第8章54話 触れる、解ける、果てる

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「報告。例のクエストに潜入成功。クエスト内と現実の時間差が大きいため長時間の帰還は危険と判断」


「状況は混迷を極めています。貴方が気にしていた『マサクル』と遭遇。危険度は大きいと判断」


「成り行きですが、おそらくこのままマサクルとの対立になると思われます。……そうですか、ではそのように」


「? いえ、私個人としては問題ないと判断します」


「……了解。このまま潜入を続けます。次の連絡はいつになるか明言できません。それでは」




*  *  *  *  *




”ピッピ、一個確認したいことがあるんだけど”

「なぁに?」


 結局マサクルの襲撃はないまま、また一日が過ぎてしまった。

 だけどちょっと気がかりな点を見つけてしまったので、確認のためピッピを何とか捕まえた。

 今日も一日色々と仕事をしてたようで、ピッピはかなりお疲れのようだった。

 ……巫女と言ってもほぼほぼ為政者なんだし、まぁ残業することだってあるだろう。特にこの街に関する問題は(主に外部要因ばかりだけど)山積みなのだ。


”あのさ、マサクルたちが国に留まっているって話だけど”

「ええ、まだ監視からの報告は上がってないけど……」


 気がかりなのはそこではない――いや、そこも気になるっちゃ気になる点だけど、ピッピが『洗脳されたりしていない』『斥候は生きている』と判断しているのであればそれは正しいと思うしかない。

 私は尋ねた。


”マサクルたちの基地って、どんな形してるの?”

「え、形……?」


 予想していなかった質問だったのだろう、意図が読めずにピッピが混乱しているのがわかる。

 ちょっと言葉足らずだったので補足しよう。


”私たちが『天空遺跡』でマサクルたちと遭遇した時のことは話したよね? で、その時にあいつらが撤退する時に、ピースの一人が『空中戦艦』みたいなのに変形して、それに乗って移動していったんだけど……マサクルの今の基地って、それとは別なの?”


 気にしているのはそこなのだ。

 ピッピはしばし目を閉じ――


「……おそらく同じ、ね」


 と私に告げた。


”ということは、奴らは何かその場で基地を作ったんじゃなくって、空中戦艦――ルールームゥをそのまま根城にしているってことか……”

「そうなりそうね。……確かに妙ね……」


 そう、妙なのだ。

 てっきり私はハ国でマサクルが自分たちの基地を建設しているのだとばかり思っていたけど、どうやらルールームゥの変形した戦艦をそのまま根城としているようだ。

 まぁこの世界はマサクルたちにとっても異世界なのは間違いないし、そこで現地調達で基地を作るよりも今ある戦艦をそのまま使った方が楽だから、という理由も納得できなくはないけど……。


”……もし私がマサクルだとしたら、そのままルールームゥに乗って移動して『エル・アストラエア』を攻めたと思う。少なくとも私にはそうしない理由が思いつかない”

「ええ。同感ね……考えられるとしたら――うーん……?」


 自在に空中を移動でき、その上他のアビサル・レギオンメンバーを丸ごと乗せて移動できるのだ。しかも燃料の補給も必要ない――可能性としては魔力消費がありうるけど……。

 仮に魔力消費をするのだとしたら、魔法を解除しないとは思えないし、また何日も留まる必要もない。

 だというのに、なぜかマサクルはルールームゥを戦艦に変形させたまま、一か所に留まっているのだ。

 そこに何らかの『意図』があると見るのは無理筋ではないだろう。

 ……まぁ、マサクルの性格からして――他人から見たら意味のない――演出の一環という可能性もあるから何とも言えないんだけど……。

 あまり楽観的に考えない方がいいだろう、こういう場合は。


”ありえるとしたら、そうだなぁ……やっぱり現地調達で基地を作ろうとしていて、完成までの間はルールームゥを仮宿にしているとか?”

「確かに気づかれないように距離を取っているから、細かく何をしているかまでは見えてないけど……」


 自分で言っててちょっと違う気はしている。

 そもそも『基地』をこの世界に作る理由がない気がしているのだ。

 いや、もしかして私たちにわからないだけで理由はあるのかもしれないけど――でも、それって『バランの鍵』『ピッピの命』を奪うために必要なことなのだろうか?

 そうなると――さっきウリエラと相談した『気がかり』のことが、もしかしたら現実味を帯びて来るかもしれない。


”……『エル・アストラエア』侵攻の準備をしている、でもあまり距離が近すぎると邪魔される可能性がある……だからそこそこ距離があり、しかも滅亡しているハ国の遺跡を利用している……”

「『演出』の準備をしているというわけね。その演出に意味があるのかどうかだけど……」

”意味のない演出ならいいんだけどね……意味のある演出だった時に物凄く困ることになると思う”


 具体的にどう困るかと言うと……。


”――――ってことをしてくる可能性があるんじゃないか、ってさっき気付いたんだ”

「……! ありえない、とは言い切れないわね……もしを実際にやるとなると――そうか、そのためにルールームゥの戦艦に留まっている……」

”うん。まぁ私は今ピッピから話を聞くまで、ルールームゥの戦艦じゃなくて何か基地を作ってるんだとばかり思ってたけど”

「その話、他の子には?」

”一応楓には話してある。楓から椛と千夏君にも伝えるって。

 やっぱり、楓も可能性としては充分ありえる、って”


 『防衛戦』の不利なところは、相手がどんな手で攻めて来るかわからないので、文字通りありとあらゆる可能性を考慮しておかなければならないところだ。

 ただでさえこちら側の戦力の方が劣っていて、あちこちに戦力を分散できないというのに……。


”ともかく、引き続きハ国の監視は続けてもらいたいんだけど、もう一つ監視を増やして欲しいんだ”

「……そうね、ちょっと難しいけどやってみるわ。最悪、私が自分でやらないとダメかもしれないわね……」

”悪いね、巫女の仕事もあるのに”


 確かに私の思う『もう一つの監視』も可能だろう。

 巫女の仕事と掛け持ちになってしまうのは申し訳ないけど……。

 ピッピは苦笑しつつも首を横に振って答える。


「いえ、元々私の問題だもの。むしろそのくらいのこと、やらないとね」


 ……まぁ、それもそうなんだけどね。


”わかった。じゃあピッピがやるにしろ、他の誰かがやるにしろ『もう一つの監視』の方はお願いね。これが杞憂で済めばいいんだけど……”

「備えるに越したことはないわ。むしろ、備えずにラビの気がかり通りのことが起こった時の方が拙いしね」


 とにかく、防衛戦をするしかない私たちは可能な限りの備えをしておくしかない。

 幸か不幸か、マサクルたちがすぐに攻めてこないために時間の余裕自体はできているしね……。

 果たしてそれはいつまで続くのか。

 ――戦略的に考えると、意外と長く続く可能性はある……私はそう思っていた。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 異世界六日目、『エル・アストラエア』滞在三日目――

 この日もマサクルは攻めてこなかった。


”むぅ……となると――”


 ラビは自分の予想が当たっていそうな気配は感じていたが、その表情は芳しくない。

 予想が当たるということは『時間の余裕が出来る』を意味しているため、メリットがあると言えばメリットがある。

 しかし、逆に『いつ攻めて来るかわからないストレス』と『なかなか攻めてこないのでダレてきてしまう』というデメリットも抱えていると考えられる。


”いや、ここはメリットの方が喜ばしいと前向きに考えよう、うん”

「きゅっ」


 今日も子供たちは自由行動、ノワールとブランは竜体の修復に集中するということで、ラビは一人神殿に残って地図とにらめっこをしていた。

 その横には子供に着いて行かなかったのか、キューがいてラビを真似しているのか地図とにらめっこをしている。


”……君、本当に一体なんなの?”

「きゅ?」


 最初はマサクルが送り込んだモンスターなのかと思ったが、この世界に住んでいる小動物なのは間違いないようである。

 その点に関してはピッピが保証してくれたのでラビとしてはもはやキューは疑っていない。

 ……ただ、ピッピも『違和感』のようなものを感じているとは言っていた点だけは気になっている。それでもやはり普通の動物であることだけは確定しているので気にするほどでもないだろう、と結論付けている。

 何よりも子供たち――特に撫子がキューに対しては警戒をしていないというのが大きな判断材料となっていた。


”……むー、なっちゃんが懐くってことは悪い子じゃないんだろうねー、キューは。って、オカルト頼りになっちゃうのはどうなんだろ……”

「きゅっ、きゅきゅーっ」


 ピッピも仕事でいなく、一人で地図を見て考え事をしているのもちょっと虚しくなってきたラビはキュー相手に語り掛ける。

 理解しているのかいないのか、それでもキューが何かしらの反応を返すのを見ると、案外本当に言葉が伝わっているのではないかと思えて来てしまうラビであった。


”ねぇキュー。君だったら……この都市のどこが危ないと思う? 逆に考えたら、どこから攻めるのが一番いいと思う?”

「きゅー……きゅっ?」


 ラビの言葉に対応するように、ぺしぺしと地図を前脚で叩いてみせるキュー。


”……! う、うーん……やっぱり言葉通じてるのかな……いや、まさかね……”


 地図のある一点――キューが叩いたそこは、正にラビが『危ない』と感じていたところと一致していたのだ。

 ただの偶然か、あるいは言葉が通じた上でなおかつ戦術的な視点での判断なのか、それとも今までのラビの目線を見て真似して叩いてみただけなのか……。

 それはともかくとして、ラビが危ないと考えている箇所は幾つかある。


”全部に同時に攻撃を仕掛けられたら……流石に守り切れないけど――うーん、でも避難を優先してもらえれば……”

「きゅぅ?」


 ぶつぶつと呟きながら、ラビは再び自分の考えに没頭していった。

 ピッピのことを言えないラビなのであった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「よし、いい感じだぜ!」


 神殿とは神樹を挟んでちょうど裏側に当たる場所――かつては農場であったと思しきだだっ広い場所で、アリスは満足気に頷く。


「みゃー……とんでもないこと教えちゃったかもみゃー……」


 広場に空いた大穴を見て、ウリエラは呟く。

 ここは既に誰も使っていない場所であり、魔法の練習台として使用してもいいとピッピから許可を得て、アリスは新魔法の実験に来ていたのだ。

 そこで昨日ウリエラ、そして後からやってきた椛の意見を元に対クリアドーラ、そして対『ラグナ・ジン・バラン』用の魔法を試していたのだが……。


「流石に核爆弾は難しいか。しかし、クリアドーラ向けならこういう魔法で丁度いいかもな」

「あとは、街中でも使える魔法かと」


 この場にいるのはアリス、ヴィヴィアン、ウリエラの三人だ。

 ヴィヴィアンも幾つか新しい召喚獣を実験する、ということで来ている。

 ちなみにウリエラは、アリスたちが壊した広場をビルドやアニメートで直すために来ている。それと、万が一魔法が暴発して都市部や神樹に被害を及ぼしそうになった時に、【消去者イレイザー】で打ち消すためだ。

 幸いにも、今のところは【消去者】の出番はない。


「ふむ、ウリエラ。貴様の魔法で《ゴーレム》を作ってみてくれぬか? 的があるのとないのとでは全然違うからな」

「わかったみゃー。そんなに大っきくなくていいかみゃ?」

「……そうだな、中くらいのモンスターくらいで頼む」

「でしたら、わたくしも同時に召喚獣で補佐いたしますので、《ゴーレム》をアニメートで操作していただけますか? 逃げ回るようにしていただければ」

「……わかったみゃー」


 注文の多い子供たちだ、と思いつつもウリエラは特に拒否はしない。

 ここでアリスとヴィヴィアンの新魔法をしっかりと試しておくことは、決して無駄にはならない。

 実際、『エル・アストラエア』内部で敵と戦うことになった場合、特にアリスの新魔法は周辺の被害を抑えつつ敵と戦える良い魔法だと考えている。


「ビルド……《ゴーレム》、アニメート……」


 ウリエラが作った《ゴーレム》は身の丈3メートル程のかなりの大きさではあったが、身体は意外と細くて動きが俊敏だ。

 それをアニメートで操作し、広場内を逃げ回らせる。


「よし、征くぞヴィヴィアン!」

「かしこまりました、姫様」


 注文通り、《ゴーレム》にはアリスたちへの攻撃ではなく逃走――というより回避に専念させる。

 実際に戦うモンスターやアビサル・レギオンのピースたちには遠く及びはしないが、確かに動かない的を狙って練習するよりは効果的だろう。


 ――まー、こういうことも必要みゃー。


 ウリエラ自身は魔法の練習をしてもそこまで意味はないし、新魔法を作り出すような余地も少ない。

 だからアリスたちの特訓に付き合いつつ、色々と考えを巡らせる。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「ちゃんばらー!」

「う、うん、そうだね撫子……」

「……いや、チビ助大丈夫なのか……?」

「にゃはは、まーあたしが見てるし、バンちゃんが本気でひっぱたかなければ大丈夫にゃ」

「……本気じゃなきゃ練習にならねーんだけど――いやまぁいいか」


 一方、神殿近くの広場にて、千夏、撫子、椛、雪彦は『チャンバラ』をしていた。

 元々は千夏が一人で素振りをしようとしていたのだが、そこに雪彦がやってきて『僕を鍛えてください!』とお願いをしてきて千夏が快諾。

 かつてありすに剣道の指導をした時同様に雪彦に教えていたのだが、今度は散歩の途中だった撫子と椛が合流してきた。

 ……先日の『おままごと』で、地元の幼児たちと熾烈な旦那様千夏争奪戦を経験した撫子は、今まで以上に千夏にべったりになってしまっていた。

 『お姉ちゃん、複雑な思いにゃー』と椛も苦笑いしているものの、特に撫子を止めたりはしない。

 撫子も聞き分けはいいので、千夏が他のことをしている時に割り込もうとはしてこない。


「そら、じゃかかってきな」


 保護者がいいと言うなら構わないか、と千夏は撫子も交えて剣術教室――あらためチャンバラをすることに。


 ――考えようによっちゃ、何気にチビ助も剣使えるようになるのは悪くないんだよな。ユキもそうだけど。


 ガブリエラの武器型霊装は巨大な『鍵』、扱い方は剣に似ている。

 力任せに振り回すだけでもガブリエラのステータスからすれば十分な威力ではあるが、きちんとした扱い方を覚えれば大きな戦力アップとなるのは待ちがいない。

 クロエラにしても基本はメルカババイクに乗っての高速移動が本分にしても、分解魔法ディスマントルによるハンドルブレードなどの格闘戦も行える。

 二人とも近接戦闘能力を鍛えるというのは悪くない選択なのだ。

 今回はヴィヴィアンがいないので『当たっても痛くない剣』はないが、おもちゃの剣があったのでそれを使っている。




 はた目にはお兄ちゃんに遊んでもらっている妹二人、という感じではあった。

 チャンバラと言いつつ、途中から撫子は剣を放り出してプロレスごっこに変わってはいたが……。


「……バンちゃんって、小さい子の面倒見もいい方だったにゃ~……」

「そうか? まぁ遊びにくらいなら付き合えるけどな」

「残念。お風呂とかもお世話できたら、あたしも楽になるんだけどにゃ」

「……その時ゃおめーは用済みだな」

「! おふろ! にーたんと!?」

「……ほら、おめーが余計なこと言うから……」

「にゃはは」


 結局、いつも通り撫子のペースで物事は進んでいくのであった。


「……うっ、僕の特訓だったのに……」


 元々は雪彦が千夏に鍛えてもらう、という趣旨だった。

 それが全く変わってしまったことに不満――ではなく泣きそうになる雪彦であった。


「ユキ、まぁいいじゃねーか。おまえだって無理してありんこみたいになる必要なんてねーよ」

「で、でも……僕も強くならないと……」


 雪彦の中には、ジュウベェ戦の時の記憶が悪い意味で残ってしまっている。

 最初の戦いでは自分一人が生き残ってしまい、最後の戦いでは結局アリス任せになってしまった。

 ――自分は役に立てていない。

 それが雪彦の自分に対する評価だった。

 そんな思いを理解した千夏は、くしゃくしゃっと雪彦の頭を乱暴に撫でる。


「うわっ、兄ちゃん……!?」

「お前の気持ちはよくわかる。だからこそ言うが、。そういう時に焦って何かやろうとしても、空回りするだけだからな」

「にゃふふっ、経験者は語るにゃ?」

「……そうだよ」


 学校でのことも、そしてクラウザーのユニットとして活動していた時のこともラビから聞いて知っている椛は茶化すが、素直に千夏は認める。


「ま、『男』だもんな。周りの女子がなのもあって焦るだろうが……いいんだよ、自分のペースでやれば。

 無理して変なペースでやろうとしてもロクなことにならねぇからな。自分てめぇがしくじって痛い目見るだけならともかく、周りに迷惑かけることもある。そっちの方が……嫌だろ?」

「う、うん……」


 確かにその通りだ、と雪彦は素直に納得する。

 自分が失敗するのも嫌なことは嫌だが、そのせいで姉妹が窮地に追い込まれる――等あってはならない。

 わかっていたはずなのに人に言われるまで自覚は薄かった。

 えてして人間とはそういうものではあるのだが。


「でもま、迷惑かけても俺とか姉ちゃんたちがケツくらい拭いてやるからさ。な?」

「うん? うーん、まぁ弟を助けるのもお姉ちゃんの役目にゃー」

「うぅ……」

「今はさ、細かいこと気にせず好きなようにやればいいさ。……ありんこ程とは言わないが、まぁお嬢くらいには能天気にやってた方がいいぞ」


 桃香本人が聞いたら憤慨しそうなことを言うが、誰もそれに対して突っ込みは入れなかった。


「う? う? なっちゃんはー?」

「んー? チビ助は……ちゃーんと姉ちゃんの言うこと聞くんだぞ?」

「わかった! なっちゃん、ねーたんのいうこときく!」


 半分は適当だが半分は本音である。

 撫子の場合は好き勝手にやらせるのには色々と不安はある。ある程度は姉たちにコントロールしてもらった方がいいだろう――少なくとも『ゲーム』の間は。


「そら、どうする? チャンバラはもうおしまいか?」

「! やる!」

「ぼ、僕も!」


 期せず真面目な雰囲気になりかけたところで、千夏が空気をリフレッシュする。

 撫子は顔を輝かせて放り投げたおもちゃの剣を手に、雪彦も同じく千夏に向かって剣を構える。


「よし、来な!」


 ――果たしてこれが特訓になるのかどうかは微妙なところだが、もやもやはひと暴れして吹き飛ばすに限る。

 そう千夏は思うのであった。




 ただし――


 ――ま、兄ちゃんの失敗は自分てめぇでケツ拭かなきゃいけねーんだけどな……。


 千夏の抱えた思いは多少暴れたところで晴れるものではない。


「バンちゃん……」


 千夏の事情を知っている椛は、彼が何を思っているのかももちろん理解している。

 理解した上で――それでも声を掛けられず、いつものおちゃらけた雰囲気を引っ込めて心配そうに、遠巻きに弟妹と遊ぶ千夏のことを見つめるのみだった。

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