第9章25話 黎明 -Dawn of power-

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ノワールにはある『思惑』があった。

 それは『心残り』と言ってもいいものだ。


 自分たちの世界の未来を決する、ナイアとの最終決戦――それにおいて自分はほぼ役に立つことはないだろう、とノワールは認識していた。

 己の肉体が限界を迎えつつあり、更にエル・アストラエアの戦いで心臓ともいうべき『晶核コア』も辛うじて死を免れてはいたが損傷してしまっていた。

 『ブランの仇討ち』という目的もありジュウベェとの戦いを望んではいたものの、それを己で果たせるかどうかは怪しいとは思っていた――事実、一矢も報いることができずに斬られてしまっている。


 それらを理解しつつも敢えて戦いに赴いたのにはいくつか理由がある。

 一つは、ラビの提案したナイアの居場所と思しき場所への突入作戦のためだ――この時に彼女の大元の肉体である竜体を使い潰すことになってしまったが、いずれにせよ『先』のない自分には気にする必要もないと、特に気にもしていなかった。

 本来ならばそこでノワールの役目は終わり――ジュウベェの足止めをかってはでたが、それがほぼ不可能であることは自分が理解していた。

 ならば他の理由は何か?




「クロエラ!」


 自分を庇って代わりに貫かれ崩れ落ちるクロエラを見て、ノワールは後悔した。

 『賭け』などするのではなかった――そうすれば、クロエラの命を無駄に散らせることもなかったはずだ、と。




 ノワールのもう一つの理由はクロエラにあった。

 異世界よりやってきたアストラエアの遣いたち――ラビとそのユニットの中において、ノワールが感じていたのは『クロエラの脆さ』についての危機感だ。

 自分が『老兵』だということは自覚している。それでもなお全力を出せれば並大抵の敵であれば蹴散らせるという自信もあったが、天空遺跡での魔眼によりそれはもはや叶わないのも理解している。

 だから戦える時には戦い、それ以外ではラビたちのサポートに回ろうとノワールは早くから決断していた――それは天空遺跡を出た頃からそうだった。

 この世界の人類よりも、そして結晶竜インペラトールさえも上回るほどの圧倒的な力をラビのユニットたちは備えてはいたが、その『中身』は幼い子供であるとノワールは理解していた。年長である千夏たちにしても、200年以上を生きたノワールからしてみれば撫子と大した違いはない。

 そんな彼女たちと短くもない付き合いの中観察し、ノワールはクロエラ雪彦が一番危ういであろうと判断した。


 同じ危うさという点では、自分の本音を隠しているであろう千夏――本人は隠していたつもりだがノワールにはバレていたようだ――もそうだったが、こちらに関してはあまり心配はしていなかった。

 彼は迷いながらも自分で道を切り開いていけるだけの『強さ』を持っていた。それは己の中に何であれ確固たる『芯』があるからだ。

 ジュウベェの言う『戦士』と意味が同じかはノワールにはわからないが、間違いなく千夏は『戦士』に分類されるだろう。戦うために、そして戦いに勝利するために自分が何をすればいいのか、自分に何が足りていないかを自分で考えて行動することができる――自立した『戦士』だ。


 ありすと撫子は『戦士』とも少し違う。こちらは

 目の前の困難に怯むことなく、ひたすらに前へと迷わず突き進んで行く、ある意味で愚直で時として無駄な繰り返しをしてしまいかねないものの、恵まれた能力と天性の才で乗り越えていくことがきっとできるだろう。

 ラビはそれを『狂戦士』という呼び方をしていたが、二人は何も考えていないわけではない。故に、ノワールとしては『闘士』――己の『勝つべし』といった信念を貫くために闘う者であると見た。


 桃香、楓、椛は『兵士』だ。

 己のためではなく『全体のため』に戦う、個ではなく群の戦士と言えるだろう――桃香については今回は自分の『感情』を少し優先させてはいるものの、基本的には三人は同じ性質を持っているとノワールは考える。

 単純なサポート役という意味ではない。全体が勝つためにどうすればいいのか、時として全体の勝利のために個の敗北……言葉は悪いが『切り捨て』をも辞さない、『歯車』としての役割を受け入れ徹底しようとしている節がある。

 だから『戦士』でも『闘士』でもない、群として戦うことを前提とした『兵士』なのだ。

 ……もっとも、本来の意味での兵士であれば命令に従うのが常識であって、兵士自身が考えて行動してしまうのは避けるべきではあるが。


 雪彦はその

 敢えて言うならば『兵士』が一番近いかもしれないが、楓たちに比べて徹底できているわけではない。

 ありすたちのように自分の力で困難を突破できるほどの精神力ももっていない――これは雪彦の性格にも依るだろう。

 何よりも、雪彦にはかつてのジュウベェへと敗北したことによるトラウマと、優れた仲間と自分を比較してしまったための劣等感がある。

 それこそが『悪しき鎖』――雪彦を縛り付けている枷なのだとノワールは見抜いていた。


 クロエラというユニットに対するノワールの評価は、概ねラビたちや千夏の評価と同じだ。

 むしろ、誰よりも『スピード』に特化したクロエラについて評価していると言っても良い。

 それは結晶竜がジェット噴射による超高速突撃を得意としていることにも起因している。


 ――速さは力


 千夏やジュウベェの言葉こそ、結晶竜にとっての真理である。

 もしもクロエラが自分の力を十全に発揮できるとしたら、おそらくは他の誰よりも強くなる――ノワールはそう考えていた。

 ナイアとの最終決戦、この世界の命運を決する戦いにおいてクロエラが覚醒し、本来の力を発揮できるのであればそれは重要な『鍵』となるのは間違いない。

 ユニットの動きを強制的に封じられるナイアはともかくとして、ナイアを守護するアビサル・レギオンたちを排除するのにクロエラの力は絶対に役に立つはずだ。


 雪彦の『悪しき鎖』を外す方法をノワールは知らない。

 当然のことだろう。他人の心をそう簡単に解きほぐすことができるのであれば、この世に人間関係の問題など発生しなくなる。

 しかし長い時を生きてきた『経験』から、ノワールは一つの方法を見出していた。


 『悪しき鎖』の大元たる原因の一つはかつての敗北によるものだ。

 敗北は人を弱くする。

 しかし、逆に敗北から立ち直れれば、人をより強くもする。

 だからノワールは、どうにかしてクロエラを勝たせる――戦いの場を設けようとしていたのだ。

 クロエラが戦えるかどうかは賭けになる。

 戦えたとしても即座に敗北してしまうのでは意味がない。

 そうならないように、ノワールと組んで戦おうとしていたのだが……ここでノワールにとっての誤算が起きた。


 ノワール自身がもはや戦力外になってしまっていたことだ。

 ジュウベェとの戦いは首尾よく行えたものの、クロエラと協力して戦うということができなくなってしまったのだ。

 もう一つの誤算は、『悪しき鎖』がノワールの想像以上にきつくクロエラを縛り付けていたことだった。

 たった一撃でクロエラは戦意を失ってしまい、やられそうになってしまった……クロエラを責めることはできない。全ては自分の見通しの甘さと、何も話さずに賭けに巻き込んでしまったことにあるとノワールは後悔する。

 ……その上、自分を庇おうとしてクロエラが――




 他人の命を勝ってに賭けに乗せるべきではなかった。ましてやそれが世界の命運を決める戦いであるなら猶更だった。

 致命的なミスを犯してしまったことを心の底から後悔し、諦めかけたノワール。

 だが――


「!?」


 ジュウベェが何かに気づいたかのようにはっとなり、その場から後方へと飛び退る。

 と同時に、クロエラが崩れ落ち――


「……クロエラ!?」

「う、うぅ……うぅぅぅ……!」


 ノワールの声にクロエラは応えず――あるいは応えているのか、うめき声を上げながらも崩れず、そのまま立ち続けていたのだ。


「く、ふふふっ……これはこれは――ようですわねぇ」


 少し離れた位置まで下がったジュウベェは、クロエラを突き刺した《閃影剣》の切っ先へと視線を一瞬やり、すぐさまクロエラへと戻して笑みを浮かべる。

 何が起きているのかノワールからはわからない。

 しかし、ノワールの想像を超えた『何か』がクロエラの身に起きていることだけは間違いない。




 ノワールの『賭け』は決して褒められるべきものではなかった。それは事実だ。

 しかし、その『賭け』を行わなければは起きなかったであろう――仮にナイアとの戦いを無事に終えた後も、誰にも……クロエラ本人すら自覚のないまま永遠に眠り続けたであろう。

 そうはならなかった。

 ノワールの『賭け』によってクロエラは自ら戦う決意をし、ジュウベェと再度戦い

 だが、まだ敗北してはいない。


「ボクは……うぅぅぅぅ……勝つんだ……!」


 恐ろし気なうめき声混じりに、クロエラは決然と言う。




 ――今ここに、クロエラ本人すらも理解していなかった彼女の『本当の力』がその全貌を露わにする。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 不死身だとでも言うのか――

 ジュウベェは笑みを浮かべつつも、内心でそう訝しむ。

 確かに体力を瞬時に削り取るほどの威力はなかったかもしれないが、背中と足を斬られ、体の前面に無数の穴を穿たれて無事でいられるはずはない。

 人間の身体を無駄に再現している『ゲーム』のユニットであれば、全身を耐えられない苦痛に襲われているはずだ。

 『脆弱』とさえ言えるクロエラの精神で、それに耐えられるとはジュウベェには思えなかった――エル・アストラエアでの戦いから少しは吹っ切れたようではあるが、それでも彼女の思う『戦士』にはほど遠い精神しかなかったはずだ。今の《閃影剣》での連続突きは、クロエラの精神を削り切るだけのダメージを肉体へと与えたはずだった。

 なのに、クロエラは倒れない。

 倒れかかったものの、その場で踏みとどまり立ち続け、それどころかジュウベェへと視線を向けたままだ。

 《閃影剣》によってヘルメットが割れ、その中から淡い青の光がわずかに覗いている。

 ……それがクロエラの眼光――比喩ではなく本当に青く目が輝いているのだと、すぐに気づく。


「えぇ、えぇえぇ……とても奇妙な状態のようですわねぇ。どうしてになっているのか――くふふっ、まぁ想像はつきますが」


 クロエラ本人ですら未だ自覚していない『奇妙な状態』について、ジュウベェは自分の持つ様々な情報を総合して大体の見当はついていた。

 一つ一つの要素を並べ立てていけば『理屈』としては成り立つかもしれない状態ではあるが、どう考えても『ゲーム』の仕様としては異常な状態としか言えない。


「困ったものですわねぇ、こういういい加減なところは」


 口では困った、と言いつつもその笑みは崩れない。

 『ゲーム』の仕様の『いい加減さ』こそが、今のクロエラの状態を実現させている。

 それがジュウベェにとって……いや、ナイアにとって致命的な結果になる可能性はありうるが、それでもジュウベェは現状を『楽しい』と感じている。




「うぅ、うぅぅぅっ!」


 呻きながら、クロエラがその場から跳ぶ。

 身体のあちこちにかなりの傷を負っているはずなのに、その速さにはまるで遜色がない。


「くふふっ!」


 しかし、速いとは言っても既にジュウベェはその速さに『慣れ』つつある。

 ――ちょうど別の戦場で、ジュリエッタがヒルダの超スピードを自らの『技』で克服したのと同じような現象が、クロエラとジュウベェの間に起き始めているのだ。

 瞬間移動のようにさえ見えるクロエラの動きを見切り、横から殴りかかってこようとするのを回避。

 今度は先ほどまでとは逆にジュウベェ側からカウンターで斬りつける。


「! 流石に速いですねぇ……!」


 が、ジュウベェの斬撃が当たる直前にクロエラが方向転換。

 ほんの僅か、切っ先が腕をかすめるだけにとどまる。

 これを積み重ねていけばいずれクロエラの体力も削り切れる――はずではあるが、ジュウベェはやはり斬った剣先を見て笑みを深める。


「ふふふ……削って倒す、というのはあたくしの主義ではありませんし――やはり確りと首を落として決着と参りましょうかぁ!」


 もはやジュウベェの意識からノワールは消え去っている。

 手負いのノワールがクロエラの援護に攻撃を仕掛けてくる可能性は考えない。

 ……それをするくらいであれば、最初から二人がかりでジュウベェに挑んでくるはずだからだ。

 意識を完全にクロエラ一人に向けるジュウベェ。

 彼女は理解しているのだ。クロエラを倒せば、この戦場の勝利は自分のものになるのであると。


「抜刀 《斬影剣》」


 ジュウベェが呼び出した新たな魔法剣は、シンプルな形状の刀であった。

 その特性は、クロエラのレーザーブレードと同じく実体を持たない刃――相手の防御を貫いて直接肉体を斬り裂くというものである。

 クロエラがそれを知っているとは思えないが、彼女も対抗するように分解魔法ディスマントルで作り出した《ブレード》を手に取る。


「ではでは――参りますわぁ!」


 今度はジュウベェから動く。

 対応してクロエラが高速で回り込もうとし、それをジュウベェは的確に見抜いて剣を振るう。

 ――実体のない刃同士が交錯。どちらも本来ならば鍔迫り合いができる武器ではないのだが、同じ性質を持つ武器同士故か、刃が互いを止めあう。


「うぅ……!?」

「くふふっ、力なら負けませんよぉっ!」

「ぐ、うぅ……」


 両手で斬りかかったクロエラに対し、ジュウベェは右腕一本のみ。

 それでもジュウベェの方がパワーで勝っているためか、クロエラは弾き飛ばされてしまう。

 弾き飛ばされたクロエラへと間髪入れずにジュウベェは一足飛びに間合いを詰め、斬りつけようとする。


「くっ……!?」


 クロエラもダメージを受けたわけではない。

 すぐに立ち上がり、迫るジュウベェの刀を跳んで回避しようとする――が、


「逃がしませんよぉっ!」


 抜刀したままだった《鞭刃剣》を左手で振るい、クロエラの右足首に巻きつけて動きを封じようとしてくる。

 クロエラのスピードに対抗するだけの速さはいかに魔法剣を使っても到底実現できるものではない。

 だから動きそのものを封じることこそが有効なのだ、とジュウベェは理解していた。

 足に巻きつけた《鞭刃剣》を外すだけの時間の余裕はないし、また無理矢理引きちぎる決断ははクロエラにはできないだろう。下手に速さと勢いを出そうものなら、右足首から先が千切れてなくなってしまうことだろう。

 『詰み』だ。

 あとはスピードを活かせないクロエラを追い詰め、宣言通り首を切り落として終わり――『奇妙な状態』は気になるが、流石に首を落とせば終わるはずだ。

 ジュウベェは《鞭刃剣》を巻きつけたまま、もう片方の手に《斬影剣》を持ち捕らえたクロエラへと接近。刃を振り下ろそうとする。


「……」


 クロエラが逃げようとすれば《鞭刃剣》を巻き取り引き寄せることもできる。

 スピードのないクロエラならば脅威はない――それはジュウベェのみならず、対峙しある程度戦った相手ならばそう思うはずだ。

 しかし――


「ぐっ、うぁぁぁぁぁっ!!」

「!? へぇ……!?」


 クロエラは怯まなかった。

 足に巻き付いた刃を無視するかのように高速でその場から跳び退ろうとし――結果、右足首から先を斬り落としてしまう。

 そのおかげでジュウベェの追撃を回避することは出来たが、代償としてもはや以前のようなスピードを発揮することはできなくなってしまった。

 ジュウベェの予想を超えた動きを見せはしたものの、結局寿命が少し長くなった……その程度の抵抗に過ぎない。


「く、ふふふっ。よもやでしたが……結末は変わりませんことよ!」


 驚きはしたが驚いただけだ。

 気を取り直しジュウベェはすぐさま逃げたクロエラへと方向転換。更にもう片方の足へと《鞭刃剣》を巻きつけることを狙いつつ、《斬影剣》でのとどめを刺そうとする。




 ――右足が動かない……。


 覚悟を決めて右足首を切断して逃げたクロエラだが、状況は良くはなっていない。

 むしろこれ以上スピードを出せなくなってしまったことで、最悪の事態に陥ったと言えるだろう。

 ――ただし、それはだ。


「ディスマントル《キャタピラブースター》」


 自然とクロエラの口からその魔法の名が発せられる。

 放置していた霊装バイク――のサイドカーが光の粒へと変化、それがクロエラの両足へと吸い込まれてゆく。


「!?」


 迫るジュウベェもそれを見て再度驚愕の表情を見せる。

 サイドカーが変じ、クロエラの両足を覆う。

 黒い金属性の脚甲だが、一部に特徴的なパーツがついている。

 それは、足裏部分にある幾つもの『車輪』だ。


「――拙い、ですかねぇっ!?」


 と呼ばれる玩具によく似た、しかし魔法で生み出した明らかに戦闘向けの脚甲を見てどのような効果なのかは容易に想像がつく。


「行くぞ、ジュウベェ」


 呟いた瞬間、クロエラの姿がジュウベェの視界から消え去る。

 

 右足首から先を失ったとは到底思えない速さだ。


「ぐぁっ!?」


 クロエラが消えたと思った次の瞬間、ジュウベェは真横からの衝撃で吹き飛ばされる。

 一瞬で回り込んだクロエラの蹴りがすさまじい勢いで命中したのだった。




 この『ゲーム』は微妙に忠実に人体の仕組みを模している。

 足が無くなれば当然普通に歩くことは出来なくなってしまうだろう。

 反面、この『ゲーム』のいい加減なところは、という点にある。

 かつてアリスとジュウベェの最終決戦時、両腕を失ったものの魔法によって作り出した義手でその後も戦い続けていたことがある。

 クロエラがそれを覚えていたためかどうかはわからないが、とにかくクロエラは魔法によってサイドカーをローラーブレードへと無理矢理『分解』『再構築』し、失った足の替わりとしたのだ。

 しかも、ローラーブレードの形状とすることでスピードは元よりも大幅に上がっている。


「くふふ……災い転じて福となす――ですかねぇ……」


 吹き飛ばされたものの、致命傷には程遠い。

 ジュウベェは立ち上がると二つの剣を納刀して消し去る。

 クロエラは迂闊に追撃することなく、それを黙って見ている。

 一瞬で引っ繰り返された状況は、またしても一瞬で引っ繰り返った。

 『速さは力』――それを体現するに相応しい、すさまじい速さをクロエラは得てしまったのだ。むしろ逆にクロエラが優位に立ったとも言える。

 それでもジュウベェの笑みは崩れなかった。


「ですが、まだ。えぇえぇ、足りていませんとも」


 このまま勝てる――とまでは思えないのがクロエラの性格ではあるが、それでも最初よりも優位だとは感じている。

 だというのに、ジュウベェの不気味な態度……『余裕』とも違う、何とも言えない態度に感じるものはある。


「ボクは勝つんだ……絶対に!」


 相手の気迫に呑まれてははならない――これもまた千夏に教わったことの一つだ。

 一度は挫けそうになったが、もう二度と同じ過ちは繰り返さない。

 そうクロエラは自分自身に宣言するかのように叫び、ジュウベェへと向かった――

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