第9章42話 Unbreakable soul, Unlimited heart
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『飢え』――それがクリアドーラの衝動だ。
戦っても戦っても満たされない、『闘争への飢え』こそがクリアドーラを衝き動かしている原動力なのだ。
『強い相手と戦いたい』、それが自分の欲求であると最初は彼女も思っていた。
しかし、満たされることはない。
かつてマサクルの命令により戦った『氷獄の龍皇』ニブルヘイムは確かに強かったが、満たされなかった。
アビサル・レギオン内での序列を決めるための対抗戦をしても、当然満たされなかった。
「……」
クリアドーラと並ぶほどの
ヒルダも、
「ふん、ワシの強化は条件付きじゃ。お前なんぞと戦えるわけがなかろう」
と早々に白旗をあげてしまう。彼女のギフト【
――おそらくそれでも自分の方が強い。
そう本能で理解していたがために。
<……ピプッピ>
『第三位』であるベララベラムはタフなだけでクリアドーラの破壊力の前には無力。
唯一まともに戦えるであろう『第二位』ルールームゥはというと、どこまで本気を出してくれたのかはわからないがクリアドーラに敗北した。
……そして、ヒルダ同様に、やはりルールームゥが本気を出したのだとしても、クリアドーラの『本気の全力』の前には無意味だったろうとも本能で理解していた。
「くくっ、素晴らしい力だ」
「……ふん」
エキドナは戦おうとしなかった。
本人曰く、
『戦えば、私はキミには
と見透かしたことを言っていた。
クリアドーラもエキドナの特殊能力はパワーだけで打ち破るのは難しいとは理解していたが、やはりそれでも最終的には押し切れると読んでいた。
……結局、誰と、どんなモンスターと戦ってもクリアドーラの衝動は満たされることはなかった。
ただ戦えばいいというわけではないのはすぐにわかった。
己の全てを絞り出す、限界を超えた力を揮って初めて満たされる衝動なのだと彼女自身は気付いていた。
「なぁ、おい……? てめぇ、
自身の思う『最強』の力を手に入れたクリアドーラ――ここまでの強化をしたのは、彼女も初めてのことだ。
だが、まだ足りない。
まだまだ力を揮い足りない。
『本気の全力』を出し尽くしていない。
クリアドーラは狂気を滲ませた笑みを浮かべ、アリスへと叫ぶ。
「もっとだ! もっと俺様を満たしてくれよなぁっ!!」
旭光を使っていなかったとはいえ、ほぼほぼ『完封』と言っても良い敗北を喫した初めてにして唯一の相手――
そして、自分と同じ闘争への衝動を持っているであろうアリスこそが、クリアドーラのずっと求めていたものなのだと確信する。
「貴様を満たしてやる義理なんぞないが――」
霊装を失い、最強の神装を打ち破られたアリスだったが、戦意は失われていない。
まだ何か切り札を隠している――その目を見てクリアドーラは確信している。
『本気の全力』を、クリアドーラもアリスも、自分でも見たことのない領域へと互いに高めあっていくことはまだできる。そう、お互いにわかりあっていた。
「当然、まだやれるさ。そしてオレが勝つ」
「ほざけや! てめぇをぶっ潰して、俺様が勝つ!!」
自分の思った通り、アリスはまだ諦めていない。それどころか、本気で勝つ気でいる。
それを現実のわからぬ馬鹿と笑う気は全くない。
想像を超えた『何か』を――『強い魔法』とか『強い武器』とか、そういうものを超えた『何か』をアリスは持っている。
それこそがクリアドーラの期待する『本気の全力』を引き出してくれるものなのだと確信している。
「何もかもぶっ壊してやるぁぁぁぁっ!! 【
クリアドーラが己のギフトを使用し、
【破壊者】とは、その名の通り『破壊する』ギフトだ。
クリアドーラの攻撃に対し、『防御貫通』効果を付与するだけではなく、ある一定の閾値を下回る強度であれば問答無用で破壊する……という超攻撃的能力である。
もちろんそんな強力な能力を無条件に使えるわけではない。
使えるのはクエスト内で一度限り――ピースであるがゆえに『クエスト』という概念はないが、一度使ったら二度と使えなくなるというのには変わりない。
ただし、その制限を潜り抜ける裏道があった。
それはピースならではの方法――『一度死んで違う身体で蘇る』ことである。
エル・メルヴィンでの戦いで瀕死の重傷を負ったクリアドーラは、そのまま治療して復活するのではなく、完全に『死』んで復活することを選んだ。
そうすれば蘇った新しい肉体で再度ギフトを使用できるようになると知っていたからだ。
二つの切り札『旭光』と【破壊者】――この二つを使い、『本気の全力』で戦うことで初めて自分の衝動は満たされる……クリアドーラはそう理解していた。
一撃で終わってしまうかもしれない。
いくらアリスでも【破壊者】を乗せた『ダーザモール』の一撃は耐えられないだろう。
そう思っていたとしても、
「おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっ!!」
――《バエル-1》ごと壊しても構わない。
そんなつもりでクリアドーラが最後の攻撃を振るおうとする――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
戦闘の最中、アリスはラビに自分から声をかけることは
ラビの方もまた、アリスの集中を乱さないために自分から声をかけなかった――ナイアが手を出す素振りを見せた時に警告しよう、と思っていたくらいだ。
だが、一度だけアリスがラビに『あること』を話した。その意図をラビは半分くらいしか理解できなかったが、
それはともかく――
――いよいよやべぇな、これは……。
【破壊者】の詳細な効果はわからないものの、『封印神殿』で一度使われたことで想像はできる。
ここまでは何とかクリーンヒットは避けられてきたが、この先はもういつ自分が『死』ぬかわからない。
敗北だけは絶対に許されない。
だから、アリスも
「――ext《
アリスの全身がクリアドーラ同様に黄金の輝きを放つ。
「……嫌になるな、貴様と同じ魔法とはな」
嫌、と言いつつもアリスは笑みを浮かべる。
究極の自己強化……奇しくも対クリアドーラでアリスが出した結論は、クリアドーラと同じものであった。
そして、自分に振り下ろされる棍棒へと自ら突進する。
「なにぃっ!?」
振り下ろされた棍棒を片腕で弾き飛ばしつつ、アリスがクリアドーラへと拳を放つ。
殴られたクリアドーラがよろめく。
触れるだけで致命的なダメージを与えるはずの棍棒の一撃を、片腕で弾き飛ばせるわけがない。
いや、よしんば弾けたとしても腕が砕けるどころは済まないはずだ。
なのに、アリスの腕は砕けず残っている。
「cl《
「っけんな!」
更に至近距離からの《アンタレス》で追撃を仕掛ける。
《アンタレス》を砕きながらクリアドーラも前進してアリスへと殴りかかるが、魔法を放つと同時にアリス自身も前へと出て――
「くっ!?」
「がぁっ!?」
互いの拳が互いの顔面を殴りあう。
クリアドーラには信じがたいことだったが、現実として起こっているのだ。信じざるをえない。
アリスの肉体は、【破壊者】に耐えるほどの強度を得ている……としか思えない。
「……! 野郎……そういうことか」
近距離での凄惨な殴り合いの果て、ダブルノックアウトとなり距離を取った時にクリアドーラはアリスの魔法の正体に気付いた。
「正気か、てめぇ……」
「ふん、
アリスの肉体が【破壊者】、あるいはクリアドーラの攻撃に耐えられるほど強化されている……のではない。
傷ついた傍から『再生』させているのだ。
アバターの身体もマジックマテリアルでできている――かつて《
もちろん一撃で体力が消し飛ぶようなダメージはどうにもならないし、再生のたびに魔力は消費し続けることとなる。
普通の相手ではこのような魔法は、たとえラビが傍にいない状態でもあっても必要ないだろう。
本当に『対クリアドーラ用』の魔法であると言える。
致命傷だけを回避し、身体を再生させながらのごり押し……クリアドーラと同じ戦い方ではあるが、消費のことを考えればアリスの方が大分不利ではある。
しかし、ここまでしなければ逃げ回ることしかできないだろう、そうアリスは考えていたのだ。
「貴様の好みだろう?」
「……はっ!」
お互い『本気の全力』を出しての殴り合い――確かにクリアドーラの好みではあろう。
逃げ回る相手を追い詰めて叩き潰すのではなく、真向勝負で叩き潰す。
それこそがクリアドーラの求めていることであり、同時にアリスの勝つための道なのだ。
「貴様の方も残り時間が短いのだろう? ……悔いの残らないようきっちりと叩きのめしてやる」
「言うぜ……」
確かにクリアドーラも宣言した回復回数をそろそろ使い切るころだ。
アリスもまた《ライジングサン》を使ったことにより急激に魔力を消耗している。
この上、打撃以外に魔法を使わなければ勝てないアリスは更に魔力が厳しい。
どちらにしても大勢は変わらない。未だにアリスの方が不利であろう。
当然、それは互いにわかっていて、クリアドーラも手を抜く気はないし、アリスも自分の勝ちを捨てたわけではない。
「行くぞ、クリアドーラ」
「来な、アリス!」
二人が同時に地を蹴り、同時に拳を振るう。
もしも身体能力が等しければ、リーチの分アリスの方が優位に立てたかもしれないが、実際にはクリアドーラの方が素早い。
再生しようが関係ない。一撃で潰すという意思を込めた顔面へのパンチを回避しカウンター気味にアリスのパンチが当たる。
……が、クリアドーラは揺らぎもせず、むしろ接近したことを利用して蹴りを胴体へと叩き込む。
「ッ……cl 《アンタレス》!」
蹴り一発で胴体が真っ二つにならなかったのは幸運、と痛みを堪え再度 《アンタレス》を放つ。
当然それは砕かれるものの、クリアドーラの視界を奪い追撃を防ぐことには成功。
お返しとばかりに《アンタレス》の影からアリスが攻撃し……。
――……? なんだ、何を狙ってやがる……!?
クリアドーラは違和感を覚えていた。
アリスの戦い方は不自然だ。
なるほど、確かに《ライジングサン》の効果で多少強引に押し切れるようにはなっている。これがなければアリスはまともに戦うことはできないだろう。
だが、だからといって今のような戦い方を続けても到底勝ち目はない――それがわからないような
時間切れを狙う……も違うだろう。今のペースだと、クリアドーラとアリスのどちらが早く時間切れになるかは微妙なところではあるが、最悪クリアドーラは旭光を解除してしまえば良いのだ。しかも、旭光を解除しても短時間の火力であればやはりクリアドーラの方が勝っている。
――失望させてくれるなよ、アリス!
ようやく自分の『飢え』が満たされるかもしれない、となりふり構わずの『本気の全力』を出して戦っているのだ。
自分の『見る目』が間違っていた、となれば諦めるしかないが、そうなって欲しくないとも本気で思っている。
狙いはわからないが何かを狙っている――そう油断せずクリアドーラは着実にアリスを追い詰めようとしていた。
予測できる『狙い』は、まず間違いなく『神装』での一撃必殺だろう。
最大威力の《
《
――読めたぜ……!
拳を交えながら考えを巡らせ、クリアドーラはアリスの狙いを読み切った。
狙うは《ヴァナルガンド》、もしくは別の神装だろう。そこに違いはない。
やろうとしているのはおそらくは、《ライジングサン》で近距離戦ができるようになったことを利用し、今も時々撃っている《アンタレス》などの巨星魔法に替わり迎撃不可能なタイミングで神装を超至近距離で放とうとしているのだろう。
――いいぜ、またぶっ潰して今度こそ……!
クリアドーラ本人は自覚していないが、アリスが感じていた通り戦いの最中で物凄い速さで『成長』している。
千夏の言う『視』るを本能レベルで実践し始めているのだ。
アリスの僅かな動きから次の動きを読み、的確な対応をし迎撃しているのが正にそれだ。
……ただ、ちょくちょくと挟まれる巨星魔法が目くらましとなっているのは問題かもしれない。短時間とはいえ、そのせいでアリスを見失ってしまっている。
――見えている時にアリスが神装を狙うのであれば問題なく叩き潰せる。見えない時を狙ってくるのであればそれはそれでわかりやすい。
ならば霊装の修復のタイミングが決着の時だ。
いや――わざわざ待つ理由もクリアドーラにはない。
これは互いの技を試しあう場ではない。常に命を狙いあう『本気の全力』の勝負なのだ。
勝てる時に相手の準備を待つ理由はない。
自分がいける、と判断したその時に最大の一撃を放つ――それだけだ。
「cl 《アンタレス》!!」
――ここだ!
もう何度目になるだろうか、接近してからのカウンターで放たれた《アンタレス》――そこにクリアドーラは勝機を見出した。
今までと同じではない。
《アンタレス》を撃った後に前に出ず、後ろにアリスが下がるのを確かに見た。
何か別の魔法を使う気配――霊装の修復が終わる頃合いとちょうど重なっている。自分の霊装を修復したことはなかったが、『封印神殿』でアリスの霊装を破壊、そのあと封印の間で復活した時のタイミングからそう読んでいた。
来るなら
ここで来なければそれはそれで押し潰すまで。
「剛拳 《
《アンタレス》ごとアリスを巻き添えに吹き飛ばせる、クリアドーラの最大火力――《グレイト・ドラゴンナックル》で神装だろうが何もかもを押し潰す。
更に《
これで片がつけられなくても旭光の効果時間はまだ残っている。剛拳での強化は何度でも行える。
――ああ、ちくしょう。もう終わりか……。
『飢え』は満たされた……ような気はするが、どこか不満が残っているのを感じていた。
アリスも対抗してきたとはいえ、ほぼ一方的に蹂躙したことが原因なのか――己の全力を揮えたことについては満足しているし、アリスの『善戦』にも満足している。
なのに、まだどこか満たされないような気がしてならない。
だからと言ってわざと戦いを引き延ばすこともない。それは『本気の全力』ではないからだ。
「砕け散りやがれぇぇぇぇぇっ!!」
《アンタレス》を容易く砕き、その後ろにいるであろうアリスへととどめの一撃を届かせようとした時、クリアドーラは見た。
「!?」
確かに『視』た通り、アリスは前にではなく後ろに下がって攻撃の準備をしていた。
しかし、予想とは異なり霊装は手に持っていなかった。
霊装修復の時間がまだだったか、と一瞬訝るが――それよりも早く、予想もしていない方向から『攻撃』が放たれてきた。
「ふん、この程度!」
それは『小さな星』の魔法だった。
巨星魔法ですらクリアドーラに触れることはできないのだ。普通の星魔法は近づくだけで蒸発して消滅するのみだ。
「
「なにぃっ!?」
今度はアリスが『完成』と言ったのを、クリアドーラが聞いた。
次の瞬間、
巨星よりは小さいが、それでも並のユニットなら一撃で昏倒するであろうほどの大きさの色とりどりの『星』がまるで本物の夜空のように広間を埋め尽くしていた。
神装ではなく星魔法をアリスは選んだ。
それはいいとして、一体いつの間にこんなに大量の『星』を作り出していたのか――謎解きをしている余裕はない。
「……関係ねぇ、まとめて全部ぶっ潰すだけだ!!」
予想外の大量の星魔法には驚かされたが、神装ではないことには少しがっかりさせられた。
神話の武具すら打ち砕くクリアドーラの破壊力の前に、いくら数があろうとも星魔法など物の数ではないだろう。
これがアリスの最後の攻撃だというのならばそれはそれで構わない。
満たされない『飢え』を抱えたまま、残りのメンバーも生き残っていれば潰していくだけ――そしてこの世界のナイアの目的を果たした後、『ゲーム』クリアのために戦うであろう強大なモンスターを叩き潰していくだけだ。
だが、
「
アリスの声と共に、星々が一斉に輝きを増し、更に星の数が増える。
――馬鹿なっ!? どこから湧いてきやがった!?
明らかに何もなかった空間に追加の星魔法が出現した。
しかも、アリスの発声は星魔法を作るものではない――クリアドーラはもちろん、ラビすらも聞いたことのない新たな魔法だ。
その一言だけで大量の星を作れるとは到底思えない。
『何か』が起こってる――それを理解しつつも、一度攻撃態勢に入り振りかざした棍棒を降ろすことはできない。
向かってくるクリアドーラに向けて、アリスは
「《
「
アリスの叫びと共に、大量の『星』がクリアドーラへと向かって一気に殺到する。
「こんなもん!!」
クリアドーラが棍棒を一振りすると、迫る星は大きさに関わらず一撃で砕かれてしまう。
が、星は四方八方あらゆる方向からクリアドーラへと迫っているのだ。
「ぐがっ!? くそがっ!!」
いかに強大な破壊力をもっているとはいえ、十全に破壊力を発揮できる範囲は決まり切っている。
クリアドーラが防げなかった方向から降り注ぐ星が、《ハイパー・ドラゴンオーラ》を次々と削ってゆき、あっという間にクリアドーラ本体へと届く。
旭光での強化が効いているためそこまでのダメージではないが、身に纏うオーラがなくなった途端にそれは大きなダメージとなっていく。
「ざ……けんな……! こんなもんで、俺様が……!!」
そしてついにクリアドーラの足が止まった。
降り注ぐ大量の星々が、クリアドーラの強化魔法、そして剛拳を上回ったのだ。
《
ただ、一つ不自然な点がある。
比喩抜きで空を埋め尽くすほどの星魔法、しかもそれが延々と降り注ぎ続けるのだ。いかに一つずつの『星』の魔力量はそこまでではないとはいっても、明らかに魔力量を上回っているはずだ。
また、クリアドーラが疑問を抱いたように、これだけの量の『星』を一瞬で創ることは不可能だ。『大量の星を創る』という効果の魔法だった場合だと、それに見合った魔力消費量になり、結局アリスの魔力量を上回ることになってしまう。
当然魔法を創ったアリス自身、そんなことはわかっている。
だがこの魔法でなければクリアドーラには勝てない……そう考えたアリスは、自分の魔法の『長所』を活かした『抜け道』を利用することで解決させた。
アリスの魔法の長所、あるいは特性は『効果を発揮させきるまでは
だからアリスの取った手段はシンプルだ。
あらかじめ星魔法の種を幾つも創って準備しておく、そして《エスカトン・ガラクシアース》発動で一気に星魔法へと変貌させる、というものである。
星魔法の種は、
砕かれることを承知でしつこく《アンタレス》等を撃ち込んでいたのはダメージを狙ったのではない。破砕音に紛れて星魔法の種を創るのを隠すためだったのだ。
更には砕かれた巨星の破片の幾つかも種へ、《ライジングサン》で砕かれた自分の肉体をも種へと変え、魔力を限界まで使って仕込みをしていた。
加えて――クリアドーラは気付かなかったが、巨星魔法が砕かれるときにほんのわずかだけアリスは
以前の実験で『10分で完全回復』することが判明している――ということは、6秒につき1%魔力は回復することになる。
アリスの魔法は『燃費が悪い』とラビは良く言うが、これは初期のまだステータスがそこまで伸びていなかった頃のイメージが強い。
どれだけ魔力を伸ばしても神装は『割合消費』なので一発撃ったら回復が必要になってしまう。
しかし、その他の魔法については他ユニットの魔法と同じく『固定消費』だ。アリスの魔力量が伸びれば、当然その分撃てる回数は増す。
ジュウベェとの戦いに臨む際にステータスを大幅に強化した今、巨星魔法であっても数十発――十数発ではない――は余裕で撃つことが可能な状態なのだ。
その魔力量であれば、『たった1%』であっても十分な量の回復ができる。また、この際にアリスの魔法の『持続力』が物を言う。魔力マイナスになった際には魔法は解除されてしまうが、魔力が残っている状態であればアリスの魔法は残り続ける。つまり、ばら撒いた星の種、身に纏っていた強化魔法を解除することなく変身を解いて魔力を回復できるということだ。
……流石にクリアドーラとの戦いで長時間変身を解くことは自殺に等しいため、アリスも1秒、長くても3秒程度ずつしか変身を解く隙はなかったが、それでも累計してアイテム消費なしにかなりの量の魔力を回復することができた。
クリアドーラとの戦いに必要な魔力を冷静に計算し、その分だけを残すようにして残り魔力を全て星の種につぎ込む。
そして、『クリアドーラを倒せる』と確信できる量の種を撒き終えたところで《エスカトン・ガラクシアース》を発動――無数の種を星へと変え、その圧倒的物量でクリアドーラの剛拳を強引に打ち破る。
剛拳でオーラを纏ったクリアドーラは、事実上『無敵』に近い。神装であろうが何であろうが、近づくだけで魔法を相殺されてしまうのだ、どれだけ威力を高めようとも単発で突破することは不可能だ。
打ち破る方法はただ一つ、剛拳での相殺を超える速度と連射でひたすらに攻撃し、クリアドーラ本体を撃つ。これしかない。
「アリスゥゥゥゥゥッ!!」
無数の星魔法を浴び、剛拳どころか旭光すらをも貫通されかなりのダメージを負ったクリアドーラだったが、執念か、あるいは『飢え』への渇望か――ボロボロになりつつもアリスへと迫り、【破壊者】を乗せた棍棒の一撃を叩き込もうとする。
「――なんだとっ!?」
が、霊装……しかも【破壊者】を纏っているはずの棍棒が、降り注ぐ星によって
いかなる魔法であろうとも【破壊者】であれば砕けるはずなのに、逆に砕かれてしまった。
――……! そういう、ことかよ……!?
【破壊者】はある一定以上の硬さを下回る場合は問答無用で破壊することができる。
だから、アリスのこの『星』はそれを上回る硬度を備えていたということになる。
……魔法でそんな硬度を発揮するには、『防御専用魔法』かあるいは『装甲破砕効果』を持つ魔法等でなければほぼ不可能だ。アリスのような強化を重ねる魔法では不可能ではないが、相当な魔力消費をすることになるだろう。
クリアドーラの感じていたもう一つの違和感――それこそが、霊装をも砕く星の正体につながっている。
アリスの砕かれた霊装は修復が間に合わなかったのではない。
そもそも
アリスの魔法は霊装にかけることができる。それを利用して今までは神装を使っていた。
今回は砕けた霊装の破片を敢えてそのまま残し、破片を『星』へと変え超硬度の魔法に変えて紛れ込ませていたのである。
「終わりだ、クリアドーラ!!」
残る星魔法をぶつけようとするに同時に、彼女の身体を包む黄金の光――《ライジングサン》が抜け出し、ひと際大きく輝く『星』が出現する。
『銀河』を模した最大最強の星魔法……その中において最も強い輝きを放つ星、すなわち『太陽』を模した星魔法が含まれていないはずがないのだ。
「awk《
何もかもを焼き尽くす灼熱の星がクリアドーラを飲み込み――
「こん、な……もの……!」
驚くべきことにクリアドーラはそれでもまだ炎に抗い、アリスへと向かおうとしていた。
……その顔は苦痛に歪みながらも――わずかに笑みを浮かべているように、アリスには見えた。
「く、そ……がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それでも一切の躊躇なく、残る星がクリアドーラへと降り注ぎ――《バエル-1》全体をも揺るがす爆発を巻き起こしたのであった。
神すらも打ち砕くクリアドーラは、確かに恐るべき能力を持つ『破壊の王』と言える。
実際に神の力を再現したアリスの神装も、クリアドーラの破壊の力の前に打ち砕かれてしまっていた。
だから、クリアドーラが『誤解』してしまったのも無理のない話だ。
アリスの力の本質を見誤ってしまっていたことが、クリアドーラの敗因である。
確かに神装は強力だ。並み以上のユニットであっても、今のアリスのステータスならば『確殺』と言ってもいいほどの威力を持っている。
しかしだからと言ってアリスの力の本質は神装にあるわけではない。
……当のアリス自身が、
一撃の威力は強大なものの『割合消費』であるため燃費は最悪に近く、また一定以上の実力の持ち主には通じないことも多くなってきていた。
決定的なのは『封印神殿』でのクリアドーラ戦だろう。《ヨルムンガンド》でさえも相殺され、通用しなかった。
その経験から『対クリアドーラ』に向けて、エル・アストラエア滞在中にアリスは新たな魔法を編み出した。
巨星、矮星、連星……そして銀河と太陽の魔法。
最初期からよく使っていた『星』の魔法こそが、威力と燃費の面から考えて最も優れた魔法であるとアリスは考えた。
自分の考えの正しさはエル・メルヴィンでの戦い、そして今目の前でクリアドーラを撃破したことからも裏付けられ、確信した。
アリスの力の本質――あるいは『象徴』とも言うべきものは、神装ではない。
『星の力』――それこそがアリスを象徴するものなのだ。
どこかでそれを感じ取っていた
「この戦い――わたしの勝ち」
《エスカトン・ガラクシアース》で残る全魔力を使い果たし、変身が解けたありすが崩れ落ちるクリアドーラを見てそう宣言した。
たとえ神をも破壊する力を持っていたとはいえ、所詮は一惑星の一生物が想像した産物にすぎない。
クリアドーラが神を砕き、星をも破壊する力を持っていたとしても――天に瞬く、それこそ無限にも届きうる星々の全てを打ち砕くことなど不可能だ。
――これはすなわち、アリス自身が『神の力』を超えたことを意味するのであったが……その意味をアリス本人はまだ理解していない……。
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