<検閲済み>

警告――不正な表現を検知

警告――検閲実行


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「確か『ヘパイストスの目的』――からだったわね」


 途中から私についての話になって逸れてしまったが、元々は『ヘパイストスの目的』について聞こうとしていたのだった。

 で、その内容はありすたちには『話せない』内容である、と。

 ……前提としてなんでそれで私についてピッピが尋ねたのかが不明なんだけど、まぁそれも話していればわかることか。


「ヤツの目的は、ズバリ『お金』よ」

”…………はい?”


 とてもわかりやすいが、それゆえに『異世界』に全く馴染まない動機が出てきて思わず耳を疑った。

 いや、そもそも明らかに襲撃を掛けてきている感じなのにそれでどうやってお金を……あ。


”何かこの世界でしか取れない『資源』がある?”

「そうね……ある意味ではそうとも言えるわ」


 含みのある言葉だなぁ……。


「多分、今頃楓たちも驚いているんじゃないかしら」

”楓たちが?”


 あの子たちは観光ではなく、『この世界のことがもっと知りたい』と言ってお墓とか神樹とかを見に行っているはず。

 曰く、異文化を手っ取り早く理解するなら『冠婚葬祭』を知ることだ、だったっけ。

 まぁ言われてみればそうかな? って思うし、ピッピもお墓の見学とかも問題ないと許可していたから好きにしてもらっていたけど……。


「ラビ、はっきりと言うわ。

 ヘパイストスが狙っている『資源』とは、なのよ」

”――『人身売買』か”


 現代人の感覚からすれば唾棄すべきことだ。

 もちろん、時代によったり『異世界』によっては事情が違ったりはするんだろうけど、何にしたって勝手に商品にされる側はたまったものではないだろう。

 ……ん? でもなんでそれがお墓に行った楓たちが驚く理由になるんだ?

 私の疑問にピッピが答える。


「この世界の人間はね、のよ」

”はぁっ!?”

「逆に、結晶化してゆくことで死を迎える……と言った方が正確かしらね。

 そしてあっちの世界の常識だと考えられないでしょうけど、この世界では死者の肉体――『結晶』は資源として扱われているわ」


 ……常識が違いすぎる……!




 聞けば、『お墓』はあるものの遺体や遺骨がそこに埋められているわけではなく、『生前どんな人だったのか?』『どんな功績を残した人なのか?』を示す墓碑があるだけなのだという。

 じゃあ遺体……いや『結晶』がその後どうなるのかと言えば、親族が加工して装飾品や武具として身につける。余った『結晶』は魔法によって更に加工し建物の建材として使われるのだとか。

 そして『生前に善行を積めば美しい結晶に、悪行を積めば価値のない石ころに』なるというのが、この世界の人の一般的な考えであるらしい。いわゆる『道徳』の基礎みたいなものだろう……楓たちの言う通り、『死生観』を知ると価値基準の大きなところがわかるというわけだ。

 色々と日本に限らず地球人類の常識から考えると到底受け入れがたい、あるいは理解しがたい風習だけど、私の感覚で否定も非難もすべきではないことだろう。

 そういうものとして受け入れる他なさそうだ。


”じゃあ、ヘパイストスの狙いはこの世界の人間――の『結晶』ってことか”

「そういうことよ。『結晶』そのものも価値はあるけど……」


 ピッピは言い淀む。

 ……私も物凄く嫌な想像をしてしまった。


「生きた人間を捕えれば、自分の好きな形の像を作れる――そういう意味でも価値がついてしまっているの……」


 当たって欲しくなかったなぁ……。


”……ん? そういえばさ、気になったんだけど、ヘパイストスって一体何者なの? 九大国の人間?”


 今更かもしれないが、目的が意外と俗なものではあるが悍ましいものであることはわかったけど、肝心のヘパイストスが何者なのかがわかっていない。

 九大国についてはノワールからざっくりと聞いてはいたけど、それぞれがどういう国なのかもわからないし、その中には他国の人間を『資材』としてしか思っていない邪悪な支配者もいるかもしれない。


「――が、あなたに信じて欲しい話になるわ」


 ……む?

 『異世界』の存在自体はそういうものだと受けれた私だけど、どうやらここから先の話が最初に言った『荒唐無稽な』話になってくるみたいだった。

 私も居住まいを正し、ピッピの話を真剣に受け止めようとする。


「ヘパイストスは私と同じ■■■存在――この世界基準で言えば、『■■■の■』となるわ」

”えっと……ちょっと待って、少し混乱する”


 ピッピ(アストラエア)と同じ■■■存在がヘパイストス。

 で、この世界基準で言えば……っていうのは、『エル・アストラエア』のあるこの世界から見て、って意味だよね?

 『■■■の■』……ってことは……。


「そうね、『この■■』『あの■■』ではややこしいから、今私たちがいるこの■■をドラゴン――『D■■』と呼びましょう」


 ふむ、それはいいアイデアだ。


”じゃあ、ありすたちが住む『ゲーム』に巻き込まれているのは、『A■■』だね”


 もちろん代表して『ありす』の『A』だ。いや、まぁ別に誰の頭文字でも良かったんだけど。


”話を戻すと、ヘパイストスはD■■におけるピッピ――■■■■■■と同じように、別■■の■……ってことでいいんだよね?”

「ええ、そうなるわ」


 そうなると、D■を襲っているのはまさしく■■■の軍勢……これは『■■■vs■■■』の戦争ってことになるのか。


”ピッピとヘパイストスが『同じ■■■存在』っていうのは……?”


 わからないのはこの部分だ。

 D■■とは別■■の■がヘパイストスだというのに、同じ■■■存在ってどういう意味なんだろう?


「……それは――言葉通りの意味よ」

”言葉通りって…………え、まさか更に別の■■■があって、■■の■■がピッピたちってこと?”

「その通りよ」


 ここでまた別の■■■か……。

 ピッピの言葉を全て信じた上で、D■■のことを考えると――ちょっと理解しがたい事実が浮かび上がってくる。


”……私の理解が間違っていたら遠慮なく突っ込んで欲しいんだけど”

「ええ」

”君はD■■の■■ではない。ヘパイストスも同様”

「そうね」

”なのに

「そうよ」


 それもピッピとヘパイストス、それぞれの『■■■』でだ。

 なんだ、これは。■様のバーゲンセールかよ。


”……D■■とかよりも更に■の、がある……?”

「大体その通りよ、ラビ」


 …………いかん、本格的に頭が沸騰しそうだ。


”えっと、色々な■■がいて、それぞれの■■を持っている――ってこと?”

「それは正確には違うんだけど……概ねその理解で問題ないわ」

”ヘパイストスは自分の■■の軍勢……『ラグナ・ジン・バラン』を使ってD■■に侵略戦争を仕掛けている”

「そこも微妙に違うけど、大筋はあっているわ」


 むぅ……話は荒唐無稽だしスケールもちょっと想定以上に大きくなりすぎて、ついて行けなくなりそうだ……。


「私やヘパイストスの本来の■■――『S■■』と呼びましょうか――の■■について、説明するわ」

”うん……お願い”


 D■■を襲う『ラグナ・ジン・バラン』等について理解するためにも、まずはピッピたちS■■の■■について知らなければならないだろう。

 ……『■■の■■』の■■か……。

 なんか雲の上にいっぱい神殿があって、そこで暮らしているみたいなイメージしかわいてこないけど。


「まず、さっきラビは『■■の■■』と言ったけれど、別に私たちは『■』を自称しているわけではないわ」

”??”

「もちろん、D■■においては私は『■』であるし、ヘパイストスも自分の持っている■■であれば同じよ」

”うーん?”


 あれか、地球人類の科学力を遥かに上回る宇宙人みたいなもんか。

 ……その宇宙人が支配している星同士の宇宙戦争? なのかな……ファンタジーというよりSFだな、これは。


「私たちの■■に、一人の天才がいるわ。その名は……私の先生でもある方よ」

”……プロメテウス!?”


 その単語、聞き覚えがある。

 確かA■■の――そうだ、ありすのお父さんの出身地の名前だったっけ。

 まぁ『プロメテウス』自体は神話の登場人物の名前だし、それがピッピの先生と関係しているかどうかはまだわからないけど……。


「プロメテウス様がいなければ、私たちS■■の■■は――いえ、これはもうちょっと先に話しましょう。

 とにかく、プロメテウス様が私たちに齎した『あるゲーム』があるの」


 ! ここで『ゲーム』の単語が出て来るのか!? あれ、でもタイミングがちょっとおかしいような?


「あ、『ゲーム』と言ってもあなたたちが参加している『M.M.』とは別のものよ」


 そうなのか……。というか、すっかり忘れてたけど、『ゲーム』の名前って『M.M.』だったっけ。

 ありすと出会った最初の戦い――チュートリアルの時に一回見たっきりだったし、以後はずっと『ゲーム』って皆呼んでたからなぁ……。

 それはまぁいいや。とにかく、『M.M.』と異なるゲームをプロメテウス何某はもたらしたという。


「そのゲームは、――』」


 またついていけないくらい大きなスケールが……。

 …………ん? いや、ちょっと待て!?


”■■■■シミュ■■■■■……!? まさかとは思うけど、この■■は……!?”


 ピッピは私がことを理解したのだろう、こくりと頷く。


「そう。このD■■は私が『C.C.』で■■から■■た■■よ。だから私はD■■における■■■なの」

”……嘘でしょ?”

「言ったでしょ? 信じがたい『荒唐無稽』な話だって」


 確かに言ってたけど……。

 だけど、これは、ちょっと……。


「そして私は――私に限らずだけど、『C.C.』で■■た自分の■■に対してはの」


 そう言うと同時にピッピがぱちんと指を弾くと――


”えっ!? ここどこ!?”


 ピッピの部屋にいたはずなのに、何の前触れもなく私たちは全く別の部屋――というか昨夜皆で入ったお風呂場にやってきていた。

 更にもう一回ぱちんとすると、再びピッピの部屋へと戻ってくる。


「例えばこんな風に、ね」

”瞬間移動……? それとも幻覚……?”

「違うわよ。今のはの」

”う、うーん?”


 ピッピが魔法を使えるのはわかっているし、入れ替えたと言われても『そういう魔法なんでしょ?』という感想しか出てこないんだけど……。


「……まぁ確かに今のだけだとちょっとわかりづらいかもしれないわね。それじゃあ、こういうのはどうかしら」


 またもや指を弾くが、今度は何も起こらない。

 頭のはてなマークが増え続ける私をしり目に、ピッピが部屋のドアをそっと開けると――


”!?”


 ドアの外に、幻想的な風景が広がっていた。

 キラキラと光る結晶があちこちに生えた――そうだ、ピッピたちと初めて対戦した時に戦ったフィールドそっくりの場所だ。

 外に恐る恐る出てみると、何も無い結晶平原のど真ん中に扉だけがポツンとあり、そこがピッピの部屋と繋がっている……。

 地面もちゃんとあるし、結晶の欠片を手に取って見ても確かに感触がある……。


「ラビ、戻るわよ」

”う、うん……”


 結晶を持ったままドアを潜り、またピッピがぱちんとすると――


「ね?」

”……神殿に戻った……”


 再度ドアを開いても、結晶平原ではなく神殿の廊下が見えるだけだった。

 ……持ち帰っちゃった結晶も変わらず残っている……。


「今のは部屋のドアと北極大陸を適当に繋げてみたわ」


 こっちの世界には北極大陸なのかー……とか現実逃避的にそんなズレたことを考えるが、これは仮に魔法だとしてもちょっと常識外れすぎる。

 移動系の魔法だとしたら、アリスの《神馬脚甲スレイプニル》やヴィヴィアンの《ペガサス》どころの速さじゃない。『テレポート』の領域だ。

 幻覚系の魔法とも言いたいけど、結晶はちゃんとここに存在しているし……。


「疑り深いわねぇ……」

”いや、そう簡単に信じろって言われたって中々信じられないでしょ……”

「まぁ気持ちはわかるけどね。

 ――このままだと話が進まないから、とにかく『私はD■■においては■■も■■もありとあらゆるものを自在に操れる』ということだけ覚えておいて」

”う、うーむ……何でも、ねぇ……”

「……D■■の■■なら、死者蘇生も歴史改変も本当に何でも出来るわよ? 代償というか、それなりにコストや時間は必要になるけれど」


 凄すぎない?

 正に『■の力』だ……。


”んん? でも本当に何でもできるのなら、『ラグナ・ジン・バラン』もどうにか出来るんじゃないの?”


 私の突っ込みを聞いて憂鬱そうなため息をつく。


「いえ……私の『■■』が及ぶのは、『D■■の■■だけ』なのよ。『ラグナ・ジン・バラン』はヘパイストスの生み出したものだから……」

”あ、そうか……”

「それに、何でも出来るからといっても限度はあるわ。例えば……D■■の■■を『ラグナ・ジン・バラン』に勝てるような■■に短期間で進化させるというのも無理ね……」


 『D■■の■にあるもの』ではなく『D■■の■■』なのか。

 つまり、D■■産のもの限定の『何でも出来る』能力ってことになるのかな。まぁ無理なものは無理みたいだから本当の意味での万能ではないみたいだけど。

 ……いやそれでも十分理解不能な万能さなんだけど……。


「さっきあなたに見せたのも、この部屋の空間と別の空間を入れ替えたり、ドアの行き先を北極に繋げたりってしたけど……それもあなたは『D■■の■■じゃない』から私の■■の対象外だからなのよ」

”なるほど? 私……だけじゃなくてありすたちや、どこかにいるマサクルたちにも通じないってわけか。

 ……もしかして昨日私たちに使った『翻訳魔法』っていうのも……?”

「御察しの通り――あれはD■■側の言語をA■■のものに変えたものよ。流石に今回の件が落ち着いたら元に戻すけどね」


 なるほどね……。

 『死者蘇生』だろうが出来るってことは、もしかしたら『時間停止』だの『時間巻き戻し』だのも可能なのかもしれない。

 そういうことをすれば私に証明するには手っ取り早かったんだけど、下手にD■■全体に影響が及ぶようなことをしちゃうとありすたちに気付かれてしまうから……ってわけか。


「ただ、『ラグナ・ジン・バラン』は私の力では対処できないけれど……襲われた人については何とかすることが出来るわ」


 そうか、向こうの狙いが『人間そのものを連れ去ること』ってことは生きたままである可能性は非常に高い。

 D■■から連れ去られる前にピッピの力で取り返してしまう……ってことが出来るのか。万能だな、本当に……。


「ラビから昨日までの話を聞いたけど、その中でラビがわからないと言った点があるわよね?」

”うん。マサクルの狙う『もう一つのお宝』と、テンの国の人たちの行方のことだね”


 前者は言わずもがな、後者については――私なりの答えはあるのだが、ピッピが正確なことを知っているのであれば是非聞きたい。というか、場合によっては。どちらにしても答えがわからないとどうしようもない。

 優先的に聞きたいのはもちろんマサクルの狙いの方だ。


「100%そうとは言い切れないけど、他に思い当たるものがないわ――狙いは『』よ」

”……だね。ピッピの話を聞いてたら私もそう思うようになった”


 どうやら二人の見解は一致しているようだ。

 ピッピの持つ『■■』――D■■の■■ならばどんなことでも出来る、は侵略者側にとっては邪魔者以外の何物でもない。

 ヘパイストス本人あるいは仲間であろうマサクルの立場からすれば、最優先で排除すべき対象だろう。

 D■■側はピッピさえ無事なら、力技だけど■■で『なかったこと』にすることも出来る。

 ヘパイストス側はピッピを何とかしない限り、目的である『人間狩り』が出来ない。


”うん、よし。とりあえず考えは間違ってないと思うし、その方向で今後は行動していくことにしよう”


 偶然だけど『バランの鍵』『ピッピ(アストラエア)』という二つの『お宝』が私の側に集まってしまった。

 これはこれで喜ぶべきことだけど、裏を返せばたった一手しくじれば全部をマサクルに奪われるという危険性も孕んでいる。

 それにしても、ちょっと心は楽になった。


「……? なんかずいぶんとすっきりとした感じね、ラビ」

”え? まぁそりゃね。ここが『異世界』だと思っていたけど、ピッピの話によればやっぱり『■■■の中』だって話だし”


 本物の異世界と言っても違和感がないくらい作りこまれている世界だけど、結局は『C.C.』という■■■の中の話だ。

 ■■■■シミュ■■■■■とか、どうやって作るんだっていう問題はあるんだけど、まぁこれは聞いたところで私が理解できる話ではないと思う。

 だが、ほっとした私とは反対にピッピは深刻そうな表情を崩さない。


「…………ラビ」

”うん?”

「この■■はわ。……」


 ――


「だからこそ、私は守りたいと願っているの……」


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