第9章47話 Strike back
* * * * *
まさか、ここでケイオス・ロアと再会することになるとは思っていなかったなぁ……嬉しい援軍ではあるんだけど。
「しっかし、あいつらどうやってここに来たんだ?」
”あー、それは多分
「オルゴールの?」
私の予想でしかないけど、そう間違ってないんじゃないかとは思っている。
オルゴールが単独で『天空遺跡』のクエストに乗り込んできたのも、きっと偶然じゃない――どういう理由かはわからないけど、おそらく私たちと似たような理由で使い魔に送り込まれたんじゃないかと思っている。
彼女が私たちに着いてきたがっていたのも、単なる好奇心や正義感なんかじゃなくて、『この時』のため……なんじゃないだろうか。
ま、正確なところはオルゴール本人に聞いてみなければならないだろうけどね。
ケイオス・ロアたちが正確に空中要塞、それもピンポイントで私たちのところにやってこれたということを考えると、どうしてもオルゴールが呼び寄せたとしか思えない。彼女なら、私たちが『塔』の内部に入ったのを知っているわけだし。
「ふん、まぁその辺りは後で聞くとしようか。
……その、使い魔殿……美鈴のことなんだが……」
”……あ……それは、その……”
ナイアの元に移動しながら、アリスは言いにくそうに口ごもる。
……そうだよねぇ……ケイオス・ロアのことは気になるよねぇ……。
こんなことならもっと早くに美鈴に話を聞いておくべきだったと後悔する。
いやまぁ話す機会自体は何度かあったんだけど……メインは(一向に進展しない)恋の相談だったからなかなか切り出せなかったんだよね……。
って、それはともかくとして――
「驚いたか?」
”へ?”
私の心配をよそに、むしろアリスの方が申し訳なさそうに訊ねてくる。
……あれ? この反応って、もしかしなくても……。
”アリス、美鈴のこと気付いてたの!?”
「ん? ああ。使い魔殿が何も言わないから気付いてないんだと思って黙ってたんだが……知ってたのか?」
え、マジで!?
”い、いつ気付いたの!?”
「うーむ、あれは確か……『嵐の支配者』の前辺りだったか? リアルで美鈴と会った時に『もしかしたら』とは思っていたが、確信したのは美鈴が『眠り病』にならなかったと聞いた時だな」
……私が『美鈴が「ゲーム」の記憶を持っているのでは?』と思った時と同じタイミングか!
ありすが美鈴と一緒に美々香にドラハンの特訓をしていた日の帰り道のことだ。
あの時に私は美鈴の発言や行動から、『ゲーム』の記憶を持っている――具体的には
で、確信したのは『嵐の支配者』戦でケイオス・ロアと遭遇した時だ。
……マジかー……じゃあ、さっさとアリスに話しちゃえばよかったのかなー……でも本来ならユニット解除後は再びユニットになれないはずの美鈴が、ケイオス・ロアとしてまた『ゲーム』に参加しているっていう不思議な状況の謎もあったしなー……。
「なんだ、使い魔殿も知ってたんだな。じゃあとっとと話して、美鈴にも聞けばよかったな」
”……だ、だね……”
心配、ってほどの心配事ではなかったけど、気がかりだったことの一つがあっさりと解決してしまったなぁ……。ていうか、アリスも意外と鋭いな、失礼かもだけど。
……まぁ美鈴に聞いて彼女の置かれている状況がすっきりさっぱり判明するかというと、それはそれでちょっと怪しいところもあるんだけど……。
「ふん、これで気がかりはなくなったな。
――そろそろ終点だ。覚悟はいいか?」
”! うん、もちろん!”
途中からは自分の足で移動することになり少し時間はかかってしまったけれども、終点が見えてきた。
外からはちらっとしか見てなかったからわからなかったけど、『塔』はかなりの高さだったみたいだ。
『塔』を昇り切り、いかにもな扉が目の前に現れた。
――この奥にナイアがいる。
気配とかそういうのを感じるわけではなく、それでもきっとそうだという確信があった。
”いきなり攻撃とか仕掛けてくるかもしれないから、気を付けて”
「ああ。奴もなりふり構わずくるだろうしな」
ケイオス・ロアたちがピースを食い止めている間に決着をつけたい。
皆を呼ぶかどうかは来る途中迷ったけど、全員体力も魔力も大きく増減しているわけではなくひとまずは大丈夫そうなため温存だ――遠隔通話ができないってのが不便だけど、いきなり呼び出すには状況がわからなすぎて怖い。
残る妨害はルールームゥとエキドナくらいだけど、もし妨害するのであれば『塔』を昇っている途中なんじゃないかなって気はする。もちろんナイアと一緒になって攻撃するというのも考えられるが、ナイアが前面に立つのはギリギリまで避けるはず……というのが私たちの予想だ。
ならば、ここから先はナイアとの一騎打ちになるだろう。
【
罠や不意打ちは警戒しておくべきだ。
「では行くぞ――cl《
ケイオス・ロアの回復魔法、《リカバリーライト》によってなぜか傷だけでなく体力や魔力までもが回復していたのは嬉しい誤算だった。
……以前の時といい、ホーリー・ベルとは似ていても異なる魔法を使っているのは気にはなる。彼女曰く、『いずれ敵対する』ことを考えれば間違いなく強敵となるだろう。
いや、今はそこまで先のことを考えても仕方ない。
アリスの巨星魔法によって扉は吹き飛び――
「はぁ~……まさかここまで来られちゃうとはねぇ~……」
警戒していた不意打ちもなく、大広間の奥にある玉座に頬杖をついて座っていたナイアが、心の底から不満そうにため息混じりにそう言った。
「ふん、散々好き放題してくれたな、ナイア――この借り、百倍にして返すぞ」
クリアドーラ戦後のピースたちとの戦い……あの時アリスが感じた屈辱は計り知れない。私だって怒りで頭がどうにかなりそうだったくらいだ。
あの時の屈辱と、今までのこと……そしてこの世界へとやらかしてきたこと。
諸々全てを奴に倍返しする。
泣いても笑ってもこれが最後、正真正銘の最終決戦だ。
「貴様一人か」
だだっ広い広間には隠れられるような場所はない。
まぁピースたちはともかく、エキドナとルールームゥはいきなり現れてもおかしくはないか。が、先に考えた通りここに至るまで出てこなかったということは、乱入してくる可能性は低いとは思う。
そしてピースたちもケイオス・ロアたちが抑えてくれている限りは出てこないと思う。
ルールームゥがどこかから運んでこない限りは、だが。
”ピースたちも来ないようだね。まぁ、途中から呼ぶくらいなら最初からここに配置してただろうけど”
「……」
ナイアが不快そうに顔を歪めるのが、私の予想を裏付けた。
おそらく、ピースは『製造工場』みたいなのがあるんだと思う。当然のことながら、創られたピースたちはそこから出てくることになる。
で、今私たちがいる大広間は、捉えようにはよるけど『空中要塞の端っこ』になるのだ。直通の通路でもない限りは、私たちが来たのと同じルートでなければピースたちもたどり着くことができない。
そしてあらかじめ大広間にピースたちを配置していなかった理由は、さっきのクリアドーラのおかげで推測できる。
ピースは同時に複数体出現させることは出来るが、『中身』があるとそれは無理なのだ。だから、直前まで私たちと戦っていたピースたちを複製することができず、大広間に待機させられなかったのだ。
……ま、それ以前に『ここまでたどり着けるとは思っていなかった』から、大広間へと直接ピースを送れるようにしていなかったのだろう――ルールームゥの変形の構造上元々無理なのかもしれないけど、まぁそれは私が考えてもわかることじゃない。
「……仕方ないかぁ」
はぁ、と一度ため息を吐くと面倒くさそうにナイアが玉座から立ち上がる。
「総大将が自分で戦うってのもなんかなぁ~って思ってたけど――『最強の軍団』を崩されて腹が立ってるのは確かなんだよね。
だから、あたし自らの手であんたたちは始末してやるわ。おいで、『ネクロノミコン』」
そう言うと共に、ナイアの右腕に光が集まり――奇妙な形の『杖』が現れた。
持ち手の部分は普通の杖なんだけど、先端につけられた飾りが『開いた本』のような形状となっている。
あれがナイアの霊装『ネクロノミコン』か。
「貴様、あのロボットは出さないのか?」
アリスはそう挑発する。
……エル・メルヴィンでのナイアとの戦闘の顛末については聞いている。
大きな人型ロボットの形をした霊装……それのせいでアリスたちはあっという間にリスポーンさせられたのだ。
それを出されたら困るのはこっちなんだけど、『百倍にして返す』ためにはクリアドーラの時と同じく『本気の全力』を出したナイアを叩き潰さなければという想いがあるのだろう。
……まぁ、仮に今出さなくても追い詰められたらきっと出すんだろうけど……。
「あー、『アルアジフ』ねー。ま、ここじゃ狭いし……
「……上等だ」
ナイアの挑発返しに、アリスはいつもの獰猛な笑みを浮かべて応える。
憂いはあるが、これまでに比べれば随分とすっきりとした状況ではある。
できればロボットを出される前に片を付けたいけど――アリスの気持ちもわかるし、何よりもその方が全力で戦えるだろう。
私にできることは、アリスが全力で戦えるように回復をし続け、そして状況を見て『切り札』の準備のために行動することだけだ。
「それじゃ、はじめよっか」
予想外のことで計画が狂って焦りが見えていたが、ここにきてナイアは平静を取り戻したかのように見える。
……エル・メルヴィンで一度自分の力でアリスたちに勝っているのがその根拠だろう。
たとえアビサル・レギオンが壊滅しようが、援軍がこようが自分の力だけで引っ繰り返せることができる――そんな風に思っているのかもしれない。
でも奴は知らない。
一度勝ったからなんだというのだ。
アリスはそんなもの気にすることもなく、引っ繰り返す少女だということを――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます