第8章81話 破壊の顕現
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「サモン《ヘカトンケイル》、オーバーロード《フェニックス》!!」
姿を隠したままのヴィヴィアンが新たに召喚獣を呼び出し、ナイアへと接近。
《ヘカトンケイル》の剛腕を叩きつけようとする。
「うわっとぉっ!?」
迫りくる巨体の足音と
《ハーデスの兜》は《ヘカトンケイル》のような騎乗可能な召喚獣と組み合わせることで爆発的に有用性が上がることに、今更ながらにヴィヴィアンは気付く。
もっとも、姿を消している間は魔力を消費し続けるという欠点があるため普段使いするには消耗が激しいという問題点はどうしようもないが。
「《動くな!》――へぶっ!?」
【
「む、いかんな……」
【支配者】の効果を発揮させるためには幾つかの制約がある。
ナイアが視認できていない相手に対しては、極端に強制力が落ちるというものだ。
今も本当は一瞬ヴィヴィアンは動きを止めたのだが、すぐさま動き出し《ヘカトンケイル》で殴ることが出来たのだった。
ナイアが殴り飛ばされたのを見て、それ一撃で終わるとは思っていないものの追撃を受け続けると拙いと思ったドクター・フーがそちらへと動き出そうとする。
しかし――
「メタモル《
ナイアが吹っ飛ばされた時点で、《動くな》という命令が強制中断――今までずっと動きを封じられていたジュリエッタが動いた。
動けなくても意識は残されていた。
だからもし動けるようになったらすぐさま行動に移せるように、常に『今動けたらどうするべきか』を考え続けていたのだ。
その結果、ジュリエッタは速攻でドクター・フーへと背後から襲い掛かる。
「く、くくっ……」
ジュリエッタの《クラウソラス》が背後からドクター・フーの首を一刀の元に斬り飛ばす。
斬り飛ばされる一瞬前、薄ら笑いを浮かべたが――そのままドクター・フーは消滅する。
「……借りは返す」
ナイアによってほぼ動きを止められていたジュリエッタは、表情には出さないものの怒りに燃えている。
状況も全て理解している。
とにかくラビが安全圏に逃げ切るまでこの場で相手の足止めを続けることができれば、いずれ再起の目があるはず。
ジュリエッタだけでなく、アリスたち全員がその思いであった。
今ナイアを倒すのは不可能。
不意を突いてラビを逃がすことには成功したが、ナイアが立ち直ったらそれで終わりだ。
アリス一人が【支配者】を受け付けないとしても結果は同じだ。
故に『逃げる』という選択をとったのだ。
それはほぼ成功したと思っていいだろう。
追いかけて行ったルナホークも、クロエラが攪乱することで何とか抑えている。
自分たちはラビが強制移動で呼び戻せばいいし、リスポーン待ちになったとしてもジェムさえあれば復帰できる――流石にそこまでは【支配者】でも【
「ふん、やられたようじゃな」
「ドクター・フーも消えたし、形勢逆転だな」
いずれ
ヒルダとエクレール、そしてナイアしかいない。
対するこちらはアリス、ヴィヴィアン、ジュリエッタの三人が揃っている。
【支配者】への対抗は出来ずとも、これ以上のラビたちへの追撃は防げるはずだ。
「ふふ……うふふふふ……」
「!? 姫様、これは――!?」
粘れるだけ粘る、そのつもりでいたアリスたちであったが、不気味なナイアの笑みが聞こえ――
――《ヘカトンケイル》が吹っ飛ばされ、空中でバラバラに砕け散っていった。
「な、なにが起きた……!?」
砕かれた《ヘカトンケイル》からヴィヴィアンが放り出され、計算されたかのようにアリスたちの元へと落下。
咄嗟にアリスがキャッチして地面に叩きつけられるのは防げたものの、いかなる力で傷つけられたのか、袈裟懸けにざっくりと胴体が切り裂かれている。
「くっ……お気を付けください……! 彼奴の力はギフトだけではなく――」
ヴィヴィアンの言葉は突如鳴り響いた轟音に遮られた。
音の方向――ナイアの倒れていた方へとアリスたちが視線を向ける。
「ふん、ナイアめ……
「……」
そこまで真剣に追い詰める気もなく、適当な攻めだけをしていたヒルダたちは原因がわかっているのだろう。あっさりとその場から退こうとする。
その様子を不可解に思いつつも、《ヘカトンケイル》をあっさりと破壊したのが明らかにナイアの仕業だというのがわかっているため、三人はナイアへと集中する。
「ルゥちゃん、いいよ。私の
<ピピー>
「な……なんだ、
轟音と共にナイアのいた位置の床が開く。
そこから現れたのは――
この後、アリスたちは今までに見たことのないモノを見ることになる。
そして――
「終わったか、パトロン殿」
「お、フーちゃ……じゃなくてエキドナか。うん、
『次元の裂け目』からドクター・フーではなくエキドナが今度は現れる。
ナイア、そしてアリスたちが
「ふん、最初から
「全くだな。見せびらかすなら全てを見せればいいものを」
「いやー……まぁそうなんだけどね」
二人に攻められても全く堪えた様子はなくへらへらとナイアは笑う。
彼女もまたアリスたちのいた方を見る。
そこには既に
アリスたちは影も形もなく消滅している。
ドクター・フーが消えエキドナが再出現するまでのわずかな時間――それだけの間に、
ナイアの背後に聳え立つ全長15メートル程のいわゆる
これこそが
ナイアの存在同様、正統な『ゲーム』の産物ではない。チートの産物だ。
「お、ルナホークちゃん戻ってきた……けど、逃げられちゃったかー」
「どうする? 今なら追撃でとどめを刺せるが」
エキドナの問いかけに、『うーん』と悩むフリを見せたナイアであったが、
「……いや、放っておこ」
「……いいのか?」
「ワシも追うべきじゃと思うがなぁ」
「いーよいーよ☆ ここから逃げられた『ごほーび』ってことで。
それに――」
言いながらラビから奪い返した『バランの鍵』を手に取り――わずかに力を込め、粉々に砕く。
「
* * * * *
――空中要塞都市から脱出、ルナホークと要塞からの砲撃から逃れようとした私たちだったが、ついに砲撃が掠りブランは墜落してしまった。
だが地面へと激突する前にブランが力を振り絞ってブースターを噴射、更に竜体から仮体を分離して脱出……その上でギリギリのところで私を放り投げて守ってくれたのだ。
私自身はピッピと融合したことでなぜか飛べるようになったことが幸いし、全くダメージを受けることなく着地することが出来た。
その代償としてブランの仮体は大きく傷ついてしまった……。
”ブラン!”
「うー……いたい……」
幼い少女の見た目だけに余計痛々しさが増している……んだけど、普段ジュリエッタで見慣れたせいか衝撃は少ない……見慣れたくないんだけど……。
ともあれ、『痛い』と言ってるけど自力で立ち上がれるし命に別状はなさそうで一安心だ。
”……良かった、追撃はないみたいだ”
「うん……おってくるかんじもしないから、たぶんだいじょうぶ……」
撃墜した、と判断したのだろうか。
まぁとりあえず助かった……と思って大丈夫だろう。
私たちは近くにあった古い建物の中へと一応隠れ、リスポーンの完了したウリエラ・サリエラ、それに途中でルナホークが撤退したためこれまた無事だったクロエラを強制移動で呼び戻す。
三人とも無事――ウリエラたちのことはそうとは言い切れないけど――だったのは嬉しいけど、喜んでばかりはいられない。
”アリスたちが全滅している……!?”
リスポーン受付時間が結構ギリギリのところで気付いたのは本当に危なかった……。
とにかく三人のリスポーンを迷わず開始、三人が戻るまではこの場に留まることとした。
……【支配者】は強力なギフトだけど、だからと言って三人を瞬殺できるようなものではない――仮に動きを止めた時にエクレール辺りに攻撃させたとしても、アリスに【支配者】が通じないのだからここまで
「……アーみゃんたちがリスポーンしたら聞いてみるしかないかみゃー」
「ギフト以外の隠し玉があると思っておいた方がいいにゃ」
”だねぇ……”
【支配者】によって操られていたことに対するウリエラたちの謝罪攻撃は即遮断、正直あんな反則級ギフト……彼女たちに責任は全くない。
むしろほぼ何にもできずに敵にいいようにされた私の責任の方が重いだろう。
……と互いに謝罪合戦に入りそうだったのを、ブランの『うるさいー、ぼくつかれたー』というやる気のない、けれど確固とした非難の籠った声が中断させた。
それ以降、二人もしっかりと頭を切り替え今までに得た情報を纏めて頭の中で整理している。
むぅ、いかんな……頼もしくはあるんだけど、二人に頼りっきりになってしまうのはちょっとな……。
私も【支配者】について色々と気付いたこととかを共有し、三人で今後の対策を考える。
……ブランはここぞとばかりにゆっくりと休んでいるし――いやまぁ実際彼女は一番ボロボロだし休んでてもらって構わないんだけど――クロエラは……エル・アストラエアでのジュウベェとの一件、それにさっきも【支配者】のせいで私ごと心中させられたことを気に病んでいるのだろう、暗く沈んでいる……。
クロエラの様子はウリエラたちも気付いているはずだけど、あえて触れないようにしているように見える。確かに下手に声をかけられないし、それにどう声掛けたらいいのか……。
……保護者気取りの大人として情けなく思うけど……。
「……うーみゃん」
「……あたちたちも同じ気持ちだにゃ。でも今は――」
…………そうだ、使い魔という立場の私よりも姉たちの方がよっぽど思うところはあるだろう。
それでも、今弟のケアよりも優先しなければならない、重大な問題が発生してしまっているのだ。
”……うん、そうだね……”
この世界も問題の解決――『眠り病』の解決、それらのために必要な
言い方は悪いかもしれないけど、あまりに大きすぎる問題に対して個人のケアを優先するのは今は難しい。もちろんないがしろにするつもりはないし、どうにかしたいと思うんだけど……。
”そういえば、私たちがいたエル・メルヴィン跡……っていうかルールームゥなのかな? アレ、どこに行ったんだろ……?”
「わたちたちの現在地もよくわからないみゃー……ブラン、その辺わかるかみゃ?」
「うー……ちょっとまってー……」
私も頭を切り替えよう。
ルールームゥが変形したと思われる空中要塞都市がこれから向かう方向と、私たちの現在位置、それとエル・アストラエアの位置……それらの位置関係が不明確だ。
ナイアたちがエル・アストラエアへと向かっているとするならば……対策はまだ思いついていないけどこちらも急がなければならないだろう。具体的にはナイアたちよりも先に辿り着く必要がある。
……ドクター・フーの言葉を思い返すと、どうも既にエル・アストラエアにアビサル・レギオンの手が伸びているっぽいし、手遅れになりかけているかもしれない。
そう思う根拠は――実はさっきから連絡を取ろうとしているのだが、
正確には……携帯電話で例えるなら、『通話は繋がっているのに相手からの応答がない』という状態だ。
明らかに何かが起こっている、それは間違いない。ウリエラたちもわかっている。
だから私たちはエル・アストラエアに早く戻らなければならないのは確実だ。ナイアたちの動き次第では、更に急ぐ必要がある。
「……ここ、エル・アストラエアのきたあたりかなー……」
と、ブランから大体の現在地が伝えられる。
はっきりとした道程はブランに都度尋ねながら移動するしかないだろう。
「それと、おーさまかられんらく。さっきまではつながらなかったのに……」
”ノワールから? なんて?”
彼女もエル・アストラエアに残ってくれていた。
おそらくさっきまでは空中要塞都市にいたために連絡が繋がらなかったのだろう。地上まで戻ってきたので繋がるようになったということか。
ガブリエラと連絡がつかないけどノワールとはついたか。
……言っちゃなんだが、ノワールの方がより正確な言葉で伝えてくれると期待できる。まぁ、逆にノワールの言葉を聞いているブランがどこまで正確に伝えられるかっていう心配はあるんだけどね……中身はともかく見た目幼児だし、やる気ない感じだし……。
ともあれ、ガブリエラたちエル・アストラエア居残り組の状況が心配だし気になる。
ブランからノワールの言葉を伝えてもらう。
「…………エル・アストラエアがおそわれているって。かなりまずいみたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます