第9章27話 証明 -Internal tendencies-

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 確かにクロエラは、自分自身の能力について本当の『確信』を得ることができた。

 本当の意味での全力をこれから初めて発揮することになるだろう。

 それがどこまでジュウベェに通じるかはわからない――が、クロエラは自身の言葉通りそのことを恐れない。


 ――失敗するかも、とかそういう考えはもうやめよう。


 臆病ともとれる慎重さは見方によっては長所ではある。

 しかしこの局面においてはそれは不要なものだ、とクロエラは敢えて自分の長所を切り捨てる。

 ここから先必要なのは、慎重さではなく大胆さ。

 とにかく全身全霊をがむしゃらにぶつけていく『気迫』だけが必要となるのを理解しているのだ。


 ――ボクにできることはたった一つしかないんだ……!


 ある意味で開き直った、とも言えるだろう。

 クロエラには相手を殲滅するための強力な魔法もないし、速さ以外の強靭なステータスもない。付け焼き刃の技は教わったものの、それをぶっつけ本番で上手くやれる自信は流石にない――下手にやろうとして致命的なダメージを受けてしまうわけにはいかない。

 だから、彼女の考えはとてもシンプルなものに収まった。


「――良い顔ですわぁ。よもや、ノワールではなく貴女で『証明』することになるとは思いませんでしたが……ふふっ、まぁあたくしにとっては上々の結果ですわねぇ」


 ジュウベェは構えたまま動かず、クロエラには良く意味のわからない言葉を発する。

 惑わすためのもの、ではないだろう。

 おそらくはこの言葉こそが『今のジュウベェ』を理解するためのヒントなのだろうが――それも今考えるべきことではない、とすぐに切り捨てる。


「くふふ……えぇえぇ、生まれて初めての『本気』というやつですわ。あたくしにもどうなるか想像がつきませんが――えぇ、きっとこの力で『証明』してみせましょう。貴女を斬ることによって」


 ジュウベェが一歩、前へと踏み込む。


「抜刀 《万剣》!!」

「!?」


 新たにジュウベェが使った魔法――それは、今までとは全く異なる抜刀魔法だった。

 彼女の周囲に半透明に透き通った幾つもの『剣』が浮かび上がる。


「えぇ、流石に魔力の消費が大きいですわねぇ……けれど、これこそがあたくしの『本気』――『証明』のために生み出した切り札ですわぁ」

「……無数の魔法剣を同時に……!?」


 『剣』ではなく『陣』――抜刀魔法は一つの魔法で一つの剣を生み出すものだという先入観があった。

 しかし新たな魔法 《万剣陣》は一つの魔法で複数の剣を生み出していた。

 以前のジュウベェでは使えなかった……否、魔法である。


「貴女がどれだけ速かろうとも、あたくしの刃は逃しません。必ず、貴女の首を斬り落として差し上げましょうとも……くふふっ」


 半透明とは言え、それが幻影だとはクロエラには思えなかった。

 無数の剣全てが凶器――ジュウベェの宣言通り、クロエラを斬るための刃であることを疑わない。

 いかにクロエラが速いと言っても、無数の剣を搔い潜ってジュウベェへと攻撃を当てるということは難しいだろう。

 むしろ、周囲に浮かぶ剣によってカウンターを食らう可能性は高い。それを狙う意味もあってジュウベェは無数の剣を同時に作り出したのだと容易に想像できる。


「……」


 それでもクロエラは臆さない。

 あれこれ考えるのはもうやめたのだ。

 ジュウベェがいかなる魔法剣を作ろうとも、クロエラにやれることは元からたった一つしかない。


 ――ジュウベェが何をしようとも、ボクには『速さ』しかない。

 ――だから、やれることはたった一つ……とにかく速く――どこまでも、とことんまで速さを上げ続けていくしかないんだ!


 今ならば『限界』を超えることもできるはずだ、とクロエラは確信している。

 ただの速さで通用しないのであれば、より速く。

 肉体乗り物の限界など関係なく、とにかく加速を繰り返していくしかクロエラにはやれることはないのだ。


「ジュウベェ……お前がボクの『死』だというのであれば――」


 一手遅れれば死神ジュウベェはクロエラの命を刈り取ることだろう。

 だったら、やはりやれることは一つだけだ。


「ボクの速さは、死すらも振り切ってみせる」




 今ここに、永く暗闇の中を彷徨っていた"闇夜の騎士ダークナイト"は夜明けを迎えた。

 己に迫る死の刃すらも振り切り、逆に相手を死に至らしめる"告死の騎士ペイルライダー"の覚醒である。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ジュウベェが動くよりも先にクロエラが走る。

 新たな魔法 《万剣陣》の効果は不明だが、その発動を見て回避するという『受け身』の戦い方では勝てないと直観で理解しているためだ。

 速さ一本だけで対抗するのであれば、回避に専念するよりも自分から攻めなければ勝てない。ジュウベェが速さを完全に見切り、対応できるようになってしまったその時がクロエラの敗北が決まる時なのだから。


「《閃光》!」


 対するジュウベェも自分にやれることが『攻め』だけだと理解している。

 クロエラの速さを見切るまでにやられてしまっては意味がないのだ。

 クロエラの攻めに併せるかのようにジュウベェも《万剣陣》を起動させる。

 彼女の言葉に従い、空中に浮かぶ剣のうち一本が実体化――周囲へとその名の通り激しい『閃光』を放つ。


「くっ……」


 この光自体には攻撃力は存在していないようで、クロエラの目が一瞬眩む程度であった。

 しかし、ただの目眩ましだけで終わるわけがない。

 咄嗟にクロエラは見えないながらも横へと跳び、


「《斬光》!」


 光の中から飛んできた、『見えない斬撃』を回避する。


 ――……厄介な魔法だ……!


 図らずも《万剣陣》の性質はこの攻防で大体理解した。

 おそらくはジュウベェの奥義――複数の魔法剣をあらかじめ抜刀してストックしておき、それを同時に扱えるようにする魔法なのだろう。

 ジュウベェの抜刀魔法の欠点としては、手に持っていなければ効果を発揮しない魔法剣が多いということが挙げられる。

 そのため、いちいち抜刀→納刀をして持ち換えるか、あるいは納刀せずに放り捨てて新しい魔法剣を抜刀するかという戦い方を今までしていたのだが、《万剣陣》はその欠点を補う魔法となっている。

 この魔法自体は『魔法剣をストックする』という効果しか持たないものなのだと考えられる。

 ……ただそれだけの魔法ではあるが、もし以前のジュウベェがこの魔法を使えたとしたら、アリスとクロエラはきっと勝てなかっただろうと思えるほどの補助魔法だ。


 ――魔力の消費は……いや、考えるだけ無駄か。


 一瞬だけ『魔力切れ』を待つという戦い方も考えたが、すぐにそれを破棄。

 無限に回復することは流石に無理だとは思うが、電池マイナーピースの数は膨大だ。魔力切れを待つという長期戦は望みが薄い。

 いずれ魔力切れは起きるかもしれないが、それを期待してジュウベェに追いつかれては意味がない。

 あくまでも自ら攻めて勝つ――それがクロエラの見出した唯一の勝ち筋なのだ。

 だから止まらずにすぐさまクロエラは駆ける。


「ドライブ《パワーローダー》!」


 肉体への負荷が高い《オーバーヒート》を《パワーローダー》で上書き、そのまま真っすぐに突進していく。

 無策無謀な突進――のように見えるが、そうではないだろうとジュウベェは予想。

 しかし、だからといってお互いにやることに変わりはない。


「《飛燕》、《双牙》!」


 クロエラへと向かって遠距離斬撃飛燕を放ち牽制するのと同時に、左右から襲い掛かる斬撃双牙を放って挟み込もうとする。

 それだけではなく、自身も前進。真向からクロエラを自ら迎え撃とうとする。

 三方向からの斬撃をクロエラは止まることなく前進しながら回避、そのままジュウベェへと向かうが、


「くふふっ、《剛爪》!」


 回避されるのは織り込み済みだったのだろう。ジュウベェが更にもう一本新たな剣を抜刀する。

 三本の上から降り注ぐ爪撃――タイミング的にクロエラが回避するためには大きく横か後ろに跳ぶ以外ない状況だ。

 しかし、それももちろんジュウベェは見越している。

 最初に放った《飛燕》は真っすぐに飛ぶ斬撃ではない。空中でターンし、背後からクロエラへと襲い掛かろうとしていた。




 ――さぁさぁ、どうしますかねぇ!?


 超高速戦の最中に常に状況を把握し続けることなど不可能だ、それがジュウベェの考えである。

 こうした目まぐるしく状況が変化し続け、互いに対処しあわなければならない戦いにおいて重要なのは思考能力ではない。

 身体に染み付いた『経験』なのだとジュウベェは考える。

 ……自分に肝心の『経験』が欠けているのも自覚はしている。

 故に、その『経験』を戦っているのだ。

 クロエラの危惧した通り、今のジュウベェは昔のジュウベェとは全く異なる質の『強さ』を持っている。

 ステータス的には以前には遠く及びはしないが、戦いながら着実に『成長』していく点において以前よりも強敵であるというクロエラの思いに間違いはなかった。


 《剛爪》をいかによけるか――背後の《飛燕》に気づいたとして、選択肢は左右のどちらかしかない。

 そしてそのどちらかであった場合、ジュウベェはすぐさま《双牙》を再抜刀することが可能だ。

 《万剣陣》のもう一つの特徴は、一度抜刀した剣を何度でも即時抜刀可能という点にある。

 同じ魔法剣による連続攻撃が可能となっているのだ。


 クロエラの速さであればギリギリ回避は可能かもしれない――が、『回避を強制』することによって動きを制限することができる。

 それこそがジュウベェの狙いだ。

 自分の思う通りにクロエラを誘導し、確実に斬る――たとえ『生死人』であったとしても『ゲーム』的な意味での体力が無限というわけではない。

 首を斬り落とすほどのダメージを与えれば倒せるはずなのだ。


「こ、のぉぉぉぉっ!」


 超高速で動くクロエラだったが、その動きはだいぶジュウベェにも見えてきた。

 クロエラの動きを見逃さずに次の一手をいつでも打てるように準備していたジュウベェだったが、クロエラの行動は彼女の予測を超えたものであった。

 正面上方から降り注ぐ三本の《剛爪》を回避することなくそのまま突進、《剛爪》を弾き飛ばしていく。

 そしてそのまま止まることなくジュウベェへと接近しようとする。




 《パワーローダー》の効果は、走行魔法ドライブとしては今までにないタイプだ。

 ――否、これはクロエラが己の真の能力を自覚したがゆえに使えるようになった魔法だと言える。

 工事のような、重量物を運搬、あるいは破壊する能力を自分自身に付与したのである。

 単純にバイクにあらゆる道の走破能力を与えるのではない。

 ドライブの対象にあらゆる種類の車両の持つ走行能力を与える――それこそが、ドライブの本領であるとクロエラは自覚したのだ。


「くっ……予想外ですねぇ!?」


 《剛爪》の切断能力はそれほど高くはないが、硬く重い爪の一撃はクロエラのパワーでは本来耐えられないはずだった。

 だからこそ回避を選ぶと予想し誘導しようとしていたのに、クロエラはジュウベェの考えを上回った。

 ……クロエラが考えてそうしたのかはわからない。

 自分から攻めていくという決意を崩さないために、前進し続けることができるようになる《パワーローダー》を選んだだけなのかもしれない。

 ともあれ、今この瞬間、クロエラはジュウベェの予想を超えたタイミングでの接近することができたのだ。


「《瀑布》、《星流》!」


 だが、だからと言ってそれだけでジュウベェに勝てるわけはない。

 自分の予想が外れたジュウベェが咄嗟の判断で使ったのは《瀑布》――巨大な滝の如く相手を押し潰そうとする『壁』、そして《星流》という無数の小型の刃を放つ流星雨の魔法だった。

 広範囲に迫る《瀑布》は切れ味こそないものの回避は難しい。

 クロエラは《瀑布》に弾き飛ばされ、更にそのまま《星流》の刃に体のあちこちを貫かれて地に倒れる。


「う、ぐぅ……まさか、あの状態から反撃とは……」


 ジュウベェもまたその場に膝をつく。

 見れば、彼女の腹部に何本もの『ネジ』が突き刺さっていた。

 《瀑布》に弾き飛ばされる瞬間、クロエラは分解魔法ディスマントルを使い、自分の霊装バイクから『ネジ』を何本か取り出していたのだ。

 それをナイフのように投げつけ、ジュウベェへもダメージを与えたというわけである。


「まだ、まだ……!」


 どちらも戦闘不能には程遠いが着実に傷を負っていっている。

 互いに回復能力がない以上、このまま削りあいをしていけばどちらかが先に倒れるだろう。

 ……『削りあい』であれば、おそらくはクロエラの方が体力的には不利となる。

 しかし、『削りあい』となった時にクロエラがスピードを活かせば自分が削り切られる前にジュウベェを逆に削り切ることは不可能ではない。

 だからこの戦いは――


「く、くっふふふ……!」


 腹に突き刺さった『ネジ』を抜き、噴き出す血を見てジュウベェは楽しそうに笑う。

 『削りあい』ではお互いどちらも不利な面が多い。

 だからこそこの戦いは、結局のところ互いに『一撃必殺』を狙うものとなるのだ。


「困りましたわぁ……勝てるかどうかわからないという戦いが、なんて……!

 楽しすぎてレギオンの使命を忘れてしまいそうですわぁ」

「……」


 ジュウベェの言葉に返答はせずとも、クロエラも内心では似たようなことを思っていた。

 恐ろしいはずの相手と戦っているというのに、心は妙に浮き立ち高揚している。

 これを『楽しい』と言い切れるほどの経験をクロエラは積んでいなかったが、おそらくはそうなのだろうとは感じていた。

 自分が思うように動き、全力を出し、それでもなお勝てるかどうかわからない――勝たねばならぬ戦いだというのに、勝てるかわからない『互角』以上の相手との戦いが『楽しい』と感じられる……ほんの少し前のクロエラには絶対にわからない感覚だろう。

 そして同様に、以前のジュウベェであればこのような感覚は抱かなかったに違いない、とも思う。


「……ジュウベェ、君は一体何のために戦っているの……?」


 答えに期待したわけではないが、クロエラはそう尋ねずにはいられなかった。

 今までの行動から考えても『アビサル・レギオンのため』『ナイアのため』に戦うという、いわば『使命感』のようなものは全く感じられない。

 結果的にナイアたちに与することにはなっているが、成り行きでそうなっているだけであって『忠誠心』があるというわけでもなさそうだ。

 【支配者ルーラー】の力で無理矢理という可能性もあったが、操られているというようにも見えない。

 だから『戦う理由』が、ラビたちに敵対する理由がわからないのだ。


「――『証明』、ですわぁ」


 期待しなかったものの、ジュウベェはほんのわずか笑みを消しクロエラに答えた。


「証明……?」

「えぇ、えぇえぇ……察しの通り、あたくしは別にナイアのためには戦っておりません。尤も、彼女たちに以上逆らうこともできませんけどねぇ」


 言いながら、ジュウベェは刀を降ろし右手を左胸に当てる。

 ――隙だらけの姿を晒しはしたものの、クロエラは攻撃をしようとは思わなかった。

 罠を警戒しているのではなく、ジュウベェが語る内容を聞きたいと思ったからだ。それはきっとナイアに纏わる問題の解決には寄与しないかもしれないが、それでもジュウベェたちピースについての情報――いや、『好敵手』となったジュウベェの本音を聞きたいとクロエラは思ったためだ。


「凡そのことは理解しているでしょうがぁ、あたくしたちピースの『中身』は元となった者とは全くの別人ですわ。

 けれども、ピースを――ユニットの肉体を動かすためには、元となった者の『魂』が必要となります」


 どういう理屈か、そしてどうやって実現しているのかはクロエラには想像もつかないが、そのことは何となくわかっている。

 でなければピースとなった者たちが『眠り病』となるわけがないのだから。

 だから眠り病の被害者たちの『魂』がナイアによって囚われている、というのは想像がつく。そして、囚われた魂を方法は不明だが利用して、ユニットの抜け殻――ピースを起動しているのだとも。


「人格や記憶は引き継いでおらずとも、あたくしたちピースの根底にあるのは間違いなく元となった者の『魂』……。

 その『魂』は少なからずあたくしたちの人格に影響を与えている……そうあたくしは考えておりますわぁ」

「…………」


 彼女の言葉が真であれば、今のジュウベェも間違いなく以前のジュウベェ――つまりクラウザーの影響を受けているということになる。

 ただ、クラウザー自身の人格や記憶は受け継いでいないという差があるため、以前とは全く違う印象を受けるのであろうとクロエラは納得した。

 ジュウベェは続ける。


「あたくしの奥底にある『魂』が叫んでいるのですよ――『戦え、負けるな、勝利しろ』と」


 胸に当てた手を再び刀へとかけ、ジュウベェが構える。

 わずかな笑みを浮かべてはいるものの、仮面の奥からクロエラを射抜く視線には揺るぎない戦意があった。


「あたくしには以前の記憶も何もない――『ジュウベェとして生きた歴史』が一切ありません。あるのはただ、『ナイアの駒』であるという事実だけ……。

 ――それがあたくしには

「……っ!」


 完全に笑みを消したジュウベェ。

 その視線から感じる『圧』にクロエラは背筋を震わせた。

 戦意ではなく『怒り』――誰に向ければいいのかもわからない、やり場のない『怒り』をジュウベェは抱えている。


「だからあたくしは、あたくしの奥底にある『魂の声』にのみ従う。

 戦うことで、相手を斬ることで、『ナイアの駒』としてではなく『ジュウベェ』としての存在を、価値を、力を――あたくし自身の意思と歴史を証明してみせる。

 …………ふふっ、別にそう大した理由ではないでしょう?」

「いや……」


 ほんの少しだけおどけた笑みを浮かべるジュウベェであったがクロエラは笑わなかった。

 共感は出来ずとも理解は出来た。

 結局のところ、ジュウベェは戦わなければならない存在なのだ。

 その戦いの『目的』がわずかにナイアの目的に沿っていないものの、逆らえないという立場ゆえに目指す方向は一致してしまっている。


 ――……どっちにしろ、ジュウベェとの戦いは避けられないからね……。


 わかってはいたものの、『もしも』を考えずにはいられなかったが、やはり結論は同じだ。

 クロエラにとってジュウベェの戦う理由を聞くというのはただの自己満足に過ぎない。

 それでもここで本音を聞けたことは良かった――そうクロエラは思う。


「さて、おしゃべりはここまでに致しましょうか」

「……そうだね」


 計らずも、わずかな会話の時間があったことで互いの息も整った。

 再度、互いに全力を出すことが可能となっただろう。

 そして――


「最後の勝負だ、ジュウベェ」


 次の交錯が、本当に最後となるだろうことを二人は理解していた。


「えぇえぇ、参りましょうか――


 ジュウベェが刀を構え直し、《万剣陣》に無数の剣が浮かび上がる。

 クロエラも腰を深く落とし、いつでも全力のダッシュを行えるように体勢を整える。

 ――互いに攻撃の機を窺いあうこと数秒――




「「!!」」


 足場となっている空中要塞が大きく揺れた。

 ――二人が知る由はないが、この時別の戦場で戦っていたエクレールが、空中要塞を大きく破壊した時の衝撃だったのだ。

 その揺れが合図となり二人は同時に、最後の攻撃のために駆けた――

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