第8章69話 Exterminated
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《
生半可な攻撃は全て防げる程硬い召喚獣であっても、何の抵抗もなく切り裂かれてしまった。
しかも斬られただけではない。
「くっ……《ヘカトンケイル》が……!?」
異常に気付いたヴィヴィアンはすぐさま《ヘカトンケイル》から飛び降りてその場を離れる。
リコレクトする間もなく、《ヘカトンケイル》がまるで
ただの鋭い剣ではない。何か特殊能力を持っていることは間違いないだろう。
”サリエラも――ダメか、動けない!”
すぐにそのことに思い至ったラビたちは、サリエラにも同様の異変が起こっていることに気付く。
ドクター・フーが移動したことにより自由に動けるようになったはずだが、サリエラの体もところどころが黒く変色してしまっており、もはやその場から動くことが出来なくなっていたのだ。
詳細はわからないが、斬られたらそれでほぼ『詰み』――それが《ギャラルホルン》だとラビたちは理解した。
「出ろ、オルタロス」
「!? モンスター!?」
追撃を警戒するヴィヴィアンをよそに、ドクター・フーはその場に留まると自身の霊装を呼び出す。
彼女の隣に『黒い穴』――ドクター・フーが現れた時同様の『次元の裂け目』が現れ、そこから黒い犬のような生き物が飛び出す。
オルタロスのことを知らないヴィヴィアンからすれば、モンスターを呼び出したようにしか見えないだろう。
「邪魔な魔法を片づけろ、オルタロス」
そしてドクター・フーの指示と共にオルタロスが動き出す。
”速い!?”
オルタロスが一瞬でヴィヴィアンの背後へと回り込み、遠距離型召喚獣たちを次々と襲い撃破していく。
こちらも《ギャラルホルン》の時同様、召喚獣の硬い装甲を易々と切り裂き、あるいは噛み砕いてしまっている。
あまりの速さにヴィヴィアンも対応が間に合わない。
その隙をドクター・フーは逃さなかった。
再び瞬間移動としか思えない速度でヴィヴィアンに接近、人差し指をヴィヴィアンに突きつける。
「インジェクション――《パラクラトキシン》」
「かっ……はぁっ……!?」
”ヴィヴィアン!?”
指が身体に触れたわけではない。
しかし、ドクター・フーの魔法を受けると、ヴィヴィアンは苦しそうに息を吐きその場に膝をつく。
身体は小刻みに震え、動かすこともできないようだ。
”毒か……って、何だこの状態異常!?”
状態異常――いわゆる『毒』や『麻痺』といったものだ。
滅多にかかることがないので各ユニットは自前で状態異常回復アイテムを持っていない。
ステータスを確認したラビは、ヴィヴィアンが複数の状態異常にかかっていることに気付き、慌てて回復アイテムを使おうとする。
が、
「おっと、大人しくしてもらおうか」
”うわっ!?”
ドクター・フーが動けないヴィヴィアンからラビを摘まみ上げる。
「フリージング」
”……!?”
ギリギリでアイテムを使おうとしたラビの動きがピタリと止まる。
『ご主人様!?』
『うーにゃん!』
『”……”』
もがいていた途中の不自然な姿勢で止まったラビに、二人が遠隔通話で呼びかけるが返事が返ってこない。
よく見ればラビの周囲が薄く青白い『氷』で覆われていることに気付いただろうが、緊急事態故にそこまで二人は観察する余裕がない。
「無駄だ、この使い魔の『時間』は凍らせたからな」
「うぐ、ぐ……」
「さて……ユニットの無力化も終わったことだし、時間もない。話を進めようか」
「……話、なんて……する必要ないにゃ……!」
自力でどちらも回復することが出来ない状態だ。正しく『無力化』されていると言っていいだろう。
しかもヴィヴィアンの方は麻痺毒を食らっているせいか、言葉を離すことも出来ない――つまり魔法を使うことすらできなくなっている。
自分たちの使い魔の命をドクター・フーに握られているも同然の状況で、できることはないかと二人とも頭をフル回転させるが、ドクター・フーは構わず話を続ける。
「取引をしよう。
くくっ、我がパトロン殿は無謀にも『バランの鍵』をも狙ったようだが、残念ながら失敗。自分の命さえ失うことになった」
チラリ、とマサクル
サリエラの最後の一撃で倒れたマサクルは動く様子もない――もし本当は生きているのであれば、この圧倒的有利な状況でも死んだふりを続ける必要はない。
ドクター・フーはまるで信用できないが、マサクルについては本当のことなのだろう。
「私としては『バランの鍵』――『ラグナ・ジン・バラン』などというガラクタに然程興味はないが、親愛なる我がパトロン殿の遺志は継いでやらねばなるまい」
小さく笑いながら言うその態度は、とても本気でマサクルの遺志を継ぐと言っているようには思えない。
大仰に、ふざけているだけ……それが良くわかるが、かといって動けないヴィヴィアンたちには黙って聞いているしかない。
『……ヴィヴィにゃん、この状況拙いにゃ……だから――』
『――……それしかありませんわね……承知いたしました』
……黙って聞いているだけのわけがなかった。
二人は動けない状態でもドクター・フーの話を聞くフリをしながらも打開策を遠隔通話で話し合っていた。
特にラビが相手の手中にあるというのは、かつてないほどの最悪の事態だ。
「そこで、だ。君たちの使い魔と――ついでにアストラエアと、『バランの鍵』を
「ぐ、ぅ……!?」
「安心したまえ、交換の時まで使い魔たちの身柄の安全は保証しよう。この場で渡せるというのであれば話は別だが――まぁいいだろう」
一瞬だけニヤリ、と思わせぶりに笑みを浮かべたドクター・フーであったがすぐに元の何事にも興味なさそうな無気力な顔へと戻る。
人質交換ならばこの場であっても問題ないはずだが……。
「場所はここエル・アストラエアより北西――エル・メルヴィン、刻限は……そうだな、明日――いやもう今日か。本日の夕方、日が沈むまでだ。現実世界で言うなら、19時頃と言ったところか」
――こいつ、一体何を考えてるんにゃ……!?
サリエラにはドクター・フーの意図が全くわからず困惑する。
意図、というよりも
この場で人質交換せずにわざわざ別の場所――世界地図を見た時に『エル・メルヴィン』という地名は確かに見た覚えがある――で行ったり、そもそも人質など取らずにさっさとラビを倒してしまえば『バランの鍵』を奪おうとせずとも勝利が確定するのだ。
もっと言えばマサクルが倒れた以上、『バランの鍵』にもこの世界にも執着する必要もないはずである。
その前のマサクルを見捨てるような行動といい、やっていることに一貫性が見えないのが不気味すぎる、とサリエラは感じている。
……ドクター・フーのことは話には聞いていたが、このような滅茶苦茶な――『破滅的な』としか言いようのない人物は、初めてである。
「そろそろか。
……くくっ、恋墨ありすにもしっかりと伝えるがいい。貴様の大切な使い魔の命が惜しければ
「ぐ、うぅ……!」
「……!!」
ラビたちと引き換えにで『バランの鍵』を渡す――それはラグナ・ジン・バランの復活、ひいてはこの世界の崩壊の引き金を引くということを意味する。
選択の余地はないが、代償があまりにも大きすぎる。
『……でも、やるしかないにゃ……!!』
『ええ、その通りでございますね……!』
それでも二人は止まるわけにはいかない。
ここで動かなければ、それこそ本当の『最悪』の事態を招きかねないと理解しているからだ。
「ではアストラエアも確保させてもらおうか」
「……さ、させるかにゃー!」
ピッピの方へと視線を向け、サリエラから注意が逸れた。
その瞬間を見逃さず、痛みを堪えてサリエラがドクター・フーへと向けて突進する。
突撃に合わせてヴィヴィアンも生き残った召喚獣を一斉に動かして攻撃を開始させる。
「無駄だ」
しかし今までの攻撃同様、ドクター・フーへと攻撃はなぜか届かず、あるいはオルタロスによって防がれてしまう。
ドクター・フーはまるで攻撃などされていないかのように、余裕の態度で《ヒュドラ》に包まれたピッピの元へと歩みを進め――
『ヴィヴィにゃん、今!』
『はい!』
普通の攻撃が通じないのは承知の上だ。
二人の狙いは他にある。
キン、と硬い金属が弾かれる音と共に――
「むっ!?」
一階と繋がる大穴の中から、一本の剣がドクター・フーへと向かって飛んでくる。
それはルシオラ戦の時に呼び出したままだった《アロンダイト》だった。
穴をあけた時に一階に《アロンダイト》も落ちて行き、そのままリコレクトするのを忘れて放置してしまっていたのだが、存在を思い出したヴィヴィアンはドクター・フーに気付かれないように小型の召喚獣を一階へと向かわせ、召喚獣同士の反発を利用して《アロンダイト》を投げつけたのだ。
《アロンダイト》はドクター・フーの斜め下、視界外から飛来する。
直前で気付いたものの回避は間に合わず……。
『惜しいにゃ!』
ラビを持つ方ではなく《ギャラルホルン》の持ち手へと突き刺さり、勢いそのままに切断する。
――やっぱり、視界外……いにゃ、
確証はなかったが、『完全無欠の防御能力』などあるわけがない、ということは確信していた。
ドクター・フーが認識できていない範囲からの攻撃であれば通じるのではないか……仮にそれがダメでも、『何がドクター・フーに通じない攻撃なのか』がわかれば良いという考えでヴィヴィアンに行ってもらったのだ。
結果、ラビを助けられなかったものの、ドクター・フーに対して攻撃は通じることがわかった。
「ふん、なかなかしぶとい」
「このっ!」
もちろん片腕を奪ったくらいで勝ったつもりにはならない。
サリエラは通じないのはわかった上で、無理矢理槍を振るって攻撃を続ける。
目的はただ一つ、ドクター・フーの意識を今度はサリエラへと集中させることだ。
――ということをドクター・フーはもちろんわかっていた。
ラビが人質に取られているからと言って、大人しく諦めるような者たちでないことは予想出来ていた。
人質を取り返そうと
サリエラが無謀な接近戦で注意を惹き、『意識外』からヴィヴィアンが召喚獣で攻撃をして今度こそラビを取り返す――そんな作戦だろう。
あるいは、神殿へと向かっている仲間が到着するまでの時間稼ぎもついでに狙っているか……。
――使い魔を取り返しても逃げ切れない、だから仲間の到着を待つ……か。
最終的にサリエラたちの作戦がそうだろうとドクター・フーは判断した。
彼女たちが現状取れる最善の手段はそれしかない。
ラビ、そしてピッピを守り抜き、神殿に到着した仲間が二人を連れて逃げる――ヴィヴィアンとサリエラは無事には済まないだろうが、ユニットであればリスポーンできるから大きな問題はないはずだ。
「オルタロス、アストラエアを確保しろ」
「う……!?」
サリエラを軽くあしらいつつ、オルタロスをピッピの方へと向かわせる。
オルタロスであれば《ヒュドラ》に守られていようと関係ない。ヴィヴィアンは動けず追加の召喚獣を呼び出すことも出来ない。
他の仲間が駆けつけて来るまでに十分間に合う――オルタロスがピッピを確保してしまえば、たとえラビを取り返されたとしても問題なくなる。
何の問題もない。
ヴィヴィアンが指令を出したのか、《ヒュドラ》がピッピから離れオルタロスへと襲い掛かる。
……神話の中では兄弟の二頭の魔獣がぶつかり合うが、基本性能が違いすぎた。
《ヒュドラ》の巨体はオルタロスの牙の前には対抗できず、あっという間に首を落とされ、胴体を貫かれて倒されてしまった。
「インジェクション《エキュートペイン》」
「ふぎゃっ!?」
ピッピの確保も確定的、後はサリエラも無力化すれば終わりだ。
纏わりつくサリエラに対してインジェクション――ヴィヴィアンに使ったのとは異なり、『激しい痛み』のみを与える毒を注入。
《ギャラルホルン》のダメージにも耐えていたサリエラだったが、突如与えられた痛みのショックには耐えきれず気を失ってしまった。
『サリエラ様!』
『……』
ヴィヴィアンの呼びかけにもついに答えられなくなってしまう。
そしてオルタロスがピッピの元へとたどり着き――
「……む? これは……」
異変に気付く。
ピッピは動けないのは変わりないが、その理由が変わった。
胸の傷で動けないのではなく、
「…………君の仕業か」
「……く、ぐ……」
身体が動かないため視線だけでヴィヴィアンはドクター・フーに応える。
ドクター・フーに作戦を読まれる――のをサリエラは更に読んでいた。
サリエラはドクター・フーとの取引は
だから、『最悪』を避けるためにラビかピッピの
サリエラの無謀な特攻や召喚獣の総攻撃、そして一階からの不意を突いた《アロンダイト》も、全てがフェイク。
波状攻撃の隙に《メデューサ》を移動させ、《ヒュドラ》が攻撃に移ったその時にピッピを石化させたのだ。
ピッピの傷の正体はサリエラたちにはわからないが、とにかく『治療不能』ということだけはわかっている。
ラビとピッピ、攫われたらどちらが『最悪』かと考えた時、ピッピの方が拙いという判断だ――ドクター・フーが傷の手当をしてくれるとは到底思えないし、使い魔ではないピッピは『いざという時』にユニットとしてフォローすることが難しい。
それに、『バランの鍵』と並ぶマサクルたちの最大の目標を相手に確保されるわけにはいかない。
『バランの鍵』と『ピッピの命』、そのうち片方は常に確保しておかなければならないだろう、という考えだ。
「……ふぅ、ヴォイドで解除は可能だが――」
石化自体はヴィヴィアンの魔法だ、ヴォイドを使えば容易に解除できるだろう。
しかしドクター・フーはそれをしない。
なぜならば、石化を解こうとすると同時にシノブのつけたギフトまでも解除してしまう可能性があるからだ――ヴォイドは魔法だけではなくギフトの効果も範囲内であれば解除可能なのだ。
ドクター・フーは
ピッピの傷が回復し自由に動けるようになるのは
「まぁいいさ。君たちが一歩上回ったということを素直に認めよう。代わりに――フリージング」
気絶したサリエラに対して、ラビに掛けたのと同じ
この魔法、ドクター・フーが先程チラリと言った通り、時間の流れすらも止めて相手を完全に封じ込める究極の拘束魔法なのである。
「くくっ、まぁ保険として人質は預からせてもらおうか」
「……ッ!!」
「さて、間もなく諸君らの援軍が到着するだろう。その前に私は退散させてもらおう」
オルタロスがサリエラを咥えて持つ。
それを防ぐことがヴィヴィアンには出来ない――召喚獣のほぼ全ては倒され、《メデューサ》の石化もなぜか通じない。
石化したピッピを人質とすることはせず、替わりにサリエラを連れて行くことにしたようだ。
「【
ドクター・フーのギフトが発動、すると彼女が最初に現れた時のような『次元の裂け目』が現れる。
「くぅ、う……ま、ち……!」
「くく……ああ、面白いなぁ……」
麻痺が解けてきたヴィヴィアンを横目に、薄笑いを浮かべドクター・フーとオルタロスは『裂け目』へと消えていった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ヴィヴィアン!」
「ご無事でスカ」
「う、くっ……ジュリ、エッタ……オル、ゴール……様……」
ドクター・フーが消えたのとほぼ入れ替わりに、ジュリエッタとオルゴールが到着した。
動けないヴィヴィアン、石化したピッピ、そしていなくなったラビとサリエラ……。
「…………間に合わなかった……」
ヴィヴィアンから事情は聞けていないが、状況は推測出来た。
苦しそうに喘ぎながら必死い言葉を紡ごうとするヴィヴィアンを制し、
「無理しないで。これは……魔法? とにかく、まずはウリエラをこっちに呼ぶから」
拙いことになった。ジュリエッタは内心そう思うが表情には出さない。
詳しく聞かずとも状況を見ればわかる。
ラビとサリエラが敵に連れ去られた――そしてヴィヴィアンが一人ここに取り残された。そういうことだろうと理解する。
だとすると、ヴィヴィアンの性格的に自分を責めてしまうことだろう。
なによりも……。
――
今ここにはいない、そして状況を知らないアリスが知った時にどんな行動に出るか、予想もつかないのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あら……どうやら時間切れのようですわねぇ~」
ノワールと戦っていたジュウベェは、どういう手段かはわからないがドクター・フーが現れ、そして撤退したことに気が付いたようだ。
「むぅ……」
ジュウベェと対峙するノワールはというと、瀕死というほどではないが全身に傷を負っていた。
まだ膝はついていないものの、このまま戦い続けていればそう遠くないうちにそうなっていたであろうことは明白である。
霊装を鞘へと納め、ジュウベェは微笑む。
「どうやらここまでのようですわねぇ。貴女様と斬り合うのも愉快ではありますが――あたくし、ここでお暇させていただきますわぁ」
「……其方、一体……?」
クロエラが感じたジュウベェに対する『違和感』をノワールも薄々感じ始めていた。
アビサル・レギオンの一員であり、エル・アストラエアへと攻撃を仕掛けてきたのは間違いないし、『戦士以外は斬らない』と言いながらも妖蟲の進軍を阻むものについては排除を行うことから、『敵』であることは間違いない。
しかし、どうにも『敵意』のようなものを感じないのだ。
『天空遺跡』でノワールが遭遇したアビサル・レギオンのピースたちは、皆明確な『敵』と判断できるだけの『敵意』や『害意』はあったのだが、ジュウベェからはそういったものがまるで感じられない。
何を考えているのかわからない――しかし明らかに『強い』……それも間違いなくアビサル・レギオン内では五本の指に入るであろう強さという厄介さだ。
「くふふっ……それではごきげんよう――また、お会いできることを楽しみにしていますわぁ」
一礼してそう言い残すと、ジュウベェもその場から姿を消し去った。
「……むぅ、あれほどの剛の者がなぜ……」
『結晶』を通じて探ってみても、もはやジュウベェの気配はエル・アストラエア内にはない。
どうやら本当に去っていったようだ。
あわよくばクロエラの代わりに戦いジュウベェを討ち取ろうとしたノワールであったが、自分がやられないようにするのが精一杯であった。
――ただ、黒晶竜の身体が完全に戻り、全力を出して戦えばあるいは――
「急がねばならぬな……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
こうして、エル・アストラエアを巡る戦いはひとまずの終わりを迎えた。
侵入してきたピースは全て撃退あるいは撤退し姿をけし、残された妖蟲たちはラビたちユニットの活躍もありそのほとんどが駆逐された。
残った妖蟲はいるものの、エル・アストラエアの兵士たちでも対処可能なまでに数は減っている。
そしてエル・アストラエアの住人たちは素早い避難の完了もあり、怪我人こそいても死者は一人も出ず、また攫われた者や行方不明者もでなかった。
戦闘の趨勢だけ見れば、アビサル・レギオンを撃退したエル・アストラエア側の勝利と言えるだろう。
しかし実際にはそうでないことは、戦ったラビのユニットたちが一番理解している。
局所的なピースとの戦闘に勝利はしたものの、結局この戦いはこちら側の敗北に近い。
辛うじて『ピッピの命』を守り切ることには成功したが、いつ命を落としてもおかしくない『不治の傷』を与えられてしまった。
何よりもラビと
ただし、完全敗北ではない。
ヴィヴィアンの報告によりマサクルの撃破は確認されている。
ということは、
残る問題は、ラビたちを無事に助け出しつつドクター・フーの撃破を行うこと、そしてアビサル・レギオンのピースたちを撃破することだ。
……敵を倒してそれで『眠り病』が全て解決するのかどうかは未だ不明ではある。
それでも、『敵を倒さない』という選択はありえない。
アリスたち残りのユニットたちは、否応なく次の戦い――『ラビたちの救出』へと挑まざるをえないのであった……。
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