第7.5章6話 第三回JS座談会withラビ feat.STARGAZERS(後編)

 その後、ひとしきりなっちゃんが皆とマイブームの『じゃんけん』をした後、楓の『はい、てっしゅー』の言葉で三人は部屋から出て行った。

 なっちゃんは『うーたんとあそびたい!』と言ってたけど、これからお昼寝の時間らしく椛に諭されて連れていかれた。

 ……諭されたというか、半ば無理矢理『今度うーちゃんが遊んでくれるって』と約束を取り付けられた感じではあるが……いや、まぁいいか。ありすが家にいない時とかは別に暇だしね。寝るスリープするくらいなら、なっちゃんと遊んであげた方がいいだろう。




 小学生ズはその後はまた普通の会話に戻っていった。

 まぁ今日のメインテーマというか当初の目的は、ユニット同士で親睦を深め合うという感じみたいだったし……適当におしゃべりしてればいいんじゃないかな。

 ……流石に女の子っぽい見た目とはいえ、女子三人に囲まれて雪彦君は若干居心地が悪そうではある。

 うーん、この集まり自体私が提案したものではないとは言え、彼には悪いことをしたかな、という気もする……。


”……? ありす?”


 と、さっきから会話には積極的には加わらず、子供たちに任せっぱなしにしていた私だったが、ふとありすが会話に入らないで部屋のある一点に注目していることに気付いた。


「ん……あれ……」

”あれ?”


 ありすが指さした先には、棚がありその上にバイクの置物――いや、バイクとそのライダーと思しき人物のフィギュアが置かれていた。

 雪彦君もありすが何を見ているのか理解し、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「こ、恋墨さんも、知ってる……?」

「とーぜん。あれは、『マスカレイダー 炎神エンジン』……」


 ああ、何かと思ったら……確かにマスカレイダーっぽい衣装だ。

 んーと、名前はうっすらと聞いた覚えがあるなぁ。結構前のやつだったような気がする。


「スバル、炎神好きなんだ」

「う、うん! マスカレイダー、好きだよ。かっこいいもん」


 あらまぁ、そういう好みは男の子らしいのね。

 これがもう数年もしたら、たとえ好きでも素直に『好き』って言えなくなっちゃうんだろうけどねぇ……また大人になったら公言するようになるかもだけど。

 まぁそれはともかく、雪彦君がマスカレイダー好きだとしても全然おかしくない。むしろ健全だ。


”へぇ、私は炎神って知らないけど、かっこいいバイクだね”

「へへ、でしょ?」


 流石、特撮に出て来る乗り物って感じで色々と現実のバイクだとありえないギミック満載っぽいけど、ゴテゴテとしすぎずかっこいいデザインだと思う。

 『炎神』の名の如く、炎のような赤い波模様でペイントされている。これは、バイクの隣に立つレイダーの方も同じだ。


「この人形も、父さんに買ってもらったやつなんだ」


 と、本当にうれしそうに微笑む雪彦君。

 『父さん』って言ってるのは――星見座のお父さん、つまり楓たちの父親のことではなく、本当の父親のことなんだろうか。

 ……楓たちとは実の姉弟ではなく本当は従弟って言ってたけど、小さいときからこの家で一緒に暮らしているって話だし……色々と複雑な事情があるんだろうな。そこを突っ込んでいいほど、私はまだ雪彦君たちと親しくなれたとは思いあがっていない。


「ん、炎神は面白かった……。もしかして、クロエラがバイク乗ってるのって、その影響……?」

「う、うーん……どうなんだろう?」

「当てはまる方と当てはまらない方はいらっしゃるでしょうね」

「だねー」


 ふむ、確かに……ユニットの姿とかって、元の人間の影響を受けているんじゃないかって仮説はないわけではない。

 ただなぁ……千夏君や楓・椛みたいに影響を受けているとは到底思えない姿のユニットもいるしなぁ。正直なんとも言えない感じだ。


”でも良かったね、雪彦君。好きなレイダーと同じバイク乗りで”

「うん、僕も最初ユニットになった時、嬉しかったよ」


 炎神みたいな派手な色じゃなくて目立たない黒だけど、かっこいいデザインとかは共通している部分はある。

 本当に嬉しそうで何よりだ。


「んー、だったらわたしはヴィクトリーみたいになっても良かった……」

”……アレはちょっと無理じゃないかなぁ……?”


 炎神のバイクみたいに象徴的な道具とかあればわかりやすいんだけど、残念ながらヴィクトリー……『VVヴィーズ』にはそういうのはない。

 あえて言うなら、主人公のレイダーが二人組であるということかな。

 『勝利ヴィクトリー』と『復讐ヴェンジェンス』という一見結びつかないような二人――仮にユニットが持つとしたら、『二面性』とかがキーワードになるのかな?


「恋墨ちゃんのアリスだったら、金髪だからヴィクトリーっぽいんじゃない?」

「ん、一理ある」


 ちなみに、ヴィクトリーのメインカラーは『黄金』、ヴェンジェンスは『』なのだ。まぁ、そういえばアリスは金髪だしヴィクトリーのメインカラーに沿っていると言えるか。ただの偶然だと思うけど。


「レイダーと言えば、恋墨さんは今の『フィオーレ』は見てるの?」

「ん、見てる。スバルも?」

「ま、まぁね……僕がというよりも、撫子が結構見たがるから一緒にね」


 へぇ? なっちゃんくらいの子なら、レイダーよりもプリズムスターズプリスタの方を喜びそうなものだけど。


「プリスタも、まぁ……撫子と一緒に見てはいるんだけどね……」


 と思ったらやはりプリスタの方も見ているようだった。


「…………フィオーレ、ですか……」

「……桜さん……?」


 やけに暗い顔の桃香だったが……まぁ理由は何となくわかる。

 ありすと雪彦君も悟ったのだろう、『ああ……』と何とも言えない生温い視線を桃香に送る。

 わかっているんだかいないんだか、美々香だけは明るく、


「あ、皆見てるんだ。じゃあネタバレトークしてもいいんだよね?

 あれびっくりしたよねー。いやー、あたしは最初っから怪しいと思ってたんだよねー」

「ぐぎぎぎぎ……そ、そんなことありませんわ! きっと、お姉さまには何か深いお考えがあるに違いないですわ!」

「ん、多分なにか裏はあると思う……」

「そうだね。うーん、でもここからまた味方に戻れるとは……ちょっと思えない、かな……」


 ――説明しよう。

 小学生ズが話しているのは、現在放送中の『マスカレイダー フィオーレ』の話である。

 で、いつだったかに触れたような覚えがあるが……このフィオーレ、去年末の最後の放送の時にものすごい『爆弾』というか『衝撃展開』をぶっこんできたのだった――そう、ありすがフィオーレに向けて土下して謝った時のことである。なぜか私まで謝らせられたけど……。


 軽くフィオーレについて説明すると――マスカレイダーシリーズでは初となる『女性主人公』となる作品だ。

 レイダーのモチーフは『植物』、対する敵は『虫』となっている。

 主人公の花房はなぶさ美桜みおは、とあるアクシデントから超巨大エリート私立学校『聖華城学園』へと編入することになり、そこで偶然謎のモンスター『エントマータ』に遭遇してしまう。

 その時に美桜を助け、更にレイダーへの変身アイテムを与えたのがもう一人のレイダー『ファレノプシス』――『蘭の花』をモチーフとしている――だ。

 ファレノプシスに助けられた美桜は、自身も『マスカレイダー フィオーレ』へと変身して怪物エントマータと戦うことを決めるのだった……。


 ここまでが最初の話。

 その後、ファレノプシスの正体が学園で絶大な権力を持つ『生徒会』副会長の大園おおぞの蘭花だということを知り、彼女の誘いもあって美桜は『生徒会』見習いとなる。

 生徒会は実は表向きの顔で、裏の顔はエントマータと戦う『花の戦士』たちの集団――『フルーレン』の一支部であるということが明かされる。

 蘭花ファレノプシスと共にエントマータの引き起こす事件を解決したり、その過程で現生徒会メンバーと対立したり和解したり、美桜と蘭花がキャッキャウフフしたり……『反生徒会』なんていうちょっとアレな集団が出てきたりと、この辺りはレイダー的な話をしつつもちょっと漫画的な『学園ドラマ』を主軸に話が進んで行く。

 ……と、この辺りまでは割とのんびりとした、ちょっとコミカルな展開だったんだけど……。


 『フルーレン』本部からやって来た新たなレイダーを加えた三人で、学園内にあるエントマータの『巣』への襲撃を生徒会主導で行う時がきた。

 『巣』を破壊してしまえばエントマータたちは当分の間現れることは出来なくなり、その間に『フルーレン』が対エントマータ用の結界を強化することが出来る。

 この戦いが終わればしばらくは平和になるだろう、そう信じて美桜たちは『巣』へと攻撃を仕掛ける。

 だが、エントマータの反撃によりレイダーたちは分断されてしまう。

 一人で大群のエントマータと戦う美桜フィオーレの元にファレノプシスがかけつけてくれる。

 形勢不利だし一旦撤退しようと提案するファレノプシスであったが、美桜はここで頑張れば皆が平和に過ごせるようになる! と退くことはない。

 そんな美桜の背後から、鋭い刃が迫り――美桜は一撃で倒れ意識を失ってしまう。

 美桜を襲ったのは味方のはずのファレノプシス……だが、その姿は『花』ではなく『虫』のように変化していた。


 ――『ハナカマキリ』のエントマータ。それがファレノプシスの、そして蘭花の正体だったのだ。


 ……という感じで、去年分の放送は終わったのだった。

 物語の最初から登場していて、かつよき相棒であり頼れる先輩だったファレノプシスが敵だった、というのはありすたちにとっては衝撃が大きかったみたいだ。

 まぁ、ありす的には『ハナカマキリ……こんな虫もいるんだ』と感心していたみたいだけど、桃香的にはかなりショックだったんだろう……いや、まぁ予想はしてたけど。

 ちなみにだけど、ファレノプシスのエントマータ形態――カマキリ形態なんだけど、実は何度か登場自体はしていた。

 いかにもな『敵の幹部』的な登場ばかりしていて、直接美桜たちと戦ったりはしていなかったが……。

 その造形が実によく出来ている。

 正体が判明してからファレノプシスとエントマータ形態を見比べてみると、実に巧妙に正体を隠しつつも『ハナカマキリ』という虫を知識としてでも知っていれば『ん?』と思えるようなデザインなのだ。


 ちなみにだけど、今年に入ってからの放送だと――ファレノプシスの奇襲を受けて重傷を負って気絶した美桜は、そのままエントマータの『巣』へと連れ去られてしまう。

 しかし美桜は危害を加えられることもなく、むしろ手厚く治療されていた。

 どうして自分を助けるのかがわからず、そして敵の本拠地に囚われたことに焦る美桜だったが、正体を現した蘭花とエントマータの『長』に思いもかけない真実を知らされる。


 ――『エントマータは人類の敵ではない。むしろ、フルーレンこそが人類とエントマータ共通の敵である』と……。


「うーん、でもさー、虫のおじいちゃんが本当のことを言ってるとも限らないしねぇ」

「まぁ、それはね……でもどっちにしても、蘭花はもうフルーレンには戻らないんじゃないかな……」

「ん。むしろ美桜の方がフルーレンを抜けてエントマータ側に着く展開もありうる……」

「うぅ……お姉さま……」


 ……桃香だけなんかちょっと違う気がするけど、まぁ子供たちの意見は『蘭花は完全にエントマータ側』というので一致はしている。

 果たして長が言うことが事実なのか、美桜を騙すための嘘なのか、それとも他にもまだ何か『真実』が隠れているのか……私も結構先が気になっているくらいだ。

 『巣』の襲撃で分断されたままの三人目のレイダーもどうなったのか、そしてこれからどう動くのか気になるし、初期のころに比べたら随分と面白い展開になってきていると思う。

 ありす的にも今の『フィオーレ』は『VV』に迫る評価となっているようだ。

 ちなみにだけど、今作については『女性主人公』『花がモチーフ』ということもあってか、従来のレイダーシリーズに比べて女児人気も高く、玩具の売れ行きも好調らしい――ま、それは私たちにはあまり関係ない話だけど。


「……兄ちゃんはレイダー見てるのかな……」


 ポツリと雪彦君が呟く。


「んー、なつ兄は今は見てないと思う……」

「まーそりゃ中学生だし、日曜朝は部活の準備とかあるだろうしねー」


 小学生の頃は見ていたらしいんだけど、中学に入ってからは日曜日の午前に部活があるため見れなくなったんだとか。

 ビデオに録画して後で見返す……というのも手だけど、流石にそこまではしないらしい。

 でも、最近ちょっとありすの影響を受けているのか、気になりはじめているみたいだ。

 まぁ別に見たければ見ればいいとは思う。彼の場合、勉強とか部活に影響が出なければ本人の好きにさせてあげるのが一番いいだろうし。


「そ、そっか……」

「……スバルは、なつ兄のことが気になるの?」

「き、き、気になるっていうか……そ、その、僕……女の兄弟しかいなかったし……」


 あーなるほど? ちょっとだけ雪彦君の考えていることはわかった。

 身近にできた『お兄ちゃん』に興味津々ってわけか。


「なつ兄も、だいぶへたれが治ってきた」


 しみじみと言うありす。千夏君本人に聞かれたら、またデコピン食らいそうな発言だ。


「まぁ、バンちゃん先輩も最初の印象がアレだったけど、その後は結構かっこよかったと思うけどなー」

「かっこいいかはともかくとして、ずいぶんと助けられたのは事実ですわね」


 なぜか滅茶苦茶悔しそうに言う桃香。

 でもまぁ確かに美々香の言う通り、千夏君も出会いこそアレだったけどその後は私たちにとって欠かせない人物になっていると思う。

 仲間になった直後の『冥界』では実質戦えなくなったありすと桃香の代わりに孤軍奮闘してくれたし、お正月のムスペルヘイム戦だって彼がいなかったら勝てなかった。

 それにジュウベェの時だって、千夏君が命がけでジュウベェの足止めをしなかったとしたら……初日の対戦で全てが終わってしまっていたかもしれないのだ。


「んー……まぁ確かに」


 ありすだってそれは充分理解しているだろう。


「……兄ちゃんってどんな人なんだろう……?」


 そっか、雪彦君も顔を合わせたのは2回とかそんなくらいなんだっけ? しかも直接会ったことは一度もなくて、マイルーム内でのみか。

 うーん……さっきの桃香の提案した『お泊り会』、泊まりかどうかは別にしてもやっぱり全員集合はどこかでしたいところだな。

 いつだったか前にも考えた通り――元は私じゃなくてヨームの言葉だったけど――この『ゲーム』で得られるものの一つが『現実では得られないであろう経験』だ。

 本来なら知り合いにもならなかったかもしれない子供たちが『ゲーム』を通じて知り合い、仲良くなって絆を深めていくのはきっと良い経験になるだろうと思う。

 別に雪彦君のためだけではなく、折角知り合えた仲間たちなんだ。この『ゲーム』が終わったとしても――その友情は続いていてもらいたいものだ。


「ん、なつ兄はまだへたれ」

「ま、まぁ男の人の中ではマシな方だと思いますわ!」

「バンちゃん先輩はねー……なんか女関係がねー……」


 …………君たち、本当に千夏君のことどう思ってるの……?

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