<検閲済み>

検閲――再開


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「私が『ゲーム』を利用してヘパイストスの目的をどのように防ごうとしていたのか――その説明のためには、まず『ゲーム』そのものについて明かさなければならないわ」


 ピッピは語る。


「『ゲーム』……『M.M.』と言うで呼ばれているけど、正式名称は『マギノ・マキア』――『魔法大戦』よ」


 ん? ちょっとひっかかるネーミングだな……。

 私の疑問を先読みしたか、ピッピは続ける。


「元々はいわゆる『対戦格闘ゲーム』……が主軸だったの。色々と方針を変更した結果、対戦機能もあるハンティングゲームって感じに落ち着いたけどね」


 仕様変更、あるある。

 ……気のせいか胃が痛くなってきたけど。

 ま、それはともかく――


「今ラビたちがプレイしているのは『ベータテスト』版になるわ。ここでのテストプレイの結果を元に、本番をもっとブラッシュアップしていく予定ね」

”ふーん……つまり、ピッピにしろ他のプレイヤーにしろ、いわゆる『ベータテスター』ってわけか”


 うーむ、こういうところは何か普通のゲームと同じなんだな……。

 なんかますますS■■が胡散臭く思えてきたけど。


「先に触れた通り、S■■は『C.C.』■■とは全く異なるわ。それこそ、常識どころか物理法則自体も異なっている――これはまぁ『C.C.』■■間でもそういうことが多いんだけど……。

 ともあれ、今行われているベータテストが終了した後、『C.C.』■■の時間ではほぼラグタイムなしに本番稼働が始まることになると思うわ」


 ピッピが前に言っていた『猶予時間』も含めてのベータテストなのだろう。


「もう少し詳しく『M.M.』について説明する必要があるわ」


 それが必要なことならばいくらでも聞こう。


「『M.M.』は本来の仕様なら、私たちS■■の■■がアバターを直接操作することになっていたわ。

 でもベータテストでは……その……」


 言い淀むピッピ。

 ……あ、そういうことか……癪だけど、ここはマサクルの言う通りだったわけか。


”いや、わかるよ。きっと、、ってことなんでしょ”


 マサクルは言った。


 ――もし、万が一ユニットの死イコール本体の死、ってなった時に、なんだぜぇ?


 ……これは本当の意味での『テスト』なんだろう。

 ユニットの死イコール本体の死となった時、S■■の■■に一体どんな影響があるかわからない。

 ピッピの言葉が正しければ死ぬことはないんだろうけど、かといって本当に安全かどうかは未知数だ。

 だから『ゲーム』の舞台に選んだ世界の人間をユニットにしてテストをすることにした。

 そして現地の人間からしたら全然足りていない『配慮』として、何かあった時の影響を小さくしようとして子供を選んだ――そういうことなのだろう。くそったれめ。

 私の言葉が正しいのだろう、ピッピは項垂れる。


「……ごめんなさい……」

”ピッピが謝ったって仕方ないことでしょ。それに、私に謝るのも違う”

「そうね……でも、あの子たちにこのことは話せないわ……」


 つい刺々しい態度になってしまったけど……まぁ自分で言った通りピッピに言っても仕方ないことだ。

 はぁ、と大きくため息を吐いて一旦心の整理を済ませ、私はに話を進めようとする。


”……ここで『ゲーム』の是非について問答しても意味がない。ピッピ、続きをお願い”

「……ええ、そうね……」


 簡単に割り切れはしないし許せもしないけど、もう起きてしまったことは変えられないのだ。

 ……ああ、もう……感情の波の上下が激しすぎる……! 押し込めるにも限界ってもんがあるんだけどなぁ……。


「――本番ではもちろん無関係の世界の住人を巻き込むことはないと約束するわ。S■■の■■がアバターを使うことになるのは間違いないわ……」


 ……本当にそうなってくれることを願う。


「それで、そのアバターの作成技術については、ある程度までは『C.C.』のものを流用しているわ」

”? 私はヘパイストスがアバター作成者って聞いたことあるけど……?”

「それも間違いではないわ。

 ……ねぇラビ。私自身はS■■の■■だっていうけど、じゃあ今あなたと話している『この身体』はどうだと思う?」

”どうって……あ”


 そうか、そういうことか。


”『C.C.』で■■の■■た■■の中に入り込む方法――それがアバター!”

「そういうこと。まぁ住人の中から『相性がいい』ものを選んで……そうね『憑依』するっていうこと自体は前から出来たんだけど、そうじゃなくて『その■■の■■として活動する』ように出来る技術を創ったのがヘパイストスなのよ」


 似ているようで全く事情は異なる。

 『憑依』するのではなく、言うなればその世界の住人として紛れ込むことが出来るようになる技術……それが元々のアバターというわけか。

 ピッピはそれを使って『巫女・アストラエア』としてこの世界にいるってわけだ。

 ……その巫女の正体が■■■そのものなんだから、何というか自作自演っぽいな……。いや、まぁいいけど。


「ヘパイストスの創ったアバター技術を使って、あのユニットを創り出す――ここまではいいわね?

 で、創ったアバターだけどそのままだと『中身』がないから動かすことが出来ない……」

”……その中身を動かすために、本来ならS■■の■■が本当は入り込む。でもテストプレイでは現地――A■■の子供たちが入ることになる”

「そう。そしてアバターを動かすためにはS■■と同様のレイヤーでなければダメなの。

 『C.C.』によって■■■■■■の■■は、ある意味ではS■■の■■と同様の……そうね、いわゆる『魂』の質を持っているわ。これは、まぁ『C.C.』の影響でS■■が『意志』を持ったことによるものだと思うけど……。

 ともかく、『ゲーム』のユニットには人間の『魂』が必要なわけね」

”…………それって、めちゃくちゃ危険にしか思えないんだけど……”


 実際、千夏君はそれが原因で危うく死ぬところだったみたいだし。


「もちろんそうならないように幾つもの防御策は用意しているわ。S■■の■■にしても、『魂』が消滅するのは『死』を意味しているからね……。

 …………まさか、それを見越しては……?」


 話をしながら何かに気付いたピッピは深刻な表情で考え込んでしまう。

 ……『ゼウス』……?


”ピッピ、ゼウスって?”


 彼女に考え込ませると長くなる。

 気づきそのものは重要なのかもしれないけど、私にとっては二の次だ。


「あ、ああ、ごめんなさい。ゼウスは――『M.M.』の開発者よ。あなたたち風に言うなら……そうね、総合ディレクター兼プロデューサー兼開発チームのリーダーと言ったところかしら」


 ……仕事多すぎない? いや、人間のやるゲーム開発と一緒に考えても仕方ないのか。

 うーむ、それにしても『ゼウス』か……すごい名前だなー……。


”そのゼウスがどうかしたの?”

「あ、いえ……ちょっと何とも言えないけど――そうね、このことについても後で話すわ。私とヘパイストスとの問題については、特にゼウスは関係ないから一旦忘れてちょうだい」

”……ふーん……?”


 誤魔化されたような気はするけど、後で話すというのであればこの場は置いておくか。


「……あなたにも思うところがあるとは思うけど、『ゲーム』のユニットにA■■の子の『魂』が使われる、そしてその仕組みは私たちが各■■でアバターを使うのと同じ仕組みだというのは理解して欲しいの」

”まぁ、それは今更文句言ったところでどうにかなるものでもないし、仕方ないけどさ……”


 ここでブチブチと文句を言い続けても何の進展もない。

 私はまた一つ心の奥底に感情を押し込めることにする。


”んーと、ピッピが今『巫女・アストラエア』の身体をアバターとしているってことは……もしアバターが死んだらピッピも死んじゃうって理解でいいの?”


 言葉を濁しても仕方ない。私はさっさと切り込む。


「いえ、アバターが死んでもは死ぬわけではないわ。そこは『ゲーム』での死と同じね」


 なるほど。そこの仕組みがもし上手くいかなかったら大変なことになるけど、そうでなければ『ゲーム』と同じく復帰リスポーン待ち――『C.C.』の場合だと違うんだろうけど――になるということか。


「ただアバターを失ってしまったら、次のアバターを用意するまでの間に■■に対して■■を発揮することが難しくなるの。不可能ではないんだけど、思うようにはいかなくなっちゃうわね。

 特にS■■側からだと、あまりに『C.C.』■■はミクロすぎて細かいところが見えなくなってしまう――例えば特定の個人をテレポートさせようとしたら、周囲一帯ごと移動させちゃうような感じのおおざっぱな操作しかできなくなるわ。

 だから、今の私が死んでしまうとD■■に対してほとんど何もできなくなっちゃうのよ……そうならないために複数のアバターを事前に用意しておくって選択肢もあったんだけど……」

”用意はしてないんだ?”

「ええ……その、アバターを作るのにもお金や時間が必要だし、私の場合は送り込んだアバターが完全に■■と化しているから、そのアバターの存在についての辻褄合わせが必要なのよね。だから複数アバターを常に置いておくわけにもいかないの」


 ■■を自在に操作する■■はあるのに、本来のS■■の視点だとあまりに世界は小さすぎて細かな対応ができなくなってしまうってことか。


”ふむ……ヘパイストスが狙うのは、その隙ってわけだね”

「ええ、おそらく。そしてあわよくば……D■■の■■を乗っ取ることも画策しているかもしれないわ」


 あれか、パソコンのウィルス? マルウェア? それとも不正アクセス? とにかくそんな感じか。

 ……もしピッピに替わってヘパイストスがD■■の■■者になったとしたら、この■■の■たちがどうなるのか……想像に難くない。

 S■■の■に思うところはあるけど、だからと言ってD■■の■がどうなろうと構わないとまでは思わない。彼らだって、ありすたちと■■『■■■■■』存在なんだから……。


「それで『M.M.』の話に戻るけれど、あのゲームの舞台がどこかって……ラビはわかる?」

”――このD■■、そして他の同じように■■■■様々な異■■、だね?”


 私の言葉にピッピは頷いて肯定した。

 ……奇しくもこの街に来る途中でアリスたちが想像した通りだった。

 『ゲーム』の舞台となる世界はD■■だけではない。他にも『C.C.』で■■た様々な■■が舞台となっていたのだ。

 正に、『異■■は一つとは限らない』……だったわけだ。


「その通りよ。そして、『M.M.』に■■の一部を提供するに当たって、各■■の■■者は『M.M.』運営に■■権の一部を譲渡しているわ」

”……それはつまり、運営がある程度各■■を自由にいじれるってことでいい?”

「その認識で合っているわ。

 譲渡された■■権を使ってユニットとなるアバターを創り出し、魔法をエミュレートして現実のものとして発動させる――後はクエストの境界を作ってアバターや標的のモンスターが外に出れないようにしたり、ね」


 むぅ……何度も言うようだけど、正に『■の力』としか言いようがないな……。


「ここからが肝心なところなんだけど、■■権を一部譲渡するということは、運営も各■■の様子は見れるということ。もっと言えば、他の使い魔たち――テストプレイヤーがゲームに参加するという形で他の■■を覗けるということを意味するわ」

”ふむん?”

「私が『M.M.』に■■の■■を提供した理由――それは、他人の目による監視さえあればヘパイストスが迂闊に手を出せなくなると思ったからなの」

”! ああ、そういうことか!”


 なるほど、確かにそれは理由としてわかる。

 今まではピッピとヘパイストスだけの内輪のもめごとで、話の感じからヘパイストスはそれをもみ消す――あるいは自分の仕業だという証拠を残さずに悪事を働いていたのだけど、『ゲーム』の一部としてD■■が使われたとしたらそうもいかなくなる。

 『ゲーム』の範囲外でちょっかいを出すことは無理じゃないけど、今まで私たちが経験してきたように本来『ゲーム』の範囲じゃないものが紛れ込んでくることは多々あるのだ。

 そこで第三者にヘパイストスの仕業だという明確な証拠を見つけられたらやりにくくなるだろうし、上手くいけば『■よりも重い刑罰』を課せられる可能性が出て来る。


「そして、私は『M.M.』が本格稼働した暁には、D■■をそのまま舞台として提供するつもりよ。もちろん、住人のいない地域に限るけど」

”なるほどね。

 前にピッピが言っていた『ゲームの期間中にヘパイストスが動かざるをえない』理由はそれか……”


 ベータテストが終わり本格的に運営がD■■を『ゲーム』の一部として扱おうとすると、大っぴらに侵略することは不可能となる。

 もちろん今だってギリギリなんだろうけど、それでも本格的に運営が管理し始める前なら隙はある。

 だから危険を承知でヘパイストスは『ゲーム』期間中に動かざるを得ないというわけか……。

 ……いや、待てよ? ひょっとして……。


”……ピッピ、思ったんだけどさ、やっぱりマサクルってヘパイストスと同一人物じゃないかな?”

「あら? 急にどうしたの? ……いや、私もほぼそうじゃないかとは思っているけど……」

”マサクルが連れてきた『アビサル・レギオン』――あれならもし運営や他の人の目に留まってもが効くと思うんだよね”

「あ……確かに……」


 そういうことなんじゃないだろうか。

 悪趣味な演出、そして『ユニットと同性能』という卓越した戦闘力を持つという以外にも、万が一他の誰かに見られても『ゲームの一部である』と誤魔化すという意図があるんじゃないかと思った。

 もちろんこれだけでは結局今までの推測とそこまで変わりなく、完全に二人が同一人物とまでは言い切れないが……。


「……拙いわね……ということは、ヘパイストスは『ラグナ・ジン・バラン』を頼ることなくアビサル・レギオンだけで行動を開始する、か……」

”うん。そのつもりでいた方がいいと思う”


 だから下手すると『バランの鍵』を無視してピッピの命を狙うことだけに集中する可能性がある。

 『もう一つのお宝』と言っておいて『バランの鍵』も重要アイテムだと思わせておき、その実フェイクだった――あのマサクルならやりかねないと思う。

 まぁだからと言って『バランの鍵』が重要ではないかというとそうでもないのが、私たちにとって面倒なところなのだけど。

 ……この戦い、守らなければならないものが余りに多く、そして大きい。

 戦力的にもやはりどう考えてもこちらが圧倒的に不利な状況なのだ。それを改めて思い知らされる。


「そうか、私が『ゲーム』にD■■を提供したから――」

”だからヘパイストスは『ピース』を使うことを思いついた……」


 ……ある意味では『眠り病』の遠因はピッピにあると言えなくもないけど、流石にそれを理由に責めるのは酷というものだろう。

 D■■を『ゲーム』に提供しなければ、そのまま『ラグナ・ジン・バラン』に攻め滅ぼされた可能性が高いのだから。


「……重ね重ね申し訳ないわ……」

”……まぁ今更言っても仕方ないし、予測できないよあんなの”


 予測できたとしたら、それはもう未来が見えているとしか思えないS■■以上の存在だけだろう。

 いずれにしても嘆いても怒っても状況は変わらないのだ。


”そういえばさ、『ゲーム』におけるA■■の立ち位置ってどうなってるの? プロメテウスが■■者なんだっけ、やっぱり■■権を譲渡しているのかな”


 概ねD■■に関する謎は解けた。

 後は――悩ましいけど伝えられる情報の取捨選択をしてありすたちと今後の対策と行動を相談すればいい。

 そうなってくると気になることの解決をしたくなってくる。

 私が気になっているのは、当然ありすたちのA■■の話だ。

 ……もしかしたらそこに、私が転生してきた理由もあるかもしれないし。


「…………そうね、後で話すとも言ったし、A■■について触れておかないといけないわね」


 ピッピは意外にも渋い表情でそう呟く。


「A■■の■■者はプロメテウス様なんだけど……実は今の……」


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