第8章6話 繋がる点と点
なんでなっちゃんが黒晶竜のことを知ってるんだ……?
それにどうもピッピが黒晶竜に会え、って言ってるみたいだし……ピッピと黒晶竜に関わりがある、と言った方が正確か、この場合は。
「……ラビさん、こっちの赤いのと黄色いのももしかして……」
”あ、確かに……。ねぇ雪彦君、念のためこの二つもお願いしていい?」
「うん、わかった。撫子、こっちの赤いのは?」
「うー? るーるー」
「うんうん。じゃあ、その『るーるー』のことをお兄ちゃんに教えてね」
私たちの予感が正しければ、この赤いのはきっと『紅晶竜』。黄色い方は天空遺跡では出会わなかったけど……おそらく『金晶竜』とかそんな感じなんじゃないだろうか。
”……ちょっと楓たちにも連絡してみる”
果たしてこれが手がかりに繋がるのかはわからないけど、このタイミングであの天空遺跡の件と繋がるとは思わなかった。
となると……やはり無関係だと切り捨てるのはちょっと怖い気もする。
私は遠隔通話で皆にわかったことを伝える。
今日は残念ながら千夏君は部活の後すぐに塾となってしまうので参加は出来ないが、他のメンバーは皆大丈夫そうだ。
楓と椛も早めに家に帰ってきてくれるというので、そちらを待つことに。
「やっぱり」
”まぁそうなるよね……”
楓たちが帰ってくるのを待っている間に、二枚の絵が完成する。
やはりというべきか、私たちの予想通り一枚は『紅晶竜』、もう一枚は見たことのないドラゴンの姿であった。
「ん? 紅晶竜……両目がある」
”おや、本当だ”
天空遺跡の戦いで、アリスが最後に一矢報いて紅晶竜の片目を潰したんだった。
でも雪彦君の作ったモンタージュでは両目が揃っている。
となると……。
”なっちゃんが天空遺跡に行ったことがあるのは間違いないけど、時期としては……”
「わたしたちが行くよりも前……んー」
ましてや、黒晶竜たちの姿を見ているってことは、そこまでたどり着いたということなんだし……まぁ黒晶竜は見た目の恐ろしさの割には理知的だったし、迂闊に攻撃を仕掛けなければ穏便に済ませてくれそうではあったか。
”うーん……雪彦君、今更だけどさ、君たちがユニットになった順番と時期を教えてもらっていい?”
「え? う、うん、いいけど……僕が最後だったからちゃんとした時期は姉ちゃんたちに聞いた方が正確だよ?」
”まぁそれでもいいよ”
この順番と時期はおおざっぱでも全然構わないし。
私の言葉に雪彦君はユニットになった順番と時期を思い出し語る。
「えっと、ピッピの最初のユニットが撫子なんだよね。それで……確か九月の終わり辺りで、姉ちゃんたちがユニットになって、僕が十月の真ん中くらいだったかな?」
”ふむ……なるほど?”
雪彦君に関しては、『ヴィヴィアン捜索』の時にはまだユニットにはなっていなかったが、本人の言葉通りその後――十月の半ばにユニットになったのは間違いないだろう。
楓と椛はそれより少し前――九月の後半かぁ……。
”なっちゃん”
「なーに?」
”『のあーる』とかとさ、お姉ちゃんたちは会ったことあるの?”
流石になっちゃんもこれは覚えているだろう。
「んーん? のあーるはねー、ぴっぴとなっちゃんであそんだの!」
”そっかー……遊んでもらったんだねぇ……”
なるほど。これで確定か。
経緯は不明だけど、なっちゃんしかユニットがいない時期にピッピは天空遺跡のクエストへと挑んだ。そして、そこで黒晶竜たちと遭遇している。それは私たちが天空遺跡に行くよりも前――紅晶竜の両目があることからの判断だ。もしクエストに入りなおしたらモンスターの傷が治るというのであれば話は別だが――だと仮定できる。
「ただいま」
「今帰ったにゃ~」
そこで楓と椛が揃って帰宅してきた。
……この二人、部活とかはいいのだろうか……? 千夏君曰く『幽霊部員』と化しているらしいけど、内申とかに響かないだろうか心配だ。
まぁそれはともかくとして、私は二人にもわかったことを伝える。
「……『のあーる』…………ああ、『ノワール』、かな?」
「ノワール……ん、喫茶店?」
惜しい。
「外国語で『黒』って意味の言葉ね」
「んじゃ、察するに『るーるー』は赤いから……多分『ルージュ』かにゃ?」
「そうね。『ぬーぬー』は……何だろ。黄色……同じ言語で黄色は確か『ジョーヌ』――ああ、ジョーヌの『ヌ』か」
おお、すごい。あっという間に名前を探り当ててしまった。
確かフランス語……だったっけ? こっちの世界でも日本語や英語同様に同じ感じの言葉になっているみたいだ。
”そういえば、なっちゃん。もう一匹いなかった? 氷っぽいの”
「うんー、ぶーたん!」
『ブ』で始まるか終わるかする言葉は――
「……『ブラン』、かな? 意味は『白』」
”それだね、きっと”
氷晶竜――ブランがいるってことは、やっぱり私たちよりも早くに天空遺跡に行っていることは確定か。
……なっちゃんにいつくらいに行ったの? と聞いても、『あついの!』としか返ってこないし……何だかんだで十月くらいまではそこそこ暖かかったからなぁ……。
「――で、うーちゃん。やっぱり
”うん、推測に過ぎないんだけど……”
なっちゃんが受信しているのであろう、ピッピからの謎のメッセージ……これが今私たちが直面している『集団昏睡事件』という大問題にかかわってくるのか否か。重要なのはそこだ。
私は楓たちを待っている間に考えていたことを説明する。
”まずは――ピッピの目的は覚えてるよね?”
「うん。ヘパイストス……詳しい理由は話してくれなかったけど、そいつをユニットの力を使って倒す、だった」
正確にはヘパイストス自身をユニットで倒すことは不可能らしいので、おそらくはその配下の『何か』を撃退すること……だとは思うけど、まぁそこまで拘るような違いでもなかろう。
”そうだね。で、ピッピは既に『ゲーム』からリタイアしているのは確実なんだけど、どういう手段かはわからないけどなっちゃんに『ノワールに会う』ようにとお願いをしているみたいだ。
ってことは――”
「にゃるほど。ノワールたちに会うことが、打倒ヘパイストス――ピッピのやりたかったことにつながるってわけにゃ」
”うん、間違いないと思う”
ここまでは論理的にも無理はない話だと思う。まぁピッピのメッセージを何でなっちゃんが受信できているのか、とかそういう訳の分からなさには目をつぶる必要があるけどさ。
”それで……ここからは楓たちが私のユニットになる前の話なんだけど――”
そう前置きしつつ、私は去年の『冥界』の戦いについて軽く説明した。
あやめが『眠り病』になった日のうちに『無理矢理ユニットをクエストに引きずり込んで脱出できないようにさせる』というかなり悪質な『罠』については話してあったんだけど、『冥界』の戦いそのものの顛末については詳細を語っていなかったのだ。
時間もないので細かい戦いの内容までは話せないけど……。
”――で、無事にありすたちは解放できたんだけど、そもそもの話、あの『冥界』が何だったのか? 誰がやったことなのか? まではわからないんだよね。
でもトンコツたちと話してて『容疑者』の名前は挙がってきたんだ。それが、『ヘパイストス』……”
「……そういうこと。
『冥界』でのありすたちの症状と、『眠り病』の症状――共通点は『クエストから出られなくなったため』という原因だ。
まぁ『眠り病』については『ユニットではなくなった子』まで巻き込まれているという不明な点が残ってはいるけど……この二つを結び付けるのはそう無理のある考えではないと思う。
「ん……つまり、ヘパイストスが『眠り病』の原因でもある……?」
”うん、私はそう思うんだ。だから、ピッピのお願いを聞くっていうのは、つまり『眠り病』の解決にもつながるんじゃないかなって”
これで実は全くの無関係でした、となると本当に手詰まりになってしまうけどね。
でも何の手がかりもなく既に二日が経過してしまっている。
可能性が少しでもあるなら、もうそれに賭けるべき時が来ている――そうも思うのだ。
「……私はうーちゃんの考えに賛成。状況が似すぎているし、否定する要素もないから」
「そうだにゃ~。後、あたしたちからすると、ピッピのお願いは叶えてあげたいかにゃ」
元ピッピのユニットとして、自分の使い魔がやろうとしていたことは叶えて上げたい、その気持ちはわかる。
言葉は悪いけど、今の私たちにとっては『都合がいい』ことも確かだ。
「僕もいいと思う」
「う? なっちゃんも!」
かわゆい。
「ん、ラビさんの言うことはわかった。わたしもそれでいいと思う……けど」
”けど?”
ありすとしても問題ないらしいけど……?
「……んー、
…………そう、その問題があった。
”……考えられる方法は二つ。一つは、天空遺跡のクエストが出て来るまでひたすら挑み続ける”
「それは――でも厳しいんじゃないかな?」
雪彦君がそう言う。
確かに、天空遺跡のクエストはレアなのかそれとも他に何か『条件』があるのか、私たちも一回行ったきりで以後全く出てこない。
このまま闇雲に探し続けても、あやめたちのいるクエスト同様にたどり着くことは出来ない可能性が非常に高い。
”もう一つは――ちょっと不確定なんだけど、なっちゃんが受信しているピッピからのメッセージを読み解く”
どちらかと言えばこちらが本命だ。
昼間になっちゃんと『のあーる』の絵を一緒に見ていた時に、私は『夢』の中で同じようにメッセージを受け取っていたことを思い出した。
あのメッセージは……ピッピからのものなんじゃないだろうか?
というよりも、元々ピッピからのメッセージはなっちゃんに向けてではなく、私に向けて出されていたものなんじゃないかとも思うのだ。
「――そっか。撫子の能力をピッピも知っているから、だから撫子を『中継点』にしてうーちゃんに呼びかけようとしている……」
私の考えを聞いて少し考え込んだ後、楓はそう理解した。
なっちゃんの持つ特異な能力――はっきり言って超常現象以外の何物でもないとは思うんだけど、現実として存在しているのだから仕方がない。ここを疑っていたら話が先に進めないので、『ある』という前提でいこう。
彼女の能力は、楓たちも全貌を掴んではいないみたいだけど、とにかく『見えない存在が見える』ということに集約されると言っていいとは思う。ひいては、人間が会話できない存在――私自身もカラスと会話しているようにしか思えない光景を実際目にしている――とも意思疎通が出来るみたいだ。
「ん、つまり……『幽霊』が見える?」
「まー、そんな感じだと思って問題ないにゃ。あたしたちは全然見えないんだけどねー」
”ともかく、なっちゃんに対してピッピはメッセージを送って、何とか私に届けさせようとしているんだけど……”
問題は、肝心のなっちゃんがメッセージを上手く理解できていないこと……なんだよなぁ。
「…………うーちゃん、確認なんだけど……鷹月さんが『眠り病』になる直前に、うーちゃんは夢を見たんだよね?」
”え、うん。……段々思い出してきたけど、あの夢……今までにも何回か見ていると思うんだよね”
今までも見ていたはずなんだけど、起きた時にはすっかりと忘れてしまっている――正しく『夢』の話だ。
……あれ? でも今回はうっすらと覚えている……?
「――わかった。多分、うーちゃんと撫子の
”私となっちゃんの距離?”
「あ、そういうことかにゃ。つまり、うーちゃんが今日うちにお泊りして、なっちゃんと一緒に寝ればいいってことにゃ!」
……あ、なるほど!
「け、携帯の電波みたいだね……」
「ん。でもわかる」
現代っ子たちは理解が早いなぁ……。
まとめると、こういうことか。
”えっと、ピッピはどういう方法かはわからないけど、『ゲーム』をリタイアした後にも私へと伝えたいこと――ノワールへと会うようにと伝えようとしていた。でも、私自身はピッピのメッセージを受け取ることがほとんど出来ない……”
「ラビさんは古い携帯」
だまらっしゃい。
”まぁ一応ちょっとだけは受け取れるみたいなんだけど、曖昧過ぎて全然わからないメッセージしか受け取れなかった。
で、ピッピはなっちゃんの『超能力』めいたものを知っていたから、まずはなっちゃん宛てにメッセージを送ることにした……”
「もしかしたら、最初から撫子宛てに送って、そこからうーちゃんに送っていたのかもね。WI-FIみたいなものかな」
うん、そうかもしれない。
私には直接届かないので、なっちゃんをルーターにして私へと何とか届かせようとしていた……そういうことか。
”それでも、私があんまりメッセージを受け取れていなかったのは――単純に
「でも、お泊り会の時は撫子とうーちゃんが近い場所にいた……だから今回のメッセージは覚えていられた」
「それでも薄っすらとってことは、お泊りの時は別の場所にいたからじゃないかにゃー?」
「で、電波が弱すぎるんだね……」
おのれ、まだ私を古い携帯呼ばわりか。いや、まぁその例えわかりやすいからいいけど。
「ん、はな姉はだからラビさんとナデシコが一緒の部屋で寝てれば、ピッピからのメッセージが伝わるはず、って言ってる」
「そういうことにゃ」
”……だね。可能性は充分あると思う”
というよりも、他に何の手がかりもない以上、私たちはそうするしかないだろう。
”ありす、今日は夜美奈子さんはいるんだよね?”
「ん。今日はリンコのお母さんが病院に行くって」
相変わらず志桜里さんの様子はあまり思わしくないみたいだ。それでも昨日よりは持ち直したみたいだけど……。
ありすだって10歳なんだし、一晩くらいは一人で留守番は出来るだろう――実際私がこの世界に来る前にはそういうこともあったみたいだし――けど、やっぱり誰もいないってのは心配だ。
”わかった。じゃあ今日はこのまま私はなっちゃんと一緒にいることにする”
「うゅ? うーたん、おとまりー?」
”うん。今日はなっちゃんと一緒に寝るよー”
「ほんと!? やったー!!」
大喜びのなっちゃんにぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまう。
……今晩は抱き枕になることは覚悟しなきゃなぁ……。
こうして、私たちはようやく一つ手がかりを見つけることが出来たのだった。
……それにしてもヘパイストスか……やっとクラウザーのことに片が付いたというのに、それ以上の厄介なことを引き起こしてくれたもんだ……まだヘパイストスが犯人と決まったわけじゃないけど、私はそう思わずにはいられないのであった。
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