第9章7節 悪魔は努力を嘲笑う
第9章44話 終わりの始まり
私たちの目の前に現れたピースたち……。
「嘘だろ……!?」
見せかけだけの張りぼて――ではない。
「う、ぐ……アリス……」
「! クリアドーラ!?」
先頭に立つクリアドーラが苦しそうに呻き、アリスの名を呼ぶ。
……
彼女の苦しそうな、そして申し訳なさそうな表情を見る限り、アリスのことも覚えている――というか、ピースとしての記憶が継続しているとしか思えない。
「すまねぇ……」
「――ッ! ナイア、貴様……!!」
信じがたいことだけど、
……復活させられる可能性は考えていたけど、まさかノータイムで復活できるとは予想外だった。
しかもクリアドーラの様子を見る限り、ピースとしての記憶や意思は継続している――つまり、戦闘経験を引き継いでいるということになる。
『おっと、さっきまで動いてたからクリアドーラの「中身」が残っちゃってたかー』
「クソ、野郎……!」
『はい、デリートっと』
「…………」
”ナイア……!”
もう一度指を鳴らすと、苦しそうだったクリアドーラの顔から表情が一切消え、他のピースたち同様の人形のようになって無言でその場に立ち尽くすようになった。
生殺与奪どころか、意思すらもナイアの指先一つで決められる――改めてピースたちは本当は『被害者』側なのだと実感した。
――が、今彼女たちのことを考えている余裕は私たちにはない。
『ふふっ、中身は無くしたから……まぁ本来の力の大体7割くらいになっちゃうだろうけど――十分だよねぇ?』
状況を理解してないから笑っていたのではない。
本当に、本気で自分が負けるわけがないと確信していたがゆえに、アリスたちの戦いを嗤っていたのだ、こいつは……!
そしてナイアの言うことが本当で7割くらいの実力だとしても、ピース全員が同時に現れているこの状況は私たちにとっては致命的だ。
クリアドーラ一人であっても、アリスが全魔力を使い切る勢いでようやく倒せたのだ。
7割の力であっても楽に勝てる相手ではないだろうし、ましてや他のピースたちもいるのだから……。
『あははははっ! ねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇ!?
「降りてこい」キリッ、とかさぁ、うぷぷっ……キャーカッコイー』
「……ッ!!」
ギリッと自分の歯を噛み砕かんばかりにアリスが怒りで歯ぎしりするのがわかる。
私も同じだ。奴の言葉にハラワタが煮えくり返る思いだ――前世含めて、ここまでの怒りを感じたことはない。
だが……。
『いやー、うん。面白かった。十分笑わせてもらったよ。
でもさー……あたしとしても折角作った「最強の軍団」がやられて、ちょーっと腹が立ってるんだよねぇ……。
――だからさ、あんたたちは徹底的に苦しめて殺すね☆』
「! 来るぞ!!」
”う、うん!”
ナイアのふざけた態度の裏にある、こちらの背筋が凍りそうなほどの『殺意』が込められているのを私もアリスも明確に感じ取った。
その感覚が間違っていないことを証明するかのように、人形のようだったピースたちが赤黒い光に包まれる。
……『魔眼』が埋め込まれているか!
『意思』とかが抜けた人形を魔眼で操る……って感じなのだろうか。ナイアが一体ずつ操るとは思えない。自動操縦なんだろう。
魔眼に操られるまま、ピースたちが私たちへと向かって襲い掛かってきた――
* * * * *
『ふふふっ、おっと。ミスター・イレギュラーだけは殺さないように気を付けてねー皆。
あ、アリスちゃんの方は適当に八つ裂きにしていーからねー☆』
何の救いにもならない!
一斉にアリスへと迫るピースたち――その全てが魔眼によって強化されていることは想像に難くない。
仮に7割の力しか発揮できないとしても、魔眼の分を上乗せしたら結局元と同じくらいの力になっているだろう。
『”どうする!? 皆を呼ぶ!?”』
『いや、ナイアがいる以上危険なだけだ! 何とかオレ一人で切り抜けるしかねぇ!』
くっ……確かにその通りだ。
『ふふ、お仲間を呼んだ方がいーんじゃなーい?』
……むしろナイアがそうするのを待ち望んでいる。
たとえヴィヴィアンたちを強制移動で呼び出しても、ナイアの【
だからアリスの言う通り、この場をどうにか切り抜けない限り――いや、もっと言えばこの場を切り抜けるだけでなくナイアの近くまでたどり着いてからでないとどうにもならない。……それも、ナイアの目がない場所で皆を呼び出して、という制限がつく。
何にしても、独力で何とかしなければならない状況には変わりないのだ。
「cl《
「プロテクション」
当たればリュシーたちを吹っ飛ばせるはずの《ベテルギウス》はあっさりとボタンの
プロテクションの陰から、クリアドーラとエクレール、それにリオナという名前の斧を持ったピースが襲い掛かってくる。
「くそっ!?」
クリアドーラとの戦いで強化魔法は全て解除されてしまっている。
強化魔法を使っている時でも辛いのに、今の状態で接近戦をするのは自殺行為だ。
とにかく今は巨星魔法を放って距離を取り態勢を整えるのが先決――なのだが、
「フェードアウト」
「マス・オーダー《アビサル・レギオン:強化》」
「アンティ」
存在を隠していたシノブからの攻撃、フブキの
至近距離からの《ベテルギウス》で吹き飛ばし距離を開けようとするが、相手は痛みも感じていないのか淡々と群れとなって迫り続ける。
……戦いの舞台も拙い。
塔の広間は結構広いけど、だからといって外に比べて自由に動けるスペースはない。
逃げ回ろうとしてもいずれ壁際に追い詰められるか、さもなくば囲まれてしまうのは時間の問題だ。
”アリス、回復を!”
「助かる!」
私たちにできるのは、とにかく魔力が減ったら回復させて反撃の隙を狙い続けることだけだ。
私からの回復がやれるうちは余裕はあるが……無限に回復できるわけではない。
何とかアイテムが尽きるまでにこの状況を打開しなくては……!
『ほーら、アリスちゃ~ん、がんばえー』
……でも、現実は非常だ。
ただでさえ強敵のピースが複数、操られているとはいえ……いや、だからこそ冷徹に、機械のように正確に攻撃を仕掛けてくる。
しかも仲間に被害が及ぶことを少しも考えていない。流れ弾を受けようが構わず、痛みを感じず全く止まる様子はない。
ナイアの煽りも気にしている余裕はないくらいだ……耳に入れたくもない。
『使い魔殿、準備完了だ! 回復頼む!』
『”! うん!”』
一方的な攻撃……もはや『リンチ』としか言いようのない状況だったが、アリスは当然諦めていない。
回復しながらも着々と準備を進めており、ついにその準備が整ったのだ。
何をしようとしているのか、わざわざ言葉にしなくても私にはわかる。
ここから急激に魔力消費が上がる。アリスの魔力がゼロにならないように注意しながら魔力を回復させ続ける。
「awk《
アリスの切り札――クリアドーラの恐るべき破壊の魔法をも打ち破った、最強の銀河魔法が炸裂。
広間中に無数の星が出現、四方八方からピースたちを押しつぶそうとする。
これだけの量の魔法はプロテクションでも防げないし、アンティでも止めるのに限界はある。
回避も防御もできない大量の星魔法がピースたちを殲滅していく。
……魔量消費は神装を超える、というかアリスの限界を超えるとんでもない魔法だけど、それを差し引いても恐ろしい威力の魔法だ。
誇張なしにありとあらゆる敵を圧倒的な質量と物量で押しつぶす、最強の殲滅魔法だとしか言えない。
「……」
それでもクリアドーラとエクレールは強引に押し通ろうとしているのが見えた。
流石にこの二人はどうにもならないか――と思ったけど、追加でアリスの放った《
『あははっ、ほんとすごーい! パチパチパチ~☆』
復活したピース軍団を一掃されたというのに、ナイアの余裕は全く崩れない。
『でも
「くっ……!?」
”こんな……!?”
ナイアの合図と共に、再びピース軍団が出現してしまう。
……マジでインターバルなしで一瞬で復活させられるのかよ!?
『はい、またがんばってね~☆』
「……くそっ、なら何度でも――!?」
ナイアに近づくことすらできない状態だが、私の回復アイテムが尽きない限りは《エスカトン・ガラクシアース》で一掃することは可能――そう思った私たちを嘲笑うように、
『おっと、一度クリアしたんなら、次は
再び魔法陣が輝き、もう1セットピースたちが現れたのだ。
ま、マジか……!?
『うふふ、やろうと思えば、別にピースは同時に動かすことだってできるんだよん♪
だ・か・らぁ~……外にだって出せるんだよぉ?』
”な……”
拙い、奴の言ってることが嘘ではなければ、外にいる皆の元にもピース軍団が出てくるということになる。
皆体力も魔力もさっきまでは安定していたとはいえ、無傷で済んでいるはずがない。
やっと各々の死闘を制したというのに、前の倍以上の数の敵が無限に湧いてくるなんて……!
……でも、だからといって皆を呼び出すこともできない。呼び出した瞬間、【支配者】で操られるか、こっちにいるピースに潰されるかの二択しかない……!
「……ちくしょうがぁぁぁぁっ!!」
”アリス!? ……くそっ、やるしかないか!?”
打開策は――
でも、黙っていいようにやられるわけにもいかない。
どうにかこの場を切り抜けて手遅れになる前に皆を呼び出す……そんなことくらいしか思いつかない。それだって確証は全くないんだけど……。
《エスカトン・ガラクシアース》で一掃は流石にもう無理だ。
そもそも、他の魔法と違って速攻で発動はできない――容量を上回る魔力を消費してあらかじめ『星』を作ってそれを一気に発動させるという都合上、どうしても準備に時間がかかってしまう。
……そして最悪なことに《エスカトン・ガラクシアース》で相手を一掃できても、すぐに復活されてしまって無意味に終わってしまう……。
諦めるつもりはないが、どうしようもない……そんな想いが頭の片隅から離れない。
「ナイアァァァァァァッ!! 絶対に貴様を――」
この広間にとどまっていては絶対にいずれやられる。
それがわかっているからこそ、アリスはピースの群れを強行突破しようと攻撃を続けているが、多勢に無勢すぎる。
回復させつつ、《
動きを止められ、遠距離からの魔法を撃たれ、そしてついに――
「「剛拳 《
二人のクリアドーラが同時に放った《ドラゴンナックル》がアリスの胴体へと突き刺さり、遥か後方へと私たちは吹き飛ばされてしまった……。
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