第7章46話 Exceed 5. 役に立たず日の目を見ることのない、無駄で無価値な異常な才能

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ――これは、私の想像以上ね……! まさかここまでとは……。


 ピッピはそう心の中で噛み締めていた。

 ラビと共に戦うからと言って決して楽になるとは思っていなかった。むしろ、お互いにユニットが減っている状態なのだ。フルメンバーが揃った戦いよりも厳しくなるのはわかりきっていた。

 とはいえ、ジュウベェのタフさは異常すぎる。

 使い魔=ユニットであることによる不死身は封じたものの、純粋なステータスの差が激しすぎるのだ。

 これに加えて、使い魔自身の体力も持っているのだ。このまま攻撃を続けていても到底勝ち目があるとは思えない。


「しぶといやつめ……!」


 だが、アリスにとっては『しぶとい』だけで済む問題らしい。

 その態度は頼もしいと言えば頼もしいが……一抹の不安もないわけではない。


「くふ、くひひひっ! ああ、粘りますねぇ……でも、これで――抜刀 《操霊剣》、《流星剣》!!」


 今回の対戦、制限時間自体は無限にしてあるがそこまで長引くとは思っていない。

 向こうもそれはきっと同じだろう。

 とどめを刺すべく二本の魔法剣を抜刀する。

 うち一つは彼女のユニットであるウリエラから奪ったものだ。


「さぁさぁ、どうしますかぁっ!? 使い魔ごと切り裂かれちゃいますよぉっ!!」


 《流星剣》へと向かって降り注ぐ無数の刃が、《操霊剣》によって操られる。

 ……それは、刃で出来た『龍』の姿となり牙を剥く。




 ジュウベェとの戦いで厄介なところは、ダイレクトアタックありの対戦という性質上、こちらは使い魔を守らなければならないという制約があることだ。

 ユニットよりも体力があると言っても限度はある。特に《破壊剣》などを当てられたら一撃で終わってしまうだろう。

 対してジュウベェ側は使い魔の防衛を考える必要は全くない。そもそもジュウベェ自身にダメージが通ることがほとんどないのだ。

 この戦い、あらゆる点でピッピたち挑戦者側の方が不利となる要素が積み重なっている。




 今、刃の龍がとぐろを巻くようにうねり、アリスたちに迫ろうとしている。


「う、くっ……アリスさん……!」

”クロ、ダメよ!”

「で、でも……」


 先程の《粒星剣》は自分を拘束するクロエラを封じるために使われたものだった。

 名前の通り『粒』のような刃は一つずつは大した攻撃力はない。

 が、それが雨のように広範囲に降り注いできたため回避することはほぼ出来ず、また威力は低いと言ってもクロエラの防御を貫通する程度のものはあった。

 結果、クロエラは全身に『粒』の攻撃を受けかなり消耗してしまっている。体力だけならばアイテムで回復できるが、受けた傷を癒す術をピッピもクロエラも持っていない。

 それに刃の龍はたとえクロエラが万全であろうとも、強引に突っ切れるような密度ではない。飛び込めばジュウベェに辿り着く前にやられるのは明白だ。


 ……かと言って、ここで座して待っているだけではいずれやられるのは目に見えている。

 進むも引くも、そして堪えることも出来ない――『詰み』に近づいているのだと、ピッピは思っていた。




「使い魔殿、しっかり掴まってろ!」

”ちょ、アリス!? わかったけど……っ!!”


 なのに、アリスは全く憶することなく刃の龍へと自分から立ち向かっていく。

 まるでそうすることが勝利への唯一の道だと確信しているかのように。


「がっ、ああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 刃の龍――もはや刃の『壁』へと突っ込むアリス。

 自殺行為にしか思えない、そして自分の使い魔すらも危険に晒すだけの行動にしか思えない。

 けれども、離れていてもジュウベェを倒すことは不可能だ。


「cl《剣雨ソードレイン》!」


 だから、ひたすら前に進む。

 《剣雨》で向かってくる刃を弾き、ばら撒いた《神性領域アスガルド》の『板』を再度身の回りへと呼び寄せながら、アリスが一直線に駆ける。


「くひひっ、自棄になりましたかぁっ!? 抜刀 《重撃剣》!」


 この上、更に《重撃剣》を抜刀して刃の龍の攻撃を倍化させる。

 それでもアリスは足を止めない。


「ぐ、あああああああっ!!!」


 そしてついに刃がアリスの身体を捕らえた。

 右肩に深々と一本目が突き刺さり、わずかに姿勢が揺らいだ隙に二本目、三本目が次々と同じ個所目指して殺到――アリスの右腕が千切れ飛ぶ。


”アリス!!”


 ラビには辛うじて当たらないようにアリスが身を捩っていたものの、一歩間違えば肩に掴まっている耳を切り裂かれたかもしれない。

 片腕を失い、手に持っていた『ザ・ロッド』も取り落としたが――


「こ、の、程度でぇぇぇぇぇっ!!」


 アリスは止まらない。


「ふ、ふひっ……えぇえぇ、そうでしょうとも!! 貴女は死ぬまで止まらないでしょうとも!!」


 アリスの気合に一瞬だけ気圧されたジュウベェだったが、すぐさま立ち直り再度刃の龍をアリスへと向ける。


「rl《剛神力帯メギンギョルズ》! cl《黒色巨星ブラックホール》、mp――ext《黒・三連巨星トリリオン》!!」


 なぜか《メギンギョルズ》を解除したアリスは、走りながら道をふさぐ刃の壁に向けて打撃力特化の質量弾である《黒色巨星》――それを三発同時に撃つ魔法を放ち、壁に『穴』を開けて強引に突破しようとする。

 その無茶な突貫に驚いたのは、ピッピだけではない。ジュウベェもだ。


「っ……くふふふっ! えぇえぇ、どうやら本当に自棄になったようですねぇっ!」


 驚いたものの、自殺行為にしか思えない行動だ。構わず攻撃を続け、そのままアリスを仕留めようとする。

 横で見ているピッピですら、その前進は無謀な突進にしか思えなかったのだ。相対するジュウベェは猶更だろう。ここまでの戦いで自分の能力がアリスたちを大きく上回っていることを確信していることも後押しした。

 ――その隙をアリスは突いた。本人は狙ったわけではないだろうが。


「まだだ……もっと、もっと速く――速く、速く!!」


 向かい来る刃をかわし切れず、今度は左腕が千切れ飛ぶ。

 別方向から首を狙って飛んできた刃は辛うじてかわしたものの、長かった金髪は肩あたりでばっさりと切り落とされ黄金の糸が血飛沫に混じってばっと散らばる。

 何本もの刃が身体を掠め顔や胴体の肉を削ぎ落していく……。

 、アリスは全く止まることはない。

 闘志の消えぬ瞳は真っすぐにジュウベェを射抜き、少しも揺るがず。


 ――まさか、あの子……!?


 最初に気付いたのはピッピ、次にジュウベェだった。




「……抜刀 《彗星剣》!」


 本当なら《加速剣》で距離を取りたいところだが、いつの間にかジュウベェの周りを取り囲むように《アスガルド》の『板』が移動してきている。

 下手に突破しようとするものなら、弾き飛ばされて大きな隙を晒してしまうだろう。

 故に、《彗星剣》を呼び出し《重撃剣》で倍化――刃の龍と合わせて攻撃をし、アリスを止めようとする。


「おおおおおおおっ!! cl《神性領域アスガルド》ッ!!!」


 しかし、この上更にアリスは《アスガルド》を使い、今度は自分の周りへと『板』を張り巡らせる。


「次から次へと……往生際の悪いっ!」


 流石にジュウベェの顔にも焦りが見え始めて来た。

 それはそうだろう。昨日までのジュウベェのような不死身でもなく、確実にダメージを受けているというのにも関わらず、全く止まらずに一直線に向かってくるのだ。

 一切手は抜いていない。遠距離攻撃の魔法剣としては、最も回避も防御もしづらいものを選択し、更にそれを《重撃剣》で倍化させているのだ。

 


「こ、の……っ!?」

「っらあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 両腕を失い、全身に傷を負いながらもアリスは吠え、そして『板』を蹴って加速――一気にジュウベェへと肉薄する。


「来い、『杖』! ext……《嵐捲く必滅の神槍グングニル》!!」

「ぐっ……抜刀 《防壁剣・粘》!!」


 超加速で一気に刃の龍を潜り抜けたアリスが接近と同時に霊装を呼び戻し、《グングニル》を発動。

 そこから更に槍の石突を強化した脚力で蹴り飛ばしてジュウベェへと叩きつけようとする。

 《グングニル》に対しては『回避』はほぼ無意味だ。それを理解しているジュウベェは、《防壁剣》を発動――『粘』の名の通り、青く透き通ったゼリー状の楯が現れて《グングニル》を捕らえる。

 槍はわずかに穂先が突き破ることは出来たものの、粘液の楯に捕らわれて動きを停止してしまった。


「くひひっ、これで二つ目――ッ!?」


 《終焉剣・終わる神世界レーヴァテイン》に続いて《グングニル》も破った、と勝ち誇った笑みを浮かべるジュウベェだったが、すぐさまその笑みが凍り付く。


「ext《嵐捲く必滅の神槍》ッ――ヴィクトリー・キィィィィクッ!!!」


 アリスは魔力を回復させるとすぐさま『麗装』へと《グングニル》を掛け、必殺のヴィクトリー・キックを至近距離から放つ。

 引きちぎれた両腕を放置したままの神装二連発――これが起死回生を狙ったアリスの全力攻撃だ、とジュウベェは判断する。


「抜刀……《剛身剣》ッ!!」


 対アリスに向けて、魔法剣を解き放つ。

 先端がハンマーのような形状の、かなり短めの刀身の魔法剣――《剛身剣》、これ自体に攻撃力は全くない。

 その効果は――


「ぬ、うあああああああっ!!!」

「ぐぎ、ぐひひひひひひひっ!!!」


 全てを薙ぎ払う神槍ヴィクトリー・キックの一撃を、ジュウベェは真正面からいた。

 《剛身剣》、その効果は非常に単純で、ジュウベェの身体を『重く』『硬く』するだけの魔法剣だ。

 ヴィヴィアン戦の時にヴィクトリー・キックも見ている。

 《グングニル》の特性はそのままに、『核』となるのが槍ではなくアリス自身というある種の特攻攻撃ではあるものの、その威力はたとえ防御魔法を使ったところで相殺しきれるものではない。

 だから、ジュウベェはヴィクトリー・キックを使われた時の対策として、ひたすらに自身の身体能力を強化するだけの、そして他の用途には使えない《剛身剣》を作り出したのだ。


「ひひひひひっ!!」


 ジュウベェの想定通り、ダメージも大幅に減少、ヴィクトリー・キックを身体一つで受け止めることが出来ている。

 欠点としては身体が『重く』なるために他の行動が一切取れなくなることだが……ヴィクトリー・キックであれば、それはアリスの方も同様である。


 ――これで、あたくしが全てを上回った!!


 ジュウベェがそれを確信した瞬間だった。


「pl《終焉剣・終わる神世界》――ext《世界に仇なす災禍の牙ヴァナルガンド》ッ!!」

「なっ……!?」


 それは、ジュウベェクラウザーの知らないアリスの魔法だった。

 『冥界』で追い詰められたアリスが編み出した、魔法に魔法を重ね併せパイルて新たな魔法とするものだ。

 嵐の力だけならば、あるいは炎の力だけならば――とにかくどちらか一方だけならば耐えられたであろう《剛身剣》の防御は、流石に2つの神装を重ねた攻撃は防ぎきれない。


「――~~っ!! 抜刀 《破壊剣》!!」


 ジュウベェの判断は早かった。

 《破壊剣》を抜刀して手に取る――と同時に《剛身剣》の効果は手放してしまわざるをえないため解除される。

 そうなれば《ヴァナルガンド》によってジュウベェは致命傷、あるいは一撃で粉砕されてしまいかねないが……この一瞬にジュウベェは全てを賭けた。


「っがぁっ!!」


 魔法剣を手に取ると同時に身体を大きく捻ってアリスの攻撃を可能な限り受け流すように、それに合わせて《破壊剣》を振るいアリスの蹴り足へと叩きつける。

 身動きが取れないのはアリスの方も同じだ。《破壊剣》を回避することも出来ず、右足が切断され――《ヴァナルガンド》は効力を失う。


「ぎひっ、こ、これ、で……!!」


 思わぬダメージを受けたが、まだまだ致命傷には程遠い。

 対してアリスは両腕に右足を失った。後は体力回復の隙を与える間もなく《破壊剣》を叩きつければ終わり……そうジュウベェは確信した。


「う、うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「!? チィッ!?」


 だが、そこへ叫びながらクロエラが霊装バイクに乗って飛び込んでくる。

 先程は片手でバイクの突進を止めるというパフォーマンスを見せたものの、だからと言って無防備に突進を受ければ流石に無傷では済まない。

 アリスへのとどめを諦め、そちらへと反射的に《破壊剣》を振るってしまう。


「ドライブ《ゴーストハント》!!」

「!?」


 振るった破壊剣がクロエラの身体を突き抜けた。

 まるで実体のない幻影を斬ったような手応えであったが、それがクロエラの魔法の効果だとはすぐには気づけなかった。

 《ゴーストハント》――クロエラの走行魔法ドライブの中でもかなり特殊な、そして使い道が限られる魔法である。

 地面などの(クロエラが『そう』と認識する)地形を除いて、まるで『幽霊』のように透過することが出来るようになる魔法である。反面、実体のない存在には逆にぶつかってしまう――例えば『雷』などのエネルギーの塊や、ゴーストのような幽体系モンスターなどだ――という普段ならば使い道のない魔法だ。

 その使い道のない魔法でジュウベェの攻撃を回避、すぐさま解除して実体化すると、


「ドライブ《ハイ・ケイデンス》!!」


 無防備なジュウベェの顔面へと向けてバイクの車輪を叩きつける。

 《ハイ・ケイデンス》――ただでさえ回転数ケイデンスの多い自動二輪車オートバイの車輪を、魔法によって更に上げたうえで顔面へと叩きつけたのだ。

 人間だったら顔面の皮どころか肉まで削ぎ落される攻撃だろう。


「あぐぅああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ダメージが通るかどうかはともかく、痛覚自体は存在している。

 流石のジュウベェもこれには悲鳴を上げ、車輪の勢いで吹き飛ばされる。


「あ、アリスさん!?」

「ぐぅ、だ、大丈夫……だ! それより、止まるな!!」

「!? は、はいっ!」


 アリスの鬼気迫る叱咤に、味方ながらもクロエラは震えあがってジュウベェへと向き直る。




 ――凄まじい攻防ね……あのジュウベェに押し勝つなんて……。


 アリスの行動を見てピッピは戦慄する。

 ガブリエラたちとの対戦の時の比ではない。

 使い魔にも危険が及ぶ戦いだというのに、アリスは我が身を差し出すような危険な『賭け』に出て――そして完全ではないものの勝利を収めたのだ。


 ――……正しく『怪物』……!


 アリスの能力や性質自体について、実際に会う前に事前にトンコツから聞いて知っているつもりではいた。

 曰く、『狂戦士バーサーカー』『情け容赦のない殲滅者』『破壊神、ていうか闘争神』等など……。

 また『冥界』での戦いにおいて、相手の能力を封じるために、無力な変身前の姿でモンスターの前に『殺されるために』飛び出す等……。

 ピッピは薄々理解し始めていた。それも、おそらくはラビたちよりもより深い、本質に近いレベルで。


 ――あの子ありすは、異常者だわ……いいえ、この世界の『異物』と言ってもいいかもしれない……。

 ――でなければ、産まれる世界を間違えたとしか言いようがないわ……。


 ユニットとしての『アリス』は確かに強力な部類ではあるだろうが、かといって絶対無敵の存在とまでは言えない。

 個々のステータスで見るならば、近接系能力はジュリエッタに劣るし、何よりも決戦に備えて成長させた今の状態であっても総合的なステータスではガブリエラに劣っている。

 魔法も汎用性に富んでいることは有利でもあるが、反面一芸に特化した魔法に比べると効力はかなり落ちる。特に神装を始めとした大魔法の燃費は最悪の部類と言っていいだろう。

 スペックだけを見れば、到底格上のモンスターを倒せるはずのないものなのだ。

 ……もっとも、この『ゲーム』は単純にステータスで上回っていれば勝ちが確定する、というほど単純なものではない。

 特に対ユニット戦においては魔法、およびギフトの相性も重要な要素となってくる。


 だが、戦術や戦略、魔法やギフトの相性……そして自身のステータスを凌駕しうる一つの要因がここに存在した。

 それは、『才能』だ。

 ピッピから見てアリスありすには才能があった。

 しかしそれは『異様』な才能である。


 ――戦いに向いている向いていないとかじゃない……。

 ――能力が高いとか低いとかでもない……。

 ――あの子は……『戦うこと』に対しての才能がある……。

 ――でも、その才能は……この世界では絶対に活かされることのない、本当なら埋もれるだけだった無意味な才能……。


 根拠があるわけではない。

 アリスの戦いを横で見ていて、ふと頭によぎった想像を元にした理解にすぎない。

 しかし――そうとしか説明のできないアリスの能力に、そして想像が正しかったとしたら、そんな才能を彼女が持っているという事実に、ピッピは背筋が凍る思いだった。


 ――彼女は確かに『戦闘』における才能を持っている。

 ――でもその才能は……に限られている……!!


 例えば『死を恐れず前進し続ける兵士』というのはいるだろう。

 けれども、自分の手足を引き千切ってまで前に進むことを躊躇わないものはいないだろう。

 ましてやそれが相手の息の根を止めるための前進ではなく、『ある目的』のためにたった一撃を加えるためだけのものならばなおさらだ。

 アリスはやる。やってしまう。

 それも、突進のスピードを上げるために、、死なないギリギリまで攻撃を受けて身体を物理的に削って軽くしようなどとは、普通は絶対に考えない。

 この『ゲーム』であれば現実世界に戻りさえすれば、たとえ手足を失おうとも後遺症など気にする必要は一切ない。それは確かだ。

 その上、実際の肉体の痛みとは等価ではないものの決して少なくない痛みを伴うのだ。


 ――引き千切れた手足を魔法で修復することも織り込んでの戦術……頭で理解していても、普通そんなこと出来るものなの……?


 魔法を使って治る――アリスの場合は『取り繕う』が正確なところだが――ことを前提として戦い、普通の人間ならば恐怖を感じるであろう『身体の一部を失う』ことをも抑え込める、異常なまでの精神力。

 そしてそれだけの異常さを発揮してもやろうとしていることが『■■の■■のための■■』だけであるという、更に異常さが際立つ理由……。

 先程は『才能』とピッピは考えたが、あるいは完全に『ゲーム』に対して『適応』しているのかもしれない。

 その場合であっても、やはりそうした『才能』があることは考えられるが。


 ――……もしかしたら、彼女こそが私が求めていた子なのかもしれない……!


 ピッピには『目的』がある。

 ユニットの力を使ってヘパイストスと戦うという目的だ。

 ヘパイストスとの戦いにおいて強力なユニットは必須となる。撫子の命に危機が迫っているのは承知の上で、ギリギリまでユニット解除を待ったのはアリスがジュウベェを倒すという『希望』があったからだけではない。ヘパイストスとの戦いのためにはガブリエラたちの力が必要になると考えたからでもある。

 単純な戦闘力であれば、対戦で負けたことはあるとは言えガブリエラはほぼ最強と言っても過言ではない。他とは群を抜いた高さのステータスに加えて、リュニオンを使えば姉たちウリエラとサリエラによる的確な援護と誘導が足りないところをカバーしてくれる。

 直接的な攻撃魔法こそ持っていないものの、それを補って余りある汎用性の高い補助魔法を備えているし、ユニットはともかくモンスターであれば――ヘパイストス配下のモンスターであればよほどのことがない限り負けることはないと思っている。

 しかし――それらを超える『才能』をアリスは持っているのではないかとピッピは感じている。

 そしてその『才能』こそが――


 ――……の…………いえ、これは考えすぎ、かしらね……。


 全てはピッピの想像、いや妄想にすぎない。


 ――今はとにかく、ジュウベェとの戦いに勝たないと、ね……!


 先のことはまた後で考えればいい。

 今は目の前に戦いに勝利することこそが重要、そう気を引き締める。




 ……もう間もなく決着はつくだろう。

 そのことをピッピは――そして当事者たるアリスたちも予感していた。

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