第9章30話 神話の戦い
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『彼女』は概ね自身が望んだ通りに事態が進んでいることに
まだ予断は許さないが、このままであれば概ね『目的』を達成することはできる――はずだと『彼女』は考えた。
唯一の懸念は、ヴィヴィアンがキング・アーサーをインストールしたことにより、『彼女』の
想定では、ヴィヴィアンがどれだけの頑張ってもルナホークの勝率は80%を割ることはなかったはずだったが、現実は50%――勝つか負けるかわからない、というまでに追い込まれている。
もっとも、それはあくまで【
それが『50%』という結果を出している――その事実を『彼女』は軽視しない。
――適切に
見極めなければならない。
勝つか負けるかわからない、ではダメなのだ。
かといってヴィヴィアンにすぐ負けられても困る。
だから、状況をコントロールするために介入するタイミングを見極めなければならない。
そうでなければ、ここまで裏で動いてきた意味がなくなり――『彼女』の望む結末には至れない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
聖剣を携えたアーサー王――ヴィヴィアンと、彼女に召喚された17体の英雄が一斉にルナホークへと攻撃を仕掛ける。
弓の名手たちが無数の矢を浴びせかけ、その隙間を縫うように剣や槍、斧を持った英雄が直接斬りかかる。
本来であれば、一騎であっても大抵のユニットと互角以上の戦いを繰り広げることのできる神話の英雄が『群』となり襲い掛かってくる。
対峙するものとしては悪夢以外の何物でもないだろう。
神話や伝説に語られる英雄、魔獣、武具を
これを『他力本願』というのは負け惜しみにしかならないだろう。
実在・非実在に限らず語り継がれてきた伝説を己が力とする……故に、ヴィヴィアンは『
それに対抗するルナホークは、古い神話を否定するかのような、あるいは乗り越えんとするかのような、人の意思が作り上げた鋼鉄の兵器を武器とする。
現代すらをも超越した未来の武装を身に纏い、神話の英雄たちを迎え撃つ。
今を生きる人間が作り上げる兵器を以て古き神話を凌駕する――故に、ルナホークは『
18対1――しかも片や一騎当千の英雄たちの軍勢との戦いは、信じがたいことに互角の戦いとなっていた。
――……強い……!
ヴィヴィアンの騎士たち――17体の『
逆なのだ。
アヴァロン・ナンバーズを呼び出して、ようやく互角の勝負ができるようになったに過ぎないのだ、と。
もしもアヴァロン・ナンバーズを呼べなかったとしたら、瞬殺……とまではいかなくても、ヴィヴィアンは遠からず敗北していただろう。
それが予想ではなく『確信』できるほど、ルナホークは強かった。
《ヘラクレス》《ケイローン》《トリスタン》《クリシュナ》《リョフ》、そして《シユウ》と《ライコウ》が放つ矢――というのも憚られる剣のような矢の雨を、ルナホークは難なく回避する。
両足を地上戦特化の高速起動のギアへ、両腕を格闘、そして斬撃特化のギアへとすぐさま変更し、降り注ぐ矢をかわしながら迫りくるナンバーズへと自ら接近する。
《ペルセウス》と《パーシヴァル》《パラスラーマ》の三方向からの斬撃を呼び出した楯型のモジュールで受け止めると同時に強烈な
更に三騎士に続いて斬りかかってきた《ガラハド》、空中からペガサスに乗って槍を投擲する《ベレロフォン》、地上を戦車で移動し突撃してくる《アキレウス》をいなす。
別の戦場でジュリエッタが圧倒的多数のピースたちを一人で翻弄していたのと同様、ルナホークはたった一人で17体の騎士を翻弄していた。
ただジュリエッタと異なるのは、騎士たち――すなわち召喚獣の『防御力』の高さだ。
ルナホークも回避しつつ反撃をしているのだが、超硬度の防御力を誇る召喚獣たちには傷一つつけられていない。
だからこのまま戦い続けていれば、いずれルナホークの身体的な意味での体力を削ることはできるだろう――洗脳状態とはいえ、『疲れ』を全く感じないということはないはずだ。
その隙を突いて攻撃をすれば……という考えはあるが、そんな甘い相手ではない、とヴィヴィアンは気を緩めない。
事実、ルナホークの視線は常にヴィヴィアンへと向けられている。
召喚獣の攻撃は直撃すれば危ないが回避は十分可能。だが、ヴィヴィアンの持つ《エクスカリバー》だけは確実に回避しなければ危うい、と認識しているのだ。
《エクスカリバー》を使うタイミングを見極め、逆にカウンターでとどめを刺す……そのようにルナホークが考えているのはヴィヴィアンにもわかっている。
騎士たちとルナホークの攻防が数分続き――
「
ついにルナホークが動く。
「コンバート――《ジェノサイド・デバイス》」
騎士たちの攻撃を回避しながら、ルナホークが新たなる
周囲を絶え間なく騎士たちに囲まれ、攻撃されているというのにどこからか飛来する新たな兵装を止めることができていない。
どんなに強力な兵装を使おうとしても、事前に阻止することが不可能なのだ――ルナホーク本体へと攻撃を加えることは可能だが、換装自体は止めることができないのでいずれ換装は完了してしまうのである。
「くっ……やはり止められませんか……!」
この状況でルナホークが敢えて換装を行うのだ、それが生半可なものではないことは容易に想像できる。
おそらく、いや間違いなく召喚獣を蹴散らしヴィヴィアン自身へと刃を届かせることのできる最大の魔法であろう。
現れたのは、異形のギア――胴体とのバランスを全く考慮していない、巨大な手足へと換装される。
手足もただ大きいだけではない。各所にある
両肩からはジャンボジェット機の翼のようなパーツが生えているが、それは空を飛ぶためのものではない。翼のあちこちには無数の
そして、両腕、両足、両肩に固定するように備え付けられた大型の砲台が計6基――
「……殲滅……開始」
ルナホークがそう呟くと共に、バイザー状のパーツが頭部を覆い、赤い光を放つ。
17体の召喚獣諸共にヴィヴィアンを抹殺する、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
絶対的な力の差、というものをヴィヴィアンは思い知ることとなった。
先ほどまでは互角と言えるかは微妙ではあったが、少なくとも均衡していた戦いが、《ジェノサイド・デバイス》を使われたことで一気に均衡が崩れていった。
誰も――どの騎士であっても、ルナホークの進撃を止めることは不可能であった。
遠距離からの攻撃は、矢の雨をも超える無数の小型ミサイルによって迎撃され歩みを止めることはできない。
近距離で攻撃しようとすれば、手足に内蔵された刃や銃火器によって迎撃される。
戦車による突進ですら、ルナホークの片手で止められ握り潰されてしまう。
――こ、ここまでとは……!
ルナホークが本気の攻めを行ったら、たとえアヴァロン・ナンバーズがいたとしても容易ではないとは思っていたが、まさか一方的に蹂躙されるだけになるとまでは思っていなかった。
明らかにルナホークの力は常軌を逸している。
『
個人で軍団と渡り合えるアリス、個人で軍団規模の戦力を引き出せるヴィヴィアン……この両者が本気で戦った場合にどちらが勝つかは未知数だ。
しかし、ルナホークに限っては答えは明白だと言えてしまう。
それほどまでに、圧倒的な――そして異様な武力をルナホークは持っていた。
――いけない、このままでは……!
既に《ヘラクレス》《パラスラーマ》《クリシュナ》《ロウラン》《ランスロット》《ガウェイン》《アキレウス》《シユウ》《ライコウ》が倒されている。
いかに『配下の騎士を呼び出す』能力を持っているとはいえ、倒された騎士を蘇らせるという能力はキング・アーサーも持っていない。
これ以上騎士たちが減ってしまえば、ヴィヴィアン自身が倒されるのも時間の問題だ。
――……まだ少し足りていませんが、今動かなければ間に合わない……!
ヴィヴィアンもアヴァロン・ナンバーズに全てを任せて後ろに控えていた、というわけではない。
エクスカリバーの
いかにキング・アーサーの力をインストールすることで発揮できるとは言っても、身体を動かす『頭』はヴィヴィアンのものなのだ。
彼女自身の力では、ルナホークと剣を交えて戦えるわけがない――それは自覚している。
だからやろうとしているのは、やはり『一撃必殺』にならざるをえない。
アヴァロン・ナンバーズによってルナホークを抑え込みつつ、エクスカリバーの威力を一撃で倒せるまで溜める。
そして、同じくアヴァロン・ナンバーズで隙を作り、回避されないタイミングで放つ……それ以外に勝ち目がない、と思っていたのだ。
しかし《ジェノサイド・デバイス》を纏ったルナホークの力は常軌を逸している。
アヴァロン・ナンバーズが抑えるのも限界だろう。ヴィヴィアンの狙い通りに事を進めることはもはやできないし、無理に続けようとすればエクスカリバーを使う間もなくやられてしまうだろう。
「ナンバーズ!」
まだナンバーズが残っているうちに動かなければならない。
エクスカリバーの溜めは不十分かもしれないが、ヴィヴィアンは残ったナンバーズへと指示を出す。
残るは《ペルセウス》《ベレロフォン》《ケイローン》《パーシヴァル》《トリスタン》《ガラハド》《リョフ》、そして《ナイチンゲール》の8体。
……召喚獣に『意思』のようなものがどの程度あるのかはわからないが、細かいことを指示せずともヴィヴィアンの手のエクスカリバーの光を見て独自の判断で動き出す。
「勝率、70%――残敵の殲滅、開始……」
数が減れば減るほどルナホークの『勝率』は上がる一方だ。
残る召喚獣をまとめて破壊し、ヴィヴィアン自身へと攻撃を加えようとルナホークも自ら前へと出てくる。
ここに至るまでルナホークはダメージを受けていないのだ、残る8体も傷一つつけることなく踏みつぶすことは容易だろう。
注意するべきはヴィヴィアンのエクスカリバーのみ。
その認識は間違っていないだろう。
楯を持つ《ペルセウス》を先頭に、残る召喚獣たちが果敢にルナホークへと立ち向かう。
ユニットであろうがモンスターであろうがことごとくを打ち滅ぼせるであろう8体の英雄の突撃を、ルナホークはまるで存在していないかのように蹴散らしながら進む。
次々と召喚獣は斬り裂かれ、あるいは弾き飛ばされていってしまう。
前面へとルナホークの意識が逸れた瞬間、ペガサスに乗った《ベレロフォン》が上空からルナホークの頭上めがけて落下するように飛び込んでくるが――それも小型ミサイルの雨が迎撃する。
もはや止めることは出来ない。
ルナホークは一切ヴィヴィアンから視線を切らすことなく、召喚獣を蹴散らしながら向かってくる。
「今です、《ナイチンゲール》!」
が、ヴィヴィアンもまた視線を切らすことなく前に出ながら『機』を窺っていた。
召喚獣たちはただ犠牲になったわけではない。
ほんのわずかだけでも勢いを殺す――のはついで。本当の目的は、ルナホークの前へと次々に出ることで《ナイチンゲール》の存在を隠すことにあったのだ。
ルナホークは止められない、そしてヴィヴィアンへの注意を逸らすこともできないことは承知の上――裏を返せば、ヴィヴィアンへの注意を逸らすことはできないことを逆手に取り、『どうとでもなる』とルナホークが考えている召喚獣たちへの注意を逸らすことはできる。
そのうちの一体――直接戦闘力のない《ナイチンゲール》が密かにヴィヴィアンの後ろへと下がっていたのを隠そうとしていたのだ。
目的はただ一つ。
後ろから《ナイチンゲール》がヴィヴィアンへと体当たり――インストールしているヴィヴィアンは召喚獣と同じ性質を持つ。
つまり、
――このまま至近距離から!
《ナイチンゲール》に弾かれ、ヴィヴィアンが前へと加速――一気にルナホークとの距離を詰める。
ルナホークのギフト【演算者】の予測を超えるであろう急接近からの至近距離でのエクスカリバーによる『一撃必殺』……これが決まればヴィヴィアンが逆転勝利することは可能だっただろう。
……決まれば、の話ではあるが。
「目標捕捉」
ルナホークはそれすらも読んでいた。
召喚獣同士の衝突によるスピードも、当然【演算者】は織り込み済みで計算していたのだ。
ヴィヴィアンの不意を突いたつもりの突撃は、ルナホークからしてみれば自分からわざわざ近づいてきてくれた、という程度の意味しかなかった。
召喚獣を弾き飛ばしながら、そのまま右腕をヴィヴィアンへと伸ばす――と共に、手のひらに開いた大穴……『銃口』を開く。
「『ジャガーノート』起動」
銃口が周囲の大気を急激な勢いで吸い込み、一瞬後に逆に猛烈な勢いで『見えない弾丸』を発射する。
《ジェノサイド・デバイス》を構成するギアに内蔵された殺戮兵器――周囲の大気を急速に吸引、圧縮した大気の弾丸を超高速で射出する、《ケラウノス》とも似た『疑似レールガン』ともいうべき必殺の兵器である。
ただし、《ケラウノス》のように実体のある弾丸を発射するわけではないため、速度はあっても射程距離はさほどでもない。弾丸は撃ちだした瞬間から威力が減衰し、ある程度距離が離れていればそよ風程度にしかならないという特徴がある。
しかも『空気の弾丸』であるため、一定以上の防御を貫くにはやや威力不足であり、召喚獣を砕くにはかなりの近距離から当てなければならない――が、弾丸が命中した瞬間に圧縮された空気が炸裂し、周辺をズタズタに切り刻むという生物に対しては恐るべき効果を持っている。
だからヴィヴィアンが自分から接近してくるのをルナホークは予測し、それを待っていたのだ。
いかにインストールして強化していると言っても、ベースとなっているのはヴィヴィアン、つまり人間同等の肉体なのだ。『ジャガーノート』の圧縮空気弾は致命的なダメージを与えることができる。
《ナイチンゲール》と接触したことにより勢いよく飛び出すヴィヴィアンは、やや前傾姿勢気味になっている。
それを完璧に捕捉していたルナホークの照準は、ヴィヴィアンの胸辺りへと付けられていた。
タイミング的に回避することはほぼ不可能。
仮に回避しようとするとして――上へと跳べば腰から下が吹き飛び、左右どちらかへと避ければ突進の勢いが失われる。そして、更に体勢を沈み込ませて回避しようとしても、『前傾姿勢の胸付近』を狙った弾丸はちょうど顔面辺りに当たることあろう。それをも回避するためには、しゃがむかあるいは地に伏せる形となってしまいどちらにしても動きを止めることに変わりはない。
ヴィヴィアンがどう動こうとも、この一撃、あるいは追撃の『ジャガーノート』によって終わる――『詰み』である。
「くっ……」
ミリ秒にも満たない時間でヴィヴィアンは決断を迫られ――そして、ルナホークからしてみれば
体勢を更に深く沈みこませ、見えない弾丸の下を潜り抜けようとしたのだ。
ジュリエッタが似たようなことをヒルダに対して後に行うが、あれはジュリエッタ自身も魔法によって超加速していたことに加えて回避すべき『弾丸』が見えていたからに他ならない。
『ジャガーノート』の弾丸の大きさは、銃口に比してかなり大きい。目には見えないが、おおよそボーリングの球程はあるのだ。撃たれた位置からして、加速をコントロールできていないヴィヴィアンがかわしながら前進を続けることは不可能なのだ。
――バァンッ!!
と風船が破裂するような音と共に、ヴィヴィアンの頭部が見えない弾丸によって完全に砕かれ――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……ヴィヴィアンが『下』方向へと回避しようとしたのは、ルナホークが想像したような理由
銃口の向きから、下手な回避方法を取ろうとすれば、胸元に抱いたままのキューに危害が及ぶと考えたからだ。
そして、それに加えてルナホークが考える通りに他三方向への回避をすることは『詰み』になるとわかっていたから、というのもある。
一番生き残る目があるのが、真っすぐ突っ込んで弾丸を潜り抜ける……というものであったが、それも失敗しヴィヴィアンは頭部を吹き飛ばされ終わった――
――しかし、
「!?」
この瞬間、ヴィヴィアンの行動がルナホークの『計算』を超えた。
粉々に砕けたはずのヴィヴィアンの頭部が、瞬時に
そしてそのまま止まることなくルナホークへと肉薄する。
別にヴィヴィアンが不死身だというわけではない。
『エクスカリバーの鞘』――かつてキング・アーサーと戦った時にその力を目の当たりにした、恐るべき再生能力の効果である。
キング・アーサーをインストールしているということは、当然『エクスカリバーの鞘』もヴィヴィアンは使うことができる。
ルナホークがキング・アーサーの能力を把握していないという『隙』を突いた形となった。
……再生できるとは言っても、頭を吹き飛ばされて本来ならば無事に済むはずはない。キング・アーサー自身でさえも、『エクスカリバーの鞘』を使った時には頭部は残ったままだったのだから。
しかしヴィヴィアンは確信していた。
単なる思い込みではない。今までの戦いの経験から、頭部が砕かれた時に受けるであろうダメージの予測をし、『ゲームの数値上』では耐えられると判断した上での行動だ。
更に少し前に幻とは言え似たような攻撃を受けたという経験も生きた。
耐えられるとわかっているのであれば、何も恐れることはない――理屈でわかっていても普通の神経であれば到底実行不可能なことだろう。魔法で再生可能なジュリエッタであっても頭部の損傷は極力避けるはずだ。
それを躊躇わずにやる……そうしたヴィヴィアンの精神力は他の追随を許さないものと言えるだろう。
「はぁっ!」
ルナホークの計算を超え懐に潜り込むことに成功したヴィヴィアンがエクスカリバーを振るう。
魔力光波を抜きにしても、単純な武器としてもエクスカリバーの性能は高い。
刃がルナホークの左腕を深く斬り裂く。
「ナンバーズ!」
同時に生き残ったナンバーズへと、右腕へと集中攻撃するように指令を出す。
ここで《ジェノサイド・デバイス》を破壊し、防御できない状態にまで追い込んでからエクスカリバーの一撃を与える――このチャンスを逃せばもう後はない。
ヴィヴィアンの指令に従い、生き残った《ペルセウス》と《ガラハド》が右腕へと飛び掛かり、自らの身体を張って止めようとする。
止められるのはほんの一瞬だろうが、それでもエクスカリバーを直撃させられるだけの隙は十分作れる。
「! コンバート《スラッシュ・デバイス》!」
――パーツ交換を利用して!?
【演算者】がこのままだと拙いと計算結果を出したのか、《ジェノサイド・デバイス》を切り捨て《スラッシュ・デバイス》へと換装を行う。
パーツ換装に巻き込まれた召喚獣たちが弾き飛ばされ、ルナホークはヴィヴィアンに向けて剣を振るおうとする。
――……このまま行くしかない……!
一旦下がる、という選択は取れない。
エクスカリバーは離れて撃っても絶対に当てることは出来ないだろう。
回避できない位置とタイミングで確実に仕留めるためには、このまま押し切るしかないのだ。
相対するルナホークもまた、このままヴィヴィアンを離すわけにはいかないという事情があった。
近接戦用の《スラッシュ・デバイス》に換装してしまったからという理由もあるが、
「……」
懐に潜り込んだヴィヴィアンへと向けて、大剣を振り下ろし一刀両断にしようとする。
……それも『エクスカリバーの鞘』の効果で再生されるかもしれないが、問題ない。
斬り裂いた時点で剣をヴィヴィアンの身体に潜り込ませてしまえば再生は阻止できる――『ジャガーノート』の弾丸ではそれはできなかったが、《スラッシュ・デバイス》の剣であればできる。
狙い通りにいかずとも、ヴィヴィアンの体力を削ることには変わりない。『エクスカリバーの鞘』の効果はあくまで傷の再生だ、体力の回復までは持っていない――そもそもアイテム以外で体力回復を行う能力は存在していないはずだ。
だから至近距離からのエクスカリバーに気を付けながらヴィヴィアンを切り刻んで倒す……それがルナホークの最善なのだ。
「《ロンゴミニアト》!」
振り下ろされた刃に向けて、ヴィヴィアンは左腕を前へと突き出しながら叫ぶ。
これもまたキング・アーサーの能力――光の槍をレーザー砲のように射出する『ロンゴミニアト』だ。
ルナホークの剣と『ロンゴミニアト』が激突、剣を砕くことは出来たが発射のタイミングが遅れ、ヴィヴィアンの左腕も半ばから切断されてしまった。
相打ち……の代償としては、上々だろう。ヴィヴィアン側は
もう片方の手を刃と化し、ヴィヴィアンを狙うも、
「させません!」
跳ね上げたエクスカリバーがそれを断ち切る。
両腕を失ったルナホークに、片腕のヴィヴィアン――コンバートで同じようにパーツ入れ替えを利用して弾くにしても、もはや間に合わない位置だ。
「……計算、失敗……?」
「これで――決めます!」
【演算者】の計算結果が狂ったことを悟ったルナホークが
……それが悪手なのは誰が見ても明らかだった。
弾き飛ばされた《ペルセウス》たちが飛び掛かり、ルナホークの動きを止め逃がさないようにする。
――……やはり……!
この一連の攻防でヴィヴィアンは改めて確信した。
ルナホークは操られている、決してあやめ自身の意思で行動はしていない、と。
いかに『ゲーム』内での戦闘経験が乏しかろうとも、現実世界で数々の武道やスポーツの経験を積んでいるあやめ自身の判断ならば、この状況で『後ろに逃げる』という悪手を選ぶわけがないからだ。
身体はルナホークであっても
至近距離からのエクスカリバーの一撃で葬り去る――後のことは後で考えれば良い、と半ばヤケクソではあるがシンプルな結論へとヴィヴィアンは至った。
「《エクス――ッ!?」
溜めた魔力を解放、エクスカリバーを解き放とうと振り上げたヴィヴィアンの右腕が
<ピーッ、ピピーッ!>
「ルールームゥ……!?」
どこからか突然現れたルールームゥの仕業だった。
右腕を斬り落とされエクスカリバーを落としてしまったヴィヴィアンの前に、ルナホークとルールームゥ……二人の難敵が立ちはだかる。
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