第7章45話 Exceed 4. 最速✕最凶✕最狂
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やべぇ、アリス気付け!!」
「アリスさん、ラビ様!!」
変身することが出来ず、マイルームから対戦の様子を見守っていた千夏と桃香が叫ぶ――が、その声がラビたちに届くことはない。
横から戦場を俯瞰して見ていた二人には、ジュウベェが何をしようとしてのかはすぐにわかった。
《流星剣》は目くらまし兼アリスたちを回避に専念せざるをえない状態に追い込むための布石。
本命は、地上へと気付かれないように《投擲剣》で投げつけた《彗星剣》による不意打ちだ。
「「……あっ!?」」
二人の叫びも虚しく、背後から放たれた《彗星剣》の刀身がアリスの背中を穿つ。
貫通力自体は特になく、棒で突かれたようなものではあるが、その威力は段違いだ。
一度自分でも食らったことのある
おそらく、生身の人間が胴体に食らったとしたら内臓が潰れる――どころか、そのまま勢い止まらず背骨や腰骨まで砕かれるほどの威力だ。
もし頭部に食らえば、頭蓋を砕かれたかもしれない。
「クソっ!? ジュウベェが来る……!!」
「ああ、もうっ! せめて遠隔通話が使えれば……!」
倒れたアリスへと《流星剣》の刃が殺到――だが、それに紛れて今度こそジュウベェが飛び降りて来て直接 《破壊剣》を叩きこもうとする。
マイルームからは声は当然届かず、対戦フィールド(クエストもだが)にいる間は遠隔通話もつながらない。
二人の目の前で、ジュウベェが《破壊剣》を手にアリスへと迫ろうとしていた――
《破壊剣》の威力は、他の魔法剣とは全く異なるものだ。
触れたものを問答無用で『破壊する』という魔法の特性をそのまま持っているため、いかなる防御も意味をなさない――尤も、元の魔法クラッシュが果たしてそこまであらゆる敵に対して一撃必殺の威力だったのかは疑問が残るが……。
ともあれ、《
《彗星剣》で深刻なダメージを受け、地面にうずくまるアリスへと向けてジュウベェが凶刃を振り下ろす――
『……捕まえたぞ』
が、刃が当たる寸前にアリスはそう呟くと、ダメージをまるで感じさせない動きで《破壊剣》を回避――どころか、
『mk《
『あら……くっ!?』
ジュウベェを鎖で拘束、更に手を捻り上げて《破壊剣》を取り落とさせる。
「うおっ、土壇場でやりやがった!?」
「あれ……千夏さんが先程お教えになっていた……」
最後の対戦前、クロエラとの練習も終わりジェムを使い切る勢いでステータスを成長させた後、ジュウベェからの対戦が来るまでしばらく時間があった。
クエストに再び行っても良かったのだが、ありすはその時桃香と千夏と一緒にいることを選んだ。
二人から見たジュウベェ戦のアドバイスを貰うのと共に、千夏には付け焼刃でも構わないので『技』を教えてくれと。
マイルーム内なので大したことは出来なかったが、千夏は剣ではなく素手での『技』を幾つか教えたのだ。
……もっとも、千夏自身が別にその道のエキスパートと言うわけではない。『剣心会』の稽古の際に、ちょっとした『お試し』で講師たちから教わった古流武術の技のうち、千夏も一応覚えていたものを教えただけに過ぎない。
本格的にそちらを鍛える、という話はなかった。あくまでも『剣心会』のイベントとして行われた稽古である。
『無刀取り』……とまではいかないが、向かってきた剣をかわしつつ腕を拘束する技である。
千夏が教わった技の中では比較的『力任せ』でも何とか成功させやすいものであったため、刀使いのジュウベェ相手ならば気休めであっても護身術として使えるかもしれない、と思ったのだが……。
『ゲーム』のユニットとして変身しているため元のありすよりも腕力がある、ということを差し引いても絶妙のタイミングで上手く技を決めることが出来たと言えよう。ここまでの成果は流石に千夏も予想できなかった。
アリスは《破壊剣》を強引にもぎ取ると同時に、強化した《鎖》でジュウベェを縛り付ける。
もちろん、如何に強化したとは言え神装でもない《鎖》は抜刀した魔法剣で容易く切られてしまうであろう。
『こんな鎖……!』
『ふん、やらせるかよ!!』
そのまま鎖で縛ったジュウベェを背後から抱きかかえると、《ニーズヘッグ》の脚力で地面を蹴り飛び上がる。
その先には、既にばら撒いてあった《
『……っ!!』
アリスのやろうとしていることをすぐさま理解したのだろう、ジュウベェが振り解こうともがくが既に手遅れだった。
最初の一枚へと脚を掛けた瞬間、ジュウベェごとアリスの身体がその場から弾き飛ばされる。
飛んで行った先にはまた別の『板』、更に先には――
『板』を蹴るたびに更に速度は増して加速を続ける。その上、アリスの脚力は《ファヴニール》と《ニーズヘッグ》によって二重に強化されているのだ。
もちろん、普通ならば脚力をいくら強くしようが、『板』の反動を増幅することなど出来るわけはないのだが――そういう
結果、《加速剣》をも凌駕する速度に達してアリスがジュウベェを振り回す。
「! あいつ……まさか――」
アリスが何をするつもりなのか、横で見ていた千夏は気が付いた。
弾かれ加速、弾かれ加速――それを繰り返し、ついにアリスが一方向に向けてジュウベェごと突進する。
それは
『おっらあぁぁぁぁぁぁっ!!』
並大抵の攻撃を特に防御魔法を使わなくても弾ける高防御力を誇るジュウベェ。
ジュウベェに対してダメージを与えるには
そのうちの一つが第三の神装なのだが、既に何度も述べた通りこれは当てるのがそもそも難しい。
他の神装はジュウベェは既に知っているため防がれる可能性が高い。既に《
だから、他の方法を考える。
考えた結果、中途半端な魔法を使うよりも、より硬く、より大きくて、幾らでも使える『地面』を武器とすることにしたのだ。
ただ投げつけて叩きつけるだけでも、地面というのは危険な凶器だ。
それを、より強大な、物理法則を完全に無視した魔法の力で加速して叩きつける――それはもはや数十階建てのビルから飛び降りたのに等しい破壊力だ。
――凄まじい衝撃音、地響きと共に、大地が抉れる。
『う、ぐ……』
回避することも防御することも出来ず、顔面から地面に叩きつけられたジュウベェではあったが、それでもまだ立ち上がろうとしていた。
流石にノーダメージというわけではないようだが、それでも致命傷にはほど遠い。
『まだまだぁぁぁぁっ!!』
地面に激突する直前にジュウベェを離したアリスは、立ち上がろうとするジュウベェへと追撃を仕掛けようとする。
脚力強化された蹴りが顔面を蹴ろうとするが、
『く、くくくくっ……くふふふふふっ!!』
ジュウベェはがばりと素早く身を起こして蹴りを回避。
『抜刀 《黒鉄剣》!』
同時に漆黒の刀身の剣を抜刀し、アリスへと振るう。
色が黒い以外に何の特徴も見えない剣であるが、その分『剣』としての機能に特化している魔法剣だ。
ヴィヴィアンも対戦していた時に何度か召喚獣を斬られていた剣である。
『mk《
『アリスさん、援護するよ! ディスマントル《ソーサー》!』
《黒鉄剣》の刃を《壁》で受け止めるものの、半ばまでざっくりと切り裂かれてしまっている。もしアリスが直接食らったとしたら、《ファヴニール》を纏っていても危うい。
アリスは止まらずに前進、《メギンギョルズ》の巨拳がジュウベェを殴り飛ばす。
そこへ立ち直ったクロエラが鎖付きの
円盤自体は当たらなかったものの、フリスビーのように空中でカーブし鎖をジュウベェへと巻き付ける。
『よし、そのままやれ!!』
『はい!』
鎖で拘束したジュウベェをそのまま力任せに振り回す。
いかにステータスが高いとしても、霊装で出来ている鎖はそう簡単には引きちぎることは出来ない。
《破壊剣》であれば霊装であろうとも断ち切ることは出来るだろうが、鎖によって両腕も封じられているため抜刀しても振るうことはおそらくは無理だろう。
『はぁっ!』
『……くふっ!?』
ハンマー投げのようにその場でぐるぐると回転、勢いをつけた後にアリスがやったように再度地面へと叩きつける。
今度も受け身は取れずに叩きつけられ、ジュウベェは呻くが……。
『くふふっ……くひひひひひひひっ!!!』
『うっ……!? こ、このっ!』
それでもジュウベェは嗤い続けている。
鬼の仮面にはひびが入り、全くのノーダメージというわけではなさそうだが、それでも楽しくてたまらないといったように笑いを止めない。
『抜刀 《
クロエラによって振り回され、地面に叩きつけられながらもジュウベェは抜刀を行う。
現れたのは《彗星剣》にも似た、刀身の代わりに棒が生えたような……奇妙な形状の魔法剣だった。
振り回されている状態では手に取ることもできず空中に置き去りにされてしまったが――
『! まずい、クロエラ下がれ!』
アリスが《粒星剣》を見て気付く。
まるで風船のように刀身が膨らみ――そして破裂する。
『うわっ!?』
破裂した剣から無数の『粒』が弾丸のように降り注ぐ。
まるで散弾銃だ。クロエラを一撃で倒すほどではないが、広範囲への散弾がクロエラを穿ち、鎖を持つ手が緩む。
『ふひひひひっ! 抜刀 《加速剣》!』
『クソっ!!』
鎖が緩んだのを見逃さずに《加速剣》を使い拘束から脱出、アリスたちから距離を取る。
また距離が開いてしまった。今度は同じ手は通じまい。
与えられたダメージはさほどない。反対にアリスたちはダメージはともかく魔力を大幅に消費してしまった。
「くそっ……アレでもダメなのかよ!?」
「本当に頑丈ですわね……」
途中で逃げられたとはいえ、普通ならば結構な大ダメージを受けたはずの攻撃ではあったが、ジュウベェの動きに衰えは全く見えない。
前回までと異なり、今回は不死身ではないはず。
それほどまでにジュウベェのステータスが高まっているのだと、観戦している二人にも理解できた。
「…………もし、
「あれ? どうしたお嬢? 何かあるのか?」
アリスの切り札たる第三の神装を当てることさえできれば、たとえ今のジュウベェのステータスでも防ぎきることは不可能だ――それは、クロエラとの練習時にアリスが使ってみせたものを二人も見ていたため実感している。
だが、防ぐことはできずとも耐えることは出来てしまうかもしれない。そう思えるほどに敵の能力は高くなっている、とも思えている。
そんな中、桃香がポツリと呟いた一言を千夏は聞き逃さなかった。
「あ、いえ……もしかしたら、というくらいで仕掛けた『罠』なんですけども……」
「え? お前、あの状況で何か仕掛けたのか!?」
桃香が何かを仕込んだとしたら、それは昨日のジュウベェとの対戦時以外にありえない。
満身創痍で何とか時間ギリギリまで粘ったあの戦いの最中に、次の対戦を見越して『罠』を仕掛けたというその神経が信じられないのだ。この場合はいい意味で、だが。
「それ、ありんこたちには?」
千夏の問いかけには首を横に振る。
「いいえ。上手くいかない可能性もありましたので、あえてお伝えしませんでした」
「そっか……まぁ変に期待して罠が動きませんでした、じゃ取り返しつかないかもしれないしな……」
「はい。わたくしの予想だと……おそらくは上手くいくはずなのですが……」
「……そりゃ、えらい自信だな」
桃香がそう言うということは、かなりの確率で『罠』は発動するはず、長くはないがそう短くもない付き合いの千夏にはそれがわかった。
そうは言ったものの、桃香はやや自信なさげな笑みで千夏に応える。
「ええ、まぁ……【
仮説として、桃香が何となくでも「上手く行く」「上手く行かない」と感じたものについては当たる……という程度の理解である。
「むぅ……? まぁ上手くいったら万々歳、上手くいかなくても別に損はないってことか」
「そうですわね。それに――」
一旦言葉を切り、今度はにっこりと微笑んで言う。
「わたくし、一応ではありますが『
「……?」
桃香の言っていることの意味がわからず更に問いかけようとした千夏であったが、
「あ! ジュウベェ様が……」
「む、動き出したか!」
対戦フィールドの方に動きがあった。
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