第9章6節 Death Unlimited

第9章40話 Rasing soul, Raising heart

■  ■  ■  ■  ■




 世界を破壊する悪霊よ、『星』の輝きを見るがいい――




*  *  *  *  *




 クリアドーラ……アリスが真っ向勝負で負けたのは、彼女が初だったかもしれない。

 ふざけた見た目とは裏腹に、その実力は今まで戦ったどのユニットやモンスターよりも危険だと言える。

 特に、単純な火力でアリスの魔法を上回っているというのが強い。

 どんな魔法も小細工も、パワーで踏みつぶしてくる……という感じだろうか。

 ある意味でアリスやガブリエラと似たタイプと言えるだろう。

 そして、単純シンプルゆえに打開策がない。

 彼女を倒すには火力で上回るか、防御や回避をさせないようにこちらの攻撃を当てて削っていくかしかない――そしてそれをするのが何よりも困難なのだ。

 ……参ったな、ナイアの元へとすんなりとたどり着けないだろうとは思っていたけど、まさかクリアドーラが復活してきて立ちはだかるとは……。


 正直なところ、こいつとまともに戦って勝てたとしても、無傷で済むとは到底思えないしアイテムの消耗は避けられないだろう。

 ナイアとの戦いの前に大幅な消耗はしたくない。仮に無傷で挑めたとしても、勝てるかどうかわからない相手なのだ――エル・メルヴィンでは三人がかりであったにもかかわらず負けているし。

 だが、だからと言ってこいつを無視して先に進むという選択もありえない。

 アリス自身が戦う気でいるし、下手に放置してナイアとの戦いに乱入される方がよほど拙い。

 ……ナイアが余裕たっぷりだった理由がよくわかる。

 倒したピースを復活させられるとはね……まぁピースが復活不可だとは思っていなかったけどさ……。


 ……避けられない戦いであるならば、ここはもう覚悟を決めるところだ。

 極力ダメージを残さないようにしてクリアドーラを打ち破ってナイアの元へと進む。そうする以外にない。

 ナイアとの戦闘では何が起こるかわからない。できるだけアリスの手持ちのアイテムを減らさないように、私の方で適宜回復させていかないと――


 私がひそかに決意を固めるのをまるで計ったかのように、二人が同時に動いた。


「cl《黒・三連巨星トリリトン》!」

「剛拳 《怒羅號怨薙琉ドラゴンナックル》!」


 アリスが最大物理攻撃トリリトンを放つと同時に、クリアドーラが拳に魔力を纏い前進。


「おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっ!!」


 拳で巨星を破壊しながらアリスへと迫ろうとする。

 ……相変わらず馬鹿げた破壊力だ。

 先ほどあっさりとリュシーら『ゴエティア守護騎士団』を蹴散らした巨星魔法を、避けもせず真向から迎撃……どころか破壊しながら押し通ってくるとは……。

 もはやユニットだのピースだのの攻撃力を超えている。完全に『モンスター』としか言いようがない。


「cl《邪竜鎧甲ファヴニール》!!」


 アリスもまた《トリリトン》を放つと同時に前へと出、《ファヴニール》で全身を装甲に身を包んで自らクリアドーラへと接近する。

 ……危険ではあるが、クリアドーラ相手にはこれが一番有効かもしれない。

 遠距離からの魔法では迎撃される一方だ。

 奴を倒すにはエル・メルヴィンでやったように、矮星魔法をブチ当てるかあるいは連星魔法で受け止めきれない全方位攻撃をかけるしかない。

 そのためにはどうしても距離を詰める必要がある。

 少しでも接近戦での危険を減らすために《ファヴニール》での強化をいれたのだろう。

 ……って、私は思ったんだけど……。


「おらぁっ!!」

「ちぃっ!?」


 何とアリスはそのままクリアドーラへと肉薄、拳を叩きつけようとしたのだ。

 《ファヴニール》で強化した上にアリスのステータスは相当高まっている。確かに打撃でもかなりのダメージを与えられるのは間違いないが、それよりも危険の方が大きい。

 それがわからないアリスではないはずだが、そのまま距離を詰めたまま格闘戦を続けようとする。

 互いに殴り合い、蹴り合い――そしてそれを回避しあい、互角の勝負を繰り広げる。


「cl《焦熱矮星プロキオン》!」

「くそがっ!?」


 そして隙を見て打撃と同時に矮星魔法を放ち、クリアドーラに当てようとするものの――向こうも一度食らって負けた魔法だ、常にアリスの魔法には警戒をしていてギリギリで回避している。

 ……エル・メルヴィンでの戦いは直接見たわけではなく、後でアリスから話を聞いただけだったけど……この短期間でアリスは驚くほど成長している。

 『強さ』の成長スピードだけで言えば、ステータスはあまり伸びなくなったというのに留まることを知らないのでは、と思えるほどだ。

 これならもしかしてクリアドーラにも、そしてナイアにも勝てるのではないか――そう希望を抱きたくなってくる。


「cl《赤爆巨星ベテルギウス》!!」

「剛拳 《毘倶爆薙琉ビッグバンナックル》!!」


 そして、互いに至近距離から爆裂魔法を放ち――互いに相殺され大きく吹き飛ばされてしまう。

 が、この爆発はどちらかといえばアリスの方に軍配が上がる。

 《ベテルギウス》の爆発は当然アリス自身にはダメージは入らない。クリアドーラの魔法は《ベテルギウス》を迎撃することはできたものの、爆発までは防げず小柄な身体を大きく吹き飛ばす。

 ダメージとしては微々たるものであろうが、アリスの方が一歩上回ったと言えるだろう。


「くそっ、流石に強いな」

「ぐ、ぐははははっ! やるじゃねぇか、てめぇ」


 ……削ったとは言っても、本当にかすり傷程度にしかなっていないか。

 簡単に倒れないアリスに対して、クリアドーラは心底楽しそうに笑っている。

 これは……本当に難敵だ。『ゴエティア守護騎士団』ならとっくに倒しきって余りある攻撃を捌いた挙句にかすり傷程度で済んでしまうとは……。

 ただ戦況としては今のところ悪くはない――もちろん後にナイアとの戦いが控えていることを考えると、本当は圧勝できるくらいでないと拙いんだけど……それは高望みがすぎるか。


『わかってはいたが、一筋縄ではいかないな、使い魔殿』


 そうは言うものの、顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。

 ……最終目的を見失ってはいない……と思いたい。いや、大丈夫だとは思うけど。

 一方のクリアドーラもアリスと同じような笑みを浮かべている。

 どっちもバトルが好きというのは共通しているし、似た者同士と言えなくもない。

 もしも――クリアドーラがピースではなく、普通のユニットとして別の場所で出会っていたならば……と思わずにはいられない。意味のない仮定だとはわかっているけど……。

 ……もしかしたら、二人もそんなことを考えているのかもしれない。そう思わせるように、互いに(好戦的な)笑みを交わしていた。




 そんな時だった。


<ピピー!!>

「なにっ!?」


 電子音と共にアリスの床の足元が大きく隆起、バランスを崩されてしまう。

 ……くそっ、そうか、ここルールームゥの中だったのをすっかり忘れてた!

 奴ら――特にナイア――が正々堂々一対一の戦いをさせるなんて考えた方が馬鹿だったか。


<ピッピ―!>

”うわっ!?”

「! 使い魔殿!?」


 バランスを崩した瞬間、床から生えてきた鋼鉄の管が私を捕らえアリスから引きはがす。


”むがっ!?”


 口を塞がれ私はなすがまま連れていかれ――


”こ、ここは……!?”


 ほんの数秒後、私は妙な場所へと連れてこられていた。

 ……いや、さっきまでいた広間と同じか? 広間の壁の中に埋め込まれているっぽい。

 ガラスが前にあって広間の様子は見える――が、私は身動きとれない。


『使い魔殿、無事か!?』

『”アリス! う、うん……大丈夫、だけど……ごめん、私がまた――”』


 また私が足を引っ張ってしまったか……。

 まさかこの期に及んで私を人質にとる作戦をしてくるとは思っていなかった……いや、そういうのも本当は想定しておくべきだったろう。完全に私の落ち度だ。


『貴様ら……!』


 アリスが怒りの形相でクリアドーラ、そして私の方――い、いや私じゃなくてきっとルールームゥなんだろうけど、思わずびくってなっちゃった――へと視線を向ける。

 彼女からしてみたら、『裏切られた』という気持ちなのだろう。敵とはいえ、クリアドーラとは『似た者同士』ということでわかりあえたかもしれない、という思いもあっただろう、

 目の前のクリアドーラよりも、アリスは私の救助を優先することにしたみたいだ。


『”ま、待って!”』

『止めるな、使い魔殿!』


 拙い、私が言えた立場じゃないけど、相当頭に血が昇っちゃってる!

 魔力の消費も気にせず、神装をぶちかますつもりだ!


『落ち着けよ、別に危害は加えねーし、俺様が加えさせねー』

『……何?』


 意外にもクリアドーラが隙だらけのアリスに攻撃せずに、そう言った。

 ……その態度は、少し不本意そうなものではあった。


『悪ぃな、こうしないと俺様も全力を出せねーんでな』

『貴様、何を……』


 とりあえずここまでの間で私に危害を加えるような様子を誰も見せないことには思い至ったらしい。

 アリスがクリアドーラに真意を訊ねようとした時だった。




『ふふふっ☆ ようこそ、ミスター・イレギュラーたち』




”……ナイア!!”

『クソが……!!』


 広間の上方に、巨大なディスプレイのようなものが現れ、そこにナイアの姿が映っていた。

 余裕綽々の態度で、大きな玉座のようなものに腰かけてふんぞり返っていやがる……!


『いやー、来るかもなーとは思ってたけど、いきなり「ゴエティア」まで入ってくるとは思わなかったわ。すごいすごい☆』


 ……本当に、人をイラつかせる天才だな、こいつ……!


『おい、クソ野郎』

『……あー、はいはい。

 ま、心配しないでいーよ☆ 別にミスター・イレギュラーを人質にしようとか、そんなのあたしも考えてないから』

”その言葉を信じろってのか……?”

『信じていーよ。だって――そんなのでしょ?』


 …………私の声も届いているか。

 それはともかく、ナイアの言う『詰まらない』――くそったれな理由だけど、私が人質にされるということを考えなかった理由でもある。

 私たちが推測するナイアの性格から考えれば、人質をとって抵抗できなくして一方的に攻撃する、というのは趣味に合わないとは思っていた。仮にやるとしても、敗北寸前まで追い込まれての最終手段だとも。


『だから、ま。アリスちゃんがクリアドーラに勝てたら解放してあげるから、安心してね♪』

『……なめやがって……!』


 人質にする気はない、とは言っても実質人質にされているようなものだ。

 ……それでもこっちはナイアの言葉を信じるしか今のところ手がない……くそ、私が捕まらなければ……!


『助けようとしても無駄だよん。見た目はガラスっぽいけど、それもルールームゥちゃんの一部だからねー』


 つまり、霊装並みの強度を持っているということだ。

 これを突破しようとするとなると、アリスの全力の神装を何発も叩き込まないとダメかもしれない……クリアドーラとの戦闘中に破壊しようとするのは事実上不可能と言ってもいいだろう。

 アリスもそれをわかったのか、


『……すまない、使い魔殿、しばらく待っててくれ。あいつをぶっ飛ばして解放してやる』

『”……ごめん、アリス。私が――”』

『言いっこなしだぜ、使い魔殿』

『”……”』


 そう言ってくれ、一瞬私の方を見てにやっと笑うとクリアドーラの方へと向き直る。


『貴様をぶちのめせば使い魔殿は解放されるんだな?』

『ああ。本当はここまでする必要はねーかと思ったんだけどな――使い魔に傍にいられると、。悪いな』

『ふん、全力か……出せずに負けたって言い訳されるわけにもいかねーか』

『! ぬかせ、ダボが……!』


 ――私がいると全力を出せない……?

 少し考えてその意味はわかった。

 広範囲攻撃とかがそうだけど、下手すると私を巻き込んでしまうかもしれない。

 そうなるとアリスは私を庇って本来は食らう必要のないダメージを受けるかもしれない。

 それを防ぐために、私を『絶対安全な』場所へと避難させた……ということなのだろう。

 この考えが正しければ、クリアドーラには本当に悪気はないし人質とか考えてはいない……とは思う。ナイアはとことん信用できないけど……。

 使い魔が傍にいることのメリットよりも、離した方がメリットが大きいと判断したみたいだ。勝手にやりやがって、という気持ちはあるが……。

 ……それだけクリアドーラの『本気の全力』がこちらにとって脅威だということなのだろう。

 その脅威にアリスが後ろを気にせず全力を出して迎え撃てるように、というせめてもの気づかいなのはわかる。複雑な気分だし、捕まっている自分への自己嫌悪は消えないが……。


『”……がんばれ、アリス!”』

『! おう、当然だ!』


 今の私にはアリスを信じて待つしかない。

 そんなふがいない私の言葉に、アリスはいつも通り自信に満ちた態度で返してくれたのであった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




『それじゃ、がんばってねー、アリスちゃん♪』


 煽るナイアの言葉は耳にも入れず、アリスはひたすらにクリアドーラへと集中する。

 ナイアのことは全く信じないが、クリアドーラのことは少しは信じられる。

 少なからず拳を交えた仲だ。

 クリアドーラは生粋の戦闘狂バトルマニアであり、一度動き出したら止まらない狂戦士バーサーカーだ。

 そんな彼女が『本気の全力』を出そうというのだ。

 ……それは本当に使い魔を巻き込むものなのだろう。本人が意識せずとも、小さな使い魔など吹き飛ばしてしまいかねないほどなのだろう。

 『本気の全力』を出す相手が自分の使い魔を気にして『本気の全力』を出してくれないのでは意味がない――きっとそう考えたのだろう、とアリスは思った。


「――信じるぜ、


 信頼も信用もないが、少なくともラビを庇いながら戦おうとした瞬間にやられる可能性が高い、というのは理解した。

 だから、少なくともルールームゥの『檻』の中にいる間は安全だろうと判断、クリアドーラとの戦いに専念する、という意味で宣言した。


「へっ。

 ……おい、クソ野郎……わかってんだろうな? あ?」

『はいはい。あたしもルールームゥちゃんも余計な手出しは一切しませーん。あんたが負けたら大人しくミスター・イレギュラーを返す――これでいいでしょ?』


 ……全くやる気のない返事ではあるが、


『ま、あたしとしても、うちの「最強」にヘソ曲げられたくないしね。約束はちゃーんと守るわよん』

「ふん……わかってりゃいいんだ」


 『最強』――アビサル・レギオンの序列『第一位』がクリアドーラなのだ。

 いざとなれば【支配者ルーラー】でも強制命令でも魔眼でもいくらでも言うことを聞かせることはできるが、恒久的に操る術はない――ある意味でピース化した時点で『恒久的に操る』状態になっているのだ。その状態でナイアに対して敬意の欠片もない態度なのだ、これ以上悪印象を与えてしまうと常に無理矢理言うことを聞かせるしかなくなってしまう。

 それはできれば避けたいとは本気で思っているため、ナイアは本気でクリアドーラの戦いに手を出すつもりはない。

 無理矢理操るとなると戦闘力は各段に落ちてしまうのは目に見えている。多少反抗的な態度を取られたとしても、あくまでも『クリアドーラ自身の意思』で動いてもらうためには『ご機嫌』を窺う必要はある。

 ……すんなりと信じてもらえないのは、ナイアの『人徳の賜物』としか言いようがない。


「さて――おい、


 アリスに引き続き、クリアドーラも自分の使い魔のことを頭の中から捨て、相手へと全てを向ける。

 ……二人とも、互いに名前を呼びあったのはこれが初なのだが、意識しているかどうか。

 全てを出し尽くして戦うべき対等の『ライバル』として認め合ったが故のことだろう。

 それはともかく――


「これから俺は『本気』になる――てめぇも『本気』を出すなら早めにしろよ? でねぇと……一撃で終わっちまうからよぉ?」

「ふん……言われるまでもない」


 色々と不安はあるが、ともかくアリスとクリアドーラの三度目の、最後の戦いは仕切り直し――いや、これからが本当の始まりとなる。


「――ああ、そういや一つ聞き忘れてたわ。

 てめぇ、回復アイテムは後幾つ残ってやがる? ……ま、いいわ。とりあえず10個くらいか?」

「……あん?」

「じゃあ、俺様も回復は10回だけにするぜ」

「貴様、何を……!?」


 戦闘開始前に突然回復アイテムのことを訊ねてくるクリアドーラにアリスは怪訝そうな顔になる。

 そんなことを気にして何になるというのか。

 確かにここに至るまでで幾つか回復アイテムを使ってしまったので、魔力回復は後10回程度――というのは間違っていないが……。

 ――いや、とアリスは思い出す。

 ピースたちは、マイナーピースのギフト【供給者サプライヤー】によって回復できるのだ。マイナーピース1体=魔力回復アイテム1個というわけではないだろう。

 だがそこの調整はクリアドーラにもできない。だからこそ、とりあえずの『10回』という回数制限なのだろうが……。

 なぜそんなことを言うのか――横で見ていたナイアはあきれたようにため息をつき、アリスもクリアドーラの意図を察し思わず笑みを浮かべる。


 、クリアドーラはそう宣言したのだ。

 そしてもう一つ、、言外に潜ませた意図――、ということ。


「……上等だ、貴様」


 理解したアリスも全力を尽くすための戦略を頭の中で高速で考える。

 いつものように戦いながら考えていては間に合わない。

 最初に敵の総てを読み切って行動しなければ間に合わない。それを直観した。


「行くぜ――俺様の最大最強、究極の魔法だ……」


 アリスが自分の意図を汲んでくれたことを悟り、嬉しそうに笑いながらクリアドーラは自身の切り札たる第三の魔法を解き放つ。




「――旭光きょっこう!!!」




 魔法が解き放たれると共に、クリアドーラの身体が黄金の光を放つ。

 旭光――その名の如く、昇る太陽のような輝きと熱を全身に纏ったのだ。

 この魔法はクリアドーラの切り札であると同時に、使ったら最後という諸刃の剣でもある。

 効果は『クリアドーラの強化』というシンプルなものではあるが、実際にはもう少し複雑だ。

 累積強化魔法、というべき強化方法となっていて、凛風の『シフト』と同じく段階的な強化を永続的にかける、というものだ。

 ただし、シフトと違ってクリアドーラの意思で段階を上げることはできず、時間経過のみによって強制的に上げられてしまう――このこと自体はクリアドーラにとっては特に問題ではない。どれだけ強化しようとも、肉体は十分耐えきることができるほど鍛え上げられている。

 副次効果として、ホーリー・ベルの『絶装アルテマ』同様にあらゆる魔法を使い放題になるものの、常に魔力を消費し続けるというものがある。

 反面、『絶装』とは異なり自分の意思で魔法を解除することは可能だ――が、このような強力な魔法が何度も自由に使えるわけがない。使えるのは一度きり……解除してしまったら二度と使うことはできなくなってしまう。

 もう一つ、ユニットの時にはそこまででもないがピースであるがゆえに大きなデメリットとなることがある。

 それは、ということだ。

 魔力回復をマイナーピースの【供給者】に頼る他なく、かつその数を制限した――クリアドーラは本気でアリスを倒すつもりであり、平等の条件を己に課すことで背水の陣を敷いているのである。

 クリアドーラが己に課した回復制限……それを全て使い切る前提で、旭光の持続時間はおよそ20分。

 この制限時間内に二人の勝負は決する。


「…………すげぇな」


 小さな太陽と化したクリアドーラを見て、アリスは素直に称賛の声を上げた。

 魔法の詳しい効果、それに彼女が抱えるデメリットを知らずとも、それが後先を考えない自爆上等の特攻形態であることを感じたのだ。

 ……そして、それがどれだけの破壊力を秘めているのかも。


「くく……ぐはははははははっ!!

 もう止まらねぇ、止めらんねぇ!! 俺様を止められるもんなら……止めてみやがれぇぇぇぇぇぇっ!!」


 黄金の光がはじけ飛ぶとともに、クリアドーラはアリスへと突進していった……。

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