第8章65話 アニキラシオン 10. "ミステイカー"ヴィヴィアン&"終天使"サリエラvs"奇術師"ルシオラ(後編)

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 星見座ほしみくら椛は、自他ともに認める自堕落で適当な人間だ。

 双子の姉と互いに『キャラづくり』をしている側面もないわけではないが、ほぼほぼ素でそういう性格なのは本人も自覚している。

 いわゆる『天才』である。学業だけでなく運動も芸術も――ただし家庭科系は除く――何でもこなすことが出来る。

 だからこそ、

 何事もある程度でコツを掴んで並み以上の水準でこなせてしまう。

 

 なぜならば、椛の思いは『本気の人に失礼だから』である。

 本当に物事に本気で全力で取り組んでいる人相手に対して、椛は敬意を忘れない。

 故に、適当な自分が適当な気持ちで、本気の人間と同じ土俵に立つべきではないと常に考えている。


 『ゲーム』に関しても、椛自身はそこまで乗り気ではない。

 ピッピがいなくなった後にラビのユニットとして引き継がれはしたが、そのこと自体について特に『嬉しい』とも思っていない。そのままゲームオーバーとなっても構わないと思っていたくらいだ。

 ……もっとも、あの時にゲームオーバーになっていたとしたら、自身も『眠り病』の被害に遭うことになってしまっていたことは理解している。

 それはともかくとして、椛が『ゲーム』を続けている理由は『成り行き』ともう一つ、弟妹雪彦と撫子が参加しているからというものであった。

 危ない目に遭わないかしっかりと見ておく必要があるだろう――というのが椛の考えだ。


 ただ、この『ゲーム』に関しては彼女の思う通りにはいかなかった。

 弟妹が危険な時には当然全力で挑まなければならないし実際全力を出したものの、全く及ばなかった。

 彼女にとって生まれて初めての『失敗』である。

 そもそも『サリエラ』というユニット自体が大して強い能力を持っているわけではない。その時点で大きなハンディキャップを背負っていると言える。

 しかし、椛はそれを言い訳にはしない。

 弟妹を守れなかった、という事実だけを冷静に見ている。


 ――『全力』を出してもどうにもならないことがある。


 それが『ゲーム』を通じて椛が理解した、けれども普通の人にとっては当たり前のことである。




”……よし、仕切り直しだ、二人とも! ここでルシオラと――マサクルを倒すよ!”


 彼女の使い魔であるラビが改めて口に出して宣言する。

 それだけのことで、現在のパートナーであるヴィヴィアンの表情が変わったのをサリエラは見逃さない。

 『士気』や『やる気』といったものの存在は、言葉としては知っていたものの『実感』としてもったことは今まで一度もなかった。

 けれど、ここ一か月彼女らと共に過ごしたことで――そしてジュウベェ戦の時の挫折を経て、サリエラは実感するようになった。


 ――何とかなる気がしてきたにゃ……!


 サリエラは既に

 見破ったと宣言した部分だけではない。

 それ以外の『謎』の全ても含めて理解しているのだ。

 理解した上で、先程の『勝てないかもしれない』発言だった。

 彼女は頭が良い。それゆえにルシオラの謎を理解し、その上ででは『勝てないかもしれない』と見切ってしまっていたのだ。


『……うーにゃん、ヴィヴィにゃん。あたちのこと……信じてくれるにゃ?』


 この場を切り抜けるためには、どうしても『あること』が必要になってくる。

 そして『あること』についてはラビにもヴィヴィアンにもこの場で

 諸々解けた(はずの)『謎』のうち、ある一つだけは解決方法が見つからず『賭け』に出ざるをえない――そのためにはヴィヴィアンには説明できないし、を考えたらラビにも当然伝えられない。


『当然でございます』

『”もちろんだよ。……何かわかったんだね?”』

『……まぁにゃー……でも――』


 流石に『謎』が解けたことは感づかれた。

 口ごもるサリエラであったが、


『”――よし、じゃあサリエラ、申し訳ないけど指示があるならお願い! 私には何にもわからないし……”』

『……いいのかにゃ……?』

『”もちろん!”』


 ラビは躊躇うことなく即答した。言葉にはしなかったがヴィヴィアンも否定の意志は見せない。

 何か隠しているだろうということはわかっていても、それでもラビたちはサリエラのことを『信じる』と意志表明しているのだ。


 ――相手を疑うことなく無条件に信じるのは、『信頼』ではなく『無責任』だ。


 かつてラビがそのようなことを口にしたが、サリエラも同様のことを考えていた。

 しかし、今のサリエラに対するラビたちの信頼を無責任だとは思わない。

 知らず小さく笑みを浮かべ、サリエラは返す。


『……わかったにゃ。あんまり時間かけられないし、さくっと決めるにゃ!』


 その笑みは、もちろん『嬉しさ』から来るものであったことは言うまでもない――




*  *  *  *  *




 こちらが動かなければ、『幻覚』を使うルシオラは動かない――というより、というのは私にも予想できている。

 ルシオラとマサクルの目的は、おそらく『ピッピの殺害』にある。

 で、既にピッピは瀕死の重傷を負ってしまっている――このまま時間を稼いでいれば何もせずともピッピは死ぬだろう。そう考えているのだと思う。

 ……そう考えればルシオラの能力は『時間稼ぎ』としては最適と言えるだろう。

 一刻も早くルシオラの幻覚を突破して倒し、安全を確保した上でピッピの治療を行わなければならない――これは時間との戦いだ。

 現状どうすればいいのか私にはさっぱりわからない。

 けどサリエラは何かに気付いたみたいだし、ここは彼女の指示に従うのが一番だと思う。

 何でか知らないけど躊躇っているようなサリエラだったが、私とヴィヴィアンが彼女の言葉に従うと返すとすぐさま切り替えて指示を出して来る。


「んふっふっふ、願ったりかなったりですな」

”けけけ……”


 向こうは能力は見破られたが、目的である『時間稼ぎ』には支障はないことに気付いたのだろう。再び余裕を取り戻している。

 腹は立つけど、向こうから積極的に攻めてこないというのはありがたい点だ。

 その間にサリエラが遠隔通話で私たちにやるべきことを言ってくる。

 ……ただ、何だろう……? ちょっと意図が掴めない上に、危険そうな指示ではあるのが気になるけど……いや、でも彼女のことを信じると決めたのだ。それに従おう。


「……ご主人様」

”うん、やろう、ヴィヴィアン”


 サリエラがヴィヴィアンに対して出した指示は二つ。

 まず一つ目――


「サモン《ナーガ》!」


 ヴィヴィアンは自分の後ろに長い胴体の蛇人間――《ナーガ》を召喚する。

 そして、胸に抱えていた私からキャンディを受け取ると共に、私を《ナーガ》で包み込む。


「む?」

「サモン《アロンダイト》!」


 私を離したことでヴィヴィアンは自由に動くことが出来る。

 彼女は《アロンダイト》を召喚、それを手に取りルシオラと対峙する。




 これが一つ目の指示。

 ヴィヴィアンは私を離してルシオラと接近戦をしてもらう――別に接近戦である必要はないが、とにかくルシオラに対してガンガン攻めてもらう、というのが内容だ。

 小型の召喚獣による遠距離攻撃が通じないのは今まででわかっている。

 だから、ここは敢えて武器型召喚獣を手に取っての接近戦で攻める――その時私は邪魔にしかならないので、《ナーガ》で守ってもらう必要がある。

 ……この『私をヴィヴィアンから離す』というのもサリエラの指示だ。

 危険だとは思うけど、『多分その方が結果的に安全にゃ』と彼女が言うのだ、それに従おう。


「ほほう、今度は剣ですか……ふむ、消し去ることは容易ですが、面白い。応じましょうぞ!」


 さらっと『消す』と言っていたが、どうやらルシオラは剣での戦いに応じることに決めたらしい。

 シルクハットの中から、一体どうやって収まっていたのかわからないけどフェンシングのような細い剣を取り出して構える。

 ……いや、あれも幻覚の一種か? だとしたら《アロンダイト》と打ち合うことなんて不可能なはずだけど、ここで敢えて出してきたということは切り結ぶことが出来ると思っていいだろう。


「――参ります」

「応とも!」


 ――意外だった。

 斬りかかるヴィヴィアンに対し、最初こそ余裕を見せていたルシオラだったがすぐにその表情が焦りに変わる。

 近接攻撃には向いていない、というのが私たち――本人を含めて――のヴィヴィアンに対する評価であったが、それは間違いだったと認めざるをえない。


「ここを……こう、でしたわね」

「ぬぅっ!?」


 ルシオラの放った鋭い突きに対し、回避するでもなくヴィヴィアンは剣を絡めるようにして弾き飛ばす。

 かつて千夏君に少しだけ教わった『巻き技』だ。

 あの時彼は『返し技抜き技よりも難しいし、基本ユニット戦じゃ使い物にならねーから忘れろ』と言ってた技である。

 この技はアリスも使えない――ちらっと一度見せてもらっただけだし、千夏君の言うように難しい技なのでその時は教えてもらえなかったというのもある。

 だというのに、見ていただけのはずのヴィヴィアンはそれを見様見真似でこの場で使ったのだ。

 巻き技でルシオラの細剣を弾き飛ばすと同時に、ヴィヴィアンは一歩前へと踏み込みその胸に剣を突き立てる!


「ぐぅっ!?」


 胸を貫かれたルシオラが苦し気に呻く。




 ……改めて考えてみれば、不思議なことではないのかもしれない。

 元々ヴィヴィアン桃香は、ありす曰く『よく視ている』子だった。

 言い換えれば観察眼に優れている、と言えるだろう。

 千夏君の剣道教室も、元々はありすに教えることがメインであったものの、その横で桃香はしっかりと視ていた――つまり『見取り稽古』をしていたということなのだ。

 ……まぁ、だからと言って、それで実際に身体を動かした時にいきなり成功させるっていうのは普通は難しいと思うんだけど……。

 私たちが思っていた以上にヴィヴィアンの潜在能力は高い、ということなのだろう。


「はぁっ!」


 胸を刺し貫いただけではルシオラは倒せない――見た目は物凄い重傷になりそうだがヴィヴィアンの『攻撃力』は低いのだ――とすぐさま判断したヴィヴィアンは剣を素早く引き抜くと、今度は横に薙ぎ払いルシオラの首を狙う。

 それを細剣で受け止めようとしたが、相手は伝説の聖剣の一振りだ。攻撃力を差し引いても武器としての性能に天地の差がある。

 まるでつまようじのようにルシオラの細剣を断ち切り、更に《アロンダイト》の刃は一刀の元に首を刎ねた――!


”やった!?”


 いかに体力があろうとも、流石に首を刎ねられたら普通は死ぬ。『ゲーム』の判定はかなりいい加減みたいで、ユニットの子が『死んだ』と思ってしまうような攻撃を受けたら、体力が残っていても死亡と判定されることがあるのだ。

 その辺りの事情はピースであろうとも変わりはない、と思う。

 首を失い、胴体がぐらりと傾き――


”うそっ!?”


 が、傾いた胴体が落ちた首を掴んで拾い上げる。


「ふっふっふ……人体切断マジーーック!」


 落とされた首がそんなふざけたことを口走っている。

 くそっ、これも幻覚か……!? いや、そもそも目の前にいるルシオラ自体が幻覚ってことか……!?

 何事もなかったかのように胴体の上に首を乗せると、傷跡も残さず首が繋がってしまう。


「んふっふ、残念でしたなぁ。サプライズ サモン《アロンダイト》」

「くっ……」


 こいつ、本当にどうやったら倒せるんだ……!?

 互いに《アロンダイト》を手に、今度は互角に切り結ぶ。

 ……いや、


「サプライズ サモン《アロンダイト》――んふっふっふ、まぁ幻覚だとバレたところで支障はありませんな」


 同一召喚獣の同時召喚は不可、というルールは幻覚には関係ない。

 二本目の《アロンダイト》を呼び出し、両手に持つ。

 ……くそっ、幻覚だとはわかっているけど、現にヴィヴィアンの《アロンダイト》と拮抗しているということは……考えたくないけど、もし斬られたりしたら本当にダメージを受ける可能性がありうる!

 いくらヴィヴィアンが非凡な才能を持っているとは言え、だからといって千夏君やアリスみたいに経験を積んでいるわけではない。

 単純に手数が二倍となったルシオラ相手に、今度はヴィヴィアンが押され防戦一方となってしまう。

 ……これがジュリエッタ千夏君ならば素人剣術だと軽くあしらえたかもしれないけど、流石にヴィヴィアンでは荷が重い……!


”! 危ない!”


 切り結ぶヴィヴィアンの背後に、三本目の《アロンダイト》がサプライズの発声なしに出現する!


「!?」

「ふっふっふ……リアル人体切断マジックですなぁ!」


 私の声に反応したヴィヴィアンだったが、それよりも早く三本目は背後からヴィヴィアンの首を切り落としてしまったのだった……。




 ――拙い……!

 サリエラはまだ動かない。その表情には余裕はなく、かと言って焦るでもなく真剣な面持ちで戦いの様子を見ている。

 彼女の思惑はまだわからない――が、ヴィヴィアンがやられたのは果たして計算の内なのだろうか……?


「さぁて、残るはそちらの方々のみですな」


 ヴィヴィアンの首を落としたことで勝利を確信したルシオラは、余裕の表情でこちらへと芝居がかった様子で手を広げる。

 ……いくらサリエラが本気を出せば接近戦をこなせるとは言っても、流石にルシオラ相手では――と私が思った時だった。


「――何が人体切断マジックですか。くだらない」

「……なんですと!?」


 本当に『くだらない』と吐き捨てるようにそう言ったのは、首を落とされたヴィヴィアンであった。

 右手に《アロンダイト》、左手に自分の首を持った少女――まるでメイド姿のデュラハンだ。

 先程のルシオラ同様、こちらも何事もなかったように首を乗せると、やはり同様に傷跡も残さずに首が繋がる。


「く、首を切り落とされたのですぞ!?」

「幻覚でしょう?」


 動揺するルシオラに冷たくばっさりと返すヴィヴィアン。

 ……いや、確かに『幻覚』っていうのはわかってはいたけど……もしかしたら幻覚の中に本物の攻撃を混ぜて来るとは思わなかったのだろうか……?

 私と同じことを思っているが故に、ルシオラも動揺しているのだろう。


「げ……幻覚とはいえ、吾輩の魔法は『精神』に作用する魔法……! 痛みはフィードバックされるはず……!!」


 ……うお、思ったより凶悪な性能を暴露した。

 嘘か本当かはわからないけど、こんな話を聞いたことがある。

 目隠しをした被験者に、『これは焼けた鉄だ』と言ってただの棒を押し付けたら、火傷が出来た――思い込みの力で人間は自分の身体を傷つけることもある、という話だった。

 逆にただの小麦粉を『薬だ』と言って与えたら病気が治った……いわゆるプラシーボ効果みたいな話もある。

 ルシオラの魔法はただの幻覚というだけでなく、これらと同じように『人間の思い込む能力』を利用して『幻のダメージ』を与えることが出来るものだったようだ。

 …………でも……。


「はぁ? でも、幻覚でしょう? 幻覚だとわかっていて痛がるわけがないでしょう? 貴女……バカなんでしょうか?」

「な、な……っ!?」


 ヴィヴィアンには全く通じていないようだ。

 理屈としてはわかる。

 首を切り落とされようが何だろうが、『幻覚だ』とわかりきっているヴィヴィアンには『幻のダメージ』は通用していない。

 ――あるいは逆か? 『幻覚であると理解』というより『思い込んで』いるためにダメージを受けていない……のかもしれない。

 ……言っちゃアレだけど、要するにバ――いや驚異的な思い込みの強さで、ヴィヴィアンはルシオラの幻覚を受け付けていないのだ。

 少なくとも自分自身に向かってくる幻覚に対しては無効化できているみたいだ。目に見えているものは流石に幻覚だとわかっていても切り捨てられないみたいだけど……。

 もしかして、ヴィヴィアンのバ――精神力の強さを見越して、サリエラはあんな指示を出したのか……? と思って彼女の方をチラリと見てみると、


「……いや、これはちょっと……予想外にゃ……あの子大丈夫なんかにゃ……?」


 ……何か本当に真剣にヴィヴィアンのことを心配しているような呟きが聞こえてきた……。

 ともかく、幻覚使いのルシオラにとって常人を遥かに超える強靭な精神力を誇るヴィヴィアンは『天敵』と言える存在なのかもしれない。


『”サリエラ、そろそろ?”』

『……そうだにゃー。ヴィヴィにゃん、第二作戦始めてにゃ』


 かしこまりました、の返答はなくヴィヴィアンは魔法で応えた。


「決着の時のようですね――サモン《ヘカトンケイル》!」


 ――この時のため、というわけではないがヴィヴィアンが新たな戦力として作り出した召喚獣……《クリュサオル》らと共に作り出した新召喚獣だ。

 全高3メートル程はあろうか、狭い室内で呼び出すには大柄ではあるが、《ヒュドラ》を出しても差し支えないくらい広いこの広間ならば十分動ける大きさだ。

 《ヘカトンケイル》――それは人間のように両手両足を持つものの、首のない『巨人』のような姿であった。

 ヴィヴィアンは呼び出した《ヘカトンケイル》の胴体部分に乗り移る。


「《ヘカトンケイル》フルパワー!」


 乗り込んだヴィヴィアンがそう叫ぶと、《ヘカトンケイル》の両足――正確には両足の裏に取り付けられた戦車の履帯のようなパーツが動き始め、見た目にはそぐわない速度で突進。


「ふごぁっ!?」


 様子を窺って逃げ遅れたルシオラへと強烈なタックルを繰り出し吹き飛ばす。

 《ヘカトンケイル》とは、魔獣型召喚獣ではなくどちらかといえば武器型召喚獣に近い特性を持つ。

 ヴィヴィアンが乗り込んで操縦するタイプの召喚獣なのだ。

 見た目の印象からして、パワーローダー……とでも言うんだったか、某殺人異星人の映画の第二作目だかで登場した人が乗り込んで操縦する『人型重機』である。


「逃がしません」


 タックルを受けて吹っ飛んだルシオラを追いかけて追撃、メタモルを使ったジュリエッタの腕のような巨腕を振るって更に殴り飛ばす。

 走って殴る、物凄く単純だけどそのどちらもが身体強化魔法を使ったのと同じくらいの威力を持っている故に、並の相手であれば一方的に蹂躙できるほどの性能だ。

 加えて召喚獣特有の『硬さ』も持ち合わせている。

 …………改めて思うけど、うちのユニットの子たちの中で一番強いのって、やっぱりヴィヴィアンなんじゃないかな……本人は否定しそうだけど。


「ふ、ふふっふ、ふふふ……!」


 殴られ、蹴とばされ、体当たりで吹き飛ばされてもルシオラは不敵に笑う。

 言葉通り手も足も出ない状態だというのにこの余裕――やはりこれだけでは幻覚を打ち破ることは出来ないのか……!?


「そのような隠し玉があろうとは……ならば、サプライズ サモン《ヘカトンケイル》!」

”これもか!?”


 予想できないわけではなかったが、やはりルシオラは《ヘカトンケイル》をもサプライズで真似してきた。

 くっ……これで攻撃力も防御力もやはり五分と言ったところか……。


「…………よし、行くにゃ!」


 ここでずっと様子を窺っていたサリエラが動いた。

 《ヘカトンケイル》同士がぶつかり合い、殴り合っている横から突進。ルシオラの《ヘカトンケイル》へと向けて今まで一度も使って来なかったあの魔法を使う。


「クラッシュにゃ!」


 問答無用の物質破壊魔法クラッシュ――いかに召喚獣と言えども、『破壊』に特化したこの魔法を受けては無事では済まない。

 《ヘカトンケイル》はたった一撃を足に受けただけだというのに、その一撃で全身が砕け散る。

 宙に投げ出され驚愕の表情を浮かべたルシオラへと向けて、ヴィヴィアンの《ヘカトンケイル》が全力の拳を見舞う――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「■■■■■■■」


 ■■■■■《■■■■■■■》■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■――シノブ■■■■■■■■■、『F■■』■■■■■■■■。

 ■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■シノブ■《■■■■■■■》■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――■■■■■■■■■■■■■。




「そういうことかにゃ。やーっと姿を現したかにゃ」

「!?」


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――■■■■■。

 ■■■、《■■■■■■■》■■■■サリエラ■■■、■■■■■シノブ■■■■■■■■。


「うぐっ!?」


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


「あ、貴女は……!?」

「……■■■■■■」


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■『F■■』■■■■■■■。




 ――■■■■■■■■■・■■■■■■■■■■■■■シノブ■■■。

 ■■■■■■・■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■『F■■』と■■■■■■■■■■■。

 『F■■』■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■『■■■』■。

 ■■■■■■■■■■■■シノブ■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■シノブ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■、『F■■』■■■■■■■■■■■■■。


 ……■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■シノブ■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■シノブ■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■『F■■』■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■シノブ■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■――■■■■■”■■■■■■”■■シノブ■■■■■■■■。




 ――ただし、ここに一つ例外が存在した。




「……はー、なるほどにゃー。別次元に出入りする能力かにゃー……これは気付こうとしても気づけないわけにゃー」

「!?」


 シノブ以外は立ち入ることのできない『F空間』内に、どこか能天気な甲高い声が響く。


「【贋作者カウンターフェイター】――形のない魔法には使えないはずなんにゃけど、あんたの魔法は『入口を作る』魔法だったみたいだにゃー。おかげであたちのギフトで真似っこできたにゃー」


 先端がドリルとなった槍を持つ片翼の天使――サリエラの姿がそこにあったのだった。




*  *  *  *  *




「こ、の……っ!!」


 滅多に見せない怒りの形相で、ヴィヴィアンが《ヘカトンケイル》の拳を振るいルシオラを追い詰める。

 ……一体今何が起きた……!?

 い、いや『今』が問題じゃない――なんで私たちはこんな戦い方をしていたんだ!?

 私とヴィヴィアンが共に戦うのであれば、私はヴィヴィアンの背中にでも張り付いていた方が良かったはずだ。

 だというのに、なぜか私は今 《ナーガ》に包まれた状態で離れた位置から見守っているだけである。

 …………なんだ、この強烈な違和感は……?


”くっ……ヴィヴィアン!”


 違和感の正体はわからない。

 けれど、とにかく今は目の前の戦闘に集中しなければ。

 ヴィヴィアンはいつの間にか右肩を深く抉られてしまっている。

 これは幻覚ではない。現実の傷だ――体力の高いヴィヴィアンとはいえ、放置していい傷ではない。


「問題ありません、ご主人様……このまま押し切ります!」


 しかしヴィヴィアンは私を《ナーガ》から解き放つことはせず、そのままルシオラへと向かう。


『このまま作戦を実行します! ……?』

『”作戦……? え、あれ……!?”』

『…………? やるべきことはわかっているのに、一体誰から指示されたのでしたっけ……?』


 ルシオラに向かいつつ、ヤツの幻覚を打ち破るための第二の指示を実行しようとするヴィヴィアンだったけど、そこで彼女も違和感を覚えたようだ。

 ……作戦? 作戦だ……? 私は未だにルシオラの魔法を破る術が思いつかないし……。

 ……。

 どこか別の場所にいる仲間から連絡が入った覚えもない。

 アリス、ジュリエッタ、ガブリエラとウリエラ、そしてクロエラ――6は全員外で『エル・アストラエア』を守るためにそれぞれの戦いを行っているはずだ。こっちの様子は伝えてないし……。

 ノワールやオルゴールもそうだけど、彼女たちとは遠隔通話できないし……。


『…………いえ、やるべきことは明確です』

『”…………だね。何か気持ち悪いけど、やるべきことはやろう!”』


 状況は不可解だけど、なぜだろう……『敵の罠』とかそういう感じはしない。

 頭の中に浮かんでいる『作戦』をやるべき、そういう『確信』がなぜかある。

 この謎の違和感の正体もルシオラを倒せば突き止められる――かもしれない……。


”けけけ……”


 ――もう一つの懸念、それはマサクルのことだ。

 何だ……確かにまだこちらの勝ちが決まったわけではないし、向こうはこのまま時間稼ぎをしていれば目的である『ピッピの殺害』は成功するのだ。余裕のある態度も不思議ではない。

 ……ないんだけど……。

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