だと理解しているならばそれを狙うはず――と思わせるために、敢えて無駄にプラムたちは狙っていたのだ。

 もちろん奪えるのであれば奪うつもりではいたが、それがマストではない、というのが共通認識だった。

 彼女たちが一番優先していたのは、『10分間を確実に生き残る』なのだ。

 10分間で自分たちが倒せれば理想だがそれが難しいのはわかっている。

 かといって10分もたずに倒されてしまっては何の意味もない――【支配者】に唯一対抗できるアリスの完全回復まではどうしても時間を稼ぐ必要がある。

 『神核』を狙っていると思わせたのもそのためだ。

 狙いを絞れば迎撃しやすい、というナイア側の利点はそのままプラムたちにとっても利点となりえる。迎撃されるのがわかっているのであれば、逆に防御しやすいというわけだ。




 そして、各々の使い魔から《停滞の邪眼》効果時間が残り1分を切ったことを告げられ、プラムたちだけでなく後衛もまた動き始める。

 じわりじわりと、ナイアが気付かぬうちに……というよりも前衛が『神核』を狙っているように見せかけてナイアの気を引くことで、後衛からの注意を更に逸らさせて距離を詰めていたのだ。


「皆、ミオのカバーをお願い!」


 ラスト1分。一斉に最後の攻撃へと移ろうとする。

 その中においてミオだけは若干攻撃までの時間がかかってしまう。


重撃かさね《二段》――」


 霊装を刀形態へとし、鞘へと納めた後にミオは自身の最大の攻撃である重撃を複数回重ねた一撃の準備を開始する。

 重撃を複数回使う都合上、どうしても『溜め』時間がかかってしまう。それゆえ、ラスト1分になるまで誰もが見せかけの攻めだけを行い、時間を稼いでいたのだ。

 全ては最後の1分に全てを賭けるために。




『ふんっ、何をしようとしているのか知らないけど、無駄なのよ!』


 たった1分で何ができる――そうナイアは鼻で笑う。

 彼女からしてみれば、やれることは『《停滞の邪眼》が切れる前にナイアからひたすら遠くへ逃げる』以外にないとしか思えない。【支配者】でいいように操られないように――アリス復帰後の『邪魔』とならないためにはそうする以外にないと思っている。

 だから、逃げようとせずに向かって来ようとしているのを見て嘲笑う。

 今までナイアに通じる攻撃をできなかったユニット如きが、残りわずかな時間で有効打を与えられるわけがないと。


「【日陰者シェイダー】――我が真影よ、天を覆え! シャドウアーツ《ダークネスムーン》!」


 最初に動いたのはキンバリーと、


「スティール! ……行くぜ、キンちゃん!」


 キンバリーの作り出した『影の月』を自らの霊装へと変えスティールしたオーキッドだった。


『!? こ、こいつらいつの間に!?』


 ナイアはそこで自分が前衛に集中するあまり後衛への注意が疎かになっていたことにようやく気付いた。

 今ならばピース軍団を出現させても、エンペルシャークの砲撃でまとめて吹き飛ばすことができないほどの距離だ。無理に砲撃すれば、前衛か後衛が巻き込まれることになってしまう。

 ――そこですぐさま判断し、行動できないのがナイアの『弱さ』だった。


「キンちゃん言うな。

 ……征くぞ、盟友!」

「おう! ライドウ海賊団奥義!!」


 『名もなき島』でムスペルヘイムへと、月の破片を落としたのとは違う。

 砕かず、を相手へと叩きつける、アリスの巨星魔法さえも凌駕する極大星魔法――


「「《影月墜としルナ・ストライク》!!!」」


 直径数十メートル……いや、百メートルを超えようかと言う暗黒の月が『アルアジフ』へと降り注ぐ。


『こ、こんなもの……!!』


 回避は――可能ではある。

 が、ここで避けたら《バエル-1》へと《影月》は落ち、下手をすれば《バエル-1》が墜落することになるかもしれない。

 《バエル-1》を落とさせるわけにはいかない……それは決してルールームゥのことを案じてではない。

 《バエル-1》最深部に隠してある『ピース製造装置』を失うことを恐れてのことだった。

 もしも『ピース製造装置』を失ってしまったら、もう二度とピースを作ることはできなくなってしまう。そうなったらピースたちは当然のこととして、エキドナの分身である『ドクター・フー』も作れなくなってしまうのだ。

 再度装置を作ること自体は不可能ではないが、『ゲーム』の期間中に完成させることは不可能だ。現実の時間で数か月は必要になってしまう。

 自らの保身と天秤にかけ、ナイアは『アルアジフ』で《影月》を受け止めることを選択した。


『く、おおおおおおっ!』


 ここでもまたナイアは判断ミスを犯した。

 《バエル-1》を守ることを選択したのもミスであるし、受け止めることを選択したのもだ。

 ここは『クトゥガ』へとエクスチェンジし、その火力を以て《影月》を吹き飛ばすことが最善だったろう。既に『クトゥガ』の冷却期間は過ぎていたのだ。この後に控えているであろうアリスとの戦いへと向けて温存するのではなく、自らの身を守るために使うべきであった。

 ……結局、ナイアには自らの手で戦う気概もなく、経験もなく、判断力もなく、それでいて中途半端なプライドのせいで徹底的に『逃げて守る』ことができなかった。


「アンジェ、リカ……お願い、ね」

「任せてください!」


 『アルアジフ』が押し潰そうとする《影月》を受け止め、身動きが取れなくなってしまった。

 プラムたちにとっては、最後にして最大の攻撃チャンスだ。


「イグニッション《インフェルノ・オーシャンズ》!!」


 残り全ての魔力を使い果たす勢いでアンジェリカが周囲を火の海へと変える。


「気を付けた方がいいですよ。私の炎は、一度着いたら二度と消えませんからね!」


 点火魔法イグニッションはただの火炎を放つ魔法ではない。

 いわば、『燃料をまき散らして燃やす』魔法だ。現代兵器でいう『ナパーム弾』に近い魔法と言えるだろう。

 だから迂闊に炎を突っ切ろうとしたら、身体に燃料――アンジェリカの魔力が纏わりつき、延々と消えることのない炎に包まれることになる。

 自動的に動くショゴスはもちろん、ピースの中でも炎を防ぐ術のないものたちは為す術もなく炎に焼かれてゆく。

 中には何とか炎の海を越えてくるものもいたが、数はまばらだ。アンジェリカは自ら霊装を振るってそれらを迎撃。『仲間』の邪魔はさせまいとする。


「アクション《エナジーチャージ》!」

「シルバリオン『砲撃モード』!」


 オーキッドたちがナイアの動きを止め、アンジェリカが『雑魚』を止めている間にプラムたちはそれぞれ『最後の一撃』のための準備を進める。

 ミオほどではないにしろ、どれも強力無比な威力を発揮するために『溜め』時間が必要となるのだ。


『時間稼ぎ……!? なめんなぁぁぁぁっ!!』


 ナイアはプラムたちの意図を悟る。

 オーキッドたちの大技を使って『時間稼ぎ』をし、動けないナイアを攻撃しようという魂胆なのだと。

 だが思い通りに行かせるものか、と『アルアジフ』の全パワーを集中、《影月》を砕く。

 ……『神核』による強化を一時的に攻撃に回したことで霊装となった《影月》をも破壊する恐るべきパワーを発揮したのだ。それ自体は脅威と言えるだろう。

 それもプラムたちの計画のうちでなければ、だが。


『エクスチェンジ《ハスター》! あははははっ!』


 すぐさま『ハスター』へとエクスチェンジ、その場から飛び去り距離を離そうとする。

 いかにプラムたちが強大な攻撃を仕掛けようとしても、超高速飛行する『ハスター』を捉えられるわけがない。

 折角の『努力』も無駄に終わり、【支配者】によって操り人形となる――そんな結末を迎えることになる、そうナイアは信じて疑わない。


「シフト《オーバード・ギア》!!」

『はぁっ!?』


 しかし、エクスチェンジし空を飛ぼうとしたその瞬間、エンペルシャークから紫色の光が飛び立ち――


啊打アチョーォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

『なぁぁぁっ!?』


 飛び上がろうとした『アルアジフ』を


ハオ! 功夫の成果が出たアルね!」


 『アルアジフ』を殴り飛ばし、尻もちをつかせたのは今の今まで隠れ続けていた凛風リンファだった。

 彼女の持つ魔法シフトは身体強化の魔法だ。しかも、時間をかけて段階的に強化するという性質のため、《停滞の邪眼》で下手に状態を固定してしまうと大して強化の恩恵を得ることができない。

 だからこそ、彼女だけは《停滞の邪眼》をかけず、時間ギリギリのこのタイミングになるまでエンペルシャークの中に隠れ、シフトの段階を上げ続けていたのだった。

 ……かつては一撃放つのが精一杯だった《オーバード・ギア》でも、今ならばもう少し長くその力を揮えそうだ、と凛風は思う。


『ま、まだいたのか!?』


 まさかこのタイミングになるまで隠れているユニットがいるとはナイアも思っていなかった。

 しかも『アルアジフ』を殴り飛ばすだけのパワーがあるとは完全に予想外だ。

 そのせいでナイアは再び混乱し、正常な判断ができなくなっていた。

 ……状態を固定する《停滞の邪眼》が効いているのであれば、凛風がつい先ほど使ったシフトは本来ならば使えないはずだということに。つまり、凛風は【支配者】が通じるのだということに気付けなかった。


「ラスト20秒アル!」


 叫びながら凛風は更に『アルアジフ』へと打撃を加えようとする。


『こ、のっ!?』


 飛び立とうとした瞬間を叩き落されてしまうナイア。

 今の凛風に抵抗しようとすれば、『シュブニグラス』の力と硬さで挑むべきだったのだが、ここでも判断が遅れた。




 ――いや、結局のところナイアは詰んでいたのだ。

 オーキッドたちの《影月》、そして凛風という伏兵による強襲で冷静さを失い、それ以上に貴重な『時間』を失った時点でプラムたちの作戦勝ちが決まっていたのだ。


「『王手チェックメイト』、よ……!」

『!? し、しまった……!?』


 ナイアが気付いた時にはもう遅い。

 この場に集ったユニットたち、その最大最強の魔法が炸裂する。


「『虎拳爪』全集中! ブロウ――」


「アクション《マキシマムチャージ――」


「コンセントレーション《アクセラレーテッド・ワン》!」


閃刃きせき厳霊いかつち――」


「グロウアップ《聖天脅かすはユグドラシエラ――」


 ラスト10秒、この瞬間のために全員が耐え忍んでいたのだ。


『ひ、ひぃ――』


 拙い、とナイアが全力で逃げるのよりも速く、五方向からの同時攻撃が発動した。




「《颶風ぐふう拳》!!」


 凛風の右拳に集中した嵐の拳が、


「エレクティカ》!!」


 極限まで雷光の力を集中させたジェーンの爪が、


「シューティングアーツ《オールガンズブレイズ》!」


 加速された世界で、アビゲイルが一斉に放つ数百発もの弾丸が、


猛御雷タケミカヅチ》!」


 重撃 《二段》を十回重ねた1024発分を一か所に集中させた、ミオの居合抜きが、


巨神の咆哮ヨトゥンモーズ》!!」


 そして、プラムの放つ巨神の拳が、


『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 猛悪の化身・ナイアを木っ端微塵に打ち砕いた――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




『おまえら……絶対に許さない……』


 しかし、ナイアはまだ生きていた。

 『アルアジフ』は極大魔法を五発同時に受け砕け散ったものの、ナイア本体を守る大魔眼――『アルアジフ』のいわばコクピットは無傷のまま残っていた。

 砕けた『アルアジフ』の破片と生き残っていたショゴスたちがすぐさま大魔眼に集い、瞬く間に修復をしてゆく。


「しぶとい、わね……」


 並の、どころかムスペルヘイムクラスのモンスターであっても数回は余裕で死んでいると思えるほどの攻撃を受け、本人は無傷のまま復活してくるとは――覚悟はしていたとはいえ信じがたかった。

 同じ攻撃を連発し続ければもしかしたらいつか倒せるかもしれないが、もう魔力も尽き欠けているし極大魔法は体にかかる負担も大きい。

 ジェーンや凛風、アビゲイルはたとえ魔力があったとしてももう撃つことはできないだろう。

 それ以前に、もはや《停滞の邪眼》の効果時間が切れるのだ。

 チャンスは二度と訪れない。


「……ま、やるだけやったしね、後はアリスに任せるよ」

「そうね……自分で借り返せないのは癪だけどね」


 自分たちの敗北が決まったというのに、ジェーンたちは悔しそうな顔一つ見せない。

 それがナイアにとっては不可解ではあるが、それ以上に『不快』だった。


「後、は……任せた、わよ!」


 プラムがそう叫ぶと共に、背後に向かって『何か』を投げつける。

 プラムだけではない、ジェーンも凛風もアビゲイルもミオも――それぞれが後方へと物を投げる。


『!? ああ、くそっ!? コソ泥が!!』


 それは『アルアジフ』から奪い取った残り5つの『神核』だった。

 先の総攻撃で『アルアジフ』が砕けると共に落ちたものを拾っていたのだろう。


『ふんっ、負け犬なら負け犬らしく吠えてろってのよ!

 ああもうむかつくむかつくむかつく!! 【支配者】の命令よ、《全員アリスを攻撃してから飛び降りて死ね》!!』


 数秒で再生し終わった『アルアジフ』の中で、せめてもの溜飲を下げようと【支配者】で全員に命令。

 もう《停滞の邪眼》で防ぐことは出来ない。

 『神核』の回収はいつでもできる。まずはありすを確実に始末することが先決だと判断。

 ナイアの命令に従い、プラムたちがふらふらと立ち上がり背後に来ていたありすたちへと迫り――


『…………へ?』


 数歩進んだところで、次々とユニットたちが

 誰かに攻撃されたわけでも、使い魔たちがクエストから離脱したのでもない。

 勝手に消えた……いや、、としか思えない事態だった。




 《冥界柘榴ヨモツヘグイ》……プラムの切り札の一つであるそれは、使用者を一時的に『無敵』状態にするが同時に効果時間が切れると同時に強制的にリスポーン待ちにするという効果がある。

 戦いの前にプラムはあらかじめユニット全員に《ヨモツヘグイ》を分け与え、《停滞の邪眼》の効果終了と同時に使っていたのだ。

 リスポーン待ちの間は当然【支配者】で操ることは出来ない。

 初めからこうなることまで含めての計画だった。

 10分間を《停滞の邪眼》で凌ぎ、ダメならば《ヨモツヘグイ》で操られることなくリスポーン待ちになる。

 リスポーン待ちの間使い魔がノーガードになることは承知の上、全ユニットと使い魔はこの作戦に賭けることとした。

 なぜならば、必ずラビたちがその後に立ち上がると信じていたからだ。


”ブラン、皆を頼んだよ!”

「まかせろ、つかいま!」


 ナイアが事態を把握するよりも速くラビたちが動く。

 無防備となった使い魔たちをブランに任せ、完全に魔力を回復させたアリスがラビと共に『アルアジフ』へと駆ける。


『……く、はははははっ! 時間稼ぎご苦労さまってとこかしら!? 邪魔な奴らは勝手に消えたし、後はあんたたちを倒せばいいのには変わりないわ!』


 突然の乱入者によって翻弄され、まんまとアリスの回復をさせてしまったが、所詮ただ一回分の完全回復だ。

 アリスの手持ちのアイテムも、ラビのアイテムも補充できているわけではない。

 プラムたちが来る直前の状況に戻った――ただそれだけである。

 ならばやはり自分に負ける道理はない。

 この馬鹿げた騒ぎエクストラヴァガンザも今度こそ自分の勝利で終わる。

 ナイアは今度こそ確信した。




 ――その確信が崩れるのはすぐだった。




 地を駆け、ナイアへと迫ろうとするアリス。

 再生を終えた『アルアジフ』であれば、『クトゥルフ』の再生力、『ハスター』の機動力、『シュブニグラス』の力と硬さ、『クトゥガ』の火力――どれを使っても余裕で勝てる。

 さて、何でアリスを潰そうかと舌なめずりをするナイアは――実にだった。


『な、なに!?』


 走るアリスの背から、

 二対四枚の翼が生えたアリスが急加速、プラムたちが最後の力で投げた『神核』、そして同じくオーキッドが奪い取っていた『神核』を回収すると、


「ナイアァァァァァァァァァッ!!!」


 そのまま空を飛び、ナイアを『アルアジフ』ごと殴り飛ばす。


『ぐああああっ!? う、嘘でしょ!?』


 凛風が限界まで肉体を酷使する強化魔法を使って殴り飛ばしたのとは全く事情が異なる。

 《邪竜鎧甲ファヴニール》等を全く使っていない状態で、素手で殴り飛ばしたのだ。

 明らかにさっきまでのアリスとは異なる。

 腕力だけではない、背の翼も――とそこまで考えて、ようやくナイアは気が付く。


『ま、まさか……』

「ふん、今更気付いたのか、阿呆が」


 宙に浮かび、倒れた『アルアジフ』を見下ろしながらアリスが叫ぶ。


「【詠唱者シンガー】起動!」

<うふふっ、ようやく出番ですね♪>

<待ちくたびれたみゃー>

<ばっちし全快してるにゃー>


 アリスが【詠唱者】を起動すると共に、周囲にガブリエラ、ウリエラ、サリエラを模したミニ天使の幻像が現れる。




 これこそが、ありすが事前に仲間たちに提案していた最後の切り札。

 すなわち、【支配者】の通用しないアリスをベースとし、ガブリエラの融合魔法リュニオンで合体して能力を極限まで高めた『最強』のユニットを作り出すというものだ。

 ありすが言った通り、『これで勝てなければもう無理』というのも確かだろう。

 今のラビたちがどれだけ努力しようが作戦を練ろうが、アリスとガブリエラのリュニオンという『純粋な力』でさえ通用しないというのであれば、天地がひっくり返ったとしても勝ち目がないことを意味している。

 正真正銘、言葉通りの『最後の切り札』をついにアリスたちは切ったのだ。




 アリスを送り込むために仲間たちが道を開き、ケイオス・ロアたちが助けナイアを戦場に引きずり出すことができた。

 そのナイアに一人では勝てず、異世界から駆けつけてきてくれた仲間が時間を作ってくれた。

 仲間が作ってくれた時間のおかげで、アリスたちは完全回復し、万全の態勢でリュニオンすることができた。


”……皆、本当にありがとう。皆のおかげで、私たちはここまで来れたんだ”

「ああ。オレたちの――使い魔殿の今までの戦いは、無駄じゃなかった」


 ラビたちが今までのクエストで誰か一人でも犠牲にするようなことをしていたら、きっと今日この場に仲間たちは集っていなかっただろう。

 集ったとしても、きっとナイアを追い詰めアリスに最後のチャンスを与えることはできなかっただろう。

 今までの戦いの軌跡において紡いだ絆こそが、ナイアを追い詰める最後の一押しとなったのだ。


『馬鹿な……そんな馬鹿な……!!』


 一方、ナイアは再び自分の計画が崩れたことを悟り、驚愕とも恐れともつかぬ叫びを上げる。

 強化魔法すら使わず、素の攻撃力で『アルアジフ』を殴り飛ばすようなパワーは全くの計算外だ。

 しかも、魔力は全員完全回復している状態――つまりこれから更に強力な攻撃を放ってくることを意味している。


”ナイア……今度こそ、本当に最後の戦いだ”

「覚悟はいいか?」


 怯えるナイアを見下ろし、ついにアリスはいつもの笑みを浮かべ宣言する。


「行くぜ――処刑の時間パーティータイムだ」

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