第9章51話 Let's get this party started!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『なんなの……もう、本当になんなのよ、あんたたちはぁぁぁぁぁっ!!』
再び現れた予定外の乱入者に、心底苛立ったようにナイアはヒステリックに叫ぶ。
叫びながらトラペゾヘドロンを振り回し、乱入者もろともアリスを叩き潰そうとするが、
「《ロゥ・ゴゥ・ウィスト》! ちょっとがまんしてて」
ブランはアリスとラビを抱えて素早くその場から離れる。
冷たい風を勢いよく噴き出し、
たとえ結晶竜であってもトラペゾヘドロンを直撃されたら拙い。仮体であればなおさらだ。
”ブラン、なんでここに!?
「さくせんへんこー」
”!?”
《バエル-1》の上に安全な場所があるかはわからないが、とにかくナイアの攻撃が当たらない位置に移動しなければならない。
『くそっ、本当にイラつく……! エクスチェンジ《シュブニグラス》!』
ナイアは再度『アルアジフ』をエクスチェンジで変化――全身が青黒い《シュブニグラス》へと換える。
属性は『土』、そして大地が育む『生命力』だ。
『アルアジフ』の身体が大きく膨張、そして大広間の時同様に両腕が無数の細い腕に分裂する。
『ロード《ダークヤング》!」
更に『アルアジフ』の身体から青黒い塊が幾つも分離、小型のゴリラのような魔法生物が現れる。
「うわー……なにあれきもい」
素直な感想をブランは思わずつぶやく。
もちろんまともに戦うつもりはなく、アリスとラビを抱えたまま《バエル-1》の上を逃げ回ろうとする。
……が、彼女たちがいた場所が悪かった。
”拙い、行き止まりになっちゃう!?”
広くなっている『ゴエティア』方向に『アルアジフ』がおり、そこから
『ゴエティア』から離れるように移動しているため、《バエル-1》の首部分――エクレールが破壊した通路の方に逃げざるを得なかったのだ。
だが、ブランには焦る様子はない。
空を飛んで《バエル-1》から離れる――という選択を取るつもりなのか、しかしそうしたところで何の解決にもならない。
「しょーじゅん、よし。
”へ? え!?”
ブランの声に応えるかのように、空を裂くかのような虹色の柱が現れる。
それはラビたちにとって見慣れた――『クエストのゲート』の光だ。
ただし大きさはいつもとは桁違いである。《バエル-1》をも飲み込みかねないほどの大きさだ。
『な、なに!?』
それが『ゲート』だということはナイアにもわかったのだろう。
だが、なぜこんな場所に――『ゲーム』の範囲外であるはずのエル・アストラエア上空に現れたのか……いや、それ以前にこのタイミングで『ゲート』が現れたのか、見当もつかずこちらも混乱している。
ラビたちもナイアも混乱しているが、ただ一人ブランだけは状況を把握していたために焦る様子はない。
「つかいま、さくせんへんこー。きんいろをりすぽーん? させないでもだいじょーぶ」
”それはどういう……?”
先ほどアリスは自分が死ぬ覚悟――つまりリスポーンすることを覚悟してトラペゾヘドロンを受けようとしていた。
それこそが、ラビたちの作戦であったのだが、なぜかそれをブランも知っていた。
しかしアリスの
その『よりよい作戦』こそが、この『ゲート』の出現――
「な、なんだありゃ!?」
未だ状況が飲み込めず、ブランに抱えられるままだったアリスが『ゲート』の中から現れたモノを見て困惑の声を上げる。
”ふ、船……いや、戦艦!?”
『ゲート』の中から垂直に落ちてくるように現れたのは、ラビの言葉通りの鋼鉄の船……本来ならば大洋を駆けるべき『戦艦』だった。
ルールームゥの変形する
大きさは《バエル-1》には流石に及ばないが、それでも全長は数十メートルはあろうかという、大型モンスターにも匹敵するものであった。
ともあれ、空を飛ぶはずのない戦艦が『ゲート』から現れたのだ。
「
その声と共に、甲板上に備え付けられた三連装主砲三期が一斉に火を噴き、『アルアジフ』を狙う。
『なっ……なんなの、これ!?』
咄嗟に防御する『アルアジフ』であったが、着弾の衝撃こそあれど
『アルアジフ』に命中しなかった流れ弾は《バエル-1》へと当たり、霊装並の硬度を持っているにも関わらず装甲を削ってゆく。
”今の声……それに、エンペルシャークって――まさか!?”
ラビには聞き覚えのある声だった。
『ゲート』から現れた巨大戦艦『エンペルシャーク』が《バエル-1》のすぐ傍で主砲を向けたまま停止。
と同時に、船の舳先に一人の少女が現れる。
黒い海賊帽にコート、左目に髑髏マークのアイパッチをつけた、どこからどう見ても『海賊』であることを全力で主張しているその少女を見てラビは確信する。
「フッ……フハハハハハハハハッ!!
世界の宝はアタシの物! お宝のためなら異世界にだって渡ってやらぁ!! ライドウ海賊団船長キャプテン・オーキッド参上!!!
さぁ、
”お、オーキッド!?”
それは、かつて『名もなき島』で共にムスペルヘイムと戦った、海賊少女――キャプテン・オーキッドだった。
『くっそ……次から次へと、わけわかんないのよ、あんたたち!!』
先ほどの攻撃で自分にダメージがなかったことから、新たな乱入者がユニットであると気付いたナイアは内心の混乱を隠さずに叫ぶ。
ケイオス・ロアたちの乱入もそうだが、なぜまた新たなユニットが紛れ込んでくるのか。
攻撃が通じないということは、対戦状態にあるラビのユニットでもない――全く異なる使い魔が突然クエストに参加してきたということなのか。
想定外、しかも全く考慮すらしていなかったことが立て続けに起き、ナイアは混乱の極致にあった。
『でも、ユニットであってもピースなら!』
”あ、拙い……!”
対戦状態になくともピースならば問題なく攻撃することができる。
狭い足場ではあるが、ダークヤングを消して替わりに『ゴエティア』内部でやったようにピース軍団を呼び出す。
戦艦からの砲撃は脅威ではあるが、《バエル-1》を壊すほどの威力はない。であれば、クリアドーラやエクレール、さもなくばフブキやボタンの能力で容易に止めることはできるだろう。
ピースたちで攻撃、アリスへのとどめを自分で刺そうと考えるナイアであったが……。
「ちょっと、キャプテン! 違うでしょ!?
こういう場合は――」
「……全く、仕方ないわね」
更に二人、エンペルシャークの甲板に現れた少女たちがそのまま《バエル-1》へと飛び移りながら――
「シューティングアーツ《レイダーシューティング・サンシャイン》!!」
「
何本もの降り注ぐ光の柱がピースたちが反応するよりも早く降り注ぎ、更に飛び込んだもう一人の振るった刀が凄まじい旋風を巻き起こし一瞬で斬り裂いてゆく。
”アビゲイル、ミオ!?”
「や、ラビにアリス。『騎兵隊の到着よ』! ……こういう場合は、こうでしょ?」
「もう……アビーったら」
白銀の馬に跨ったガンマン・アビゲイルと、和風の巫女服に身を包んだ少女・ミオ――かつて『冥界』で共に戦ったユニットたちだ。
『くっ……えぇい、まだまだピースはいるわ! そいつら纏めて――』
「纏め、て……全部、なぎ倒す、わ……!」
「激しく同意!」
『!?』
更に二人――
「アクション《ベルゼルガー・モード:ゴールド》!!」
その身を雷光へと変えた少女が、正しく雷の速さで突撃。『アルアジフ』の足へと突進して大きく揺らがせる。
「グロウアップ《
もう一人がその攻撃に合わせ自身を強化。
黄金のオーラを纏い、真正面から『アルアジフ』の顔面を蹴り飛ばす。
『うぐぁぁっ!?』
バランスを崩していた『アルアジフ』はその衝撃に耐えきれずに転倒してしまう。
”プラムに――”
「ジェーン!?」
ラビたちを守るように『アルアジフ』との間に二人が降り立つ。
「言った、でしょ……あなたたちが困った時、には、必ず……助ける、って」
「そういうこと!」
緑のドレスに身を包んだ
「くくく……シャドウアーツ《ダークネスバインド》」
『!? こ、こんなもの……!』
倒れた『アルアジフ』の周囲の影が蛇のように蠢き、そのまま縛り付けようとする。
”この魔法は……キンバリー!”
「いかにも。久しいな、
黒い日傘に装飾過多のゴシックドレスに右目に埋め込まれた青薔薇……キャプテン・オーキッドの相棒・キンバリー。
他にもエンペルシャークの甲板から続々と見知った顔のユニットたちが姿を現す。
”ど、どうして……皆……?”
なぜ突然他のユニットが現れたのか、ナイアだけでなくラビにとっても不可解なことだった。
それでも一つだけ確かなことは――
”……決まってんだろ、ラビ”
”トンコツ!?”
ぶっきらぼうな青年の声と共に、ユニットたちがそれぞれの使い魔と共に《バエル-1》へと降り立った。
『あ、あんたたち、一体……!?』
『どうやって来た』『
トンコツがブランから降りたラビの元へと駆け寄る。
”……おい、ラビ”
”え、え? う、うん……?”
”
”……っ”
唐突なトンコツの問いかけにラビは思わず答えに詰まる。
……ラビにはトンコツが何を訴えかけているのか、それだけで理解できてしまったのだ。
同時に、トンコツの言葉に幾分かの『怒り』が含まれているのを感じ取っていた。
”……ふ、フレンド……”
”ほう? それだけか?”
”…………いや、違う。仲間――いや、『友達』だと思ってる……”
この期に及んでラビは下手な言い訳をしなかった。
『ゲーム』のシステム上でいう『フレンド』、それは確かにそうだろう。
共に数々の困難を乗り越え、協力し合う『仲間』、それも確かにそうだろう。
しかしそれ以上に、ラビはトンコツに対して確かに『友情』があると感じていた。
……相手がどう思うかわからないし、何よりも今更『照れくさい』、と敢えて誰にも口にはしなかった感情ではあるが――
トンコツはラビの答えを聞くと、更に詰め寄り叫んだ。
”なら! どうすりゃいいかわかんだろ! 何で俺たちが来たのかもわかんだろうが!
俺たちはお荷物か!? 足手まといか!? 役立たずか!?”
”! トンコツ……”
彼の『怒り』の意味を自分が間違えて解釈してはいないだろうか、というわずかな疑念はキレイに消えた。
友達の助けを必要としていない、友達に必要とされていない、そういう『怒り』だ。
ラビに対してだけではなく、頼られない自分自身に対する『怒り』もあるだろう。
……このクエストに旅立つ時に状況が不透明なことなどもあり、敢えてトンコツとは別行動にしたのではあるが、それでも例えばエル・アストラエア滞在中等で時間を取って会話することも救援を求めることもできたはずだ。
だがラビはそうしなかった。
その結果が、ナイアに追い詰められた今の状況だ。
もしもの話に意味はないが、もしかしたら――友達に頼っていれば、もしかしたらエル・アストラエアは壊滅することもなく、もっとより良い形でナイアとの最終決戦を迎えられたかもしれない。
……そうした後悔は、確かにラビの中にあった。
”トンコツ――それに、皆”
思わず泣きだしそうになるのを堪え、ラビは集った『友達』に向かって言う。
”来てくれてありがとう。そして……お願い、
おそらくは――ラビが『ゲーム』に参加してから初めて、他人へと助けを願ったことだろう。
このままラビたちだけで戦っていても、ナイアに勝つことは難しい――それほどまでにナイアたちアビサル・レギオンの力は圧倒的だった。
ここまでほぼ単独で戦ってきたこと、そして勝ち残ってきたこと自体が奇跡のようなものなのだ。
しかし、ここから先はラビたちだけの奇跡ではきっと勝てない。
だから『友達』に頼るしかない。
”――最初から素直に言え、バカ”
そう言って笑いながら軽くラビを小突くトンコツ。
”ふむ……ラビ氏への恩をこれだけで返せるとは思えないが”
”うふふっ、あたしも――っていうより、アビーとミオも恩返ししないとね”
”はぁ、ラビを助けるのは吝かじゃないけど、あの
”ぬははははっ! 相手にとって不足なし!”
『くそっ、どいつもこいつも……ふざけやがって……!!』
『アルアジフ』が影の拘束を引きちぎり立ち上がると共に、5人の使い魔とそのユニットたちが立ち塞がる。
「くくく、
「あたしらの方は準備オッケーだよ、師匠!」
「こいつが『冥界』の黒幕なんでしょ? あの時の借り、返し足りなかったのよね!」
全員が既に戦闘準備を整え終わっていた。
どこからピースが現れても即時対応できる態勢だ。
「それ、じゃ……正義のヒーローらしく、『悪者退治』……始めま、しょう、か」
『あたしの邪魔すんじゃないわよ……!』
いかに数が揃っていようとも、対戦相手でなければ妨害することしかできない。
ピースも不意打ちでやられはしたが、まだまだ数で圧倒することもできる。
ナイアにとっては面倒が増えた程度の認識でしかない――が、勝利まであと一歩だったところを邪魔されたことに対しては苛立ちを覚えた。
”ふんっ、俺たちゃ『ゲーム』をエンジョイしてーんだ。
『何を……! この、ガキの癖に……!!』
”『ゲーム』の邪魔はさせねぇ、ラビを倒させもしねぇ、ついでにアストラエアの世界も好きにはさせねぇ。
――てめぇが消えろ、クソったれ野郎!”
『……っ!?』
トンコツが啖呵を切ると共に、ナイアへと向かって一斉に乱入対戦依頼が飛んでくる。
この場に集った5人の使い魔――トンコツ、ヨーム、バトー、タマサブロー、ライドウからの対戦依頼にナイアは怒り狂う。
『……ふざけんな……! ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁぁぁぁっ!! あんたらみたいなゴミがよってたかって調子にのんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』
片付けることはできる。
が、トンコツたちの『舐めた態度』はナイアの逆鱗に触れた。
――己に向けられた
自身の邪魔をするものは何者であろうとも排除する。
何よりも、『ゲーム』のルールを逸脱したナイアの所業を他の使い魔に見られるわけにはいかなかったからだ。
ラビとアリス共々、まとめて葬り去る――計画の邪魔者たちへの報復と苛立ちの憂さ晴らしのため、ナイアは標的を定めなおすのだった。
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