<検閲済み>

検閲――再開


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 ――その後、私とピッピは現状と今後の方策の相談を一通りした。


”……むぅ、結局――、ってことか……”


 色々ととんでもない荒唐無稽な話をしてきたし、それが事実であることは私自身も納得した。

 でも、その超現実の体現者であるピッピからしても、結局『私が何者であるのか?』に納得する答えを出せないでいたのだ。

 まぁ……私についての話はヘパイストスに関する話には関係ないだろうし、わからなくても構わないっちゃ構わないんだけどね……。


「ごめんね、ラビ……前にも言ったけど、あなたの話は私にとっては『妄想』にしか思えないのよ……」

”……この期に及んで尚喧嘩売りますか、この駄■■様……”


 当人にその気はないだろうし事実そうとしか思えないんだろうけど。

 うーん……いくら何でも私の『前世の記憶』が妄想の産物とかは考えにくいんだよなぁ……。


「『C.C.』の■■間において、『異世界転生』っていうのは基本的に起こりえないものだからね……」

”ふーん? そういうものなの? なんかそんな感じの小説とか結構普通にあったからあるもんだと思ってたけど”


 まぁ創作の話だけどさ。

 だが意外にも真面目な表情でピッピは私に言った。


「いえ……『C.C.』■■下の人の創作までは別に否定しないわ。ただ、S■■の視点からすると……ちょっとにありえない話なのよ」


 ……深く掘り下げるつもりはなかったけど、ちょっと興味湧いてきたので乗っかってみようかな。


”『理論的』なの? 『論理的』ではなく?”

「ええ、『理論的』で合ってるわ。ちょっと専門的な話になっちゃうけど……『C.C.』で■■■た■■は各■■ごとに『魂の色』というのかしら? そういう埋めがたい差があるの。

 例えば、私のD■■とA■■に住む生き物は、例え見た目が似ていたとしても『魂』――S■■のレイヤーからしてみれば全く異なる生物、というわけね。

 だから仮に『魂』だけがどこか別の■■に行って生まれ変わることがあるとしても、それは同じ『C.C.』■■内でしか成り立たない……というのがS■■では理論として確立されているわ」


 む、むぅ? 『魂』とか、S■■が絡みだすと途端に私にとっては抽象的というか概念的な話になってわかりにくくなるな……。

 私の困惑した表情を見てピッピは補足する。


「……そうね、アクアリウムを思い浮かべてみて。淡水魚と海水魚の水槽が横に並んでいたとして、淡水魚を海水魚の水槽に移動したとしても生きていけないでしょう?

 それと同じことが『C.C.』■■間で起こると思っていいわ――何となくでもわかるかしら?」

”う、うーん……そうだね、何となくなら……”


 生きている世界が違うため、異なる世界では本来ならば生きられない。そういうことなのだろう。


「まぁそもそも、アクアリウムの例で言うなら――淡水魚は自力で海水魚の水槽には移動できない、というレベルの話ね。しかも、その水槽は透明の壁じゃなくて真っ黒の板で仕切られていて、そもそも隣の水槽の存在を認識することが出来ない……って感じかしら」


 ああ、なるほど?

 仮に魚に隣の水槽を認識する知能と、隣に移動したいという意志の両方があったとしても、物理的に『隣に別の水槽がある』というのを知る術がなく、また移動する手段もないということか……。


「この■■間の断絶を私たちは『プロメテウスの境界』と呼んでいるわ。各■■のレベルでは超えることは出来ない、S■■のレベルの壁ね。

 仮に別■■への転生が可能だとして――やはり同じ■■内でのみが限界のはずよ。

 あ、これは同じ人物が同じ枠内で■■を■■た場合ね。言うなれば……『同じ■■に別の■を■■た』という感じの時のみの場合になるわ。

 実は私はD■■以外にも二つ■■を管理しているんだけど、三つの■■は全部異なる枠で設定しているから、例え私であっても■■間の移動は難しいわ――不可能ではないんだけど」

”ピッピ、意外に『C.C.』に嵌ってるんだね……まぁそれはともかくとして、じゃあ私は――A■■と同じ次元にある別■■から来たってことになるのかな……?”

「ありえるとしたらそれしかないんだけど……私の知る限り、プロメテウス様はA■■は単独の、外から干渉されないスタンドアローンな■■として設定していたはずだわ。

 ……それに、あのA■■は奇跡的なバランスで成長した■■と言ったわよね? 正直、あのレベルの文明を維持し続けるどころか尚も成長を続ける■■って、他に例がないくらいなのよね……でもラビの前世はそれと同じレベルだっていう話だし……」


 ふーん? それは意外だな……。

 本題には関係ないけど、それって『地球同等の文明を持つ世界は珍しい』って意味だし、ある意味では宇宙人の存在を否定しているってことになりそうだ。


「……いや、そうか、もう一つあったわね」

”ん? 別の転生ルートがありえるってこと?”

「そうなんだけど……ただ、ちょっとこれも難しいかも? って感じね。

 『C.C.』の■■同士での『魂』の移動をするんじゃなくて、一度S■■を経由して……ならいけるかもしれないわ」


 S■■を経由っていうと……あれだな、転生物とかでよくある『死んだ後に神様の世界に一度行って……』的な展開かな。


「まぁこれでやれるとしても、結局は自分の■■している■■同士じゃないと難しいかもね……」

”むぅ、やっぱりわからずじまいか……”

「あなたに関しては私ではもうお手上げよ。それこそ、プロメテウス様に聞いてみるしかないかもしれないわね」


 私の正体を探ることはマストではないけど、気になるっちゃ気になる。

 果たしてプロメテウスが知っているかどうか……それ以前に行方不明のままなのをどうにかしなければならないか。

 と、そこで私は別のことが気になった。


”そういえばさ、『ラグナ・ジン・バラン』ってヘパイストスが創ったものなんだよね? ■■間の移動が難しいっていうならどうやって侵略してきてるの?”


 転生が理論上ありえないのはわかった。

 だったら同じように異■■から侵略してきている『ラグナ・ジン・バラン』はどうなのだろうか?

 ああ、とピッピは頷いてから説明する。


「そういえばそこは説明していなかったわね。

 『難しい』と『不可能』は違うわ。あなたにわかるように表現すると、『ハッキング』……かしらね? そういう不正な手段を使って異■■のものを送り込むことはできるのよ――もちろん技術的にやれる人に限られる、■■者が完全放置でもしていない限りはすぐに気付けるけど。だから……わかりやすく言えば、『異世界転移』は力技で解決可能ってことになるわね。

 それで『ラグナ・ジン・バラン』については……完全に私が油断していたせいでもあるんだけど、本当に小さな『種』だけをまずD■■に送り込んできたの」

”種……?”

「そこは比喩だと思ってちょうだい。『C.C.』の■■に別の■■のものが紛れ込んだ時、■■者は簡単に気付けるようになっているわ。さっき説明した『魂の色』が違うものがあるとすぐにわかるの。

 でも、ヘパイストスが送ってきたのは、ほんの少しの違和感も抱かせない小さなものだけだった……。

 その『種』は言わば『工場』のようなもので、それが『ラグナ・ジン・バラン』を作り出していたの」


 なるほど……昔懐かしいコンピュータウィルスみたいなものか。

 始まりは気付けないくらい小さな一点しかなかったのが、時間が経過するにつれて爆発的に増殖――気が付いたらもう手に負えない状態になっていた、ってことみたいだ。

 アクアリウムの例で言えば、海水魚の水槽に全く想定していない生物の卵を置いておいて、それが孵化したら一気に元の水槽の住人を襲い始める……みたいな感じかな。

 特定外来生物と同じか……。


”つまり……『ラグナ・ジン・バラン』の製造工場はD■■内にある、と思っていいのかな?”

「その認識で間違いないわ」


 ふむ、じゃあヘパイストス問題を解決するに当たっては、最終的にはその『工場』も何とかしないといけないってわけか。

 ……いや、あるいはこちらから『工場』に先制攻撃を仕掛けるというのも一つの手かもしれない。

 その提案をピッピにしてみると、少し難しそうな顔をして考え込んでしまう。


「難しいわね……いえ、でもユニットの力があればなんとかできなくもない……かしら……?」

”そもそも『工場』ってどこにあるの?”


 場所さえわかればなんとかできるかもしれない。

 だが――『工場』のありかは私の想像を超える場所にあった……。


「――『宇宙』よ」

”……は?”

「だから、この星の上にはなく宇宙――そうね、人工衛星とかがあるくらいの場所にあるのよ……」


 ……マジか……。


”ユニットって、宇宙空間では動けるものなの……?”

「どうかしらね……呼吸とか気温とかは関係ないはずだけれど、水中同様に自由に身動きは取れないかもしれないわね……宇宙用の魔法を作らない限り……」


 うーむ……ちょっと流石に厳しいかな……。

 可能性としてありえるのは、アリスの《神馬脚甲スレイプニル》で飛ぶとか、ヴィヴィアンの召喚獣で何か宇宙用のを作るか、あるいはクロエラの走行魔法ドライブで何とかするか……くらいか。

 でも仮に宇宙へと行けたとしても、圧倒的にスピードが足りない。

 詳しい距離は私は覚えてないけど、そもそも人工衛星のあるような位置って相当な距離があるんじゃなかったっけ? 魔法で全力で飛んだとしても時間がかかりすぎると思う。

 その間に向こうが何もしないというのであれば問題はないけど、そんなわけないしね……。


”うーん……それじゃやっぱりまずはヘパイストスを何とかしてから、工場を狙うしかないかな……”

「工場については『バランの鍵』の封印が効いている限りはそこまで問題ないはずよ」

”ん? そうなの?”

「ええ。D■■での時間でおよそ200年前――かつての英雄たちが工場に乗り込んで停止させたの。その時の封印が『バランの鍵』になるわ」


 そうだったのか……。

 『バランの鍵』で封印されていたのは『ラグナ・ジン・バラン』そのものだけじゃなくて、生産工場自体だったってことになるのか。

 あるいは円熟期の『ラグナ・ジン・バラン』をコントロールする機能もあったのかもしれない。


”じゃあ今地上にいる分を倒せば『ラグナ・ジン・バラン』については問題なくなるのかな?”

「概ね、ね……まぁ何かの拍子に停止した円熟期のものが起動することがあるから、最終的には工場自体も破壊しないといけないけど……後回しでもそこまで問題ないはずだわ」


 となると、やっぱり『バランの鍵』も守り切らないといけないわけか。

 マサクルたちだけでもかなり厄介なのに、それに加えて『ラグナ・ジン・バラン』たちまでは流石に相手にしきれない。


”こちらの戦力は私のユニット7人……”


 後は一応オルゴールもいるけど、私のユニットじゃないし最後まで付き合ってくれるかどうかはわからないから一旦除外しておく。


「……ノワールたち結晶竜インペラトールが修復中というのが痛いわね……それに、インペラトールやモンスターに憑りついて操る『魔眼』か……」

”あれも結構謎なんだよね……”


 マサクルがピースとは別に作った何かなのは間違いないんだけど。


「たとえノワールが復活したとしても、『魔眼』がある限り全力では動けないか……」


 ノワールはまだともかくとして、ルージュたちだと魔眼2個で完全に乗っ取られてしまう。

 魔眼の在庫が後どれだけあるのかはわからないが、『天空遺跡』で品切れになったとは流石に楽観はできまい。


「……残念だけど、D■■の人類ではユニットはおろか『ラグナ・ジン・バラン』にも対抗できないわ……」


 ま、そこはそうだろう。だからこそピッピは『ゲーム』に参加しユニットの力を借りようとしたのだから。


”……じゃあ、マジでまともな戦力は私たちだけか……うー……”


 流石に厳しい。

 今までも数で圧倒的に劣るという戦いは幾つもあったが、それでも何とかなっていたのは『相手は数は多いけどユニットの敵ではない』というのが主な理由だった。

 でも今回は質でも相手は劣っていない。それどころかこちらを上回っているとさえ思える。

 その上で『ラグナ・ジン・バラン』というモンスターじみた兵器の群れまでいるし、更に魔眼種だって現れる可能性がある。

 ……ちょっと投げ出したくなるくらいの、絶望的な戦力差だな、ほんと……。


「元々の想定が『ラグナ・ジン・バラン』の殲滅だったからね……まさかアビサル・レギオンなんてものが出て来るなんて……」


 『ラグナ・ジン・バラン』だけなら、相手の強さによりけりだけど私のチームとピッピのチームで何とかなったかもしれない。欲を言えばもう少し人数は欲しいところだけど。

 その想定でピッピはいたというのにアビサル・レギオン、そして魔眼種まで出て来てしまったからなぁ。

 もう後3チームくらいは欲しい。マジで。

 ……ま、言っても仕方ないことだけど……。


”まぁ今後の方針については私たちだけで話していてもいい案はこれ以上浮かんできそうにないし、楓たちにも相談しよう”

「そうね……」


 子供たちに頼らざるを得ないのを情けなく思う大人二人であった。


”それはそうとさ、ここに来るまでの間に私たちが『テン』に行ったことは話したよね? その時にノワールが見た『神樹ジン・ディ・オド』が無くなっていた件について聞きたいんだけど”

「……そうね、その件についてはしっかりと話しておかないと拙いわね……」

”後、ノワールたちについても聞いておきたいかな? こっちはまぁほぼ興味本位ではあるんだけど”


 どちらも『アストラエアに聞け』と投げられてしまった疑問だ。

 前者については――ある程度私の中で予測は出来てはいるんだけど、やっぱりきちんとピッピの口から聞いておきたい。


「わかったわ。じゃあ――ノワールたちインペラトールから話しましょうか」


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