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隨ャ7遶50隧ア DOOMSDAY MONSTER

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 世界とは、である。

 運命は『人の意志』だとか、『愛』とか『勇気』だとか、そういう曖昧なもので決まるべきではない。

 もっと厳密で冷酷で残酷で、確固たる事実の積み重ねによってのみ決まるべきである。


 それがたとえ『卑怯』だと罵られるべきものであったとしても。

 そんなものは所詮、一部の人間にだけしか意味のない、些末なものなのだから。




「…………そん、な……うそ……だ……」


 アリスの身体から力が抜け、その場にがくりと膝をついて動けなくなる。

 それが不意打ちで受けたダメージだけではないことは、誰の目にも明らかだった。

 ……もっとも、この場にいる中でまともに意識を保っているのは――ジュウベェだけなのだが。


「くく、くふふ……ふ、あっははははははっ!!」


 まだ全員を倒したわけではない。

 今までの経験からも、完全に相手を倒すまでは『勝ち』を確信していいわけがないことはわかっている。

 それでも――もはやジュウベェクラウザーの勝利はゆるぎないものだというのは誰の目からも明らかだった。




 クロエラは地面に倒れたまま動かない。消えていないということは体力はまだ残っているはずだが、ダメージが大きく動けないのだろう。

 その使い魔ピッピのダメージは非常に大きい――身体が小さい分、《流星剣》の刃を意図せずにかわせたのはあるが、それでも片方の翼と脚が切り裂かれ、地上に落ちたままピクリとも動かない。

 アリスは先の《万雷轟かせ剛神の激槌トール・ハンマー》を始めとした神装でほぼ魔力を使い果たし、更に不意打ちでのダメージが大きい。

 ……が、動けない理由はそれだけではない。


 ――ラビは、もう■んでいる。


 正しくはではあるが、もはやは確定している。

 身体が溶けていくように……薄く、粒子となって徐々に消えかけている。

 を止める手段はない。それがアリスにもわかっているのだろう。

 自身の少なくないダメージも気にすることなく、倒れ伏すラビへと手を伸ばそうとするアリス。




「くふふ、ふひっ! えぇえぇ、もう終わりです。抜刀――《大杭剣》」


 『終わり』――すなわち、ジュウベェクラウザーの勝利はゆるぎないだろう。

 今受けているダメージそのものもそうだが、そもそももはやアリスに戦う力は残っていない。

 アリスが魔力を回復できる回数は残り1回。これは戦闘中に回復回数を数えていたため間違いない――ラビがいたとしたら、更に回数は増えるかもしれないが。

 しかしラビはもう■んでいる――いや■にかけているため回復させること自体が出来ないだろう。

 つまり……アリスが神装を使えるのは残り1回限り。

 まともに戦ったとしても、《トール・ハンマー》を一発撃つのが精々……そして一度見せている以上、当てることはほぼ不可能と思っていいだろう。

 事実、ジュウベェは《トール・ハンマー》がどういう魔法かはおおよそのところを理解し、対抗策は考えついている。


 だが、確実にアリスは倒さなければならない。

 とどめを刺すべく呼び出した《大杭剣》を呆然としているアリスの背中に向けて振り上げ――




「うっ……アリス、さん……っ!?」


 同じく満身創痍のクロエラが目を覚まし状況に気が付くが、


「っ!? 痛……」


 彼女の生命線、機動力の要である両足には何本もの刃が刺さっていてロクに動かすことが出来ない。

 そして傷を癒す術をクロエラは持たない。

 霊装メルカバとユニオンを使って合体すれば肉体的なダメージは気にする必要はなくなるが、自分一人で行動するには不向き――アリスに乗ってもらわなければまともに戦闘を行うことは出来ない。


『ピッピ! ピッピ!!』


 クロエラの位置からはピッピがどうなっているのか見えていない。

 遠隔通話で呼びかけてみるが……。


『”……クロ……”』

『くっ……ピッピも……!』


 弱弱しい声音を聞いただけで、クロエラは状況を悟った。

 実際にラビよりもマシではあるものの、ピッピも満身創痍――体力はほぼ尽きかけているし、大きな傷を負って自力で動くことが出来ない状態である。

 意識が残っているだけ救いはあるが……少しでも気を抜けばピッピもラビと同じく、ジュウベェが手を下さずとも■ぬことに変わりはない。


 ――こんな……!? こんな、ところで……終わるわけには……!


 このままではジュウベェによってピッピも、ラビも倒されてしまう。

 そうなれば自分だけではなくアリスたち――そして姉妹たちも『ゲーム』から離脱することになってしまうだろう。

 ピッピの『目的』も達成されていない。

 何よりも……『ゲーム』を通じてようやくまともに話せるようになった――あるいはこれからなるはずの――ありすとの関係が、また元通りになってしまう。


「だ、誰か……! 誰でもいい……ジュウベェを……っ!!」


 この場には自分たち以外の誰もいないのはわかっていながらも、クロエラはそう叫ばざるをえない。

 奇跡が起きれば――この時に偶然、誰か第三者がバトルロイヤル対戦に乱入してきてくれれば、あるいはアリスが戦意を取り戻してくれれば……。

 そんな奇跡を願い、クロエラは悲痛な叫びを上げた。




 ……けれども、


 ――ぞぶり、


 と、悍ましい音を立てて《大杭剣》がアリスを背中から貫く。


「くくっ……くっふふふふふふっ!!」


 《大杭剣》によって地面に縫い付けられたアリスだったが、何の反応も示さない。

 体力だけはまだ残っているため消滅はしなかったものの、だからと言ってここから何が出来るというわけでもない。


「さぁ、さぁさぁ!! それではフィナーレと参りましょうかぁっ!」


 アリスが動けなくなったとて、替わりにラビが動けるようになるわけではない。

 放っておいても■ぬであろうラビだが、ジュウベェは悠長に待つつもりはない。

 ただし――アリスが《大杭剣》で倒れなかったのを見て、彼女にラビの■を見せつけるつもりになったのだろう。

 《大杭剣》は一度突き刺さったら、刺さった部分を引き千切りでもしない限りは抜けることはなく、またダメージを与え続けることが出来る魔法剣だ。

 アリスはそう時間もかからず消える。それはもう動かしようのない事実だ。

 そしてラビにはもはや魔法剣を使う必要すらない。足で踏みつけるだけで容易にラビの体力を削り切ることができる。




 ――アリスの魔法は使ったとしてもジュウベェには通じることはなく、クロエラは動けず、誰の助けも入らず……。

 ここに、ジュウベェの勝利は確定した。




 世界も運命も残酷ではあるが平等でもある。

 誰であろうとも――アリスであってもラビであっても、等しく■ぬ時はやってくるし、それを避けることは出来ない。

 なぜならば、『世界』には主人公などというは存在しないのだから。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「…………ext……《滅界・無慈悲な終焉ラグナレク》…………」




 ――だから、世界は変わらない。

 ――人の意志によって運命も変わらない。




 アリスが最後に残された魔力で《ラグナレク》を使う。

 その対象は。彼女自身の魔法でもなく、霊装でもない。彼女自身の肉体に向かって《ラグナレク》を掛けたのだ。

 ユニットのアバターは厳密には『マジックマテリアル』製ではないが、それと同じようにアリスの魔法を掛けることは出来る。以前、『嵐の支配者』の時に《邪竜鎧甲ファヴニール》を使って身をもって証明している。

 ……もっとも、アリスの魔法の対象とするということは、いずれ『マジックマテリアル』は消えていくということを意味しているため、自分自身に魔法を掛けるのは自滅する可能性がある諸刃の剣ではあるのだが。




 ――要請。Exceed Skill解放。

 ――受諾。『資格者クオリファイア』権限……確認。

 ――承認。Exceed Skill解放。




「!? な、なにが……!?」


 異様なを感じ、ジュウベェの足が止まる。

 一瞬、地面が揺れた……ような気がした。

 地震などではない。もっと不気味な――まるで心臓の鼓動のような、生々しい震えが……。


「くっ……まだ――!?」


 その原因はアリスにあるのだ、と直観したジュウベェはアリスへと向き直る。

 《大杭剣》に貫かれ地面に倒れたアリスは動いてはいない――が、確実に異変はアリスを中心に起こっていた。

 『闇』が、無数の蟲のように蠢き、アリスへと集まって行く。

 何をしようとしているのかはわからないが、何かが起きようとしている。


「抜刀 《粉砕剣》――まるでですわねぇ、汚らわしい! 二度と起き上がらないよう、叩き潰してさしあげましょう!!」


 超重量の丸太のような大きさの魔法剣――威力だけはあるがまともに振るうことも出来ず、普通の戦いでは到底使い道のない魔法剣を抜刀する。

 動き回る相手にはまず当てられないだろうが、今のアリスを叩き潰すのであればただ振り下ろすだけで済む。


「……えぇ、やはり貴女を先に潰しておかなければなりませんね。えぇえぇ、までは――くふふ、貴女に使い魔の最期を見せられないのは残念ですが……それよりも確実な勝利の方が優先ですとも。えぇえぇ」


 アリスにラビの■を見せつける――あるいは逆のことをする。

 そんなものは余計なだ。

 迅速にとどめを刺す……大切なのはそれだけである。

 『勝利』には綺麗も汚いもない。

 どんなに綺麗な戦い方をしようとも負ければ何の意味もない。

 ……それをよくわかっていたからこそ、ジュウベェクラウザーは数々のチートを使ってここまで来たのだ。

 ここで『恰好つけて』余計な演出をしたせいで負けたとあっては、あまりにも不様だ。


「くふふ、潰れなさいな、アリス!!」


 油断も演出も、もちろん躊躇いもなく――《粉砕剣》の巨大な鉄塊が、アリスの後頭部へと命中……ただの一撃で完全に頭部を粉砕する。




 ――それがどんなに理不尽で不条理なものであっても、世界とはものだ。

 ――だから……。




「……!? なっ、これは……なにが……!?」


 ジュウベェが驚きの声を上げる。

 アリスの頭部を確実に潰したはず。この『ゲーム』の性質上、体力が残っていれば普通の人間なら死んでいるようなダメージを受けたとしても行動可能な場合はあるが、それでも『頭部』を失ってしまえばユニットの『中身』の方が行動不能であることを認識してしまうはずだ。

 だというのに――アリスの身体は消えず、周囲から集まる蠢く『闇』はとどまることを知らない。


「ならば……全身を粉々に砕いて差し上げますわ! 抜刀 《重撃剣》!」


 のか?

 内心に滲み出て来る焦りを押し隠すように、ジュウベェが《重撃剣》を抜刀。

 攻撃を倍化させ、頭部と言わず全身を跡形もなく粉砕しようとする。

 片手で振るうには《粉砕剣》は重い――ステータスが上昇して尚自在に振るうのが難しい反面、威力は一撃必殺の《破壊剣》にも匹敵する上に範囲が広いのだ。

 アリスへと叩きつけた《粉砕剣》を持ち上げ、再度振りかぶろうとした時だった。


「……っ!?」


 剣からぬちゃり、と不気味な黒い液体が滴り落ちる。

 ――これが本当の人間の頭を叩き潰したのであれば、血や肉、骨……脳漿……人間の『残骸』であろうが、この『ゲーム』ではせいぜいが傷口から血を流す程度だ。

 そもそも人間の血液は、ここまで


「くっ……」


 

 背筋に走った悪寒――自身の直感を信じ、咄嗟に《粉砕剣》を手放しジュウベェは後ろへと跳躍して距離を取ろうとする。

 その判断は結果的には正解だった。


「これは……一体……!?」


 手放した《粉砕剣》が、『闇』に飲み込まれ消えていく。

 ……いや、飲み込まれている、ではない。

 『闇』に喰われている。

 ずるずると纏わりついた闇が《粉砕剣》を切っ先から喰らい、瞬く間に全てを喰いつくしてしまう。


 ――何だ……これは……!? ヤツアリスの魔法、なのか……?


 アリスの仕業なのだとしたら、ジュウベェの見たことのない魔法なのだろうか。

 その疑問はすぐに解決することとなる。




 頭部を砕かれたアリスの肉体は『ゲーム』の処理として消されることもなく残っていたが、集まって来た『闇』は《粉砕剣》同様にアリスの肉体を突き刺さっていた《大杭剣》諸共呑み込んでいく。

 ずぶずぶと底なし沼に沈んでいくかのようにアリスの肉体は『闇』へと沈みこんでいくが――『闇』は消えることはなく、むしろより多く、速く集まっていく。

 『闇』に対して攻撃を仕掛ければいいのか、それとも下手に手を出せば《粉砕剣》と同じく喰われてしまうか、ジュウベェが一瞬悩む。

 ――その一瞬の間で、地面の溜まりから『何か』が這い上がってくる。


「うっ……!?」


 ジュウベェが気圧され、思わず一歩下がってしまう。




 幽鬼のように佇むは――人の形をしてはいた。


「……アリス……い、いや…………?」


 倒れているクロエラからだと背中側しか見えない――が、その後ろ姿はクロエラ雪彦の良く知るクラスメートのものによく似ていた。

 長い黒髪の華奢な女性の身体……確かにアリスというよりはありすの方に似てはいる。

 だが、華奢で小柄ではあるがありすよりはもう少し大きい――丁度ありすとアリスの中間くらいの年齢だろうか。

 俯いていて顔はよく見えない。

 全身は指先に至るまで漆黒のドレスに覆われており、素肌が見えているのは顔と首だけである。


「…………ビ……ん……」


 ポツリ、とが口にする。

 そして、ゆっくりと顔を上げ――ジュウベェへと視線を向ける。


「――っ」


 その視線を向けられ、ジュウベェは絶句する。




 ……その顔は、ありすにもアリスにも、どちらにも似ている部分があった。全体的には幼さを残す故にかありすの方に近い。

 ……その瞳は深い紫色。これもありすとアリスに共通の特徴だが、そのどちらとも異なるものがあった。

 濁った、毒々しい赤紫――瞳が、ではない。本来であれば眼球の収まっているべき眼窩には、赤紫の『闇』が渦巻いているだけであった。

 『闇』、あるいは『虚無』と形容せざるを得ない赤紫の虚ろは、しっかとジュウベェを見据えている。


「……した……な……」


 が、ポツリポツリと――ありすの声音で何事かを呟く。


…………っ!!」


 憎悪の叫びと共に――闇が更に勢いを増しありすの周囲へと集まろうとする。


「くっ……訳が分からない……ですが、抜刀 《彗星剣》!!」


 ありすのやろうとしていること、何が起きているのかを知る必要などない。

 今度こそ息の根を止めようと《彗星剣》を抜刀、ありすの胸元へと向けて発射する。

 たとえアリスの姿であったとしてもまともに直撃すれば大ダメージを避けられない攻撃だ。ましてや、変身していないようにも見える――しかし確実に何かしらの異変は起こっている――ありすの身に受ければ、致命傷は避けられないはず。

 狙い違わず《彗星剣》はありすの胸を穿ち――


「!? 馬鹿な……」


 柔らかいゼリーを崩すように《彗星剣》はありすの胸を貫いただけではなく、全身を崩した……いや、全身が

 しかし、再び足元の『闇』の中からありすは現れる……。

 明らかにおかしなことが起こっている。とてもアリスの魔法で実現できるものとも思えない。かといって、この場にいる誰の魔法でもこのような現象は起こせないだろう――『幻覚』の魔法を使えば同様のことは出来るだろうが、アリス、クロエラ共にそのような魔法は持っていないはずだ。

 そもそも、どちらも魔法を使った形跡はない……ように見える。


「許さない……」


 ありすの呟きに応じるかのように、大地に広がる『闇』がその身に集まってゆく。


「おまえを……絶対に、許すもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 『闇』がありすを中心に爆発した――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ――警告。システム異常検知。

 ――警告。システム異常動作。

 ――警告。システ繝蜀崎オキ蜍�




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「危ねぇ、お嬢!」

「きゃあっ!?」


 マイルーム内にいた千夏は、『闇』の爆発を見て思わず桃香を抱きかかえ庇おうとする。

 びしぃっ、と音を立てて対戦フィールドを映し出していたディスプレイに大きく亀裂が走る……が、割れて破片が飛び散るということはなかった。


「……い、一体何が起きてるんだ……!?」

「ありすさん……ラビ様……」


 真っ暗になり、何も映さなくなったディスプレイを呆然と見つめながら、二人はただ待つことしか出来ないのであった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 《滅界・無慈悲な終焉ラグナレク》――この魔法は、『ゲーム』のシステムから考えるとかなり特異な部類にあるアリスの魔法の中でも、特にである。

 アリスの神装自体の異常さは置いておいて、《ラグナレク》は神装の中でも特異な存在だ。

 ラビが知る通り、神装はいわゆる『北欧神話』を元とした魔法となっている。その規則自体には則った魔法ではある。

 だが、他の神装とは異なる点が一つある。

 それは、『ラグナレク』とはということだ。

 『グングニル』『レーヴァテイン』『トール・ハンマーミョルニル』『グラウプニル』『メギンギョルズ』等は全て神々や巨人の持つ超常の道具であり、『スレイプニル』『ファヴニール』『ニーズヘッグ』等は登場人物――あるいは登場する神々や巨人である。

 しかし『ラグナレク』は違う。

 神々と巨人との最終戦争、世界の終わりを示す出来事イベントのことである。




 神装はその元となった神話を可能な限り再現しようとしている節がある。

 《嵐捲く必滅の神槍グングニル》であれば狙った相手に必ず突き刺さる『絶対命中』。

 《終焉剣・終わる神世界レーヴァテイン》であれば必ず相手を焼き尽くす『絶対焼却』。

 《万雷轟かせ剛神の激槌トール・ハンマー》であればいかなる存在をも打ち砕く『絶対破壊』。

 他にも武具を元にした霊装は概ね神話に語られる性質を再現している。

 《神馬脚甲スレイプニル》等の神々・巨人の力を表す神装であれば、《スレイプニル》ならばそのものの能力を得たり、《邪竜鎧甲ファヴニール》や《屍龍鎧甲ニーズヘッグ》ならば魔獣の力を上乗せしたり……こちらはやや神話の再現とは異なるが、『超常の存在の力を得る』という点では一致している。




 では、『ラグナレク』はというのか?




 《ラグナレク》の効果は『魔法の強化』――

 しかしそれだけでないことは明白だった。

 魔力の消費量の割には強化の度合いは異様に高く、コストパフォーマンスの高さは異常なほどだ。

 反面、使った後にはアリスは謎の体調不良にみまわれるという謎の副作用がある。

 一体なぜこのようなことになっているのだろうか?




 ありす自身も、ラビも、桃香も千夏も他の誰も、そして『ゲーム』の運営も魔法スキルの開発者でさえも――《ラグナレク》という魔法のを理解していなかった。

 責めるべきではない。

 なぜならば、本来ならばのだから。




 『ラグナレク』とは、『神々の時代の終わり』の時であり『人間の時代の始まり』の時を示す神話である。

 つまりは、《ラグナレク》とは本来は『世界を終わらせる』という効果の魔法なのだ。

 魔法の強化とはただの副産物に過ぎない。『世界を終わらせる』力を他の魔法に付与することによって、異常なまでの強化を行っていただけのことなのだ。

 アリスに不調が現れるのも同様。使い方をしたことによって、零れ落ちた『力』がアリスへと逆流フィードバックすることで起こっていたものである。

 ……とはいえ、『魔法』というシステムの都合上、《ラグナレク》を使ったところで即全世界を終了させるという無茶苦茶なことは不可能だ。

 それに、『ラグナレク』そのものはあくまで出来事イベントの名であり、世界を終わらせたものはにいる。

 故に、本当の《ラグナレク》とは――世界を終わらせる存在を呼び起こす魔法、なのである。




「――exdイクシード……!!」


 の起動キーワードは、全てを超越せよExceed――




 ……最後にもう一つ、《ラグナレク》に纏わる『謎』として、なぜ『黒』なのかがある。

 《ラグナレク》を掛けられた魔法は黒に染まり、黒い光を放つのか。

 初めて《ラグナレク》を使った時にアリスの脳裏に自然と思い浮かんだ言葉――『黒く塗りつぶせペイント・イット・ブラック』。

 『ラグナレク』に纏わる『黒』――それこそが、この魔法の正体であり本質である。


 神々の時代を終わらせた張本人――その名は『』を意味する破壊と炎の巨人――




「――《世界ヲ殺セ、黒ノ巨人スルト・ラグナレク》」




 ここに、『世界の終わり』を告げる存在は顕現する。


 ――世界とは残酷だ。

 ――運命は理不尽だ。

 ――だから……。


 ――だからこそ、世界を、運命を覆すためには、より理不尽でより不条理な『暴力』を以て立ち向かうしかないのだ。

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