第9章5話 作戦全容

*  *  *  *  *




 ここまでの作戦の流れを纏めよう。




 まずはクラスター爆弾での爆撃を行い、空中要塞へと攻撃を仕掛ける。

 この攻撃でダメージを与えられるとまでは思わない――与えられたら万々歳くらいに思っておこう――目的は空中要塞の対空兵器を起動させ、注意を爆弾へと向けさせることだ。

 ただの爆弾や岩塊ではなく、クラスター爆弾に仕立てたのにも理由はある。

 対空砲一発で撃ち落せるレベルの攻撃ではおそらくルールームゥの意識を向けさせることは出来ないだろう。『脅威』と感じないためだ。

 だからこそのクラスター爆弾――撃ち落したと思ったら更なる小型爆弾が降り注ぐようにして、『この中に脅威となる攻撃が混じっているのでは?』と思わせるのが必要というわけである。




 爆撃の最中に対空砲火の薄そうな場所を探し、そこからユニットを降下させる。

 ジュリエッタは爆弾に紛れていけるところまでいってから自力で何とかしてもらうしかないけど、ヴィヴィアンとクロエラならスピードでどうとでもできるはず。

 ルールームゥの注意を爆弾に向けさせる目的は、主にヴィヴィアンたちへの注意を逸らすことにある。

 より大きな爆弾に集中することで、小さくて素早く動くユニットにすぐ眼が向かないように仕向けるというわけだ。

 で、この時三人には変装あるいはダミーのアリスを連れて行ってもらうのだけど、実はここに一番重要な仕掛けがある――そのことについてはもうちょっと後で。




 首尾よく空中要塞に三人が乗り込めたら、ナイアがいるであろう中央の『塔』への入口を探してもらい、かつそちらへと向かうようにしてもらう。

 ……乗り込んだというのに『塔』に向かわなければ、あっさりと偽物と見破られるかもしれないしね。

 少なくとも『次』の作戦に移るまでのわずかな間でもいいから『本物』と思わせておかなければならない。

 もちろん、この時にあっさりとピースに倒されてしまっては意味がない。三人には戦闘よりも作戦を優先してもらうことになる。




 三人が乗り込んだ後、少しだけ間を置いてからアリスに変装したオルゴールに入口に近い方から降下してもらう。

 オルゴールには先にお願いした通り、アリスの霊装と一緒に私も連れて行ってもらうことになる。

 その理由も説明した通りで、一瞬でもいいから『本物』だと相手に思い込ませることだ。そう長い時間誤魔化すことは出来ないだろう――特にヒルダはオーダーが通じないとなればすぐに気付くはずだ――が、そんなに長い時間である必要はない。

 なぜならば、ヒルダがオーダーをかける余裕を奪う作戦が同時進行するからだ。




 第四段階となるのが黒晶竜による突撃――これも、もし上手くいけば万々歳くらいには考えておく。なぜなら、ノワールから聞いたけど黒晶竜の身体はほぼ限界になってしまっているからだ。よくてブレスを一回か二回吐くのが精々だと言う。

 オルゴールの降下からそう間を置かずに黒晶竜で『塔』へと攻撃を仕掛ける。

 流石にこれを空中要塞の対空兵器だけで迎撃するのは難しいと判断するだろう。しないのであればそれに越したことはないけど。放置するなら遠慮なく最後の力を使って『塔』を破壊するだけの話だ。

 でもきっとそうはならないはずだ。

 ヒルダたちの力を使ってでも迎撃しなければならないと考えるだろう、普通は。

 超高速で一直線に『塔』へと向かって来る黒晶竜を撃ち落すためには複数のピースを向かわせなければならないはずだ。

 中途半端な戦力だけ差し向けても止められないどころか、下手したら突進を食らって倒されてしまう可能性だってある。

 オーダーも黒晶竜には通用しない――ありえるとしたら『魔眼』だが、あれも突進中であれば埋め込むことは難しいだろう。それに、黒晶竜の姿を確認してから『魔眼』を出して……となると時間が足りない。


 だから、


 これこそが、黒晶竜突撃の目的だ。

 ……ノワールに確認をしなければならなかった理由もここにある。

 この突撃でおそらく黒晶竜の身体は限界を迎え、修復不可能になるだろう。

 言葉は悪いが、『使い潰す』ことになってしまうのだ。ノワールに了解を取らなければならないことだろう。

 幸い……と言っていいのか、この戦いこそが結晶竜インペラトールにとっても最後の戦いとなることはノワールも理解していた。故に、『使い潰して構わない』と言ってもらえた。




 そして作戦は最終段階を迎える。

 ここまでの間に誰もやられず、本物のアリスの位置をヒルダに感づかれなければ――この最終段階はほぼ成功すると私は確信している。

 私が『いける』と判断したらアリスへと遠隔通話で合図を送り、アリスに《嵐捲く必滅の神槍グングニル》を使ってもらう。

 対象はもちろん霊装――オルゴールが持っている方だ。

 以前のジュウベェ戦にて、アリスの手元に持っていなくても《グングニル》が起動するのは実践済だ。問題ないだろう。

 ポイントは2つ。

 1つは、オルゴールの糸を使ってこと。

 つまり……《グングニル》を私の移動手段として使おうというのだ。

 もう1つのポイントは、《グングニル》の目標である。


 黒晶竜の突撃の主な目的は先に述べた通り、ヒルダたちの注意を引き付けるためにある。

 ただ、それだけではもったいないし、やれるなら狙っておきたいことがある。

 それは『塔』へと向けてブレスを吐いて『入口』を作り出すことだ。

 もちろん空中要塞はルールームゥの変形したものだし修復もできるだろうけど、ここで『入口』をこじ開けられれば大分楽になるのは間違いない。


 で、《グングニル》の目標はというと、もし黒晶竜の攻撃で『入口』を開けることが出来なければ『塔』の入口を狙うようにする――《グングニル》一発でこじ開けられるかは若干微妙だけど、霊装同等の強度であっても直撃させれば多分大丈夫だろう。ダメならその場で|万雷轟かせ雷神の激槌《トール・ハンマー》を発動させれば良い。怖いけど、まぁ私には当たらないし。

 逆にもし『入口』を開けることに成功したのであれば、狙いは『入口』のにしてもらう。

 なぜそうするかというと、『入口』を開けられたのであればヒルダはきっとそこを死守しようとするからだ。

 ……冷酷で確実な判断をすると仮定すると、十中八九エクレールを『楯』にして《グングニル》を止めさせようとするだろう。

 エクレールは倒せるかもしれないが、それで《グングニル》を止められては意味がない。

 だからこそ、『入口』を塞ごうとするエクレールを逸れるように、近くの壁を適当に狙ってもらうのだ。これもまた、相手の意表を突くことに繋がる。




 ここまで作戦が進んだら、後は《グングニル》にくっついて飛んできた私をアリスが回収し、そのまま『塔』へと突撃するのみだ。

 ありすもそれはわかっているだろうけど、ここに至るまで自分がどこに配置されるのかは聞かされていない。

 他の皆もわかっていないだろう――楓たちは推測してたかもね――し、最後の仕掛けについて私は説明する。


”第二段階で偽アリスを作るって話はしたよね?”

「ん、トーカとスバルに偽物持たせて、なつ兄とマキ姉、それにノワールは変装……」

”そうだね。で、その


 私の言葉を聞いて、皆大体理解したであろうことが表情からわかった。


「変装組は除外して、お嬢かユキのどっちかの偽物……が実は本物でした、ってことっすか」

”そういうこと。で、ここでも一つ仕掛けをする。

 具体的には、本物そっくりの人形と、一目で偽物とわかる人形に分けて作る”

「一目で偽物とわかる……? ラビ様、偽物とわかられては困るのではないでしょうか……?」


 桃香の疑問はもっともだ。

 これが『沢山の偽物の中に本物を紛れ込ませてこっそり侵入する』というだけの作戦なら、正直明らかな偽物を混ぜる意味はない。


”今回は『偽物だ』ってことが必要なんだよ。

 色々と段階を踏んで作戦を進めていくけど、その狙いは基本的には『本物のアリスの位置を相手から隠す』にあるってのはわかるよね?”

「は、はい。それはわかりますが……」

”それで次から次へと意表を突く変な手ばかり……しかもそのうちいくつかは致命的なダメージを与えかねないような手を畳みかけていく時に、相手はどう思うだろう?”


 最終的に視線は黒晶竜に集めることになる。

 けど、だからと言って相手がアリスのことを忘れるとは思わない。変なタイミングでアリスが出て来てしまったら、そちらを優先して攻撃するのは間違いないだろう。そうしない相手だというのであれば、ここまで苦労してないけどさ……。

 私の意図が正確に読めているのだろう、楓が代わって続ける。


「一度探したところは探さない――ということね、うーちゃん」

”うん。次々と畳みかけていってる最中だから尚更ね”

「……つまり、わたしは……?」


 確認のためにそう尋ねてきたありすに私は肯定を返す。

 人間の心理――というほど大層な話じゃないけど、何か探し物をしている時に一度探した場所ってなかなか再度探さないんだよね。まだ探していない場所を優先して探すと思う。

 今回やろうとしていることは、探し物=本物のアリスに置き換えた版だ。

 一目みたら『偽物だ』と思うようなものは怪しまれる可能性はある。

 しかし、それよりも後に本物と疑うようなものが幾つも現れたら……? 全てが偽物だとわかったとしても、黒晶竜のような対処せざるをえない脅威が畳みかけてきたら……?

 ここまでやられて常に冷静な判断を下し続けるというのは普通は無理だろう。

 最初に『偽物だ』と判断した――その上更に見た目も明らかな偽物は無意識に除外する可能性はかなり高い。

 最終段階で黒晶竜に視線を集めたその隙に、アリスは《グングニル》を発動させつつ隠れて『入口』へと移動して侵入する――そのシチュエーションにもっていくまでが、今回の作戦なのだ。


「んー、じゃあわたしはトーカと一緒にいく」

「ですわね。侵入する際に、念のためにわたくしが《ハーデスの兜》を召喚してお渡しいたしますわ」

「きゅっきゅー!」

「……僕は本物っぽい偽物をサイドカーに乗せて、『塔』に入ろうとするフリをすればいいかな……?」

「俺は多分早くに気付かれるだろうから、ユキや綾鳥先輩のフォローしながらっすかね」


 ……一部変なのが混じってたけど、ありすたち全員が作戦を理解し、更にそれを独自に互いに補完してよりブラッシュアップしていく。

 大枠は私の構想通りに進めてもらって、細かいところは本人たちに考えてもらった方がいいのはいつも通りだ。その方が突発の事態に臨機応変に対応できるだろうし。

 まぁあくまでアリスを『塔』に突入させるところまでしか作戦は考えられていない。

 そこから先がどうなるかは、はっきり言ってわからない。

 突入後に何の障害もなくナイアと戦えるかはわからないし、何よりも最大の問題である? というのもある。

 結局のところ、アリスがナイアに勝てないのであればこの戦いどう足掻いても私たちの負けなのだ。

 ……プレッシャーをかけてしまいそうで余り聞きたくはないんだけど、この点について話すのを避け続けるわけにはいくまい。


”それでさ、アリスと私が無事に突入できた後の話になるんだけど――”


 なっちゃんたち地上組については、心配だけど任せるしかない。楓と椛もいてくれるからよっぽどのことがない限りは大丈夫だろうし、いざとなったら退く決断もするだろうから信じて任せよう。

 空中要塞組の方はそうはいかない。

 アリス突入後、どこか一角が崩れたらそこから全体が崩れる恐れがある。

 ここは全員の認識を合わせておく必要があるだろう。


”アリスとナイアの戦いに乱入されないよう、皆にはピースの足止めをお願いしたい”

「足止め? 撃破の間違いじゃないっすか?」


 にやりと笑ってそう言う千夏君。

 ……そうだね、足止めだけで済ませる理由はないか。

 私も笑って返し言い直す。


”……うん、そうだね。目標はピース全員の撃破だ――ルナホークも含めて”

「――はい」


 言うか迷ったけど言わざるを得ない。

 桃香の心中は正確には測れないけども……桃香は真っすぐな瞳で私の言葉に頷く。

 桃香にしろ、千夏君にしろ、今回の戦いには『因縁』の相手がいる。

 『因縁』に決着をつけるためにも、皆には全力で戦ってもらいたい。アリス突入作戦は、同時に他の皆が全力で戦いたい相手と戦えるようマッチングを行う側面も持っている。まぁここに関しては上手く行くかどうかは保証はできないんだけど……。


”それでありす”

「ん、わたしがナイアをぶっ飛ばせるかどうか」


 極端な話、他が負けてもアリスだけでも勝てれば後は何とかなる――もちろん、皆が『因縁』に勝利を以て決着をつけられることが理想なのは言うまでもないけど。

 でもアリスが負けるのだけはダメなのだ。

 ……エル・メルヴィンで、アリス・ヴィヴィアン・ジュリエッタの三人で同時に挑んだというのにナイアには負けた。しかもほとんど抵抗することもできずにだ。その時の話は私も聞いてはいるけど……正直真正面から戦って勝てる相手とは到底思えない。


「大丈夫、わたしが勝つ」


 ……自身の勝利を疑うことなく、ありすはそう言い切った。

 過信ではないだろう。根拠のない自信で虚勢を張るような子ではないのはわかっている。

 でも――とありすは続ける。


「いざという時の『切り札』も考えてある」

”切り札……?”

「ん。使わないで勝てるならいいけど――」


 そう言うと、ありすは『切り札を使わざるを得なくなる』条件を私たちに語った。


「……なるほどにゃー。突入後にどうなるかわからないけど、その状況に陥る可能性はゼロじゃないかにゃ」

「むしろ、可能性は高い……ううん、確実にそうなると思っておいた方がいいと思う」


 慎重派のお姉ちゃんズは『切り札』は必ず使わなければならないだろう、と考えているようだ。

 もちろん使わないに越したことはないのは二人もわかっているだろうけど、使う場合を想定しておいた方が安全なのは間違いない。

 ありすも自分で言っていることからも理解はしているだろう。


「だから、『切り札』を使うために――ナデシコ」

「うゅ? なーに、あーたん?」

「ふー姉、はな姉」

「うん」

「それにスバル、なつ兄、トーカも」


 仲間たちの顔を見て、ひと呼吸おいてからありすは言った。



 ――それは、『切り札』のためだけではないだろう。

 それぞれがそれぞれの想いを持って戦いに臨むことをありすも理解している。

 だからこれは、ある意味仲間への『檄』なのだと思う。

 皆もそう受け取ったのだろう、神妙な顔で頷いて返す。


「ノワールとマキ姉……」


 続いて共に戦う『仲間』ではあるものの同じ『チーム』ではない二人へ。

 少し申し訳なさそうな顔をしてありすは続ける。


「ごめんね……この『切り札』、わたしたちじゃないと多分使えないヤツだから……あのね、除け者にしてるとかじゃないよ?」

「ふむ?」

「あ、あぅ、その……お、怒ったりなんてしてないから……ね?」


 ああ、二人を『仲間扱いしてない』と思われちゃわないか気にしてたのか……まぁどうしたって私のユニットかどうかで差はついちゃうのは仕方ないけどね……。

 ……ふむん? それはともかくとして、ありすが言った『わたしたちじゃないとダメ』な『切り札』って――


「それであーちゃん、『切り札』って?」

「ん……あのね――」


 そしてありすは『切り札』の中身について皆に語る。




 …………なるほど、確かにこれはノワールとマキナには実行不可な、確かに方法だな……。

 皆もありすの説明を聞いて、それが正しく『切り札』たる所以と使うための条件に『全員が負けないこと』があることに納得したようだ。私も納得した。

 ……したけど、正直これを使うほどに追い詰められたくはないな、とも思う。


「――これでダメなら、もうわたしたちに打つ手はない……と思う」


 珍しく弱気……というか諦めた雰囲気のありす。

 まぁそれも同意かな。ぶっちゃけ、アリス単独で勝てないのもそうだけど、この『切り札』を使ってさえ勝てないのであれば――天地がひっくり返っても私たちに勝ちの目はないと思う。ていうか、おそらく誰であっても勝てないだろう……クラウザーが操っていたかつてのジュウベェですらも。

 ともあれ、使わないで決着がつけられれば――もちろんナイアを倒してだ――それに越したことはない。

 でも、『切り札』を使わずに勝つにしたって、他の皆の戦いだって全員勝って終わりにしてもらいたい。


「……それにしても」


 と、千夏君が苦笑しながら言う。


「結局、ほぼほぼ『個人戦』になっちまいましたね」

”……だねぇ……”


 この世界に来ての最初の夜だったか、千夏君とそんな話したっけなぁ……。

 ピースたちが連携して来る、という点が今までの敵とは異なる点だと思う。だからこそ、こちら側の連携こそが重要になる……とかそんな感じの話だった記憶がある。

 まぁ結局、『アリスをナイアの元へと送る』という作戦を実行するに当たって、他のピースの足止めが必要になってしまったことで結果的に『個人戦』で残ったピースを抑えることになったのだ。

 個人の戦闘力も、こちらを上回っているヤツが多い。本当なら個人戦を挑むこと自体が悪手ではあるんだけど……やらざるをえないのが現状だ。


「ま、戦らなきゃならねー相手がいることですし――おまえの邪魔はさせねーよ」

「ん。お願い」


 全力を尽くして尚勝てるかわからない相手ばかりだ。

 それでも皆の戦意が落ちてない、どころか高揚しているの自体はいい傾向だとは思う。


”それじゃ、作戦の準備をしながら最後のアイテム補充をしよう”


 クラスター爆弾作成にかなりの魔力を消費することになる。

 ありすや楓たちのアイテム補充はその後かな。

 私自身もどのアイテムを持っていくかは慎重に考えなければならないだろう――ポータブルゲートは最低一個は必要かもしれないけど、ぶっちゃけ空中要塞内から再チャレンジは厳しい気もする。それに、離脱リーブと違ってアイテムを使った後にゲートを潜るという動作が必要になるから、脱出前に私が倒される可能性はかなり高い。

 ……うん、やはり脱出は考えない方がいいだろう。安全が確保されたところでアイテム補充をする、ということはありえるかもしれないから持っていくが、『脱出用』とは考えないこととする。

 他にも何を持っていくかはよく考えよう。一応、3は持って行こうかなと思っているが……。




 作戦の準備を進めながら、私たちは更に詳細を詰め、お互いに何をどうすべきかを相談し合う。

 ここまでの規模の戦い――そして大きなものを背負った戦いは初めてだ。

 ムスペルヘイムの時だって桃園台に住む人々の命が危なかったかもしれないけど、今回はそれ以上――言葉通り『世界丸ごと』の命運がかかっている。

 もちろん、私たちの世界の子供たち……あやめを始めとした『眠り病』患者の救出もかかっている。

 ……あまりに背負うものが大きすぎる。


 でも、そんな敗北が許されない戦いが控えている時にあっても、ありすたちの様子はいつも通りだった。

 気負わず、緩まず、いつも通り『ゲーム』に挑む時のように。

 変にプレッシャーを感じているわけでもない、だが『絶対に負けない』という意思はいつも以上に。


 ――案外と、こんなくらいの気持ちがいいのかもしれない。


 ありすたちの様子を見て私も少し肩の力が抜けた。

 うん、だ。

 いつも通り、目の前に現れる敵を全力でぶっ飛ばしていく――小難しい理屈や大義名分に縛られることなく、とにかく全力で相手をぶっ飛ばす。

 それこそがいつも通りの私たちの流儀なのだ。

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