第7章53話 世界ヲ殺ス黒キ巨人 3. 生まれ変わったキミたちへ
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「!? な、に……っ!?」
ジュウベェが異変に気が付く。
アリスが《流星剣》と《雷光剣》の攻撃を
それだけではない。回避と同時に翼からレーザーを放ち、ジュウベェを狙い撃ったのだ。
……ただの偶然ではない。レーザーは微妙に撃つ角度とタイミングをずらし、確実に一本がジュウベェを捉えたのだった。
「くっ……ぐぅ……!?」
レーザーは左の腹部を貫通していた。
『闇』の触手とは異なり、それだけでジュウベェを『封印』したりはしないようではあったが、決して浅い傷ではない――むしろ、小さな『穴』を穿っただけにも関わらず、傷口から燃えるような痛みが全身に走る。
こちらの『赤』のレーザーも危険な攻撃だ。もしも全身を撃たれたら、痛みだけで発狂してしまいかねない。
それでも、まだ残りの魔法剣を使えばジュウベェの勝ちは揺るがない……はずだった。
――……っ!? なぜだ……!
確実に異変は起きている。
アリスは向かってきた刃龍をステップで回避、更にカウンターで『闇』と『赤』をぶつけ刃を削っていく。
別方向から襲い掛かる雷龍は『
……明らかにアリスの戦い方が変わってきていた。
それも――
――馬鹿なっ!? 魔法を使っているみたいな……!?
発声こそ聞こえないものの、明らかに今のアリスの動きは『魔法』を使っているとしか思えない動きだった。
謎の再生能力、『闇』の触手、『赤』のレーザー……この三つは最初から使っていた。
ジュウベェにも微かに聞こえた魔法の名前――《
だが、ここに来て新たな力でアリスはジュウベェの攻撃を相殺しだしている。
これも《スルト・ラグナレク》の効果――と考えることは出来るが、だとしたらなぜ今になって使ってきたのかがわからない。この状況でアリス側が出し惜しみをする理由など一つもないからだ。
「……ははっ」
アリスが笑う。
さっきまでのような、怒りや憎しみに囚われていたのとは全く異なる――どこか泣き笑いのような表情で。
その目からは赤い炎は徐々に消え失せ、元のアリスのような、あるいはありすのような透き通った紫色の光へと戻ってゆく。
「……!!」
拙い――ジュウベェはそう直感した。
何が起きているのかわからない……いや、ある意味で暴走状態にあったアリスが理性を取り戻したような様子なのはわかる。
わかるが……それが決してジュウベェにとって有利に働くようなものではないこともわかる。
「もう、
「ふ、くく……何を……っ」
はったり、とは思わなかった。
理由はわからないが、
おそらくは《スルト・ラグナレク》は発動後も魔力を消費して追加の攻撃を行うタイプの魔法なのだろう。そういう魔法は他にもあるのでありえない話ではない。
今までは魔力が残っていないので『闇』の触手等しか使えなかったのが、どういうわけか魔力が回復したため他の攻撃が出来るようになった。そしてそれを使ってジュウベェの攻撃を相殺・迎撃することが出来るようになった、そういうことなのだろう。
――なぜだ……!?
問題なのは、なぜ突然魔力が回復したのかというところだ。
――ま、まさか……。
『なぜ』と思いつつも、その理由についてジュウベェはたった一つの答えしか持っていない。
ユニットの魔力が自然回復した、などということは考えない。確かに放置していれば魔力は少しずつ回復していくが、それは超長期クエストにおける救済措置にすぎない。今回のような対戦で実用に耐えるようなものではないのだ。
であるならば答えは一つしかない。
――あ、あの死にぞこないがぁっ!!
もはや消滅は時間の問題と思っていた――実際に消滅寸前であった――ラビが回復した。それ以外に考えられない。
それならばアリスの暴走状態が収まったことにも説明がつく。彼女も自分の魔力が回復したのがラビのおかげだと理解したのだろう。それによって、怒りと憎しみで曇った心が冷静さを取り戻した……ということは、人の心に疎いジュウベェであってもわかる。
とはいってもラビが消滅寸前、放置していればもう間もなく消えるであろうことに変わりはないし、ジュウベェ自身はまだまだ体力も魔力も、そして回復アイテムも十分に残っている。
『
唯一気にしなければならないのは肉体を欠損するようなダメージを受けることだが、これは《獣魔剣》が残っている限り回復可能だ。
そして、《獣魔剣》を失わないように――というよりも、より確実な勝利を得るために、ジュウベェは彼女が本来ならば望まない戦い方をすることにした。
「抜刀 《防壁剣・極》――く、くくく、くふふふふふっ!! 更に抜刀 《重撃剣》《開闢剣》!」
全身を覆い囲むような青い光の結界――防御用魔法剣 《防壁剣》、その極致である最大防御魔法を使い、更にそれに対して《重撃剣》を使い結界を何重にも張る。
アリス自身が近づいて来ようとも《開闢剣》で距離を取り、蠢く『闇』は《流星剣》で対処できる。
「えぇ、不本意ではありますが、これで
消極的な判断。しかし、ラビが消滅するまで耐えればいいジュウベェにとっては最善とも言える判断だ。
変わらず圧倒的に不利なはずのアリスであったが、再び笑う。
――いつもの、不敵な、獰猛な笑みを。
「ふん、底を晒したな、ジュウベェ」
嘲るような言葉ではあったが、表情にはそんな様子は一切見えない。
事実、アリスは内心にはいまだに怒りや憎しみが渦巻いてはいるものの、少なくともジュウベェを見下すつもりは全くない。
口が裂けても言えないが、ある意味では『尊敬』しているとさえ言えよう。
故に、
「今度こそ、終わらせるぞ――」
そしてアリスが笑みを消し、紫の眼光がジュウベェを射抜く。
「sts《神装解放》!!」
アリスの呼び声と共に、魔力が『仇なす魔の杖』へと集まる。
離れた位置で霊装に対して神装を発動させるということは――《
だとしても《防壁剣・極》の何重もの防御壁を突破することは不可能。
《
唯一危険なのは、先程ジュウベェを仕留めた《
「
「!? 何を……ぐぅっ!?」
アリスの言葉の意味がわからず戸惑うジュウベェだったが、その右足を何かが貫いた。
《防壁剣》の壁を容易く貫いたそれは――『闇』の中から放たれた一筋の赤い光線であった。
「『《防壁剣》を否定する』」
「くっ……まさか……っ!?」
更に今度は左足を、
「がぁっ!?」
「『《開闢剣》を否定する』」
右腕、
「『《獣魔剣》を否定する』」
左腕、
「『《重撃剣》を否定する』!!」
――アリスの『宣告』と共に、ジュウベェの身体を次々とレーザーが撃ち抜いていく。
回避するどころか、どこから撃ってきているのか視認することすら出来ない。
まるで、撃ち抜かれたという確定した事実から逆算しているかのように、レーザーそのものは見えているのにどう足掻いてもかわすことが出来ない。
この攻撃によるダメージ自体は大したことはない。身体を貫いているとはいえ針の穴のような傷でしかないのだ。生身の肉体ならばともかく、ユニットの身であればさしたる脅威ではないだろう。
しかしそれよりも深刻な事実にジュウベェは気づいていた。
「は、ばか、な……!? 魔法剣が……
『闇』に飲み込まれた《加速剣》などと同様、今アリスが名を挙げた魔法剣が唐突に消え失せ、そして抜刀することができなくなっていた。
「『お前の全てを否定してやる』」
「――……っ!!?」
違う。これはただの『宣告』なんかではない。ジュウベェはようやくそのことに気が付いた。
これは『魔法』だ。ただし、ジュウベェの知らない――いや、他のどの使い魔も知ることのない、完全に『ゲーム』の
「……
アリスが『仇なす魔の杖』を剣のように構える。
となると、来るのは《レーヴァテイン》か? 魔法剣の大半が封印されている状態では食らうのは拙い――が、ジュウベェにはそれでもまだ勝算はあった。
なぜならば、『ジュウベェ』というユニットはまだ後2つ残っているからだ。
ここでやられたとしても、さっきアリスたちを不意打ちで全滅寸前に追い込んだ時同様、新しい『ジュウベェ』で復活することが可能なのだ。
ならば回避できないのは仕方ないとして、アリスの魔力を今度こそ使い果たさせてしまえばよい――どちらにしても、次の3人目の『ジュウベェ』を倒す術はないだろうし、その前にラビたちは消滅するだろう。
――そんなジュウベェの考えが
「……ひっ!?」
その『割れ目』の向こうから
無数の『眼』がジュウベェのことをじっと見つめている。
これもアリスの魔法の一部なのだろうが、あまりに異様だ。
そして、その『眼』が一斉に輝き出し――ジュウベェへと向けて『赤い』光線……いや、巨大な『炎の剣』を四方八方から投げつける!
『恐れ』を抱くのも当然だろう。
それらは『眼』などではない――アリスの魔法の『銃口』なのだから。
『炎の剣』のうち、一本がジュウベェの右腕を焼き切る。
「ぐぁ……く、くぅっ……」
呆けている場合ではない。
とにかくここを耐えきれば『勝ち』なのだ。
迫りくる無数の『炎の剣』を必死にかわし、生き延びようとするジュウベェ。
――その足が、不自然に止まった。
「なっ、動け――うぐっ!?」
ジュウベェの意志に反して足が動かない。
それどころか、呼吸すらも出来なくなる――ユニットであれば呼吸そのものは不要ではあるのだが。
――こ、これは……アリスの魔法……!? 馬鹿な、こんなデタラメな効果の魔法なんて……!?
魔法剣を封じた『魔法殺し』ではない。『魔法殺し』であるならば体の動きそのものを止めるということは出来ないはずだ。
であれば
ジュウベェがその『答え』に辿り着くよりも早く、『炎の剣』が殺到し全身を貫く。
《スルト・ラグナレク》は『世界を殺す力』。
『世界』とはすなわち、この『ゲーム』内においては『ゲーム』
よって、アリスの能力――それは『魔法殺し』などではない。
『
「くたばれ、ジュウベェ!!
《
――『虚無』が、
――あらゆる存在を消し去る『終わりの焔』に埋め尽くされた――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「がっ……はぁっ、はぁっ……」
それでも、
それでも尚ジュウベェはまだ残っていた。
「あ、危なかった……」
どれだけ強力な魔法であっても、それが『魔法』である限り魔力という枷からは逃れることは出来ない。
アリス自身の回復アイテムは既に尽き、また使い魔からの回復も望めない状態だったのだ。アリスの
もしもこの場にラビが健在で、かつ回復アイテムがまだ残っている状態だったのであれば……。
あるいはクラウザーが『ジュウベェ』を
確実に今の《レーヴァテイン》によってクラウザーごと消滅させられていたであろう。
「うぐっ……」
辛うじて立ち上がれたものの、全身に受けたダメージはかなり深い。
これが最後の『ジュウベェ』の身体だ。それでももはやまともに戦闘をすることが出来ないほどのダメージを受けている。
膝を付き、荒い息を吐きながらすぐさまジュウベェは視線を向ける。
「くっ……まだ、終わってない……!」
離れた位置にありすがいた。
体力こそ残っているものの、今度こそ完全に魔力が尽きたため変身が解かれている。
それでも絶対に油断してはならない存在だということを、
以前のように『杖』が残っていたりはしない。ありすは満身創痍であり、かつ武器も持っていない。
……だが、彼女の戦意は全く衰えていない。
――武器なんて持っていなくても、魔法も使えなくても、
事ここに至って、ようやくジュウベェはありすという人間を理解した。
身体は既にボロボロ、立ち上がるのがようやくといった有様、武器になるようなものすら持っていない、脆弱な生物である人間の、特に脆弱な幼い少女の姿をした『怪物』。
魔法など、ありす本人に比べたら大した脅威ではない。
見た目に騙されてはならない。
この少女は、間違いなくこの世界――そして『ゲーム』に紛れ込んだ『異物』であり『異常者』だ。
「く、くくっ……ですが、ここで――今度こそ……完璧に殺してみせましょうかぁっ!!」
ジュウベェの方も満身創痍で魔力もほぼ尽きかけている――それも先程の《レーヴァテイン》の効果なのだろう。加えて、まだまだ余裕のあったはずのアイテムも使えなくなっている。
変身できている分だけ、格闘戦を行うにしてもジュウベェの方が有利。その事実は不動だ。
「ああ――くふふっ、
霊装も先程の攻撃で失ってしまったであろうが、一本だけまだ魔法剣が残っていることを感じ取りジュウベェは笑みを浮かべる。
おそらく最初の対戦での敗北の原因、その一つと思われる《召喚剣》ではあったが、素手でありすに立ち向かうことは出来ればしたくない――それだけ、ジュウベェはありすのことを『恐れて』いるのだ。
もはや恥も外聞もない――ここで負けたら全てが終わる。
逆に、ここでありすを倒すことが出来さえすれば、ジュウベェは何者にも負けることがないと証明できる。
「う、うあああああああああっ!!!」
ジュウベェは自身の内に潜むありすへの『恐怖』を吹き飛ばすかのように、叫び声を上げて《エクスカリバー》を振り上げて襲い掛かる。
全てを薙ぎ払うレーザーでは
相手に魔力が残っていないことはわかっている――普通ならばレーザー一発で決着はつけられるだろう。
だが、相手はありすだ。
今回の一連の戦い――ありったけの『チート』を使った。準備にギリギリまで時間を費やした。
だというのに、今追い詰められているのは
不死の秘密を見破られるのはある程度予想はしていた。元々魔法剣を安全に集めるための手段にすぎない。
だが、得られた魔法剣のことごとくは破られてしまった。それも、そのほとんどが真っ向勝負で……。
《召喚剣》の極大レーザーを使った時には『これで勝ちは決まった』と、ジュウベェですら確信を抱けていた。
なのにありすは生き残り、そしてジュウベェを打ち破ったのだ。
「今度こそ……今度こそ!!」
もうありすに力は残されていない。それは確実だ。
けれども絶対に油断は出来ない。
たとえ《召喚剣》のレーザーを使ったとしても……一撃なら何とかしのいでしまうのではないか、そんな『妄想』に――恐怖の『幻想』にジュウベェは捕らわれてしまっている。
だから、ありすにとどめを刺すのであれば自分の手で直接だ。
直接斬りつけ、首を刎ね飛ばさない限り全く安心できない。
「……ラビさん、もう少しだけ、待ってて」
ありすの変身が解かれたことで、アリスの内部に取り込まれていたラビの身体も再び表に現れている。
相変わらず瀕死の重傷を負い、身体が消えかかってはいるが――まだ時間はあるはず。
ありすはそう信じ、向かってくるジュウベェを今度こそ倒さんとする。
魔法もなく、武器もない。
身体はボロボロだし意識は朦朧としている。
それでもありすは決して屈しない。
たとえ素手であっても――非力な体であっても、急所を抉ることはできる。
両腕が使えなくなっても、相手の首筋を噛み千切ってやることはできる。
剣で斬られたとしても、ほんのわずかでも体力が残っていれば反撃し、必ず相手を倒す。
10歳の少女とは思えない――そして、死に瀕した人間とは到底思えない戦意と決意をありすはまだ持っている。
「くっ……ディスマントル《ブレード》……! こ、恋墨さん、これを!」
と、そこで同じく満身創痍で地面に転がっていたクロエラが、最後の力を振り絞って
振り返らず、投げ渡された『剣』――バイクのハンドルをありすが受け取ると、緑色の炎のような光の刃が現れる。
クロエラの最後の魔力を使って作りだした《ブレード》を手に、
「あああああああああああああっ!!!!!」
ジュウベェの叫びに応えるようにありすも叫び、突進していく。
大きく振りかぶったジュウベェの剣が、ありすを脳天から両断せんと振り下ろされる。
ありすもまた剣を振るうが――仮に剣同士が受け合ったとしたら、変身していないありすが
だから――
――っ!? 剣を、受け流した……!?
ありすはまともに打ち合わなかった。
剣と剣が交わる直前、手首を返して剣の軌道を縦から横へ。
ジュウベェを縦に切り裂くのではなく、胴を薙ぐように横へと軌道を無理矢理切り替える。
……かつてありすが千夏から教わった、剣道で言うところの
「がぁっ!?」
ジュウベェはありすの剣をかわすことが出来ず、胴体を真横に斬られる。
が、クロエラの作り出した《ブレード》は名前の通りの『刃』を持たない。物質を貫通し、軌道上にあるものを焼くための武器なのだ。
故にジュウベェは真っ二つにされることはなく、大幅に体力を削られたもののまだ生きていた。
「こ、の――!!」
すぐさま振り返りありすへと反撃を仕掛けようとする。
振り返ったジュウベェが見たものは――
「――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ジュウベェよりも早く向き直り、大上段に剣を振り上げているありすの姿であった。
『残心』――これもまた千夏が教えた剣道の心得。
……あるいは、完全にジュウベェを倒すまで何度でも剣を振るつもりだったのかもしれないが。
「――チィッ!?」
どう頑張ってもありすの剣が振り下ろされる方が早い。
ジュウベェは自身の剣でありすの剣を防ごうとする――たとえクロエラの《ブレード》が物質を貫通するとは言っても、同じ魔法の産物である《召喚剣》であれば受け切れる……そこまでジュウベェが考えたかは定かではない。半ば本能的に剣を翳してしまっただけなのかもしれない。
本人の認識はどうあれ、《召喚剣》であれば《ブレード》を受けることは可能だ。
……
「なっ……!?」
剣と剣がぶつかり合う瞬間、ジュウベェの手から《召喚剣》が
魔法を解除したわけでもなく、《スルト・ラグナレク》の時のように存在を否定されたわけでもない。
まるで剣自身がその時を待っていたかのように――自分の意思でジュウベェの元を去ったかのように、ふと消え失せたのだ。
――……
なぜだかその時
ただし、彼の知る生気のない死人のような表情ではなく、どこか憐れむような表情ではあったが……。
「ぜやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
全身のバネを使って、剣の型も何も無く、ただひたすらに全身全霊を込めたありすの振り下ろしは受け止められることもなく――
「が、ぁ……」
頭頂部からジュウベェの身体を両断していった……。
「ぐぉ……が、が……」
全ての魔法剣を失い、二度も両断されたジュウベェだったがまだ生きていた。
今度こそ――と残された二本の腕でありすを縊り殺そうとするが、
「――あ」
剣を振り下ろした後もありすは全く止まるつもりがなかった。
すぐさま剣を持ち上げると、最後の力を込めて剣を突き出して全身でジュウベェへと体当たりを仕掛ける。
「く、く……」
胸の中心に刺さったままの《ブレード》が、ジュウベェの残された体力を削ってゆく。
この剣をありすごと振り払う力は――もはやジュウベェには残されていなかった。
「この……バケモ、ノ……め……――!!」
そして、ついにジュウベェの身体から力が抜け……その姿が消えて行った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「う、くっ……ラビさん……!」
ジュウベェが消え、ありすはすぐさまラビの元へと戻ろうとする。
だがありす自身ももう限界が近い。
『ゲーム』的な意味での体力はまだ残っているものの、身体を動かすための活力――生命力や精神力自体が尽きようとしているのだ。
よろよろと、ラビに歩み寄ろうとするものの、その足取りはおぼつかず……ついには途中で倒れてしまう。
「ぴ、ピッピ……早く、対戦を終わらせないと……!」
”くっ……わかってる、けど……!”
ジュウベェは今度こそ消えた。
ピッピの見る対戦情報から『クラウザー』の名前が消えている。
あの状況から逃げ切れたとは到底思えない。本当に倒したと思っていいだろう。
そうなると後はピッピとラビの間で『対戦を終了させる』という合意を取ればいいのだが――
”ら、ラビ! ラビ……!! お願い……!”
肝心のラビの反応がない。
ピッピが対戦を終わらせようとしても、ラビが『合意した』とみなされなければバトルロイヤル対戦が終わることはないのだ。
”せっかく……ジュウベェを倒したのに……!”
力づくで対戦を終了させるわけにはいかない。
それはラビもジュウベェ同様に消えるということを意味しているからだ。
……ジュウベェを逃がさないためのバトルロイヤル対戦ではあったが、それが仇となった形だ。
ラビの身体は消えかかったままだ。
ならばまだ望みはあるはず――そう信じ、ピッピも残った力を振り絞って必死にラビに呼びかける。
<
Winner
>
しかし――
<
ピッピ
>
無情にもシステムは対戦の勝利者を『ピッピである』と宣言してしまった。
すなわちそれは、
「ラビ……さん……?」
それは――
「そんな……ここまできたのに……!?」
”ラビ……!!”
それは、『ゲーム』のシステムがラビの『死』を認識したということを意味している。
「うそ……やだ、やだやだやだ!! ラビさんやだぁぁぁぁぁっ!!!」
理解したありすが倒れながら泣きわめき、這ってでもラビの元へと縋りつこうとする。
ラビの身体自体はまだ残ってはいるが――それが消えるのももうすぐだろう。
そして、この対戦を終わらせて現実世界へ戻った時、ラビは完全に消滅し、ありすたちは『ゲーム』からリタイアすることになるのだ。
「ピッピ、どうにかならないの……!? あんなに恋墨さんががんばったのに、これじゃあんまりだよ……」
”…………”
ピッピの反応も鈍い。こちらもラビほどではないが重傷なのには間違いないのだ。
それでも現実世界へと戻ることが出来れば、こちらはまだ希望はある。
しかし――
――……私は、大きな過ちを犯そうとしているのかもしれない……でも……。
ピッピはすぐに対戦を終了させようとしなかった。
そして何事かを考え込んでいる。
――時間がないわ。すぐに
――
――私とラビが共倒れするかもしれないけど、■■■■■■■
選べる道は二つ。
ピッピの最終目的のことを考えれば前者の道を迷わず選ぶべきだろう。
しかし……。
――
後者の道はギャンブルとしかいいようがない。
しかも、仮に賭けに勝ったとしても、リターンがあるかどうかも不確定な、通常なら賭ける価値を見出せないものだ。
だというのにピッピが悩んでいる理由はたった一つ。
――……もし、私の想像が正しければ……
『ゲーム』の開発者――そして『ゲーム』における
その異常は決してシステム側のバグ、とは言い切れない。
もちろん、クラウザーのような『チート』を使っているわけでもない。
ただ自然にありすに割り当てられたものがあまりに異常なもの、というだけの話だ。
そして、ありすにそんなものが割り当てられた理由はおそらく――
そこまで考え、ピッピは決断する。
”……クロ、私を……ラビのところまで運んで……”
「ピッピ? でも……」
”いいから、急いで……!”
時間がない。
ラビの肉体がまだ残っている間ならば間に合うが、それも後数十秒……いや数秒のうちに消えてしまうだろう。
それまでに『賭け』を行わなければならない。
ピッピに言われた通り、ラビの身体の上にピッピの身体を重ねるように置く。
”…………クロ……皆に――撫子たちによろしくね……”
「!? ピッピ、一体何を――!?」
まるで最後の別れの言葉のようだ。
クロエラが問い詰めようとするも、その瞬間ピッピとラビの身体が眩い光を放ち始め――
■ ■ ■ ■ ■
運命は人の力では変えることは出来ない。
だから――もし『運命が変わった』と思えるようなことがあったとすれば、それは
人の意志で世界は変わらない。
残酷で理不尽な世界を変えるのは、世界以上に理不尽で不条理な『暴力』によるものだ。
つまりは――
そしてピッピの『賭け』の結末もまた、運命なのである。
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