第7.5章5話 第三回JS座談会withラビ feat.STARGAZERS(中編)
「今更だけどさー、すばるんがピッピちゃんのとこのユニットだったんだねー」
お泊り会については各自親への相談、ということで一旦終了。
で、また普通の会話に戻ったわけだが、戻った早々美々香が雪彦君へと向けて言った。
「う、うん……でも僕も美藤さんがユニットとは知らなかった……」
ちょっと人間関係が微妙に複雑なので一旦整理してみよう。
”美々香ちゃんさ、トンコツって前からピッピのフレンドだったんだよね?”
「あー……うん、そうなんだよね。あたし、正直に言った方がいいんじゃないって何度か言ったんだけど……」
どうせ二人が口止めさせていたんだろう。美々香のせいなんかじゃないのは当然だ。
”まぁそれはいいよ。きっと事情があったんだろうし”
おそらくは、ピッピの方が口止めしていたんじゃないかなって思ってる。
彼女の本当の目的――『打倒ヘパイストス』のためには、『強いユニットを擁する使い魔』を仲間に引き入れなくてはならない。
そしてトンコツは自前のユニットの戦闘力に不安は残るために、あちこちをシャルロットの魔法を使って監視……仲間になれそうな使い魔にかたっぱしから声を掛けてた時期があったという。
そのあたりで知り合ったんじゃないかなって思う。具体的な経緯とかフレンドになった時期とかはトンコツに聞かないとわからないけど……まぁこれは今更か。
で、ピッピ的にはトンコツの情報網で有力な使い魔を探そうと思っていたんじゃないかな。でも、その中にヘパイストス本人、ないしはヘパイストスの味方がいないとも限らないので、ピッピとトンコツが繋がっていることはギリギリまで隠していた――そんなところじゃないかと私は思っている。ま、これも今更だけど。
”美々香ちゃんたちは雪彦君たちと対戦したりしたことあるの?”
互いの正体は知らずとも、ユニット同士でなら顔を合わせたことはあるのか、純粋な興味から聞いてみた。
私の質問に、『あー……』と何とも言えない表情となる美々香。
「直接対戦したことはないよ。何度かクエストに一緒に行ったことはあるけど……。
ね、ねぇすばるん……すばるんって、まさかガブリエラ――じゃない、よね?」
恐る恐る、と言った様子で尋ねる。
そ、そんなにトラウマになるような出来事があったのか……?
「ち、違うよ……僕はクロエラ」
「! そうなんだ!? ちょっと安心したわ……」
ほんと一体何があったんだろう……?
「んー……ミドーとスバルは、どっちも使い魔は知ってて、ユニットは知らなかった……?」
「そういうことになりますわね」
何か意図があったのかは定かではないが、ピッピたちは共に自分のユニットの正体は明かさなかった、ということになる。
お正月に
……あ、でもその後にピッピが私に接触するため、ありすの家に来たってことは……。
”…………トンコツ、情報漏らしたな……?”
あの豚野郎、いや牛野郎め……。
「う、うーん、どうなんだろ? 師匠、前にラビちゃんに怒られたから、そういう――こじんじょうほう? とかは守るとは思うんだけど……」
”ああ、いや、まぁ結果論ではあるけど怒ってはないよ”
ちょっとだけ怒ってるけど。
これも予想するしかないけど、ありすたちの個人情報はともかくとして、ユニットの情報は渡していたとは思う。
それでピッピは『ヘパイストスとの共闘者』として私たちに白羽の矢を立て、どうにか接触しようとしたのだろう。
でも、美々香も言う通りトンコツもそうおいそれとありすたちの情報を渡すことは出来ず――苦肉の策というか代替案として、あのお正月の遭遇を利用したんじゃないかなって気はしてる。
美々香が出かける時に『桃香たちと初詣行ってくる』とでもトンコツに一言いえば、それでほぼ完了だ。
後はトンコツからピッピへと初詣に行った子たちの中からユニット――だけだとわからないだろうから、私を目印にして探させればいいってわけだ。星明神社に行ったのは向こうにとって幸運だっただろう。仮にそちらに現れなければ、もう一つの『月神社』へと行ってみればいい。空を飛べるピッピならすぐだし。
”お正月に
とりあえずは誰に責任を負わせるわけでもない、そう言って誤魔化しておこう。私の考えだってただの推論でしかないし。
「あの時のメンバーは……わたくし、あやめお姉ちゃん、みーちゃん、それと千夏さん――でしたっけ?」
”そうだったね。まぁ確率は二分の一だし、初詣の後みんなして桃香の家に行ったからねぇ……”
それもピッピにとっては幸運だっただろう。
私たちに見つからないように尾行して桃香の家まで到着。その後、いつまでピッピが見張っていたのかはわからないけど、美々香と千夏君が帰った後にも私がそのまま残り続けていたんだから、そこに私がいる、と思い込んだに違いない。
実際、最初ピッピが対戦を挑もうとした時には桃香の家に行ったらしいし。
……あれ?
「ん? じゃあ、どうしてピッピはわたしの家がわかったの……?」
だよねぇ?
「ぅ……」
と、雪彦君がなんかもじもじしてる……。
……あ、そういうことか……。
「ごめん……それ、たぶん僕のせい……」
「スバルの?」
「でも昴流さんも知らなかったのでは――あっ」
桃香は気づいたみたいだ。
”あー……まぁ、それも別にいいよ。今更だし、実は私たちも雪彦君が誰かのユニットだっていうのはわかってたしね”
これはお互い様だろう。
多分、流れとしては、桃香の家にピッピが私への対戦依頼のために赴く、しかしその時すでに私は桃香の家ではなくありすの家に戻っていたため不在。
それでどうしたものかってところで、雪彦君の『目』を通じて――つまり『視界共有』をしてクラス内を見て、ありすを見つけたってことなんじゃないかな。それから住所録かなんかでありすの家を調べて、夜に対戦に来た、そんなところだろう。
……うーん、そういえばあの時なぜかピッピは千夏君が塾で夜遅くの方が都合がいい、ってこと知ってたし……もしかして楓か椛あたりも絡んでるかな、これ。
…………まぁさっきも思った通り、全て今更だし、それに真実がどうだったのかは
”それより、美々香ちゃんはピッピのユニット全員とは面識あるんだね”
「うん、数えるくらいだけどねー」
これ以上この話題を続けてたら、居もしないかもしれない犯人捜しになってしまいかねない。
さっさと話題を変えてしまおう。
「ん、ミドー――ジェーンなら、きっとサリエラとクロエラと相性がいいはず……」
「あー、そうかもねー。まぁ前にクエスト行った時はあたしたちはほとんど後ろで見てるだけだったけどね……」
どこか遠い目をする美々香。
そっかー……多分その時もガブリエラが大暴れしたんだろうなぁ……。
知らない人が初めて見たら、アレ……ビビるよなぁ、きっと。
見た目だけは可憐な天使が満面の笑みを浮かべて『あははははっ♪』って笑いながらでっかい鍵を振り回してモンスターの群れに突っ込んでいき、瞬く間に死体の山を築いていくんだから……。
んで、返り血やら返り肉片やら浴びた姿で、やっぱりにっこにこ笑いながら帰ってくるんだから、ある意味でホラーだ。
……それでいてホラー映画の怪物も裸足で逃げ出すくらいのフィジカルなんだからなぁ……一体全体、あの可愛らしいなっちゃんからどうしてあんなスゴイユニットが出てきたんだろう……?
”まぁガブリエラも、特に裏表があるわけじゃないからそんな怯えなくても大丈夫だよ”
「そ、そうなの……?」
”――って、そうだな。折角だし教えてあげようか?”
「ん、ラビさん、いいの?」
人には個人情報の大切さを説教する癖に、って思われるかもしれないけど――まぁ私とトンコツ間ではむしろ隠し事をこれ以上しない、って方が重要だろう。
そもそもトンコツのユニットは全員知っているのだから、不可抗力で増えたとは言え私側の方を黙っているというのは不公平でもあろう。
”まぁトンコツ、っていうか美々香ちゃんたちならいいでしょ。っていうか、さっきのお泊り会のやり取りで大体気付いてるんじゃない?”
「???」
おっと、気付いてなかったご様子。
”雪彦君のお姉さんと妹さんが元ピッピのユニットだよ。美々香ちゃんたちとクエストに行く時もあるだろうし……そんな怯えないでも大丈夫だよ”
「! あ、ああ、そういうことか!」
やっと気づいたみたいだ。
「なるほどねー、だからお泊り会にお姉さんたちを誘ったのかー。いや、すばるんにお姉さんがいるのは知ってたけど」
「それは知ってらしたのですね?」
「うん。ほら、お正月にお姉さんたちと会ったじゃん? で、お姉さんたちがうちの兄ちゃんの同級生だって言ってたから兄ちゃんに聞いてみたら、なんかしばらくしてからそんな情報が出てきた」
”へー”
千夏君は弟の存在を知らなかったみたいだけど、美々香のお兄さんはどこからかそんな情報を仕入れてきたんだろう。まぁ単に千夏君が知らなかっただけかもしれないけど。
うーむ、人によって知ってる情報と知らない情報が入り乱れてて、誰が何を知ってるのかよくわからなくなってきたなぁ。まぁ現実の人間関係ってそういうの多いけどさ。
話題は軌道修正され、子供たちはきゃっきゃと何やら話し始めた。
……しかしあれだなー……こうして女子三人に混じってても、何の違和感もないな、雪彦君……。
何気に千夏君もそこまで違和感はなかったんだけど、彼の場合は『妹の面倒見てるお兄ちゃん』って意味で違和感がないって感じだ。
雪彦君の場合だと……本人気にしてるだろうけど顔立ちがそもそも女子と言っても差し支えないくらい綺麗だし、何より女の姉弟に囲まれて育ったせいもあるのだろうか、所作がどことなく女っぽい。
着ている服だけは男子っぽいと言えばそうなんだけど……ぶっちゃけありすも似たような感じの服だしねぇ……。
ま、あと数年もしたら雪彦君だって男らしく成長するだろうし、今気にしすぎても仕方ないって気はする。
……とまぁ子供同士での話には流石に私は加わらず、ほっこりとしながら様子を見ていた時、部屋のドアがノックされた。
「? 姉ちゃん?」
星見座家には、今楓も椛もいる。なっちゃんもいるんだけど……まぁ多分ノックなんてしないだろうなぁ。
「雪彦、皆に飲み物とお菓子持って来た」
「え、別に自分で行くから良かったのに……」
実際、まだ飲み物もお菓子も十分残ってる――というより、今回は自分たちで用意して持ってきていたのだ。
「……っていうのは口実で、雪彦と女子たちのキャッキャウフフが気になって覗きに来た」
「やめてよ!?」
息子のガールフレンドが家に来てそわそわして部屋をノックするオカンムーブか。
「……っていう気持ちを抑えきれないハナちゃんの代わりに、私が来た」
「にゃー!? なんでバラすにゃ!?」
「ふーたん、しーっ、だって」
「……はな姉ちゃんと撫子まで……」
どうやらオカンムーブをしたのは椛の方みたいだ。
この子も、何というか……日頃から弟妹の面倒をみているっていう話だし、意外と心配性なお姉ちゃんなのかも。
いるのがバラされてしまったこともあり、『にゃはは』と笑いつつなっちゃんと一緒に椛も入ってくる。
本来なら弟の友達(しかも異性)が来ているとなったら遠慮の一つもするんだろうけど、まぁ来ているメンバーは皆『ゲーム』繋がりだしね。
「うーたん、にゃー!」
”うんうん、にゃー”
相変わらずなっちゃんはかわゆい。
「うわぁ、この子……ラブリーすぎ……」
美々香がなっちゃんを見てうっとりとため息をついている。
そうか、イケメンだけじゃなくてちっちゃな子も普通に可愛いと思う感性はあるのか――いや失礼か。
ありすと桃香にもなっちゃんは挨拶。そして、不思議そうに美々香のことを見ている。
「ほら、撫子。あいさつは?」
「うゅー……?」
それでもじーっと美々香のことを見つめ――やがて、にぱっと笑顔を浮かべる。
「わんわん!」
「え!? なんで!?」
犬の鳴き真似、ではなく小さい子が犬のことを『わんわん』と呼ぶのと同じイントネーションだ。
「ちょっ、撫子!?」
「なっちゃん、その呼び方はダメにゃ!」
「うー? わんわん……?」
……マジでこの子、ユニットの時の姿が見えているのだろうか……? 確かにジェーンは犬耳(本人曰く『狼』らしいけど)が生えているけど……。
「みみこ、だよー」
「み、みー?」
「そうそう」
「うゅ、みーみーたん……みーたん!」
「うんうん、みーたんだよー」
「なっちゃんはね、なっちゃん!」
「そっかー、よろしくね、なっちゃん」
「みーたん!」
……美々香も以前の桃香と同じく、お姉さんモードになっているらしい。彼女、家だと最年少の妹なんだけどね。
ともあれ、無事なっちゃんとの自己紹介も果たせた。
楓と椛についてはお正月に既に会ってはいるけど、お互いにユニットであることを知ってからは初めてになるかな。
軽く皆で自己紹介し合う。
「そう、トンコツさんのところの……」
「は、はい! ……まさか皆さんがラビちゃんのところのユニットになるとは思わなかったけど……」
それは私もだ。
「あ。あたしがジェーンです!」
「お、バラしちゃっていいの?」
椛の言葉は美々香というより私に向けられていた。
”うん、君たちさえかまわなければ”
正体バレてるしね。さっき考えた通り不公平というのもあるけど、正体わかっている以上ユニットが誰が誰だか何て知られようが知られまいが変わらないだろう。
二人も抵抗はないのだろう、一度顔を見合わせた後に頷き合う。
「私がウリエラ」
「あたしがサリエラだよ」
「おぉ、あのミニ天使……!」
変身前後のギャップという点では、おそらく1~2を争う二人だろう。
「え……ということは……?」
お気づきになられましたか。
美々香はぎぎぎ、と音がなりそうな感じで自分の膝の上にご機嫌な様子で座るなっちゃんを見て、それから私の方を見る。
”……そうだよ。なっちゃんがガブリエラね”
「…………マジか……?」
前言撤回。やはり一番ギャップがあるのは
自分の膝の上に乗る幼児が、ビビりまくったガブリエラの正体だと知り、何とも言えない表情を浮かべる美々香であった。
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