第8章80話 神の天敵
* * * * *
敵味方関係なくユニットに対して絶対的とも言える強制力を発揮する【
正直対抗策が全然思い浮かばないくらい、悪質だが『最強』の能力だと思う。
個々のアビサル・レギオンメンバーについて何とかすることは出来ても、最終的に倒さなければならないナイアをどうにかする術がないのだ。
……流石にこれはジュウベェの時以上の脅威と言える。私も絶望しかけた。
「く、くそっ、何でっ!?」
何度もアリスに蹴り飛ばされたナイアだが、やはり使い魔の体力と言うべきかまだまだ倒れる様子は見えない。
だが登場当初のような癪に障るくらいの余裕は見えず、絶対の自信を持っていたであろうギフトが通じず逆にダメージを食らったのだ。そのショックが大きいようだ。
……理由は全くわからないが、アリスに【支配者】は効果がない。そう考えるしかない。
いや、マジで理由がわからないのが不可解だけど、これはわずかではあるが確かな希望だ。
ナイアの能力は他のメンバーに対しては絶対的な効果はある、だがアリスには効果がないとなれば……アリスを軸に今後の戦略を考えれば……。
「ふ……パトロン殿、驚いているところ悪いがギフトが通じない者が一人いる――それだけの話だ」
「う、そ、そうだよね……くっそー、パーフェクトゲームになると思ったんだけどなぁ」
”アリス!”
「おう!」
拙い、ナイアに立ち直られたらすぐに逆転されてしまう!
アリスはすぐさま再度攻撃しようとするが、
「ヒルダちゃん、ルナホークちゃん!
「やれやれ……」
「イエス、ミロード」
【支配者】が通じないのは受け入れたのだろう、ナイア本人ではなくヒルダたちを動かす。
……この動き……もしかして……?
一つ思い当たったことがあるが、今はそれを確かめる余裕はない。
「オーダー《アリス:停止せよ》」
「くそっ!?」
くっ、【支配者】は効かずともヒルダのオーダーは効いてしまうのか!?
一瞬動きを止められたアリスにエクレールの棍棒とルナホークの砲撃が向けられる。
”強制移動アリス!!”
「おっと、そっちは封じ忘れてたな」
動けないアリスを強制移動で無理矢理私の元へと呼び寄せ、一回だけだが攻撃を回避させる。
……くそ、どうすればいい……!?
先にも考えた通りナイアを倒せる最大のチャンスが今だという考えに変わりはない。
でも戦えるのがアリス一人という時点で多勢に無勢、というよりもそもそもアビサル・レギオンに対しては『各個撃破』しなければ勝ち目は薄いのだ。
撤退した後の再挑戦が厳しいのは変わらず、そしてやはり撤退するにしてもジュリエッタたちが操られている以上難しい。
ああ、もう! ウリエラたちのリスポーン受付時間が終わるのも迫っているし……何からどう手を着ければいいのかわからない……!?
「助かったぞ、使い魔殿。さて、ヤツを倒せば良さそうだが……」
”うん……そうすればジュリエッタたちも動けるようになるんだけど……”
逃げるにしても、がっちりと押さえられてしまっているため私自身が動けないのだ。
互いに攻撃してダメージを与えあうことが出来ないのは安心だけど、逆にそのためにアリスからどうすることも出来ない。
「エクレール、貴様の動きでは捉えられまい。ルナホークよ、貴様が撃って追い込み、エクレールは逃げた先で潰すのじゃ」
相手もこちらを逃がす気はないらしい、ヒルダがエクレールとルナホークへと指示を飛ばす。
……集団戦となるとヒルダのオーダーは特に危険度が増す。先に狙うにしても、エクレールたちの守りは厚いしナイアとドクター・フーもいる。
やはりアリス一人では厳しすぎる……! せめてジュリエッタたちが動けるようにならないと……!
「チィッ!? mk《
あ、そうか。アリスを私の近くに呼び出してしまったのが仇となってしまっている。
ルナホークがヒルダの言う通り遠距離から砲撃を仕掛けてきているが、それを迂闊にかわしてしまうと動けない私たちに当たってしまうためアリスは守りに入らざるを得なくなっているのだ。
だがアリスは守りに長けているわけじゃない、ウリエラたちを倒した時のような強い攻撃ではないけど、それでも強化した《壁》はガリガリと削られてしまっている。
移動できないアリスへと向けてエクレールが迫り、棍棒を叩きつけて来る!
「ぐぅっ!?」
「……」
《壁》は一撃で壊されてしまう。
それでもアリスはその場から動けず、至近距離からの巨星系魔法で迎撃するが、エクレールは揺らぎもしない。
くっ、こいつの戦闘の様子を見るのは初めてだけど、聞いていた通り恐ろしい頑丈さだ……クリアドーラとはまた別の方向で魔法が通じない相手だ。
巨星魔法をものともせず前進し続けるエクレール、その隙を突いてアリスの死角から狙い撃とうとするルナホーク。
防御と回避に手一杯で反撃することもできやしない……しかも私が半ば人質になっているようなものだ。庇いながら戦っているので移動することもできない……。
「ふふふっ、よーし。ハプニングはあったけど結果オーライってことで! ジュリエッタとクロエラどっちが早いんだっけ? えーっと、クロエラかな? 《クロエラ、ミスター・イレギュラーごと飛び降りなさい》!」
”や、やめろナイア!!”
アリスに【支配者】が通じないために代わりにクロエラにアリスにやらせようとしていたことをやらせる。
ジュリエッタが離れ、クロエラが私を抱きかかえたままアリスと逆方向へと走り始める。
「使い魔殿! ……くそっ、邪魔するな!!」
『そこそこ手加減』とナイアが言った理由はこれか!
アリスを足止めしている間に、私が地面に落とされるのを見せつけようと言うつもりなのだ。
こうなったら落ちている最中に強制移動でアリスを呼び寄せる? 落下前にウリエラたちのリスポーンが間に合うか……?
もうそんなことしか考えられない私だったが――
”……えっ!?”
走り出したクロエラの腕の中から、私が滑り落ちた。
クロエラが落とした――のではない。
私がいなくなったことでナイアの命令を遂行することが出来ず、
「うっ……ボス!? ご、ごめんなさい、ボク……なんてことを……!」
”クロエラ! 良かった、正気に戻ったんだね!”
見えない何かに捕まれ空中に浮かんだ姿勢のままの私にクロエラがオロオロしながら謝る。
「クロエラ様、急いで行動を!」
”その声……ヴィヴィアン!?”
「あすとらえあのつかいは、ぼくが」
”ブランも!?”
私を救出したのは、《ハーデスの兜》で透明になって潜んでいたヴィヴィアンとブランだったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ラビたちが救出される少し前、アリスがナイアたちの元へと合流するよりも前の話。
「……うっ……わたくしは、一体……?」
「むにゃむにゃ…………うーん……?」
少しの間自分たちの身に何が起きたか思い出せずにぼーっとしていた二人だったが、ほぼ同時に思い出す。
「……解せませんね……」
ルールームゥに攻撃されたのは思い出せた。
しかし、それゆえに分からない。
自分たちがなぜ無事なのか、それに捕らえられているというわけでもない。拘束もされずに放置されていただけだ。
ただ襲われた場所とは異なる位置であることだけは気付いた。
……猶更意味がわからないが。気絶はさせられた、場所も移動させられた、なのに捕えられたわけでもなくただ放置させられていた……。
「! ふわふわ、あっち……!」
しばし考え込むヴィヴィアンとは異なり、部屋のあちこちを調べていたブランが窓の外を見て気付く。
「……あれは……!?」
ヴィヴィアンも外を見て状況を察知する。
この時、ラビたちは『黒い泥』に囚われたところだった。
助けに行かねば、と飛び出しかけたヴィヴィアンをブランが押し留め更に様子を見ていると、ナイアが出現。【支配者】による拘束……とブランの判断の方が正しいことがすぐわかった。
「…………ブラン様、危険に飛び込むことになりますが、お付き合いいただけますか?」
「…………めんどーだけど、しかたない……」
遠くから見てナイアの持つ能力は大体理解した。
特に《跪け》と命令した瞬間、声が聴こえていないはずのヴィヴィアンですらその場で跪いてしまったのだ。
ただしジュリエッタたちとは違ってしばらくすると動けるようになった――つまりナイアとの距離によって命令の効果時間が変わるということだ。
ヒルダのオーダーと異なる『命令をする』能力だと判断したヴィヴィアンは、ジュリエッタたちの状況を見て一つ作戦を考える。
それは魔力回復アイテムを使い切る覚悟で《ハーデスの兜》を使い隠れ続けて、ラビを救出する隙を待つというものだった。
《ハーデスの兜》の特異性――
ヴィヴィアンの作戦通り、ひたすら我慢し続け、クロエラが一人でラビを抱えて走り出そうとした瞬間に奪い返した――というわけである。
* * * * *
行方のわからなかったヴィヴィアンたちだが、どうやらどこかでナイアの能力に気付き、ひたすら隠れてチャンスを窺っていたみたいだ。
私をブランに渡し、再度ヴィヴィアンは《ハーデスの兜》で姿を隠す。
「撤退を進言いたします。ご主人様、ご決断を」
……!
隠れて見ていただけあって、今後どうすべきかについて冷静な目で見ていたようだ。
「……腹立たしいが、オレも同意見だぜ、使い魔殿」
「うん、ごめん。ボクも今は逃げた方がいいと思う……」
皆も同意見か……確かに敵の数も少ないとは言っても、やっぱりナイアの【支配者】がネックになる。
戦うと撤退――どっちが難易度が低いか考えれば……まだ撤退の方だっていうのは私も同意見だ。
”…………撤退しよう”
ナイアを倒す最後のチャンスじゃないかって思いはあるけど、かといってここで玉砕覚悟で戦うってのは違うだろう。
……生き延びて次の機会を待つ、そちらの方がまだ可能性がある。皆もそれをわかっているみたいだ。
そうと決まれば話は早い。
「ブラン、貴様が使い魔殿を連れて離れろ!」
「こちらはわたくしたちが」
……それしかないか。
とにかく私がまずここを脱出さえすれば全滅は免れることができる。
そうしたら強制移動で皆を呼び戻すこともできるはずだ。
情けないし、子供たちに守ってもらうという自分が不甲斐ないけど――
「ふふっ、逃げる? まぁそれが賢明な判断よねー。でも……逃げ切れるかなっ?」
ナイアは余裕綽々だ。そりゃそうだろうけどさ。
でもヤツの挑発に乗るわけにもいかない。
”ブラン、頼む!”
「わかったー」
「ふん、ルナホーク逃がすなよ。ナイアよ、もう撃墜して構わぬな?」
「いいよー☆」
くそ、遊ぶつもりはあっても大人しく逃がす気もないか。
「やらせるかよ!」
【支配者】が通用しないアリスが頼みの綱だ。
姿を隠したヴィヴィアンの現在地は不明――隠れている間ナイアの【支配者】の効果があるかも不明だが、クロエラから私を取り返した時のことを考えれば直接命令されないかぎりどうにかなると思う。
ブランは私を抱えたまま、さっきのクロエラのように走り出し空中要塞都市から飛び降りようとする。
「《ブラン、止ま――」
「mk《ウォール》、ab《
アリスが巨大な壁を作り出しナイアの視線を遮りつつ《ベテルギウス》を放ち牽制する。
途中で【支配者】が中断されたか、あるいはアリスの造った壁がナイアの視線を遮ったか、ブランは動きを止められることなく走ることが出来ている。
……これは【支配者】についての重要な情報の一つだ、『次』に活かすために絶対に忘れないようにしないと……!
「あすとらえあのつかい、しっかりつかまってて」
”うん!”
背後からの攻撃はアリスたちが防いでくれている。
ブランは一切振り返らず空中要塞都市から勢いよく飛び降りる!
私はブランが何をしようとしているのかわかっているため、いつものアリスのように首にしっかりと巻き付いて身体を固定する。
「《ドラム・デオ・インペラトール》!」
魔法……のようなものをブランが使った次の瞬間、猛烈な冷気が辺りに立ち込め――どこからか現れた『岩』がドラゴンを形作る。
ブランの竜体――私たちとかつて戦った『氷晶竜』が現れた。
……なるほど、こういう感じで竜体が無事なら即ドラゴンの姿に戻れるのか……。
『ぜんりょくでとぶ』
言うや否や、お得意のジェット噴射で加速、一気に空中要塞都市から距離を取ろうとする。
同じく高速飛行するパーツに
それだけではなく、空中要塞都市のあちこちに搭載されている砲台が動き出し、こちらへと照準を合わせてきた。
”ブラン、ヤバい!”
『うー! めんどくさい……!!』
めんどくさいと言いつつも、流石に食らったらヤバいことはわかっているのだろう、ブランも必死に回避しながら飛んでいる。
うぅ、やっぱりあの要塞、攻撃能力持ってるか……無事にここを逃げ切れたとして再度突入するのはかなりハードルが高いな……! いや、まずここを逃げ切れるかどうかか……。
ウリエラたちのリスポーン受付時間が終了間近、空中だけど仕方ない。二人のリスポーンを開始。
だけど……。
”うぁ、二人のリスポーン地点が……”
『ひろってられない』
”わかってる……”
リスポーンの融通の利かない点の一つとして、リスポーン選択時点に私がいた場所の傍に固定されてしまうという点がある。
ウリエラとサリエラ、共に無事にリスポーン受付はされたんだけど、リスポーン地点がさっきまでいた空中になってしまっているのだ。
これだと復活と同時に地上へと真っ逆さまに落っこちて行ってしまう――二人はデフォルトで空飛べるから大丈夫だろうけど、流石にブランに追い付くことは無理だろう。
安全だと判断できる場所までたどり着いたら、アリスたち共々全員を順次強制移動で呼び戻すしかないだろう。もちろん、皆の体力には常に気を付けていないとならないが。
追いかけて来るルナホークは
『うわぁっ!?』
”ブラン! うわっ!?”
ほんの僅かであったが、要塞から放たれた弾がブランの翼を掠った。
僅かとは言っても要塞砲からの一撃だ、その衝撃はすさまじく翼が大きく欠けてしまう。
それだけで大きくバランスを崩し、私とブランは地上へと真っ逆さまに落っこちて行ってしまった……。
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