第8章101話 汝、其の罪を抱いて眠れ -R.I.P.-
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その効果は文字通りの『骨』を自在に操作することだ。
ただし、生き物の骨を自在に操ることができるほど万能ではない――そんなことが出来たら、『骨を持つ生物』であれば何でも即死させることができてしまうからだ。
操れる骨は、『インフェクションに感染した結果生まれたスケルトン』に限られる。
一度感染したら爆発的に感染者が増えていく、正に疫病のごとき
仮にベララベラム・ゾンビが敗れたとしても、今度はベララベラム・スケルトンが感染生物の死体からスケルトンモンスターを作り、莫大な量の骨をボーンアーツの『材料』として使うことができる。
スケルトンになってしまったらインフェクションは使えなくなり新たな感染者を増やすことはできなくなるが、ゾンビ時に感染者が増えるまで時間を長く稼げば骨のストックは十分だろう。
ベララベラムはそう考え、一見するとモンスターのような振る舞いをしながらも万一の敗北時に備えての準備を行っていたのだ。
《エグゾスカル》はベララベラムの『切り札』となる魔法である。
大量の骨を『鎧』と化し、圧倒的な質量と硬度で押しつぶす――そういう魔法だ。
単純にして明快。完全なる『力押し』である。
そもそもゾンビ軍団を引き連れたベララベラムを倒した相手でなければ、ベララベラム・スケルトンと戦うことはない。
故に、その相手は相当な力の持ち主であり、自由に身動きが取れず他者とコミュニケーションが取れず一人で戦うしかないベララベラムにとっては、下手な戦術をとるよりは力押しをした方が良いという判断である。
何も考えてないがためではなく、考えた結果の力押しだ。
ベララベラムは《エグゾスカル》に絶対の自信を持っていたし、単純な攻撃力や腕力では
――なのに、
「ふふっ♪ やっぱり触れる分、前よりは気が楽になりましたね」
『カタッ……カタタタタタッ!?』
超高密度・超硬度・超重量の骨の塊の拳――それはもはや鉄塊で殴られるのに等しいにも関わらず、振り下ろされたガブリエラは涼し気な笑みを浮かべている。
……伸ばした左手だけで、振り下ろされた《エグゾスカル》の拳を受け止めつつ、だ。
「うりゅー、どうするにゃー? 消しとくにゃ? アーツ系はあたち真似できないにゃし」
「みゅー……消せるけど……ま、このままでいいみゃ。魔力が
――ッ!!
ウリエラとサリエラの呑気な会話を聞いて、血液はないもののベララベラムの頭が怒りで沸騰した。
魔力がもったいない――自信を持つ『切り札』に対して、もったいないから別に対策しないでもいい、と言われているのだ。怒りがわかないわけがない。
――その傲慢……後悔させてやる……ッ!!
受け止められはしたものの、ガブリエラの細腕でいつまでも押し留められるものでもない。
ベララベラムは更に力を込めて押しつつ、もう片方の腕でガブリエラを側面から殴り飛ばそうとした……。
……当然、先の発言はウリエラたちの『挑発』である。
彼女たちは決して『油断』はしない。
まぁ《エグゾスカル》のままでも十分勝てる相手だとも思っているのは事実ではあるが。
――
――中身は普通の人間と同じにゃー。
怪物めいた見た目に通じない言葉、不気味な動きに不可解な魔法と、まさに映画の中のモンスターさながらのベララベラムではあったが、結局のところ『ピース』なのに変わりはない。
であれば、その思考・感情は人間とほぼ同等であるはずだ――これまで出会った他のピースと同様に。
人間同等であればモンスターよりもよほど
特に実際に一度対決しているサリエラは、ほぼベララベラムの感情からどのような行動に出るか読み切ったと言える。
《エグゾスカル》の攻撃力・防御力は確かに恐るべきものだ。
骨といえども生物で一番硬い部位であり、それを凝縮しているのだから並大抵のパワーでは防ぐことも逆に突破することもできないだろう。
……ガブリエラが並大抵のパワーでない、ということがベララベラムにとっての不幸だった。
『ガタタッ!?』
ベララベラムは困惑しているだろう。
もう一本の腕で殴りつけようとしたものの、そちらもやはり片手振るった霊装であっさりと受け止められてしまう。
一旦退いてもう一度全力のパンチをしようとするが――ガブリエラが受け止めた手が全く動かなくなっていることに気付いたはずだ。
押しても引いても腕が全く動かない。
……それは何かしらの魔法で動きを封じた、というわけではない。
「ふふふっ、力比べなら負けませんよ~」
『ガ……カタッ!?』
ガブリエラの
……そう、ガブリエラは拳を受け止めると同時に、指の力だけで骨を潰し食い込ませ、《エグゾスカル》を
しかもそれだけではなく、がっちりと掴んで《エグゾスカル》の動きを完全に押さえ込んでさえいる。
《エグゾスカル》の力を以ってしても、ガブリエラのパワーには敵わない――ということなのだ。
――ま、妙な魔法使って動かれるよりも、こんな感じのパワータイプの方がやりやすくていいにゃー。
一番怖いのは、ボーンアーツを使って例えば『ベララベラムの分身を沢山作り出す』ようなことである。分身に紛れてウェザリングを放たれると、体勢によっては回避できない可能性がある。
そうした状況を封じるために、敢えて遠隔通話を使わずにベララベラムに聞こえるように、ウリエラたちは言葉での挑発を行ったのだ。
『さて、そいじゃ向こうが冷静にならないうちに――』
『とっとと片づけるにゃー』
『ええ、総攻撃と行きましょう!』
――ベララベラムは完全に間違いを犯していた。
彼女がやるべきことは、プライドを捨てて全力で逃げることだったのだ。
ボーンアーツを使い、スケルトンに紛れて身を隠し、ただひたすらにこの場から逃走する――それ以外に出来ることはなかった。
それに気付けなかった……いや、気付かれないように挑発したウリエラたちの作戦に嵌った時点で、ベララベラムは詰んでいたのだ。
ガブリエラのパワーが《エグゾスカル》をまるで発泡スチロールのように軽々と砕き、割り、折り、
ウリエラのビルドで作られた土の杭が関節を縫い留め動きを封じ、
サリエラのクラッシュが砕かれた骨片を更に粉へと変え、
クロエラのバイクがガブリエラと逆方向、ベララベラムの死角から叩きつけられる。
ベララベラムがようやく『とにかく離れよう』と掴まれた拳部分だけを分離させようと思い至った時にはもう遅い。
「いきますわよ~!!」
ニコニコと笑みを浮かべるガブリエラが『舞う』。
……本人にはそのつもりはなかっただろうが、他者の眼からはそれは『舞』に見えた。
リズムに乗るかのような、流れるような連撃が《エグゾスカル》を滅多打ちにしてゆく。
一撃が骨をも砕く凶悪な威力にも関わらず、それが絶え間なく襲い掛かってくるのだ。
打たれているベララベラムからしてみたら、まさに『死の舞踏』としか見えない連撃が骨の鎧を瞬く間に削ってゆく。
「カ……カタッ、ガタタタタッ!!」
ついに、《エグゾスカル》が砕かれベララベラム本体へとガブリエラの霊装が迫る。
「――うぇざりんぐ!!」
だがベララベラムは諦めてはいなかった。
連撃に集中している時であれば、至近距離からのウェザリングはかわせない。
この位置であればサリエラの【贋作者】で削ることもできないし、元より削れたとしてもガブリエラを風化させるには十分な威力が残る。
……はずだった。
「【
いともあっさりと、ウェザリングの効果が消える。
『ウェザリングに対処できる方法』をあえてサリエラは口にし、それをベララベラムに印象付けた――もちろん、実際に使える場面ではサリエラでの削りやガブリエラのクローズによる防御も行う気ではいたが。
狙いはウリエラの【消去者】を意識させないためだったのだ。
ウェザリングを回避するには、やはり【消去者】で消してしまうのが安全で確実なのには違いない。
……その狙いからすると、先程の挑発は二人の小さなミスであったのだが、怒りで冷静さを失ったベララベラムには気付けなかった。
「ナイスです、うりゅ!」
「ガッ……!!」
発動さえしていれば、ウェザリングをまともに浴びたガブリエラは砂と化していたはずだった。
なぜウェザリングが消えたのか――それを理解するよりも早く、ガブリエラの振り下ろした渾身の一撃がベララベラムの頭骨を完全に打ち砕いた……!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「終わったかみゃー?」
ガブリエラの一撃でベララベラムは粉砕、彼女の魔法で作られた《エグゾスカル》も効果が切れたためかバラバラと崩壊していく。
今度こそとどめを刺した――と思いたいところだが、ゾンビからスケルトンに変化したことから考えて、それでもまだ安心できない。
対戦なら倒したかどうかわかるし、モンスターならクエストクリアと出るのでわかりやすいが、ピース相手では本当に倒せたかどうかが判断つかない。
特にベララベラムに関しては……。
「…………
「にゃっ!?」
《エグゾスカル》の残骸の前で静かに佇んでいたガブリエラが微笑みを浮かべつつ、視線を少し上へと上げる。
釣られてサリエラたちも視線を上げると、そこには――
「ゆ、幽霊!?」
「……マジかみゃー……」
「こいつ、しつこすぎだにゃー……」
空中に浮かぶ半透明の少女の姿があった。
長い髪に白|(と思われる)ワンピースを纏った、10台中頃と思しき少女――の
薄く透き通った身体に、膝から先の足が煙のように消えている姿からして、もはや完全に一般的にイメージされる『幽霊』そのものだろう。
これこそがベララベラムのギフトの能力だ。
ゾンビの姿に始まり、スケルトン、そしてゴーストへと
復活するごとに変わる形態に合わせて使用する魔法そのものが変化していくため、実質『三人分』の能力を併せ持つピースがベララベラムなのである。
ギフトの名は【
『あなうらめしや……あなにくらしや……』
「ふふっ、やっとおしゃべりできますね♪」
言葉通り憎らし気な視線を向けるベララベラムに、それでもガブリエラはにこやかな笑みを崩さない。
もっとも、本当に『おしゃべり』がしたいかと言われると――案外ガブリエラは本気で思っているのかもしれない。
「ゾンビになっている時、何度もあなたの声を聞きましたね。
――あなたの『辛い』『苦しい』という気持ちはわかっています」
『なにを……わかったようなくちを……!!』
「ですから――もうやめませんか?」
そう言ったガブリエラの言葉に驚いたのは、ベララベラムではなくむしろウリエラたちの方であった。
これが降伏勧告ならばわからないでもないのだが、ガブリエラがそういうことをするとは到底思えない。
心の底から、ガブリエラはベララベラムとの戦いを『止めたい』と思っているのだろうとわかる。
――……きっと、りえら様はベララベラムの『何か』を見たんにゃ……。
説明のつかない『心霊能力』としか言いようのないその力で、ガブリエラには何かを感じ取ったのだろう。
ただそれが何なのかを説明できるほどの理解力と語彙力が備わっていないことが、周囲の人間にとっては困惑するしかない原因なのだが。
ガブリエラの言葉に、更に憎悪にベララベラムは顔を歪ませる。
『ゆるさぬ……わたしの「おうこく」をうばったおまえ
「りえら様、ダメみゃ!」
『おまえたちぜんいん、のろいころしてやる……!!』
ベララベラムが半透明から薄い赤へと変化する。
一目で『危険』を感じさせる霊体へと、禍々しい魔力が満ちる。
『スピリットアーツ《オールド・ハグ》』
ベララベラムの視線は、ガブリエラから彼女を止めようと叫んだウリエラの方へと移っていた。
魔法が起動すると同時に、ウリエラが地面へとぽとりと落ちそのまま動かなくなる。
「うりゅ!?」
『か、身体が全然動かないみゃ……』
『
体力の減少こそないものの、口を利くことすら出来なくなってしまっている。
『スピリットアーツ《ポルターガイスト》!』
「くっ……戦いを止める気はありませんか……!」
『おぉぉぉぉ……のろってやる……うらんでやる……!!』
周囲の石や砕かれた骨片が、まるで自分の意思があるかのように跳ねまわり四方八方からガブリエラたちを襲う。
正に
一撃一撃は大した威力ではないが、ボーンアーツの時とは違いそれぞれが勝手に動き回り、叩き落したところで止まる気配がない。
「痛たた……リエラ様、ベララベラム本体をやろう!」
「……仕方ないですね」
ほんの少しだけ悲しそうな顔をしたガブリエラだったが、敵へと同情して
戦う決意を改めて固め、翼を広げクロエラと共に上空のベララベラムへと迫る。
『スピリットアーツ《ウィル・オー・ウィプス》!』
向かって来るガブリエラたちに向けて――ではなく、地上で動けないウリエラへと向けて更に
「にゃー!?」
アーツの魔法はサリエラの【贋作者】ではコピーできない。
動けないウリエラを抱え、サリエラが必死に鬼火から逃げ回る。
「今のうちに!」
「ええ!」
二人を助けるには一刻も早くベララベラムを倒すのが一番だ。
ガブリエラたちがベララベラムへと接近、攻撃を仕掛ける。
……が、ベララベラムはにやぁと笑うのみで動かない。
「!? 攻撃が……」
「
ベララベラムへと振るった霊装も魔法も、何の影響も及ぼさずにすり抜けてしまったのだ。
回避されたのではなく、言葉通りすり抜けた――幻覚を殴った時と同じ、一切の手応えがない。
『スピリットアーツ《ソウルドレイン》!』
ベララベラムの右手が、攻撃を振り抜いた姿勢のガブリエラへと伸びる――
ゴースト状態のベララベラムには2つの大きな特性がある。
1つはベララベラム自身の身体が『霊体』、すなわち実体を失ったものとなること。
これにより、ゴースト形態のベララベラムは
例外はアンデッド特攻となるような浄化の魔法であるが……『ゲーム』の仕様上、アンデッドモンスターは存在しえない。よって、『ゲーム』でそういった効果を持つ魔法は存在していないのである。
ただし、これではベララベラムは絶対無敵となってしまうため欠点もある。
まず【蘇生者】の効果は、必ずベララベラムが倒された後にのみ発動するという点だ。つまり、ベララベラムの意思で形態を変えることは不可能ということになる。もちろん、たとえばゴーストからスケルトンに戻るという逆方向の形態変化もできない。
それに加えて、ゴースト形態は見た目通り『不安定』な存在だ。あらゆる攻撃を受け付けない反面、時間が経過すれば自動的に体力がゼロとなり消滅することになる。
……その時間は
もう1つは使用する魔法――
10分もの無敵時間に加え、一撃必殺たりえる魔法を持つ規格外の戦闘力を持つピース――それこそがアビサル・レギオンの『第三位』たる所以だ。
ベララベラムの敵は、10分もの間魔法をかわして逃げ続けることしか出来なくなる……。
ガブリエラに放たれた《ソウルドレイン》、それは名前通りの『魂を奪う』魔法だ。
機械のモンスターのような魂のない存在には通じないが、ユニットを含めた『生物』に対しては防御不能の必殺魔法である。
「リエラ様!!」
「クロ!?」
その魔法がガブリエラへと伸びた瞬間、素早く軌道を変更したクロエラがガブリエラを押しのける。
……代償としてクロエラへと《ソウルドレイン》が突き刺さってしまう。
『……!? ?? ……な、ぜ……!?』
「?? ……別に痛くもなんともないや……」
クロエラだけでなくベララベラムも困惑する。
《ソウルドレイン》は確かにクロエラへと命中したはずなのに
体力も一切減少することはなかったし、特に気分が悪くなったりもしない。
『おまえは、いったい……!?』
「クロ、少し離れて!」
戸惑いはベララベラムの方が大きい。
その隙にガブリエラたちはベララベラムから距離を取る。
彼女たちから見れば『効果不明』の魔法だが、とにかく射程距離から離れることが先決だと判断したのだ。
一方でベララベラムは困惑で思考が停止した。
10分の制限時間は決して長くはないが、一人ずつ仕留めるには十分な時間はある。
『いずれにせよ……ガブリエラ、おまえだけは……!』
クロエラに通じなかったのは何かの間違いか、あるいは当たったように見えて外れていたか、きっとそんなことだろうと思い直す。
何にしても今のベララベラムは無敵なのだ。桁外れのパワーを持つガブリエラだろうと、ベララベラムを倒すことは不可能だ。
自分の『王国』を崩壊させた元凶であるガブリエラを真っ先に仕留めるべく、ベララベラムはガブリエラを追う。
「くそっ……攻撃が通じないなんて、どうやって倒せばいいんだ……!?」
よくわからないうちに窮地に追い込まれたものの、これまたよくわからないうちに脱することはできたが安心は全くできない。
自分たちの攻撃が通じない以上、ベララベラムを倒すことはできないし、なによりも触れないのだから相手の攻撃を防ぐこともできないのだ。
『絶対無敵』の能力は存在しないとは思うが、かといって打開策も見つからず、追いかけて来るベララベラムに触れられないように逃げることしか出来ない。
「んー……クロ、多分逃げ回っていれば勝てるとは思うんだけど」
「……ボクたちはともかく、サリュたちやボスたちの方を狙われたら厳しいよ……」
「そうよねぇ」
状況がわかっていないわけはないのに、やけに呑気なガブリエラの態度が気にかかる。
このままガブリエラとクロエラを狙い続けてくれれば、確かに逃げ続ければガブリエラが『何か』見た通り勝てるのかもしれない。
しかし、冷静さを失ったとはいえベララベラムがいつまでもそうしてくれる保証はない――それどころか、逃げるガブリエラを追い込むために積極的にサリエラたちやラビたちの方を狙う可能性が高い。
一人や二人ならばクロエラが運べるが、誰かが犠牲になってしまうだろう。
未だ危機は去っていない――その状況において、ガブリエラはやはり笑みを浮かべて言った。
「じゃ、やっぱり私たちでしっかりと倒しておきましょうか♪」
逃げるガブリエラを追いかけていたベララベラムだが、このままでは埒があかないとサリエラたちへと標的を移そうかと考え直した。
そちらを襲えばガブリエラも対処せざるをえないだろうし、何ならサリエラたちを《ソウルドレイン》で始末して逆にガブリエラの冷静さを奪うこともできるだろう。
そう考え、反転しようとした時、ガブリエラたちもまた反転した。
――来るか……!?
それならば好都合。《ソウルドレイン》を確実にガブリエラに当てるためにスピリットアーツを使い、今度こそ殺す――魔法を消せるウリエラの動きは《オールド・ハグ》が使われている限り封じ込められるし、先程はクロエラに回避されたが当てることさえできれば一撃でガブリエラを仕留められる。
そして相手の攻撃は自分には
自分に課せられた命令はほぼ失敗したと言えるが、それでも己のプライドを保つことはできる。
ベララベラムが最後の攻撃を行おうとした時――
「リュニオン――《クロエラ》!」
『!?』
ガブリエラとクロエラの姿が一つに
ベースはガブリエラ、そこにクロエラを融合させた形だ。
ガブリエラの髪や衣服がクロエラのように漆黒に染まり、背の翼が変化する。
天使の翼から、鋼鉄や歯車で構成された『機械の翼』に。
この翼こそがクロエラの霊装『霊機メルカバ』の変化した姿である。彼女の霊装は使い手にとって最も使いやすい形態へと自動的に変わるようになっているのだ――クロエラの時は『バイク』の姿に、そしてガブリエラと融合した時には機動力を最大限に上げるための『翼』に。
――だが、それがどうした!
尚もベララベラムは勝利を疑わない。
融合したことでステータスは爆発的に増加しているだろう。
だが、無意味だ。
結局ベララベラム・ゴーストには触れることさえできないのだから。
――しかし、『絶対』などこの『ゲーム』には存在しないということを、この時のベララベラムは忘れていた。
<
『なっ……!?』
瞬間、ガブリエラの姿がベララベラム同様に半透明になる。
《ゴーストハント》――かつてアリスと共に臨んだジュウベェとの最終決戦でのみ使った、実体をすり抜ける代わりに
ジュウベェ戦では攻撃の回避のために使ったが、本来の用途はその名の通り『
ガブリエラは確かに本体の年齢故に色々と拙いところはある。
しかし、幼い故にか
だから本人が忘れているような影の薄い、普段ならば使い道のない魔法も全て覚えているのだ。
「ベララベラム、その罪――」
『な、な……』
ガブリエラの元々のスピードに加えて、クロエラの超スピードが合わさった今、ベララベラムはもはやその残像すら捉えること適わず。
「悔い――」
『く、くそっ、くそっ……! なぜ……!!』
超高速で接近し懐に潜り込んできたガブリエラへと《ソウルドレイン》を放つことすら適わず。
「改めなさいッ!!」
『くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
超加速からの渾身の力を込めた右ストレートが、ベララベラムへと突き刺さり――吹っ飛んだベララベラムの身体はそのまま地面にぶつかることもなく途中で光の粒となって消え去っていった。
「お、動けるようになったみゃ」
「にゃ。今度こそ完全に――」
あの土壇場で油断を誘うためにウリエラに掛けた魔法を解除した、などということは考えられない。
ユニットが消える時と同じようにベララベラムが消滅するのも確認した。
今度こそ――ベララベラムは復活することはない。
エル・アストラエアをたった一人で壊滅状態まで追い込むどころか、ラビたちを一時は全滅寸前まで追い詰めた強敵であったが、それ以上の『怪物』であるガブリエラによって完全に倒されたのだ。
「終わりましたね」
<うん、終わった。今度こそ、完全に>
かつてない規模の魔法、能力を持つ強敵を倒したガブリエラであったが、その表情はやや暗い。
彼女だけは、長い時間ゾンビになっていたこともあり、ある意味ではベララベラムと一番長い時間付き合ったとも言える。
その間に彼女が何を感じ取ったのかは――誰にも語られることはない。
「この勝利、我が主のために――エイメン」
こうして、エル・アストラエアを襲ったベララベラムの脅威は去った。
しかし、『アストラエアの世界』を巡る戦いはまだ終わることはない。
全ての元凶たるナイアは、着実にこの世界へと『王手』をかけようとしているのだった……。
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