第7.5章4話 第三回JS座談会withラビ feat.STARGAZERS(前編)
「お泊り会をいたしましょう♡」
うっきうきでそういう桃香。
何か前にもこんなことがあったなぁ……なんて思いつつ、私は口を挟まない。
「お、お泊り会、って……?」
誰も反応しないので仕方なく、と言った感じでおどおどと尋ね返す雪彦君。
ちなみに今私たちがいるのは雪彦君の部屋だったりする。
今日は土曜日。お昼ご飯を食べ終わった後に小学生ズで集まろうということになっていたらしく、私も拉致られてきている。
メンバーは部屋の主である雪彦君、発起人である桃香。そして私とありす、それと美々香だ。
いつもだったら桃香の部屋に集まる感じだったんだけど、なぜか今日は桃香が雪彦君の部屋に集まることを強硬に主張。彼も快諾――私の予想では桃香の勢いに無理矢理押し切られたと思うんだけど――ここに集まっているというわけだ。
「お泊り会はお泊り会ですわ♡」
「あー……そういえば、去年やろうとしてたやつ、あたし行けなかったしなー」
「ん、ミドーが風邪ひいた時の」
そんなことあったなぁ。
確かあのお泊り会の時に、『嵐の支配者』が現れたんだっけ。
「そ、そういう話なら、女子だけでやればいいんじゃない……」
小声で反論する雪彦君。もうちょっと強気に出てもいいんだよ?
まぁでも女子同士の『お泊り会』の話題なんて、雪彦君の言う通り女子だけの集まりでやればいいと思うんだけど。わざわざ男子の部屋に来てやることじゃないだろう。
だが、私たちの予想に反して不思議そうな顔をして首を傾げる桃香。
「え? 何をおっしゃってるのですか、
「え……えぇっ!?」
驚きのあまり、大声を出してしまう。始めて見る雪彦君の大声だ。
「……どうせ桃香、すばるんのお姉ちゃんたち目当てなんでしょ」
美々香は流石付き合いが長いだけあって桃香の下心を見抜いているようだ。
なるほど、そういうことか。
桃香の狙いは楓・椛というわけか。
果たしてそう上手く行くだろうか……?
ところが、再び桃香は私たちの予想に反した不思議そうな顔で首を傾げて見せる。
「どうしてそうなるんですの? もちろん、昴流さん自身もそうですし、千夏さんもお誘いするつもりですわよ?」
「えぇっ!? どうしちゃったの、桃香!?」
「ん……トーカがおかしくなった……」
「ち、千夏兄ちゃん……!」
美々香とありすの反応が全てを物語っているなぁ。
んで、千夏君の名前が出て雪彦君は顔を輝かせている。
……どうもこの子、千夏君やありすに対して色々と一言では表せない想いを抱いているみたいだ。まぁ多分そんな問題視するようなものではないだろう、って私はにらんでいるけど。
「……みーちゃんとありすさんとは、後でゆっくりとお話する必要がありそうですわね……」
桃香はちょっと自分を振り返ってみてほしい。
まぁそれはともかくとして、だ。
”んー、雪彦君たちも同じチームになったんだし、親睦を深めたいってことでいいのかな?”
私の言葉に桃香は満面の笑みを浮かべて頷く。
「はい♡ 千夏さん、昴流さん、お姉さまたち、それになっちゃんさんも、皆さんで集まって親睦を深めようかと」
……んー、まぁ悪い話じゃないけど……色々とハードルが高いと思うけどなぁ。
「トーカの家、そんな人数無理だと思う……」
「あたし除いても七人でしょ? 幾らなんでも桃香の部屋には入り切れないし、何よりすばるんはともかくバンちゃん先輩は……」
そうなんだよね。桃香の家だって広いと言えば広いんだけど、流石にそんな大人数を泊めることは無理だ。今年のお正月だって、それが理由で親戚を泊めなかったという事情もあるんだし(一番の理由は桃香の身の安全を守るためだったけど)。
それに……流石に千夏君を桃香の家に泊めるっていうのはね。彼がそんなことする人間とは全く思わないけど、事情をよく知らないであろう桃香のご両親たちにしてみれば、急に現れた見知らぬ中学生男子を泊めるっていうのには抵抗があるだろう。というか、これに抵抗しない親はどうかしているとしか思えない。
……『すばるんはともかく』という言葉については微妙に反論したそうだった雪彦君だったけど、私も含めてとりあえず黙殺しておいた。
で、桃香はというと……三度不思議そうな顔をして首を傾げる。
「わたくしのお家でも無理なことはわかってますわよ? それに、みーちゃんはもちろん、今回は和芽お姉さまも誘うつもりですわ」
「それじゃますます人数増えちゃうじゃん」
「はい。ですので、今回は――『別荘』を使おうと思ってますの」
別荘! ああ、そういえばそんなのがあるっていつだったか桃香が言ってたっけ。
”それって、確か桃園の隣にある『演習場』にある施設……だっけ?”
「はい♡ 既にあやめお姉ちゃんに使える日は確認しておりますわ♡」
手回しがいいことで。
桃園から更に東側に少し行ったところに、軍の駐屯地ではなく『演習場』があるのだ。ちなみに、桃園とは敷地内でつながってはおらず、桃園と演習場の間にも普通に道路が通ってたり住宅地があったりする。
町中に演習場っていうのも何だか奇妙な感じだけど、その敷地は相当広くて中には森や川まであるんだとか。
で、その演習場の施設の一つが桜家の持ち物であり、桃香の言う『別荘』なのだ。
まぁ桜家の別荘と言っても場所が場所だけに年中使えるわけでもなく、また演習場の一部区画同様に一般公開している時もあるという。確か、あやめや千夏君の通ってる剣道のクラブの合宿とかにも使われてたはずだ。
「あー……あそこかー。あそこなら確かに十人くらいなら余裕で泊まれるねー」
美々香は行ったことがあるのだろう。
「んー、温泉あるって言ってたとこ?」
「ええ、露天風呂がありますわよ♡」
……一瞬、桃香からどす黒い気配が流れ出たような気がするけど、気のせいだと思いたい。
「……うー、でも撫子は……うーん……」
雪彦君の悩みはよくわかる。
なっちゃんをお泊りで――しかも祖父母とか親戚の家ではなく、子供たちの友達の家へとお泊りさせるのは流石にちょっと躊躇われるだろう。
保護者として楓・椛が着いてくるにしたって、彼女たちも大人びているとはいえ中学生――れっきとした未成年だ。当然、雪彦君のことだってある。
「もちろん、わたくしたち子供だけではお泊りなんてできませんわ。というか、お父様たちが流石に許しませんわよ」
桃香自身もそこらへんは理解しているんだろう。
娘には甘い大人たちだったけど、それは娘の安全を引き換えにしても甘やかしたい、というようなものではない。
「なので、今回は保護者の大人にも着いてきてもらいますわ」
”保護者の大人って……あやめのことじゃないよね?”
車の運転免許取ってるとは言っても、あやめだって未成年だ。
私の言葉に桃香はもちろん、とばかりに頷く。
「あやめお姉ちゃんも着いてきますけど、保護者としては別ですわ。今回は、豪おじさまと
「ん!? お母さん!?」
豪先生と鮮美さん――あやめの両親については予想の範囲内だったけど、美奈子さんまで!?
”い、いつの間にそんな約束取り付けたの?”
「うーん……わたくしにもよくわかりませんが、おばさまが決めてくれたそうです」
……そういや、美奈子さんと鮮美さん、知り合いなんだったっけ……どこで知り合ったのかとか全くわからないけど……。
すげーな、桃香……この手回しの良さを学校の勉強とかに是非発揮していただきたいものだ。
「というわけで、保護者の問題も解決ですわ♡ 後は本人次第ということで」
「ん……お母さんが行くってことは、わたしはとーぜん大丈夫」
「あたしも前回行けなかったから行きたいなー。カナ姉ちゃんは行けるかどうか聞いてみないとわからないけど……あ、そーだ、師匠も呼んでいい?」
「ええ、いいですわよ。ラビ様もいらっしゃいますよね?」
”…………拒否権ないよねー、この流れ”
ありすだけならともかく美奈子さんまで巻き込んでるとなると、私に拒否権はなさそうだ。いや、別にいいんだけど。
そうなると、後は雪彦君たち
「う、うーん……ちょっと姉ちゃんたちと相談させて……?」
「もちろんですわ。千夏さんには――」
”それは私が聞いておくよ。まぁマイルームに集まった時とかでもいいんだけど”
「んー、『ゲーム』の時間が削れるから、ラビさんが聞いて」
……いや、いいけどさ……。
というわけで、桃香の思い付き(と思いのほか手際いい根回し)によって、桃園演習場にて第二回の『お泊り会』が開催されることになったのだった。
現時点でのメンバーは桃香、ありす、美々香、私。
声掛けの結果次第ではあるけど、追加で来る可能性があるのが千夏君、雪彦君、楓、椛、なっちゃん、それと和芽ちゃんとトンコツ。
これに保護者役としてあやめ、豪先生、鮮美さん、美奈子さん……もしかしたら保護者はもっと増えるかもしれない。
かつてない大人数でのお泊り会である。
……よく考えたら、ありすにしろ美々香にしろ、ちょくちょく桃香の家に泊まっているような気はする。なので、美々香が『お泊り会』に拘る必要はないはずなのだが、
「わかってないなぁ、ラビちゃん。突発じゃなくって前々から色々と企画して準備したりするのが楽しいんじゃん」
と言われてしまった……わからんでもないけど。
まー、私としては新しく仲間になった雪彦君たちと親睦を深める機会を設けるのはいいことだと思うし、最悪お泊り会が出来なかったとしてもマックなりでやればいいんじゃないかとも思っている。
各々の親御さんの許可が取れるのであれば、特段止める理由もないかな。まぁ今回反対したところで既に美奈子さんがオーケー出してる以上、ありすと私は参加することにはなるんだろうけどさ。
……結論として、このお泊り会を開いたのは正解だったと後に私は思うことになる。
でもそれは――仲間としての親睦を深めたとか結束が強まった、とかそういうプラスの意味では決してない。
後に待ち受ける『事件』への関わりがほんの少し早くなる……その程度のことでしかない。
ただ一つだけ、この時に皆と一緒にお泊り会をしたことで――私は、私に関わる『あること』についてのヒントを得ることができ、それのおかげで『事件』へと関わることの出来る
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