第9章19話 主よ、人の望みの喜びよ
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ガブリエラの強さの源は、圧倒的なステータスの高さにある。
戦い方の拙さを補って余りあるほどのステータスの暴力で、相手の『上』をゆき強引にねじ伏せる……というアリス以上の『脳筋』戦法が唯一にして最強の戦法だった。
それで危ういところがあれば、
この戦い方も当然無敵ではない。
かつてはアリスたちに対戦で負けたこともあるし、ジュウベェにも敗北している。
ジュウベェについては
三人が互いに反省し、改善し、ただの脳筋戦法をより洗練させてゆくことで強くなっていく――そして実際に三人は強くなっていた。
しかし、この世にはどうにもならない『差』が存在する。
「この……ッ! 止まりなさい!」
先行するアトラクナクアへと追いついたガブリエラたちは、躊躇うことなく攻撃を開始する。
ガブリエラが全力でアトラクナクアの脚の一本へと霊装を叩きつけるが……多少へこみはするものの全くダメージを与えられていない。
そもそも、アトラクナクア側はもはやガブリエラたちを意識すらしていない。
殴られたことすら認識していないのかもしれない。
「……やっぱデカすぎみゃー!」
アトラクナクア自身の戦闘力だけでも脅威であったというのに、今や全身を鋼鉄の鎧で覆った『要塞』と化してしまっている。
しかもその大きさが尋常ではない。
破壊した移動要塞四機分に加え、『役立たず』と断じられた無数のラグナ・ヴァイスすらも取り込んだ《フルメタルエグゾスカル》は、もはや建造物とは到底思えないほどの巨大さを誇っている。
たとえこの場にアリスがいたとしても、神装をぶつけたところでどうにもならない――ヴィヴィアンの《ケラウノス》ですら致命傷を与えることが難しいと思わざるを得ない大きさなのだ。
いかにステータスが高いとはいえ、結局のところ『個人』レベルのパワーでしかないガブリエラではどうすることもできなかった。
「アトラクナクアを倒したいけど……うにゃー……」
ベララベラムの《エグゾスカル》とは比較にならない能力だ。
あの時はクロエラも含めた四人の波状攻撃で打ち破ることができたが、今回はそういうわけにもいかない。
そしてこの手の能力であれば『本体』――アトラクナクアを倒すのが一番手っ取り早く簡単なのだが、それも難しい。
アトラクナクアへと攻撃を届かせるために、そもそも《フルメタルエグゾスカル》を突破しなければならないのだ。加えて、この巨体の『どこ』にアトラクナクアがいるのかすらわからない。
「うりゅー、【
「みゅー……魔力全部使っても、脚一本分消せるかどうかって感じだみゃー」
頼みの綱の【消去者】でも《フルメタルエグゾスカル》には通用しない。
魔力消費なしに魔法を消せるのであれば話は別だが、【消去者】は消す対象に応じてウリエラも魔力を消費してしまうのだ。
……そして、仮に消したところでもう一度同じ魔法を使われてしまっては意味がない。ただウリエラが消耗するだけで終わってしまう。
「関節を固めるってのも――これは無理かみゃー……」
「あたちのクラッシュでも大して意味なさそうにゃー」
移動要塞とは異なり、魔法によって材料を組み上げている《フルメタルエグゾスカル》であれば、関節に異物が挟まったとしてもその部分だけ柔軟に組み替えることができてしまう。
クラッシュで多少装甲を破壊したとしても、やはり同じようにあっさりと修復されて終わりだろう。
基本にして頼みの綱でもあるガブリエラの超パワーも、《フルメタルエグゾスカル》にとっては蚊に刺されたようなものだ。オープンもクローズも、相手が大きすぎてガブリエラの方が強制的に動かされてしまうため意味がない。
「うぅ、理解してはいたけど……」
「こいつはマジでどうしようもないにゃ……」
勢いで飛び出したことを後悔はしていないが、いざ戦ってみても全く打開策が見えない。
がむしゃらに霊装を叩きつけるガブリエラを制止することもできず、二人は必死に考えを巡らせる。
……が、いくら考えてもこの『差』を埋める方法が思いつかない。たとえフルメンバーが揃っていても、覆しようのない『差』が開いてしまっているとしか思えない。
「……やっぱりアトラクナクアをどうにかして引きずり出すしかないかみゃー……でも」
「どこにいるかわからないのが問題にゃー」
《フルメタルエグゾスカル》の一体どこにアトラクナクアが隠れているのか――相手としては『隠れている』という認識はないだろうが――それを探知する術がない。
文字通り『山』のような鋼鉄の塊の中にいる、人間大の生物を探すのは困難を極める。
探知系の魔法があれば……とも思うが、もちろん三人の中にそうした魔法を持っているものはいない。
残る方法は、《フルメタルエグゾスカル》を自ら解除させ、アトラクナクア自身が戦わなければならないと思わせることであるが、それも難しいだろう。
まともに勝負してもアトラクナクア有利は動かない。それは本人も理解しているだろう。
しかし、一度油断してクローズで潰されかけたのだ。よほどの馬鹿でもない限り、安全策をとって《フルメタルエグゾスカル》のまま戦おうとするだろう。
そしてアトラクナクアに課せられているであろう『目的』を達成することを考えれば、《フルメタルエグゾスカル》を解除する理由は何一つとして存在しない。
「止まれって……言ってるでしょうっ!?」
二人が考えを巡らせている間にもガブリエラは攻撃を止めていなかった。
が、いくら攻撃を加えても結果は同じだった。
左腕が使えないことを差し引いても、やはりガブリエラの攻撃は《フルメタルエグゾスカル》の防御を突破することはできないのだ。
「ああ……エル・アストラエアに……!」
アトラクナクアはガブリエラたちに構うことなく、地響きを立てながらエル・アストラエアへと止まることなく進み続ける。
いかに魔法の産物とはいえ、巨体と重量故にその歩みはかなり遅いものの、このままではそう遠くないうちに到着することだろう。
何もない『ラグナ平原』という場所も悪かった。アトラクナクアの歩みを止めるものは何もないのだ。
「……いちかばちか、【消去者】であいつのいそうなところを消してみるしかないかみゃ……?」
「でも、外したらアウトにゃ……りえら様、あいつの位置わからないかにゃ?」
「――いえ、わかりませんね……」
ガブリエラの『特殊能力』に期待したいが、それもダメのようだ。
あてずっぽうで【消去者】を使い続けるのは分の悪い勝負だろう。サリエラの言葉通り、一度で決めなければアトラクナクアも流石に対処してくるはずだ。
いるとしたら胴体部分の可能性が高いだろうが、《フルメタルエグゾスカル》の中で最も大きいのが胴体なのだ。
全魔力を使って脚一本消せるかどうかというレベルだ、胴体を一部だけといえど消すだけで消耗しつくしてしまうのは目に見えている。
「「……」」
ウリエラとサリエラも本格的に手詰まりになってきたことを感じてきた。
戦いながら考える、とは言ったものの、考えれば考えるほど『どうしようもない』という結論しか出てこない。
「……諦めません!」
細かい理屈は理解していないだろうが、ガブリエラの脳裏にも絶望が過る。
それでも彼女には『諦める』という選択肢はない。
「こうなったら、私自身の力を高めて……高めて高めて、高め尽くして、あの蜘蛛ごと倒すだけです! ゲート!」
「ちょ、りえら様!?」
ガブリエラには『自己強化』系の能力はない。
気合や想いの力でユニットの性能が上がることはありえない。
いくらガブリエラが頑張ろうとも、今この場でアトラクナクアを上回るステータスを得ることは不可能のはずなのだ。
「! 雷属性の門にゃ!」
「ウリュ、サリュ、行きますよ! リュニオン《ウリエラ》《サリエラ》《スピリット・オブ・サンダー》!!」
現れた黄金に輝く門――雷属性の門を含め、ガブリエラは再度リュニオンを行う。
《フルメタルエグゾスカル》が人間の知る『鉄』と全く同じとは限らないが、他のどの属性よりも雷は有効ではあると思える。
それに電撃ならば上手く使えば《フルメタルエグゾスカル》を伝って内部のアトラクナクアへと攻撃を届かせることができる……かもしれない。
事ここに及んでウリエラたちも反対はしない。
アトラクナクアを倒すためにはガブリエラの言うことが一番正しい……としか現状言えないのだ。
リュニオンしたガブリエラたちには最大の『必殺技』と呼べるものがある。
《ネツィブ・メラー》――かつてアリスたちとの対戦でも使った、三人の持つ魔力を『柱』として放出する最大攻撃魔法だ。
これ自体が単体の魔法というわけではない。
ガブリエラのオープン、ウリエラのアニメート、サリエラのブラッシュを組み合わせた『合成魔法』とも言うべきものだ。
その正体は、『魔力』という魔法の源となる
『魔法』という形に加工されていない純粋なエネルギーの塊は、『ゲーム』のルールに則った存在ではあるがある意味枠を超えた存在でもある。
普通のゲーム風に表現するのであれば、『無属性』『必中』ダメージを与える、であろう。
魔法となってないがゆえに、『ゲーム』のシステムが提供する様々な『防御』を貫くことができるのだ。
これを防ぐには、《イージスの楯》のような『向かってくる攻撃を防ぐ』という防御の概念を具現化したものや、【
強力無比、当たれば一撃必殺となりうる《ネツィブ・メラー》だが、ガブリエラたちはあまりこの魔法を使用しない。
なぜかと問われれば、『リスクが大きい』からだ。
そもそも純粋な魔力をどこから持ってくるかと言われれば、これはガブリエラのオープンによって彼女たちの内部から取り出しているに過ぎない。
なので、当然のことだが魔力の消費が激しいのである。
加えてウリエラ・サリエラの魔力も上乗せして威力を上げているためにリュニオン状態でないと使えない――ということは、一度使った後にリュニオンを解除するまで回復ができないということになる。
当たれば確かに一撃必殺足りうる。
しかし、もしそれで仕損じれば逆にピンチに陥る……諸刃の剣なのだ。
それでもやらざるを得ない。
もはやこれ以外に《フルメタルエグゾスカル》を貫いてアトラクナクアを倒す術はないのだから。
「私たちの魔力に、雷の力を加えて――行きますよ!」
かつてアリスたちに使ったころよりも三人の魔力量は大幅に増大している。
加えてリュニオンした《スピリット・オブ・サンダー》から得た雷の力を注入――黄金の輝きを放つ魔力光が収束する。
「《ネツィブ・メラー》!!」
狙いは《フルメタルエグゾスカル》胴体中央部――アトラクナクアがいる確率が高そうな場所。
そこへと向けて黄金の柱が一直線に向かい、貫く。
……ことは
「えっ!?」
<まだいたのかー……でももう食べなくてもいいや>
《フルメタルエグゾスカル》へと《ネツィブ・メラー》の光が突き刺さろうとした瞬間、鋼鉄の身体を覆うように『糸』が膜のように張り巡らされた。
糸の膜に触れた瞬間、《ネツィブ・メラー》はその場で霧散してしまう。
《! うーみゃんが言ってた宝石芋虫の糸みゃ!》
《そんなのも使えるのかにゃ!?》
そう、それはかつてミオを苦しめた魔力封じの効果を持った糸――ダイヤキャタピラことXC-10の持っていたものと同じ能力だった。
……もしこれを最初からアトラクナクアが使っていたら、ガブリエラたちはもっと早くに敗北していたであろう。
自身の能力すらよく理解していないが故に命拾いした……と言いたいところだが、結局『敗北』が早いか遅いかの差しかなかったと思われる。
「そんな……!?」
渾身の、そして切り札である《ネツィブ・メラー》がかすり傷一つ負わせることができずに無効化された――さすがのガブリエラもこれにはショックを隠せなかった。
これでもはや、完全に勝ち目が消えた。
仮にアトラクナクアを引きずり出せたとしても、魔力封じの糸に絡まれてしまったらそれで終わりとなってしまうのだ。
<これ以上邪魔するな。今度こそ
どこからか響くアトラクナクアの声。
それと共に、後ろから着いてきていた
《こ、ここまで……》
《あたちたちの予想でもまだ甘かったにゃ……!》
「……」
《ネツィブ・メラー》ですら通用しない――彼女たちが使える最大威力の攻撃も、アトラクナクアによって防がれてしまったのだ。
もはや本格的に打つ手がない。そのことを嫌でも三人は思い知らされてしまう。
悔しそうに顔を歪め、叩きつけられようとするイプシロンを睨むが……これを回避することもできない。
ガブリエラたちの完全敗北――そしてその先に待つのは、エル・アストラエアの滅亡である。
『ガブリエラ! ちょっとだけ我慢してて!』
「!? その声……へぶぅっ!?』
だが、イプシロンがガブリエラたちを押しつぶすよりも早く、金色の流星が横からガブリエラを突き飛ばした……いや、流星がガブリエラへと体当たりすると共にそのまま猛烈な速度で押し出していった。。
全く予想だにしていなかった衝撃を受けて、普段のガブリエラなら絶対にあげないであろう奇妙なうめき声をあげつつも、そのまま流星に流されるままにされ――
《あ、危なかったみゃ……》
《助かったにゃー……》
ガブリエラはイプシロンに押しつぶされることもなくその場を切り抜けることができた。
「貴女……ジョーヌ!?」
そして、ガブリエラを助けた流星の正体は、
『遅くなってごめんなさい、ガブリエラ。ここからは私
穏やかな女性の声を発する黄金の結晶で構成された竜――金晶竜ジョーヌだったのだ。
<……なんだ、
遠方から超高速で突進してくる結晶竜の存在を、アトラクナクアは全く感知できていなかった。
が、だからと言って自分が著しく不利になったわけではない、とすぐに対応する。
今度はイプシロンだけでなくゼータにも糸を伸ばし、二つの巨大な鉄塊を叩きつけようとする……が、
『
持ち上げ投げつけようとした瞬間、その声と共に糸が焼き切られ――
<ふぎゃー!?>
投げつけようとした勢いそのままに、イプシロンとゼータが《フルメタルエグゾスカル》の上へと落下。
この重量のものを同時にぶつけられたらいくら《フルメタルエグゾスカル》であってもただでは済まない。
内部にも激しい衝撃が伝わってきたのだろう、アトラクナクアも苦痛の悲鳴を上げる。
『どうしたガブリエラ。貴公の力はそんなものだったか?』
「ルージュまで……!」
現れたのは紅晶竜ルージュ――炎を操る結晶竜だった。
攻撃のタイミングを見計らい、アトラクナクアの糸を炎で焼き、『自爆』を誘ったのだ。
その狙いは成功したと言えよう。ただし、これだけでは大したダメージにはなっていないのも事実ではあるが。
「貴女たち、どうして……?」
『200年前、我らがやり残したことだ。我らが戦わずしてどうする』
『それに、我らが王より貴女たちのことをよろしく頼むと仰せつかっておりますしね』
「ノワールが……」
この世界の時間にして10日近く前、天空遺跡よりラビたちが旅立った後――
天空遺跡に残ったルージュとジョーヌは、自らの竜体の修復よりもノワールの竜体の修復を優先させていた。
戦力として最も活躍できるのがノワールであるのと同時に、ラビたちに着いていったために最も敵と戦う機会があるだろうことを見越してのことだ。
ある程度修復が完了し、細かい部分の修復を残した段階でブランに竜体を運んでもらい、以降は自分たちの竜体の修復へと移っていた。
ラビたちの実力を疑うわけではないが、天空遺跡で遭遇したピースの戦力は圧倒的すぎた。
加えてラグナ・ジン・バランが復活すれば更に戦力差は広がる。
その時に敵の首領――
ノワールは天空遺跡に残るルージュたちにその旨を伝え、彼女たちは復活するであろうラグナ・ジン・バランを最終決戦で引き受けるために修復を急ぎ、そしてこの場に駆け付けたのだ。
もっとも、事態はノワールたちの想像以上に悪い方向に進み、思惑とは異なりガブリエラたちが地上でラグナ・ジン・バランたちと戦うことになっていたのだが……。
《な、なんにしても助かったみゃー》
《ルージュたちが来てくれなかったら、あたちたち終わってたにゃー》
『力になれたようで何よりだわ。
……けれど――」
今やってきたばかりのジョーヌであっても、現状の『最悪さ』はすぐに理解できる。
ガブリエラたちでさえ手も足も出ないアトラクナクアなのだ。ルージュとジョーヌが加わったところで、やはり『差』は縮まらないだろうことは本人たちもわかっていた。
「……いえ、二人が来てくれて本当に助かります。
ウリュ、サリュ、これでどうにかならないかしら?」
《 《…………》 》
だがガブリエラは二人の加勢に希望を見出していた。
《……かなり危険みゃけど……》
《何とかできる……かもしれないにゃ》
同様にウリエラたちもルージュたちが加わったことにより、全くなかった『勝ち目』が見えてきていた。
アトラクナクアに苦戦している理由はいくつかある。
単純なステータス差――が最大の理由ではない。
特にアトラクナクアの超ステータスに対抗するためにリュニオンしてしまっているために、【
しかし、ルージュたちが加わってくれれば『手数』は増える。それも、魔力消費を気にする必要もない。
《ルージュの炎なら、あいつの糸を焼き切れるみゃ》
《ジョーヌは……どういう能力持ってるにゃ? それ次第でどう動いてもらうか決めるにゃ》
「私たちはどうしますか? リュニオン解除して魔力を回復するとして――」
《いみゃ、リュニオンはこのままでお願いみゃー》
《にゃはは、あたちたち、さっきの《ネツィブ・メラー》で魔力使い切らないように残しておいたにゃー》
「…………全力でって言ったのに……」
拗ねるガブリエラだったが、判断としてはウリエラたちの方が正しかっただろう。
たとえ三人の全魔力を集中させた《ネツィブ・メラー》であっても、『魔力を封じる』という性質の糸は突破することはできなかったはずだ。
威力こそ高いが、『魔力そのもの』を放出する《ネツィブ・メラー》とは絶望的に相性が悪い能力だ。これを力業で突破するのは無理だっただろう。
それを見越していたわけではないが、二の矢のためにウリエラたちはわざと力を残しておいたのだ。
失敗したとしてもその後のフォローも考える――それこそが、ウリエラたちの『全力』なのである。
『チッ、来るぞ!』
立ち直ったアトラクナクアが再び残骸を投げつけようとするのを、ルージュの炎が防ぐ。
<ぬーん……じゃあ、ボーンアーツ《メテオール》>
《これは回避するしかないにゃ!?》
糸を出しても無駄だ、と悟ったか今度はボーンアーツで無数の残骸を操り投げつけてくる。
『大丈夫、任せてちょうだい』
と、ガブリエラを背に乗せたまま回避すると思われたジョーヌが大きく口を開く。
開いた口から『閃光』が放たれ、目の前に迫ってきた残骸を弾き飛ばす。
《……みゃるほど》
《その調子で迎撃しつつダメそうなら回避でお願いにゃ》
ジョーヌの力は『閃光』――実体のない光を放つのではなく、何かしらの『粒子』を超高速で射出するものであった。
残骸を弾き飛ばすほどの威力はあるが、ルージュの炎のように糸を焼き切ったりすることはできないようだ。
ジョーヌの能力を見て、ウリエラたちの脳裏にある考えが閃く。
リュニオンを解除させなかったのも、やはり『正解』だった――と改めて思うが……。
《……でも、後一手――》
《もうちょい押しが欲しいにゃ……》
ガブリエラに残された最後の魔力を使って『とどめの一撃』を放つことはできるが、それで確実に仕留めるためにはどうしても《フルメタルエグゾスカル》を打ち破ってアトラクナクア本体へと命中させたい。
そのためには『手数』ではなく今度は『攻撃力』が欲しい。
ルージュたちの能力ですら『防御』にしか使えない現状では、《フルメタルエグゾスカル》を打ち破る術が結局ないのだ。
『とどめの一撃』を一か八かで放つ……のは最終手段だ。それで倒せなかった場合、今度こそ敗北するだろう――ルージュたちがいれば一度避難して態勢を立て直すことは不可能ではないが、それも確実ではないしエル・アストラエアを守ることができなくなってしまう。
――次の攻撃で決めなければならない。
降り注ぐ《メテオール》を迎撃、あるいは回避しつつウリエラたちは必死に勝つための方法を考える。
だが、どう考えてもあと一歩足りていない。
『……拙いわね……』
『ああ、我らのブレスも通用せぬか……』
インペラトールの火力では、元々ラグナ・ジン・バラン円熟期型を倒すことはできなかったのだ。
それらの残骸を取り込んだ《フルメタルエグゾスカル》に通じないのは道理である。
《フルメタルエグゾスカル》にブレスを当てたとしても、少々装甲が傷つく程度で打ち破ることなど到底できそうにない。
もしこの場にノワールがいたのであれば、あらゆる物質を消し去る『滅びのブレス』でどうにかすることはできたかもしれないが――仮にこの場にいたとしても、蓄積したダメージのせいでロクに動けず倒されただけであろう。
「くぅっ……ウリュ、サリュ!」
《……仕方ないみゃ》
《このままじゃジリ貧にゃ。やるしかないかにゃ……》
自力ではチャンスを無理矢理作り出すこともできない。
インペラトールのエネルギーも無限ではないし、回避しきれない攻撃が来たら危うい。
分の悪い賭けになるが、最終手段を使うしかないかとウリエラたちも決断しかかった時であった。
『だいじょーぶ。
「――え……?」
やる気のない、この場にはそぐわない可愛らしい少女の声が響くと同時に――
<うがっ!? なにー!?>
上空より青白い光を放つ流星が、《フルメタルエグゾスカル》へと降り注いだ――
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