第8章100話 汝、其の罪を抱いて眠れ -3-

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 倒したはずなのにスケルトンとなって復活したベララベラム――

 なぜ復活したのか、いやそもそも倒してなかったということなのか、推測はするがさして重要なことでもない、とウリエラたちは切り捨てる。

 肝心なのは、たとえ復活したとしても『ベララベラムを倒す』ことなのだ。

 復活したのであればまた倒せばいい。それだけだ。


「そ、そういえばうりゅ……?」

「? どうしたみゃー、りえら様?」


 ベララベラムと対峙しながらも、少しおどおどとした態度でガブリエラがウリエラへと声をかける。


「そのぅ……私、うりゅのこと結構殴っちゃったみたいで……ごめんなさい」


 ……対峙しているにも関わらず、ガブリエラはぺこりとウリエラに向かって頭を下げる。

 ああ、そうかそのことか、とウリエラは納得する。


「なんのことみゃー?」

「え? なんのことって……」

「わたち、りえら様に殴られてなんかないみゃー」

「で、でも……」


 ゾンビ化していた時、意識はあるものの解除された今となっては『夢』の中の出来事のようでかなり曖昧になってしまっている。

 それでもガブリエラは、最後の戦いで自分に襲い掛かって来ていた(とガブリエラには見えていた)『怪物』の正体が、ウリエラであることに途中から気付いていたのだった。

 気付いていても動きを止めることが出来ない。

 ベララベラムの『咆哮』と共に体の自由が利かなくなり、勝手に目の前の『怪物』へと攻撃を繰り出すようになってしまっていたからだ。

 それに、『怪物』に対する恐怖もあった。

 ウリエラにしても、もしそれが違う場合に街の住民たちが襲われてしまうかもしれない、という恐れもあった。

 だからガブリエラは戦わざるをえなかった。


「りえら様がわたちを殴るなんて、ありえないみゃー。

 それに、わたちにりえら様が殴っても当たるわけないみゃー」


 殊更元気そうにウリエラはそう続ける。

 ――もちろん『嘘』である。

 今ウリエラはダメージ自体は回復しているものの、痛みを必死にこらえているだけだ。

 それは当然、ガブリエラ撫子に余計な心配と罪悪感を抱かせないためである。


「でも、でも……!」


 確かにガブリエラとウリエラがまともに対戦するとしたら、ほとんど攻撃を当てることはできないだろう。

 ガブリエラも短期間で急成長したとはいえ、まだまだウリエラの『読み』を外すことは不可能だ。


「みゅー……あんまりしつこいと、今度のご飯の時りえら様の苦手なものいっぱい入れるみゃー」

「!? え、そ、それは……」


 これ以上問答する気はない、とばかりに『お姉ちゃん特権』を振りかざしてガブリエラを黙らせる。

 ……彼女たちの母親がいるいないに限らず、星見座家の台所にはウリエラが立つことが多い。

 撫子ガブリエラは『裏取引』で苦手なものを減らすように楓にお願いしている――そして意外と妹に甘い楓は『なっちゃんが苦手なら』となるべく減らすようにしてくれているのだ。

 そのことに対して、逆に妹の躾や教育に厳しいサリエラは苦言を呈しているのだが……今は関係のない話である。


「わ、わかったわ……うりゅ。だから、どうか――どうかピーマンだけは……!」

「わかればいいみゃー」

「……いやよくないんにゃけど……」


 ……などと戦闘中とも思えない、和やかな会話を繰り広げる天使たち。




 それに対峙するベララベラムは動かなかった。

 否、


 ――……やはり、を先に倒さないとダメだ……。


 黙って会話を見ていたわけではない。

 途中何度か動こうとはした。

 しかし、ベララベラムが動きを見せた瞬間にウリエラとサリエラの視線が突き刺さる。

 更にガブリエラの背後にいるためベララベラムから様子の見えにくいクロエラに至っては、一切視線を切らさずに『視』ていることが実感できていた。

 呑気に会話している隙に攻撃する、あるいは回り込んで退避したヴィヴィアンたちを狙う――としたら、その瞬間に天使たちに一斉攻撃を受けるだろうと予想できる。

 ……もっとも、ガブリエラだけは本気で会話に集中していたのだが。とはいえ、ガブリエラならばベララベラムが動いてから反応しても十分間に合うだけの身体能力がある。


 ――


 ベララベラムに与えられた命令は『失敗』に終わったと言ってよいだろう。

 エル・アストラエアの住民はゾンビ化解除と共に消え去っていったが、それはベララベラムの仕業ではない。

 街自体はこれで壊滅したと同義ではあるが、だからと言ってそれがベララベラムの成果だとは到底言えない――と本人は思っている。

 この作戦の成否自体、きっとナイアは何とも思っていないだろう――むしろナイアの性格を考えれば、失敗した方が『楽しみが残る』とさえ思っているかもしれない。

 それでもベララベラムのプライドが失敗を許さない。

 だから、せめて敵対するユニットたち……そしてその使い魔を始末しようと考えているのだ。


 使い魔を仕留めるための不意打ちも失敗してしまった。

 ユニットが身を挺して『ウェザリング』を替わりに受けてしまったため、使い魔まで効果が届かなかったのだ。

 もう一度狙いたいところだが、前述のように四天使がいる限りは不可能に近い。

 先に倒すべきは四天使たちだ。

 彼女たちを倒すことさえできれば、後はリスポーン待ちの間に使い魔を狙えばよい――そのためのは会話中に終わった。


「カタッ、カタタッ……」


 ベララベラムが笑う。


 ――最後に勝つのは、このベララベラムだ……!




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 異変に気付いたのは、会話に加わらなかったクロエラが最初だった。


「! 皆、気を付けて! 何かが来る!」


 超高速移動による戦闘を得意とすることからか、クロエラの五感はかなり優れている。超感覚魔法ユーバーセンスを備えているジェーンと比べても遜色のないくらいにだ。

 特に超スピードについていくための動体視力と暴風の中でも音を聞き逃さない聴力については、ユニットの中でもトップと言えるだろう。

 そんなクロエラが、ほんの微かな『音』を捉えた。

 クロエラの警告と共に、和やかな会話ムードだったガブリエラたちも一瞬で意識を切り替える。


 ――わざと『隙』を見せたのに動かないと思ってたら、やっぱり何かしてたかみゃー。


 ガブリエラに対する言葉は本音ではあるが、この状況でちゃんと話に付き合ったのには理由がある。

 隙を見せることでベララベラムの動きを誘うつもりだったのだ。

 期待とは裏腹にベララベラムはそのまま動かなかったのだが、裏で着々と自分が有利になるように動いていたのだろうとウリエラたちは考えた。


「……にゃるほどにゃー」

「ゾンビの次はスケルトンかみゃー」


 やって来たのは巨大な骨――ドラゴンゾンビたちの骨格だった。

 ドラゴンスケルトンとでも言うべきか、『ゲーム』内でも見たことのない、明らかに自然に反したモンスターである。

 ゾンビたちを『咆哮』である程度操っていたのと同様に、スケルトンとなったベララベラムは同じくスケルトンモンスターを操ることが出来るのだろう。


「うーみゃんの心配当たっちゃってたかー……」

「ま、皆治せたし良かったにゃ」


 ……もしもゾンビ化を治さずにベララベラムを倒してスケルトン化させていた場合、どんな惨状が巻き起こったのか……。

 恐らくはドラゴンゾンビたちだけでなく、街の住民もスケルトン化されていたとしてもおかしくない。

 それを防げたであろうことは安心材料だ。


「……他にも来ていますね。蟲、かしら?」

「そうだね。妖蟲ヴァイスの……抜け殻?」


 迫ってきているのはドラゴンスケルトンたちだけではない。

 同じくゾンビ化していたはずの妖蟲たちもこちらへと向かって来ている。

 ただし、見えている範囲では全てのタイプの妖蟲が動いているわけではなさそうだと気付く。

 甲虫型――硬い外皮や外格を持つものだけが動いているようだ。


「どうやら、ゾンビ軍団よりは数は減ってるけど、今度はスケルトン軍団が来るみたいだね」

「だみゃー」

「……一応聞いておくけど、どうするにゃ、りえら様?」


 この場にラビがいない以上、天使たちのリーダーはガブリエラだ。基本、姉と兄は妹の意向に沿うように動こうとしている。

 サリエラの問いかけに、満面の笑みを浮かべてガブリエラは答える。


「決まっています――全て叩き潰しましょう♪」


 いつも通りの見た目にそぐわない脳筋な返答に呆れつつも、いつも通りのガブリエラの言葉に三人は心の中で安心する。


 ――もう大丈夫。


 離れ離れになったり、ゾンビ化したりと色々と困難があり本来の力を発揮することが叶わなかったが――ガブリエラが元通りになり、そして四人が揃っていればいかに不死身に思えるベララベラムとて敵ではない。

 そう、四人は確信していた。




 ガブリエラたちがラビのユニットとなって一か月近くだが、実のところこの四人で戦闘しているところを見た事はない。

 大体にしてアリスやヴィヴィアンが加わっているためである。

 二人がいない時だと、ジュリエッタのみがいることもあるし、クロエラが抜けたりして四天使のみが揃うということがたまたまなかったのだ。

 ピッピのユニットだった頃にラビたちと対戦した時もクロエラがいない状態であったし、ラビたちが四人での戦いを目にするのは今回が初めてとなる。


 ――つ、強いとは思ってたけど……!


 クロエラのいない三人の状態で、既に圧倒的な力でアリスたちを破ったこともあるガブリエラたちだ。更に人数が増えたら言うまでもない……ということはわかっていたものの、予想を遥かに上回る事態を目にし自分の認識が甘かったことをラビは悟った。


 ベララベラムへと真っすぐに突進するガブリエラと、バイクに乗って後方から迫るドラゴンスケルトンたちへと向かうクロエラ。

 二手に分かれてそれぞれを迎撃する――そんな作戦なのは見てわかる。


「うぇざりんぐ!」


 ゾンビの時もそうだったが、なぜかスケルトンになっても魔法の発声自体はクリアな声で行われているのには疑問を抱かざるを得ない……が、そんなことを気にしている余裕はない。

 アリスを一撃で砂へと変えて葬った謎の魔法『ウェザリング』は、目に見えない『何か』で攻撃しているのだろうが……それが突撃するガブリエラへと向かって放たれる。


「【贋作者カウンターフェイター】《ウェザリング》にゃ!」


 ガブリエラの後ろからついてきたサリエラがすぐさま【贋作者】でウェザリングをコピー、相殺しようとベララベラムへと向かって放つ。

 七割の威力を殺がれたはずのウェザリングだが、やはり目で確認できないため本当に削れたかどうかはわからない。

 ……はずなのだが、


「りえら様、ちょい右に跳ぶにゃ」

「はいはーい」


 サリエラの言葉を全く疑うことなく、ガブリエラがその場から右方向へと跳ぶ。


「カタッ……!?」


 驚いたようにベララベラムの動きが一瞬硬直し――残り三割あったはずのウェザリングだったが、特にガブリエラたちに異常は起きなかった。

 にししっとサリエラは笑う。


「予想はしてんにゃけど、コピーして確信できたにゃー。にゃ」

「カ、カタッ!? カタカタカタッ!!」


 ……ゾンビ時と違って唸り声すら上げられず、カタカタと歯を鳴らすだけのベララベラムではあったが、サリエラの言葉に驚き、否定しようとしている気配だけは伝わる。

 まともに使ったのはこれで2回目。コピーしたとはいえ、それだけで目に見えない魔法を完全に見切った、とはベララベラムには信じられないのだ。


「嘘だと思うなら、やってみるといいにゃー」


 ベララベラムがどう思っているのか読んでいるのだろう、にやりと笑うサリエラ。

 対抗しウェザリングを唱えるものの――


「りえら様、もうちょっとだけ後ろに下がるにゃー……この辺で大丈夫にゃ」

「……あら? 本当に大丈夫ですね♪」

「……ッ!?」


 ほんの少しだけガブリエラがサリエラの指示通り後退しただけで、ウェザリングは何の効果も齎さなかった。

 。そう理解せざるをえない。


「まー、近寄れないんじゃ攻撃もできにゃいけど……りえら様がいれば大丈夫にゃ。ウェザリング使ったら、あたちの合図でクローズを使って欲しいにゃー」

「クローズでいいんですか? わかりました!」


 近寄らせずにウェザリングをばら撒き続ければ、いずれ回避し損ねた時にダメージを与えられるはず――と思い直したベララベラムの思考を読んだように、それすらも丹念にサリエラに潰されてしまう。

 はったりだ、とは思わない。

 思いたいが

 見えないはずのウェザリングを正確に見切ってみせたのだ、魔法の特性や効果範囲全てが見切られたと考えるしかない。




 ウェザリングとは、『風化』の魔法だ。

 腐敗魔法ロトゥンとは異なるが、命中さえさせればまず間違いなく一撃必殺となりうる凶悪な攻撃魔法というのには変わりない。

 黒い霧という目に見える形で襲い掛かるロトゥンとは異なり、目に見えない『風化させる空間』を一定範囲に発生させるという効果である。

 アリスが《ウォール》で防いだにも関わらず全身が砂になって消滅したのも、『風化させる空間』に《壁》を含めて全身が入ってしまっていたためなのだ。

 サリエラは【贋作者】でコピーし、魔法の特性と範囲を概ね理解した。自分のギフトが『7割』の効果になることを知っていれば、そこから逆算してどの程度までが本当の範囲なのかは容易に計算できる――それが出来るのはサリエラだからであろうが。

 『見えない』というのは脅威ではあるものの、触れたら即風化するというわけではなく、触れた時間の長さによってどこまで風化するかが決まるという性質もある。だから、すぐに避難しようとしたヴィヴィアンは空間に触れた手足だけで済み、庇おうとしたアリスは全身が風化したというわけだ。


 空間だろうが何だろうが、ガブリエラのクローズならば小さく圧縮できる。

 回避もサリエラにとっては容易だが、クローズで圧縮してしまえば攻撃に転じることもできる。


「にゃはは、復活してきたのには驚いたけど、ゾンビの時よりやりやすくなったにゃー」

「そうなんですか? ……まぁサリュが言うならそうですね♪」


 サリエラがそう言う一番の理由は、もちろん感染魔法インフェクションの有無にある。

 【贋作者】も、またウリエラの【消去者イレーザー】にも自動発動している魔法の形跡はない――ドラゴンスケルトンたちが動いている理由はよくわからないが。

 ゾンビのベララベラムが厄介だったのは、主にゾンビを増やしていくインフェクションが最も大きな理由だ。

 今となってはクロエラが治療可能になったためどちらにしても脅威度は大幅に減ったが……。

 ある意味では『安心して』戦える状態に今のベララベラムはなっていると言える。


 もちろんサリエラの言葉はベララベラムへの挑発だ。

 彼女が見た目通りのモンスターではなく、人間同様の知能と知性を併せ持っていることは今までの動きからわかっている。

 ――それは逆に言えば、人間同様に『焦り』や『不安』を覚えるということも意味している。


「そらきたにゃ」


 焦燥感に駆られ、ベララベラムが自らガブリエラへと向かって来る。

 近距離からの風化魔法ウェザリングならば、サリエラの合図も間に合うまい――という考えだったのだろう。

 だが、


「前よりは早くなりましたけど、全然ですね♪」


 目の前にいたはずのガブリエラがまるで瞬間移動したかのように消え、側面へと回り込んでいた。

 それをベララベラムが認識すると同時に、ガブリエラの振るった霊装が叩き込まれ吹き飛ばされる。

 ……叩きつけられた左腕の骨が完全に砕け散るほどの威力だ。


「カタ……カタカタッ」


 ベララベラムは見誤っていた。

 最初の戦闘でガブリエラを圧倒し、ゾンビ化させることに成功できたために誤解していたのだ。

 ――そもそも、ベララベラムが殴り合いで勝てる相手などではなかったということに。

 不覚にもゾンビ化した時は、街の住民が人質に取られているような状況だった。

 そちらに気を取られていたがため、ガブリエラはベララベラムの攻撃をかわすことが出来なくなりゾンビ化してしまったにすぎない。

 人質もおらず、ゾンビ化する心配もないとなれば――ましてやこの世で最も頼りになる家族がすぐ傍で共に戦っているというのであれば、ガブリエラが負ける道理などあるわけがない。


「リエラ様、こっちは終わったよ」

「まー、根本的にはベララベラム倒さないとダメっぽいけどみゃー」

「カタッ!?」


 そうこうしているうちに、ドラゴンスケルトンたちへと向かっていたクロエラたちまで戻って来てしまった。

 ウリエラの言う通り、根本的にはベララベラムを倒さない限りスケルトンたちは動き続けることが出来る。

 だからクロエラたちは、動いたところであまり問題なくなるまでパワーで骨を砕いて、ドラゴンなど元の姿の骨格を維持できなくなるようにして動きを封じるだけにとどめたのだ。

 それがベララベラムの予想よりも早く彼女たちが戻ってきた理由でもある。


 ウェザリングも、スケルトンモンスターたちも、通用しないどころかあっさりと見切られ無力化されてしまった。

 四対一という数の不利もあったが、それでも能力を見切られるということは実力が完全に上回られているとしか言いようがない。


「さぁ、終わりにしましょう。我が主たちも待っておられますし」

「そうするにゃー」


 しかし、

 ベララベラムは全ての能力を見せたわけではないのだ。

 迫りくるガブリエラに、ベララベラムは四人の包囲網から突破しようとする。

 ……が、


「逃がさない!」


 注視されている中、クロエラからスピードで逃げきれるわけがない。

 あっさりと前に回り込まれ、巨大鈍器バイクで殴り飛ばされてしまう。


 ――


 内心でベララベラムは自分の作戦が上手くいったことを確信し、笑う。

 元より逃げるつもりもない。

 ほんのわずかな時間でいいから、四人の注意――特にスピードに優れたクロエラの――を自分に向けることだけが目的の行動だ。

 


「ぼーんあーつ……《えぐぞすかる》!!」

「!?」


 ベララベラムが新たな魔法――『ボーンアーツ』を唱えると共に、クロエラたちが砕いたはずの『骨』がベララベラムへと向かって飛来してきた。

 まるで『骨の雨』だ。

 それだけでユニットを倒せるような威力はないものの、降り注ぐ砕かれた骨は雨よりも硬く、当然痛い。


「うにゃにゃにゃにゃー!?」

「いたいみゃー!?」

「くっ……ウリュサリュ!」


 ガブリエラにとっては何てことのない骨の雨だが、ウリエラサリエラにとってはかなり痛い攻撃だ。

 咄嗟に二人を抱き寄せて庇うガブリエラであったが、その隙をベララベラムは待っていた。

 降り注ぐ骨が一か所――ベララベラムの元へと集まり、一つの形を成す。


『カタカタカタッ!!』


 それは骨で出来た『巨人』だった。

 骨魔法ボーンアーツ《エグゾスカル》――その名の通りの『外骨格エグゾスカル』を作り出し、ベララベラムを守る鎧であり巨大な鉄槌を作り出す魔法である。

 全てはこの魔法のための仕込みだったのだ。

 ゾンビ化で終わらせられればそれで良し。スケルトンになるまで追い詰められたとしたら、スケルトンモンスターの『骨』をボーンアーツで利用して自らの強化を行う。

 特にドラゴンゾンビたちを生み出した理由はここにあった。

 妖蟲の外皮とモンスターの骨……彼女のボーンアーツで自在に操れる『骨』を大量に作り出しておくことで、数百……否数千kgにも達そうかという『骨』の巨人の材料とする。

 これこそがベララベラムの切り札。

 生物において最も硬い部位である『骨』を収束した、最硬のエグゾスカルなのである。


「……みゃー、技巧アーツ系にそんな魔法あるのかみゃー」

「……骨砕いただけじゃダメだったみたいだね……」

「生き物の骨操れるとか、割と反則っぽい魔法だにゃ」


 ……とはいえ、エグゾスカルを見上げるウリエラたちの態度には大した変わりはない。

 『あー、そんな手があったのかー』と思いはしているものの、それエグゾスカルに対して脅威をかんじているようには全く見えない。

 それはそうだろう。


「ま、やることに変わりはありませんね♪」


 ぶぅん、と風を切る音が辺りに響くくらいに強く、霊装を振るうガブリエラ。

 ……最硬の鎧だろうが関係ない。

 ベララベラムの相手をしているのは、最強の『破壊天使』ガブリエラなのだから。

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