第8章62話 アニキラシオン 7. "破壊天使"ガブリエラ&"始天使"ウリエラvs"■■の魔女"フブキ(前編)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ラビのユニットの中で、最も単騎での戦闘力および生存力が高いのは誰かと問われれば、(本人を除いて)揃ってこう答えるだろう。
『それはガブリエラだ』
と。
並みの、どころか強大なモンスターやユニットを相手にしたとしても、ガブリエラの常識外れのステータスであれば強引にねじ伏せることが可能だ。
遠距離攻撃魔法こそ持たないものの、オープン・クローズによって自在に相手との距離を調節することが可能だし、それによって攻撃も防御も行うことが出来る。
そしてガブリエラ自身の攻撃力は大抵の相手にとって一撃で致命傷となりえるほど高い。
加えて彼女に足りないものを補う役目を担う
――ただし、当然のことながら彼女も『無敵』ではない。
「くっ……!」
身体を凍らされ、再びガブリエラの動きが止められる。
「ひゃー、危ない危ない」
けらけらと笑いながら、フブキは悠々と殴り掛かろうとしたまま凍り付いたガブリエラから距離を取る。
ウリエラと共に戦っているというのに、ガブリエラはただの一撃もフブキに当てることが出来ていなかった。
ガブリエラの苦手とする相手、それは『妨害』『拘束』等に特化した能力を持つものだ。
いかに彼女のステータスが高いと言っても、相手に攻撃を当てることが出来ないのでは意味がない。
攻撃をしようとしてはフブキの魔法アンティによって動きを止められては逃げられる……その繰り返しである。
ただ、逆にフブキの方からのダメージも与えられていない。
ガブリエラの防御力を突破できない――というわけではなく、アンティそのものにダメージを与える効果が無い、という理由ではあるが。
――……こいつの能力の秘密を解かないと、負けはしないけど勝てもしないみゃ……。
一旦ガブリエラに暴れるに任せることにし、少し離れた位置から様子を見ていたウリエラはそう判断する。
負けないが勝てない、正にその状況に陥ってしまっている。
負けないのであれば問題ない、ということは全くない。
ここでフブキがガブリエラとウリエラを『足止め』してしまうことを意味しているからだ。
二人が足止めを食うということは、それだけ
つまり、フブキの狙いは『時間稼ぎ』。そう判断せざるを得ない。
現にフブキはガブリエラの攻撃を凍らせて逃げ回ってはいるものの、遠くへとひたすら逃げるということはしない。ガブリエラたちに見える範囲まで『移動』しているだけである。
――わたちとりえら様、二人でフブキに遭っちゃったのは不運だったみゃー……。
二人同時に足止めを食らってしまった。
普段ならばウリエラは単独ではほぼ戦力にならないので足止めされてもそこまで困らないが、今回の戦いについては別だ。
彼女にはゴーレムを作り出して避難の時間を稼ぐ、あるいは広範囲に渡って妖蟲を止めて殲滅の手助けをするという重要な役割があるのだ。
ここでフブキに捕まって時間を稼がれるのは好ましくない。
――みゅー、かと言ってりえら様一人を置いていくわけにもいかみゃいし……。
ガブリエラにフブキの相手を任せて、ウリエラが一人で行動するというのは無しだろう。
もしもウリエラが妖蟲に襲われたとしたら、しかもそれが大群だったとしたら……流石にウリエラ一人では自分の身を守ることすらおぼつかない。
もちろんそれだけが理由ではない。
となれば、やることはただ一つ。
――やっぱり、ここでフブキをどうにかするしかないみゃ。
フブキを倒す。それしか道はないと改めて判断する。
だがどうやって倒せばいいのかがわからない。
攻撃を当てようとしてもアンティによって凍らされてしまう。
強力な遠距離攻撃を持たないガブリエラでは接近戦を仕掛けるしかないのだが、たとえクローズで引き寄せたとしても攻撃そのものをアンティで凍らされてしまったら意味がない。
このアンティの『謎』を解かなければ、フブキを倒すことは不可能である。
「……みゅー、仕方ないみゃー。りえら様ー」
『謎』については、一応の『仮説』はある。
それを確認するためにウリエラは行動に移った。
「なんですか、ウリュ!? ちょっと今忙しいの!」
――あー……良くない傾向みゃー……。
いつもニコニコと笑顔を浮かべているガブリエラだったが、流石に何度やっても自分の攻撃が当たらないことにイライラとし始めている。
イライラしながら攻撃、それを凍らされて無効化――また更にイライラが募る……悪循環だ。
当然、フブキはそれを狙っているのだろう。
ただでさえ攻撃が当たらないというのに、冷静さまで欠いてしまったら猶更勝ち目はなくなる。
そして、現実世界なら癇癪を起しても抱きかかえて落ち着くのを待つという手も使えるが、この『ゲーム』内では体格が逆転してしまっているためそれも不可能。
つまりガブリエラをクールダウンさせることが出来ない、ということになる――ここでフブキが挑発をやめればそれで済むのではあるが。
「それより、ウリュも【
「うぇひひっ、いやぁやりやすくていいですねぇ~、
「……きぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
狙ってやっているフブキの方がわざわざ挑発をやめる理由は全くない。
ウリエラの方が冷静なのはわかっているため、面白いように挑発に乗ってくるガブリエラへと的を完全に絞っているようだ。
確かに【消去者】であればアンティによって凍り付かされた身体を戻すことは出来る。そのことはフブキも認識しているし、より脅威には感じているだろう。
しかし、だからと言ってアンティそのものが破れたとは言い難い。
事実ウリエラは今は【消去者】を毎回使うことはせず、ガブリエラが自力ですぐに突破出来ない程に凍らされた時のみに絞っている。
「……みゅー……
そうしていた理由は魔力の節約ではない。
「ビルド《ペイル》、アニメート」
周囲の土を『杭』状に固め、それをアニメートでフブキへと投げつける。
同時に、ウリエラもふよふよとのんびりした動きでフブキへと向かって前に出ながら、更に次々と『杭』を撃ち出していく。
「あ、アンティ!」
「くっ……ウリュ! やっぱり【消去者】じゃないと……!」
「いみゃ、
投げつけられた杭はことごとくが空中で凍らされ、そのまま地面へと落下してしまいフブキには全く届かない。
杭が自分には当たらないことを確信していたガブリエラは、ウリエラの攻撃には構わず相変わらずフブキへと殴り掛かろうとしていたが、こちらもやはりアンティによって凍らされてしまっていた。
「じゃんじゃんいくみゃー。りえら様ー、ちゃんと勝たせてあげるから、ガンガン攻めていって大丈夫みゃー」
「?? ウリュがそう言うなら!」
「…………あ……ま、まさか……!?」
ゆっくりとフブキに近づきながら、更に杭を撃ち出してゆくウリエラ。
魔力の無駄遣い、としか見えない行動であったが――反対にフブキの表情に焦りが見え始める……。
次第に近づいてくるウリエラ、無駄とわかっていても何度も飛来する杭、そして何度凍らされても決して止まらないガブリエラ――
アンティが破られない限りフブキに負けはないはずだった。
「……どうしたみゃー? このままだと、やられるんじゃないかみゃー?」
「う、うぅ……!?」
ついにウリエラの持つ
「え、えぇ!? なんで!? ウリュなんで!?」
ウリエラが近づけるなら自分も、とガブリエラが突進しようとするがそれはアンティで止められてしまう。
その隙にフブキがまた距離を取ろうとするが、じわじわとウリエラはまた距離を詰め始める。
「りえら様とともかく――やっぱりわたちは止められないみたいみゃー」
「?? どうしてです? あ、二人同時には凍らせられないとか?」
「違うみゃー」
確かに、『天空遺跡』の時や先程街を駆けまわっていた時には二人以上が同時に凍らされていた。
ウリエラの投げつけた杭も何本も同時に凍らされたし、人数指定はない魔法と思っていいだろう。
「あ、りえら様、ゆっくりと歩いて近づくのは大丈夫みゃ」
「そうなんですか?」
「うぅ……ま、まさかバレた……!?」
「バレたみゃー」
「ひぃっ!?」
にやぁっと笑うウリエラの笑顔に、フブキは震えあがる。
「……どういうことなんですか? 本当に歩いてだったら――あ、ちょっと凍らされちゃった」
「んじゃもうちょっとゆっくり歩くみゃ」
「あ、あぁ……バレてる……私のアンティが……」
フブキは侮っていた。
『天空遺跡』でヒルダに『見せすぎだ』と忠告を受けていたにも関わらず、バレるはずがないと高を括ってアンティを連発しすぎたため、一体どういう魔法なのかをウリエラに分析されてしまったのだ。
ウリエラはフブキへと近づくのを止めずに、ガブリエラにアンティの『正体』を明かす。
「アンティは相手を凍らせる魔法――
「え? でも、私たちは凍らされて……?」
「身体を凍らせる魔法じゃみゃくて、
「???」
運動エネルギーを凍らせる魔法、それこそがアンティの正体であるとウリエラは見抜いた。
……が、それを聞いても
「えっと、要するに『速く動けば動くほど凍る』魔法ってことみゃ。だから、ゆっくりと動けば凍らみゃいってことみゃー」
「なるほど! それならわかります!」
気付いたきっかけは、『天空遺跡』でのことだった。
ヴィヴィアンの《トライデント》から放たれた弾丸をフブキがアンティで防いだ時の話である。
あの時放たれた弾丸は凍らされ、
魔法の弾丸が凍らされる、これはいい。たとえば『一定範囲内の敵を凍らせる』という魔法であれば、魔法の弾丸も含めて凍らせることに違和感はない。
問題なのは、凍った弾丸の
ぽとりと、凍った直後に
高速で飛ぶ弾丸が途中で凍らされたとしても、そんな落ち方はしないはずである。そうウリエラは考えた。
どこかで落ちるにせよ、少なくとも発射された勢いがある程度殺がれたとしてもしばらくは慣性で飛び続けるはず……しかし、弾丸は地面へと真っすぐに落ちた。
「極端な話、動かなければアンティは何も効果がないみゃー。その証拠に、りえら様がいくら凍らされても、周りの地面や建物は無事なままみゃー」
「確かに!」
自分の仮説が『確信』に変わったのはついさっき。
今しがたウリエラが語ったように、ガブリエラ以外が凍らされていないことが大きな理由である。
それに、ガブリエラの割と近くに控えていたウリエラも様子を見ている間には凍らされなかった。
これらの根拠から、ウリエラは『アンティとは動くものを凍らせる』魔法だと結論付けたのだった。
正確には、アンティとは『速度を氷に換える魔法』である。
物体が動く時の速さを、慣性すらも含めて『速度』とみなし、その速さに応じて速度エネルギーを氷へと変換する魔法だ。
凍った弾丸がその場で真っすぐ地面に落ちたのも、弾丸の持つ速度全てが氷に変換されたために慣性すらも打ち消してしまった結果なのである。
また、周囲の建物や地面が凍らないのも当たり前だ。そもそも動いていないのだから。
それらを見抜いたウリエラは、どの程度の速さならば凍らないのかを注意深く観察・検証した。
結果、人間がゆっくり歩く程度までならば凍らない――より正しくは『凍ったことに気付かない』程度になるということに気付いたのだ。
「で、でもウリュ……それじゃ私たちも攻撃が出来ないんじゃ……?」
「そ、その通りです! 私のアンティは攻防一致の――」
「みゃー、だから……
確かに素早く動くことが出来ないということは、ロクに攻撃をすることも出来ないということだ。
相手に致命傷を与えることが出来ないとはいえ自身も攻撃を受けることはない――一見すると攻防一致の完璧な魔法に思える。
だが、既にその『弱点』をウリエラは見抜いていた。
ウリエラがアニメートを使ったのは地面……それも、フブキの足元の地面に対してであった。
「ひょわぁぁぁっ!?」
足元の地面が猛烈な勢いで盛り上がり、アンティを使う暇もなくフブキを突き飛ばす。
突き飛ばした先には――
「あら? 甘えん坊さんですね♪」
「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」
満面の笑みを浮かべたガブリエラの胸へと飛び込む形となった。
「りえら様、そのままハグしてあげるみゃ」
「はいはーい」
「ぎゃっ!? ちょ……待っ……!?」
ガブリエラに抱きしめられたフブキが悲鳴を上げる……が、構わずガブリエラはそのままフブキを抱きしめる。
「そう、アンティの欠点は『速く動かなければ凍らない』ってこと――だから、ゆっくりと、けど物凄く力を込めて動けばいいみゃー」
「ふぅん? よくわからないけど……このまま抱っこすればいいってことですよね?」
「……その理解で合ってるみゃー」
少し残酷かも、と思いながらも現状ガブリエラの怪力でゆっくりと抱き
――こいつが一人で出てきてくれたおかげで助かったみゃー。
多少時間はかかるが、これで確実にフブキは倒せる。そうウリエラは確信した。
もしも他のピースと共にフブキが現れたとしたら――おそらくウリエラたちは敗北したであろう、そうも思えるほどの難敵であった。
『相手の動きを止める』という点に関しては、ヒルダのオーダーと同等以上の魔法である。
単独での戦闘ではなく誰かと組んで戦うことに長けている魔法であると言える。
……それゆえ、なぜこの場にフブキしかいないのかということに疑問を抱かないわけではないが……。
「……あぅ、ぐっ……う、ウェザー……リポート……《スノードーム》……!」
「!? りえら様、気を付けるみゃ!」
ジタバタともがいていたフブキが別の魔法の名を呟く。
すると、彼女たちの周囲の気温が急激に低下し……。
「雪!?」
突如局所的ではあるが雪の粒があたりを舞った。
――ウェザーリポート……『天気予報』、いみゃ『天候操作』の魔法!? でも、このままりえら様が押し切れば……!
舞い散る雪はその名の通りガブリエラとウリエラを包み込むように『雪のドーム』を形成する。
ユニットであれば暑さ寒さは関係ないし、いかに天候を操ろうが凍え死んだりすることもない。体力はある程度は削れるかもしれないが、それでもガブリエラがフブキを抱き潰す方が圧倒的に速いだろう。
……ウリエラは知らなかった。
フブキの
そして、フブキの
「……【
苦し気に呻いていたフブキが己のギフトを解放する。
次の瞬間、舞い散る雪の結晶が突如『炎』へと変わりガブリエラたちを焼く!
「なっ……あ、熱い!?」
「みゃー!?」
想定外の攻撃に二人は慌てふためく。
特にガブリエラはパニックに陥ってしまい、フブキを離してしまった。
――あ、マズいみゃ!?
間断なく降り注ぐ炎を払おうとするガブリエラだったが、
「アンティ!!」
「くっ、しまっ――!?」
振り払う動きを凍らされ、両腕が固まってしまう。
フブキを倒しきれず脱出を許した――それだけでも拙いのだが、それ以上のことにウリエラはすぐに気付く。
「い、【消去――」
「【反転者】!」
すぐさま【消去者】でアンティの氷を消そうとするが、それよりもフブキの【反転者】の方が速く発動。
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
「り、りえら様!!」
凍らされたガブリエラの両腕が炎に包まれる。
――いや、『炎に包まれた』のではない。両腕を封じていた氷が炎に換わったのだ。
「アンティ! 【反転者】!」
「くっ……やめるみゃ!」
「そっちもアンティ!」
炎に包まれ、熱さでパニックになるガブリエラ。
もはやアンティを避けるためにゆっくりと動くということも出来ない。
結果、激しく動いてしまいアンティで凍らされ、直後に【反転者】が氷を炎に換えて更に炎に包まれる――ガブリエラとウリエラは共に全身を炎に包まれてしまった……。
これこそがフブキの
その二つだけならば、一見するとフブキとは名前の通り『雪や氷』に関する能力を持っていると相手に思わせるだろう。
加えて『雪ん子』のような見た目が更に拍車をかける。
だが、実際にフブキは『氷雪』系の能力者などではない。
【反転者】――氷を炎へ、炎を氷へと『反転』させるというギフトだ。
相手を氷漬けにして動きを封じる。これが第一段階。
だがそれでも止められない相手であれば、【反転者】を使い氷から炎へと変換――氷雪使いから一転して炎熱使いとなって相手を焼き尽くす。
故に、彼女はアビサル・レギオン内にてこう呼ばれるのだ。
――『氷炎の魔女』、と。
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