第9章4話 中枢突入作戦

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 突如現れた黒晶竜迎撃に、ヒルダたちピースの意識が向かった。

 ルールームゥも拙いと思ったのか、即座に待機させていた《ムルムル-54》へとメインシステムを切り替えて出撃する。

 ルナホークもヴィヴィアンを無視して黒晶竜へと向かいながら砲撃を開始。

 しかし――ジュウベェだけは苦笑いを浮かべている。


「くふふ……あらあら、振り回されてしまっていますねぇ~」


 もちろんマス・オーダーの効果でジュウベェもクロエラを無視して黒晶竜を優先しようとしているのだが、能力と現在位置の都合上大して役には立てないのはわかっている。

 それゆえ、身体は勝手に動きつつも意識は余裕をもって周囲の状況を見れているのだ。

 彼女からしてみれば、絶対的に優位なはずのこちら側が相手の奇襲・奇策によって振り回されているようにしか思えない――もちろん都度対処はできているのもわかっているのだが。


 ――ふふふ……敵の狙いは――


 ジュウベェにはヒルダほどの戦略眼はないし、先手を打って相手の狙いを防ぐということは出来ないし

 彼女にとってナイアを守ることは然程重要なことではないのだ。

 一番重要なのは、自分自身のことである。


「……まぁいいでしょう。少しは面白くなりそうですしねぇ~」


 身体強化系の魔法剣を呼び出し、高速で移動しようとするクロエラを形だけでも追いかけつつジュウベェは笑った。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 超高速で突進してくる黒晶竜を撃墜することはほぼ不可能だ。

 重さ数トンの巨体を超高速で飛ばしているのだ、それを撃墜するための火力は魔法であっても実現は難しいだろう。

 やるとしたら、一撃で細かい破片になるほどに砕くか、一瞬で欠片も残さず消滅させるかだ――無論、そのどちらも実現が難しいのは言うまでもない。やるとしたら、アリスの神装やヴィヴィアンの《ケラウノス》をも超える瞬間火力が必要となるだろう。

 ルールームゥとルナホークの射撃も黒晶竜の勢いを殺すことも方向を逸らすことも出来ず……そのまま『ゴエティア』へと黒晶竜が激突するのは避けられないと思われた。


「オーダー《エクレール:移動せよ》!!」


 しかしヒルダの判断は早かった。

 オーダーを受けてエクレールの巨体が瞬時に消えて移動――移動先は黒晶竜の突進する先の空中だった。


「■■■――ッ!!!」


 声なき咆哮を上げ、エクレールが空中ですぐさま棍棒を振るう。

 予想外の位置からの予想外の攻撃だ。

 そもそも桁外れの速度での突進をしている最中だ、エクレールの攻撃を回避することなど黒晶竜には不可能であった。

 頭部を叩き落すように振るわれた棍棒の一撃を回避することは出来ず、黒晶竜はまともに食らい、勢いそのまま進行方向が下側へと逸れる。

 ……もちろん、エクレールも無事に済むはずはない。黒晶竜を逸らすことは出来たものの、背中へとぶつかり空中を弾き飛ばされてしまう。


「チッ、足りぬか……!?」


 エクレールのことを顧みることなく、ヒルダはすぐさま次の手を打とうとする。

 黒晶竜を倒せたわけではない。

 むしろ、『ゴエティア』の入口付近へと叩き落される形となる。

 そうなると次に起こることは容易に予想がつく。


 ――ゴォォォアァァァァァァッァァァッ!!


 叩き落されながらも黒晶竜はここが好機と見たか、『滅びのブレス』を前方へと向かって発射。

 霊装すらも滅ぼす黒い炎が噴き出し――『ゴエティア』の門を一撃で吹き飛ばした。


「ルールームゥ、早く塞ぐのじゃ!」


 地面へと墜落した黒晶竜はそのまま起き上がることはない。

 おそらくは元から限界に近かったのだろう、突進しての一発逆転を狙ったブレスも失敗した。

 だがナイアを直接狙うことは失敗したものの、本来ならば突破することがほぼ不可能な――霊装同等の強度を持った『扉』を破ることには成功した。

 そうなれば、今度は当初の予定通りアリスがそこから内部へと侵入を狙うはずだ。


<ピッ、ピポッピー!>


 ルールームゥには再生機能はない。

 替わりに『修復機能』が存在している。体力ゲージ自体は回復しないが、壊れた機械のパーツを直すことは可能なのだ。

 それを使って扉を修復してアリスの侵入を防ぐ。そして、このまま『ゴエティア』の外で敵の全滅を狙う――予想外の奇襲であっても、アビサル・レギオンの守りは崩せずに終わる。

 ……そうヒルダは考えていた。

 黒晶竜の迎撃に向かっていたルナホークもヴィヴィアンたちの方へと矛先を変え、落下したエクレールも大したダメージではない。すぐさま立ち上がり向かって来ようとするジュリエッタを通すまいと立ちはだかる。




 だが、事態はヒルダの予想を外れる動きとなった。




「む……!?」


 ヒルダの背後でアリスの手に持った霊装が雷光と嵐を纏う。

 《嵐捲く必滅の神槍グングニル》が発動――その効果は『天空遺跡』内で戦ったクリアドーラから聞いている。


 ――狙いは……。


 『ゴエティア』入口から最も遠いのがこの『アリス』だ。

 けれども、ラビを連れていること、そして魔法を放ったことからこの『アリス』が本物である……とヒルダは推測している。

 一番距離が遠い状態でなぜ最大級の魔法を放つのか――その狙いを考え、すぐさま答えを出す。


「オーダー《エクレール:》!」


 迷わずエクレールへとオーダー、その巨体を以て修復前の扉替わりにしようとした。

 エクレールならば《グングニル》の直撃を受けてもそれで倒れることはないだろうと予想、修復しようとする扉を更に破壊されることを防ごうとする。

 ……仲間の犠牲を厭わず本人の意思を無視して身体を張らせて攻撃を防ごうとする辺り、思考回路が普通の人間とは異なる――『強制命令フォースコマンド』で同様のことはできるだろうが、普通の神経の使い魔ならばやらないだろう。

 残るは背後の『アリス』にこれ以上動かれないように、自身のオーダーを掛けてしまえば良い。

 魔法の解除と動きを止めるのどちらかは一瞬だけ迷うが、エクレールならば耐えられると信じ確実な手段を取ろうとする。


「オーダー《アリス:止まれ》!」


 振り返りざまオーダーを使う。

 扉を破壊しようとする《グングニル》はエクレールが止め、他のユニットはピースたちで止める――そもそも扉さえ修復してしまえば、もはや為す術はないはずだ。




「……!? なにっ!?」


 しかし、

 オーダーを受けたにも関わらずそのままダッシュ、そして――


「スレッドアーツ《キャプチャーネット》」

「こいつも偽物か!?」


 ヒルダへと向けて『糸』を放つ。

 本物だと思ったアリスこそが、オルゴールの『糸』で全身を包み込んで変装した偽物だったのだ。

 糸が解け、オルゴールの姿が露わになる。


 ――馬鹿な!? では本物はどこじゃ……!?


 《グングニル》が発動した以上、必ずどこか――近い場所に本物のアリスがいるのは間違いない。

 自身に迫る糸をかわす道を探しつつ、ヒルダは本物のアリスがどこにいるのかを考える。

 ヴィヴィアンと共に《ペガサス》に乗っているのは……明らかに偽物の『人形』。

 クロエラのバイクに乗っているのは一見すると本物のように見えるが、微動だにしないことからこれも『人形』のように思える。あるいはオルゴールの糸で変装しているのか。

 ジュリエッタとオルゴールは共に偽物であることはもうバレている。

 そうなると――


 ――あの黒晶竜か!


 黒晶竜の突進はフェイク……あるいはと思っていたのだろう。

 目的は、黒晶竜に本物のアリスを乗せて入口近くまで運ぶこと――そうヒルダは推測した。

 彼女の推測を裏付けるように、墜落した黒晶竜の背から白い影が飛び出そうとするのを見た瞬間――


「オーダー《ルールームゥ:そいつを撃墜せよ》!」


 自分が糸に捕らわれるのにも構わず、ヒルダはルールームゥへとオーダーを掛ける――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 《グングニル》発射からわずか1秒にも満たない時間の出来事だった。

 ユニットもピースも、どちらも常人離れした思考速度と反射能力を持っている。

 この刹那、《バエル-1》『ゴエティア』入口での戦いに決着がつく。




 オーダーを掛けられた瞬間、ルールームゥは黒晶竜から飛び出した影へと標的を即座に変える。

 それにルナホークも同調。二人掛かりで集中砲火を浴びせかけようとする。




 同時にエクレールに迫る《グングニル》。

 彼女に思考能力がどの程度あるかは不明だが、食らえば即死はしないまでも大ダメージ必至の魔法を前にしても揺らがず、入口を死守しようとする。




 そしてヒルダは自分が捕らわれたとしても、自分の命よりも『ゴエティア』防衛を優先しようとする。

 ダメ押しに更に黒晶竜から飛び出したアリスへと向けて、今度こそオーダーで動きを止めようとして――全てを悟った。




 《グングニル》が

 エクレール……の背後にある扉へと進む軌道から、それよりわずかに上。『ゴエティア』本体、入口の淵へと当たる軌道である。

 もちろん、そこも霊装並の硬度だ。《グングニル》が直撃したところで壁を破って『ゴエティア』内部に侵入するなどということは不可能だ。


 ――は……!? まさか……!?


 ヒルダは見た。

 嵐に紛れて見づらいが、《グングニル》に『異物』――白い小さな塊がくっついているのを。

 その正体をすぐさま理解し、ラビたちの策略全てをここに至りようやく理解する。


「オーダー――ぐぅっ!?」

「させない」


 糸に絡めとられたヒルダに向かって、今度はジュリエッタが襲い掛かる。

 それはそうだろう。ヒルダこそが、彼女たちにとって侵入の最大の障害なのだから。


 ――拙い……!!


 最後のオーダーを中断させられ、ヒルダはもはやラビたちを止めることが出来ないことを悟った……。




「《ディ・ゴウ・エルケドス》!!」

<ピピッ>


 集中砲火を浴びせられるよりも早く白い影が叫び、その周囲に黒い炎が舞う。

 考えるまでもない。ルールームゥたちはそれを先刻見たばかりの『滅びのブレス』と同等の脅威を見なし、回避しようとする。


「ふむ……珍しい体験じゃったが、やはり窮屈なのは苦手じゃの……」


 黒晶竜から現れたのも、偽物だった。

 こちらは糸で変装したノワールだったのだ。

 周辺に黒い炎を撒き散らし、ルールームゥたちを牽制しながらノワールも入口前に仁王立ちするエクレールへと向けて、更に黒い炎を弾丸として放つ――




 エクレールに感情や思考能力があるとしたら、今感じているのは『戸惑い』だろう。

 身体を張って防ごうとした《グングニル》の軌道が逸れ、自分には当たらないことはすぐにわかった。

 しかしだからと言ってヒルダの命令なしにその場を動こうとはしない。

 からというのもあるが、仮に自分で考えたとしてもこの場に留まるのが最善だと理解しているからだ。

 元よりヒルダの命令は『扉を塞げ』だ。扉代わりに『ゴエティア』入口を守り切ることこそが、与えられた命令なのだ。

 ならば、《グングニル》の軌道がどうであれ、『滅びのブレス』が迫って来ようとも一歩も動くわけにはいかない。

 黒い炎へと棍棒を振るい、迎撃をしようとする。




 ――この瞬間、アビサル・レギオン全員の視線が分散した。




「使い魔殿!」

”アリス!”


 その声は、から聞こえてきた。


「■■■――ッ!!」


 是非は考えない。

 扉代わりに侵入者を防ぐ役割を担うエクレールは、黒炎弾が迫るのも無視して即座に振り返りそちらへと向かって棍棒を振るおうとする。

 だが、


「cl《神性領域アスガルド》!」

「■■■ッ!?」


 アリスの放った《アスガルド》の板が『ゴエティア』入口へと集中。如何に強大なパワーを誇るエクレールと言えども、『触れたものを弾き飛ばす』という性質の魔法を突破することは出来ず、後方へと弾かれてしまう。


「よし、貴様ら、後は任せたぞ!」


 そう言い残し、アリスはラビを掴んで今まさに修復完了しようとする扉の中へと潜り込んでいった……。




*  *  *  *  *




 戦いを有利に進めるには相手の嫌がることをやる。

 いつだったか私自身がありすたちに言った言葉だ。

 今回の作戦はそれとはちょっと違って、『相手の意表を突く』ことに重点を置いている。


”作戦第三段――ノワール”

「うむ、任せるがよい」

「え、ノワール大丈夫なんすか?」


 千夏君たちの心配はわかる。

 ノワールの竜体――黒晶竜の身体はかなりガタが来ている。

 元々天空遺跡でのダメージを引きずっていて、エル・アストラエアで最後の修復を行っていたのだけど、それは未完了。

 加えて先刻のルールームゥたちの爆撃によって更なる損傷を受けてしまったのだ。

 正直、まともに戦うことは不可能だろう。それはノワールにも確認している。

 ただし、まともに戦わないのであれば十分使うことは可能でもある。


「ふふ、問題ない。元より戦力としては期待できぬものだったのだ。アストラエアの遣いの作戦で使い潰して構わぬさ」

”……ごめん。でもありがとう、ノワール”


 聞いた話によれば、彼女たちの『晶核コア』に魂が宿っている方が一応の『本体』という扱いにはなるみたいだけど……感覚的にはきっと結晶竜の身体の方が本体には違いないんだろう。

 その『本体』を使い潰せ、と私は彼女に要求しているのだ。本当だったら拒否されても文句は言えないことだ。

 それでもノワールは『応』と言ってくれた。

 ……絶対に無駄にしてはならない。


”第三段は、ノワール――黒晶竜での特攻を仕掛ける。

 上手く行けばこれだけでナイアまで倒せるかもしれないけど……まぁそこまでは期待は出来ないかな……”


 黒晶竜の『滅びのブレス』なら、命中さえすれば一撃必殺なんだろうけどね。

 竜体自体の耐久力や、ナイアが隠れているであろう場所まで攻撃を届かせることは難しいと思うし、『出来たらいいな』くらいに考えておく。


”第二段まででアリスの偽物をあちこちに送っておいて、その上での黒晶竜の突撃を見れば、そっちが本命だと考えると思う”


 絶対確実とは言わないけど、人間同様の知能と思考能力を持っているピースであれば、高確率でそういう考えに誘導出来るだろう。

 特にお互い熟考をするほどの余裕のない戦闘中だ。引っかかってくれるとは思う。


”ノワールは黒晶竜で突撃。で、ノワール自身はオルゴールの糸でアリスの変装をしておいてもらう”

「……その、角とか翼とかは誤魔化せませんけど……」

”そこはまぁ仕方ないかな。ノワールの変装自体は、別にアリスと誤認させ続ける必要はないんだ。ほんの一瞬、アリスっぽいと思わせるだけで十分だからね”


 なぜならば、これもまたフェイクだからだ。


「んー……? 偽物ばっかり……? わたしは?」


 それこそが第四弾――全てのフェイクはこのためにある。


”この突入作戦の肝は、前にも言った通り『どうやってアリスをナイアのところに送り届けるか?』にある。

 向こうもそれはわかっているだろうから妨害はしてくると思うし、それをどうやって切り抜けるか……そのために必要な要素が幾つかある”


 既にいくつかの作戦については段階を追って説明済みだが、ここで改めて全貌をまとめておさらいをする。


”まず第一弾。クラスター爆弾を投下してピースたち……特にルールームゥの目をそちらに引き付けつつ、こちらが隙を突いて空中要塞に乗り込む”


 これが出来ないと以降の作戦は全て瓦解する。ある意味、一番重要なのがこことなる。


”最初に乗り込むのはジュリエッタ、ヴィヴィアン、クロエラの三人。全員同じ場所に降りれたらそれに越したことはないけど……今回はある程度分散して降りてもらうことになるかな。塔の入口の場所を探さないといけないし。

 で、この時皆それぞれ『偽アリス』を持っていくことになる”


 ジュリエッタについてはディスガイズで変装だけどね。


”これが第二段ね。

 その次は、オルゴールの出番だ”

「は、はい……わ、私は何をすれば……?」


 ……正直、自分のユニットではないし、ピッピに対しても特に関係のないマキナに頼るのも筋違いかなと思わないでもないんだけど、彼女の力を借りないと『奇策』は成り立たない。

 私はマキナにやってもらいたいことを説明する。


”うん、まずマキナは三人の次――具体的には塔への入口がわかってから、クラスター爆弾に紛れて降りてもらう。

 で、その時に三つやって欲しいことがある”

「はい……」

”一つ、オルゴールもアリスの姿に変装してもらう。

 二つ、アリスの霊装を借りて持って行ってもらう。

 そして三つ、

「ん、ラビさん!?」


 慌てるありすをまぁまぁとで制して続ける。


”それでさっきの話に戻って、オルゴールが降りるのと合わせて黒晶竜で一気に塔へと向けて突撃をしてもらう。これが第四段……ノワール、もしダメだと思ったら君の判断で変装したまま外に飛び出していいからね”

「うむ、心得た」


 黒晶竜による突撃は、相手がよっぽどのバカか能力を理解してない限り必ず相手の目を惹くことになるはずだ。

 その黒晶竜で目を惹くのと時を合わせてオルゴールが降りて来る、というのがポイントだ。

 アリスが突入するに当たって最大の懸念は、やはりヒルダのオーダーで動きを止められる可能性があることだろう。

 だから、必要がある。

 ヒルダがアリスにオーダーを放てない状況を作る――そしてその隙を突いてアリスを送り込む。これが作戦の目的だ。

 そのためには、まぁ余り私の好みではないし最善手はとても言えないけど……『相手の意表を突く』ための手も使わざるを得ない。


”オルゴールに私を連れて行ってもらうのにもちゃんと理由がある。

 まずは、そんな長い時間じゃなくていいんだけど、オルゴールの変装の方を『本物のアリス』だと相手に思わせるためだね”

「でも……」


 ありすは不満そうだ。

 他の皆も口には出さないけど、心配そうな雰囲気を出しているのはわかる――自分たちの使い魔を他のユニットに一時的にでも委ねることになるのだ。加えて今回は今までとはあらゆる面で異なる戦いだ、猶更だろう。

 私を連れて行くことになるマキナにしても、責任を負う形になってしまいかねない、こちらもやはり不安そうな顔だ。

 皆の気持ちはわかるが、やらなければならないのだ。


”不安も不満もわかるけど、そうまでしないとアリスのマークを外せないと思うんだよ。

 だから、とにかく徹底的に『やるわけない』と相手が思うような手段を使ってひっかきまわしていく”


 今までの戦いから薄々感じてはいたけど、ピースたちは人間同様の思考能力や感情は持ってはいるものの、人間と全く同じというわけではない。

 時に仲間を平気で犠牲にするような戦いも厭わない――天空遺跡での砲撃や、エル・アストラエア襲撃なんか正にそうだろう――ある意味『機械』のような冷酷な判断力を備えていると言ってもいいだろう。

 けれども、それはピースたちの知能が『機械並』ということを意味しない。

 もしそうだとしたら、正直私たちはここまで残れていなかっただろう。


”ヤツらが人間と同じような思考・感情を持っているってことは、そこには必ず『隙』が出て来るはずだ”

「その隙を無理矢理作るために、色々とフェイントをかけて惑わせていく……ってことね、うーちゃん」

”そういうこと。一つや二つならちょっと驚かせるくらいですぐ対処されちゃうかもだけど、間髪入れずに幾つもぶつけていけば必ず『隙』は作れると思う”


 クラスター爆弾、複数の偽アリス、本物と思わせる偽アリス、そして黒晶竜の突撃――これらを散発的に行うだけだと一つずつ対処されてしまうだろう。

 でも、これらを連続して――対処が終わるよりも前に畳みかけていくのであれば話しは別。

 人間同様であるならば次第に頭の処理が追い付かなくなってくるはずだ。


”今までと違って私たちに有利な点が一つある。

 それは、今回はこちらが攻め込む番だということだ”


 もちろんぐずぐずしてたら相手がエル・アストラエアへと攻撃を仕掛けてきてしまう。そうなる前にこちらから攻め込まなければならないけど。

 ……昨日からの戦いでつくづく痛感してるけど、戦いは基本的には『守る』方が難しい。

 相手が何をしてくるか、どこから攻めてくるかわからないから、様々な可能性を考えていかなければならない――その『読み』が外れてしまったら一気に不利になる……どころか戦線が崩壊しかねない。

 私たちは何とか上手く凌ぐことが出来た。これは、まぁナイアの目的が完全に私たちの想定を外れたものだったから、という理由もあるんだけどね。

 今回は違う。私たちの方からナイアたちへと攻め込むことになる。

 そうなると空中要塞に籠もっているとは言え、向こうは『防衛』を考えなければならなくなるだろう。それこそ様々な可能性を考えなければならなくなる。

 ……これがコンピューターみたいな頭脳を持っているのであればそれでも対処可能なのかもしれないが、そうではないらしいしきっと私たちが付け入る『隙』を作ることができるはずだ。


”相手の想定していないところを狙い続けて『隙』を作る。

 そして、その『隙』を突いてアリスがナイアの元へとたどり着かせる――全ての作戦はそのためにあると思っていい”

「んー……ラビさんの言うことはわかったけど……それじゃ、わたしはどうすればいい?」


 おっと、そういえば肝心のアリスをどうするかの説明がまだだったか。


”大丈夫、ありすについても考えてるよ。

 ――それで、ここからが作戦の第五段階……になるんだけど――”

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