第7章43話 Exceed 2. 高速の死闘
「…………なるほど、そういうことですか……」
乱入して来たクロエラたちを見て、ようやくジュウベェは自分が『罠』に嵌められたのだと完全に理解したようだ。
さっき自分で言ってたじゃないか――『小細工を弄するつもりだろう』って。
だから私は予め『小細工』を仕掛けていたのだ。
「よし、クロエラよ、巻き込まれるなよ」
「う、うん……練習通りに……!」
クロエラたちが乱入してきたことにより、対戦の内容が『バトルロイヤル対戦』へと自動的に変更された。
私たちは互いに攻撃し合うつもりはないが、バトルロイヤル対戦ではフレンドだろうとなんだろうと互いにダメージが入るようになってしまう。
広範囲爆撃を行うことが出来るアリスの魔法にクロエラが巻き込まれないように注意しなければならないだろう。
「……くふふっ、それでも――勝てませんよ、貴女たちは!」
システム的には三つ巴の戦いだけど、実質は2対1の戦いだ。
数の上ではジュウベェが負けているが、それだけで優位に立ったと思わない。
ジュウベェもたとえ2対1でも負ける気は全くないのだろう――以前の対戦ではもっと数の不利があったとしても勝っているのだ。不死身というのを差し引いても相応の実力を持っていると自負してはいるんだろう。
そんなことは私たちの方もわかっている。
だから、これは『ジュウベェを逃がさないため』の作戦でしかない。
* * * * *
ジュウベェを追い詰めたところで、対戦から逃げ出されるチートを使われたらどうしようもない、と悩んでいた私たちにピッピが提案してきたのだ。
”100%ではないけれど、バトルロイヤル対戦にしてしまえば、クラウザーは脱出できないかもしれないわ”
ピッピ――自称・開発者曰く、クラウザーの持っている『対戦から逃げる』というチートは、あくまで
”対戦の一種ではあるけど、通常の対戦とバトルロイヤル対戦は結構システム的には違いが多いの。
バトルロイヤル対戦の場合だと、決着が着くか参加者全員の合意がなければ対戦は終わらないわ。だから、もしクラウザーが逃げようとしても対戦を強制的に終わらせて逃げるってことは難しいはずだわ――そもそも通常対戦から逃げる、というのも以前ラビが使われた時、『クラウザーの敗北』で終わったんでしょう?”
”そういえばそうだね”
ヴィヴィアン戦の時だったか、あの時クラウザーが撤退した時には確かに私が対戦で勝ったことになっていた。
”つまり、あのチートの内容は『自分を強制的に負けにしてでも対戦フィールドから脱出する』ということか”
”多分ね。だから、参加者が複数存在するバトルロイヤル対戦では使えない可能性が高いわ――クラウザーがバトルロイヤル対戦も想定していたのであれば、もしかしたら別の抜け道を用意しているかもしれないけれど……”
その可能性は否定できないか。
とにかくバトルロイヤル対戦にしてしまえば、『強制的に敗北』という判定自体が上手くできない可能性がある。そうピッピは言っているのだ。
”うーん……確かに理屈はわかるんだけど、ぶっちゃけ危険じゃない? いや、まぁ私たちは元からクラウザーと戦うつもりだったからいいけど、ピッピたちにも危険が及ぶよ?”
ジュウベェ=クラウザーの線で考えるのであれば、最後の対戦は『ユーザーへのダイレクトアタック有り』にせざるをえない。
その条件でバトルロイヤル対戦を行うとすると、ピッピたちも当然ゲームオーバーになる危険が高まるし、何よりもアリスの攻撃も当たってしまうことになる。
私の言葉にピッピは頷く。
”『最悪』なのは、このままクラウザーに能力を奪われたまま逃げ切られることよ。そうなってしまえば、私たちは『ゲーム』を諦めざるをえなくなってしまう……それに、ユニットを解除したところで、撫子たちが元通りになるかどうかもわからないのだから”
”それは……そうだね、確かに”
ユニット解除は最終手段としてはいるが、それで助かる保証もない。ユニット解除をして、それでもジュウベェの奪った能力が消えずに残り、体調も悪いまま……という本当の最悪が来るかどうかは、誰にもわからないのだ。
だから、まだなっちゃんたちが無事でいられるうちに、ジュウベェを撃破する――それが今のところの『最善』であろう。
その後、更に時間は進み最終決戦直前に、ピッピと段取りについて相談。
私は対戦を受ける時に『乱入許可』にしておきいつでもピッピたちが乱入できるように準備。
その上で、ピッピたちは5分ほど間を開けてから乱入してくることに。
これにはもちろん理由がある。
ジュウベェ=クラウザーが当たった場合にしろそうでないにしろ、ダイレクトアタックありの対戦となればクラウザー自身に危険が及ぶのには変わりない。
そうなれば向こうも最初から全力で来ることは疑いようがない。
なので、その最初の5分間を凌げるかどうかが、まずは今回の対戦の鍵となる。
ここでアリスが押し負けてしまうようなら、ぶっちゃけ今ジュウベェに勝つことは不可能だ。
そんな状態でピッピたちが駆けつけてきたとしても、無駄に命を散らせるだけにしかならない。
アリスが――私たちが勝てない場合、ジュウベェのことについて他の使い魔に伝える必要が出て来るだろう。そうなった時、トンコツだけでなくピッピも協力してくれるのであれば話が伝わるのは早くなってくれる。
そういう事情から、まずは私たちが戦い、ある程度の時間を凌げることがわかったら『勝ち目がある』と判断し、ピッピに乱入してもらう――そういう段取りだった。
* * * * *
”アリス、クロエラ! 練習通りに!”
「おう!」
「うんっ!」
昼間にアリスの魔法の練習で対戦をしていたけど、それだけではない。
バトルロイヤル対戦が始まってから二人は協力して戦う必要がある。
そのためのコンビネーションの確認を行っていたのだ。
「ext《
「
アリスはいつもの
一方、クロエラが使ったのは『ユニオン』という新しい魔法だ。
その効果は――
「……あら? その魔法……?」
おそらく
クロエラの姿が光の粒子となり、傍らのバイク型霊装『霊機メルカバ』へと吸い込まれて行く。
ガブリエラの魔法リュニオンとよく似ている。
違いは、この魔法の対象は自身の霊装のみであるという点。そして、主体となるのは霊装の方だということだ。
「行くぞ!」
霊装と一体化したクロエラに、アリスが乗り込む。
「くふふっ、面白い魔法ですねぇ……まぁ貴女の魔法はあたくしには使えそうにありませんが」
2対1になってもジュウベェはやはり余裕を崩さない。
悔しいが、それだけの実力を持っていることは確かだ。
「それでは、今度こそ決着をつけさせてもらいましょう――抜刀 《加速剣》、《感覚剣》、《雷光剣》、《操霊剣》!」
《
『振り落とされないで、皆!』
どこからかクロエラの声が響いてくると同時に、バイクが急発進!
「! 早いですねぇっ!」
大地を駆け、一気にジュウベェへと接近する。
接近と同時にアリスの《バルムンク》の一閃と《
更に背後へと回り込んで切りつけようとするも、今度はクロエラが加速。すぐさまその場を離れて回避する。
――ジュウベェの《加速剣》に対する対抗策……三つ目がこれだ。
すなわち、ジュウベェのスピードに負けないくらい、こちらもスピードを上げる。これだけだ。
《アスガルド》の反発スピードも十分速いが、速度特化型ユニットのクロエラは更にその上を行く。
いくらジュウベェの《加速剣》で周囲の動きがスローモーションに見えるからと言っても、絶対的な速さが文字通りの『目にも止まらない速さ』であるクロエラの動きについては、流石に止まったようには見えないみたいだ。
「ふふ……《雷光剣》《操霊剣》!」
《加速剣》の速さがもはや通じない、とみたジュウベェの判断も早い。
すぐさま《雷光剣》、それに《
「突っ込め、クロエラ!」
『うん!』
雷の龍に対し、《アスガルド》の『板』は弾くことが出来ない。正確には弾いてはいるのだけど、実態のないエネルギーの塊である雷龍はすぐさま軌道修正して突き進んできているのだ。
それに対してアリスたちは一歩も引くことなく、むしろそのまま雷龍へと突進していく。
なぜならば、この魔法剣も
「mk《
雷撃系の攻撃はアリスにはほぼ通用しない。
なぜか魔法で作ったゴムならば、ほぼ100%で電撃を防げてしまうからだ。
薄いゴムの被膜を作り防御、クロエラの突進で雷龍を突き抜けてジュウベェへと迫る。
「くふふっ!」
ジュウベェは嗤う。
周囲が《加速剣》を制限する『板』で囲まれて身動きがとり辛くとも、相手から自分に突進してきてくれるのであれば無関係だ。
《破壊剣》を振りかざし、迫るクロエラにカウンターを浴びせかけようとする。
――が、
「クロエラ!」
『エキゾースト《ブラックスモーク》、ドライブ《サイレンス》!』
走りながらクロエラが四つ目の魔法を使用する。
すると、霊装後部に本物のバイク同様に取り付けられている排気筒から真っ黒な煙が噴き出し辺りを包み込む。
四つ目の魔法、それは
今使ったのは《ブラックスモーク》……その名の通りの煙幕のガスである。
「ふふっ、抜刀 《烈風剣》」
煙幕の向こう側でジュウベェが微かに笑い、強風を発生させる魔法剣 《烈風剣》を呼び出す声が聞こえる。
風を巻き起こして煙幕を晴らそうというつもりだろう――至極当然の戦術だし、有効だ。
はたしてジュウベェの狙い通り、音を完全に消して後ろから回り込んできたクロエラのバイクが露わになる。
……だが、
「!? バイクだけ……!?」
背後から接近してきたのはクロエラだけだ。
そのクロエラも、煙幕が晴れた時点で無理に詰め寄るのを止めて進路を変更。ジュウベェの周囲を回るように移動する。
そしてさっきまで乗っていたはずのアリスの姿はそこにはなく――
「上!?」
《アスガルド》を最初に使った時のように上に移動して奇襲をかけてくるつもりだろうと予測したジュウベェが見上げるものの、やはりそこにもアリスの姿はない。
忽然と姿を消したアリス――その理由を、すぐにジュウベェは悟る。
「……っ! 抜刀 《防壁剣・殻》!」
「チッ!」
何かに気付いたジュウベェが全方位防御の《防壁剣》を呼び出すと同時に、突如現れたアリスが《バルムンク》を叩きつける。
刃は《防壁剣》に阻まれ届くことはなかった。
『アリスさん!』
不意打ちに失敗したと同時に、クロエラがすぐさま駆けつけ再びアリスを乗せてジュウベェから距離を取る。
今の攻防、アリスは煙幕を張ると同時にクロエラから降り、《アスガルド》の『板』を蹴って加速し続けたのだ。
弾かれれば弾かれるほど、次々と勢いは増していく。
そうして、最後には《加速剣》ですら追い付くことの出来ない速さで切り付けようとしたのだが……どういうわけかジュウベェは見えていないであろうアリスの動きを見切り、《防壁剣》で防ぐことに成功したのだった。
「ふふ、あぶないあぶない……ああ、
そう言って愛おしそうに、《獣魔剣》で生やした腕に持つ一本を見る。
あれは――確か《感覚剣》……今回初めて使った魔法剣だけど……。
……あ、そういうことか……!
”ジェーンの魔法剣か……!”
「なに……!?」
確かジェーンには、『感覚を鋭くする』という効果の
具体的に五感が強化されているのかはたまた第六感的なものが働くようになるのかは定かではない。
よくわからないが、《感覚剣》の力で見えない位置から見えない速度で接近するアリスを察知し、攻撃を防ぐことが出来たのだろう。
……くっ、トンコツが不死身の理由の裏付けを取ってくれた反面、ジェーンの魔法が奪われている。それは予想していたけど……!
「チッ……返してもらわなきゃならねーものが増えたな……!」
”うん……”
それはそれとして、思った以上に厄介な魔法剣だ。
《加速剣》《重撃剣》《破壊剣》《獣魔剣》、これに加えて《感覚剣》――補助・強化系統の魔法剣の方が実は強力なものが多い。
《獣魔剣》の力で最大6本の魔法剣が使えてしまうというのも脅威だ。《雷光剣》のようなものならば手から離していても使えるし、手数は更に増えると思っていいだろう。
『ど、どうするの!?』
クロエラの慌てたような声。
事前に決めていた二人の連携による奇襲は防がれてしまった。
《アスガルド》+クロエラのスピードでも通じないとなると……。
迷う私だったが、
「どうするもこうするもあるか! もう一度突っ込め!」
『っ!? は、はいっ!』
全く迷わず、再度突撃の指示を叫ぶアリス。
……ほんと、こういう時に決断が速い。
アリスに叱咤され、再びクロエラがジュウベェへと突撃する。
「煙幕はいらねぇ! 攻撃だ!」
『りょ、了解! エキゾースト《ヒートヘイズ》!』
排気筒から『炎』が――比喩ではなく実際に炎を噴き出してクロエラが加速、アリスの指示通りジュウベェへと小細工なしに真っすぐに突っ込む。
クロエラの走った軌跡に沿って爆炎が巻き起こり、周囲へと炎と熱を撒き散らす。
それだけではない。漫画とか映画でしか見たことがないけど、『ニトロを使うぞ!』的な効果があるのか更にクロエラが加速。
「cl《
アリスが
「っ……へぇ……?」
さっきのアリスと同様、今度はクロエラごと《アスガルド》で弾いて加速に加速を重ねた攻撃だ。
これでダメなら――
「ふ……では、こういうのはどうでしょう?」
どうするのかと思ったら、ジュウベェは《感覚剣》を残して魔法剣を全て捨ててその場に立ち尽くす。
観念した――んだったら話は早いが……。
”気を付けて! 何か狙ってる!”
「ああ! だが、退くわけにはいかねぇ! 行け、クロエラ!!」
ジュウベェが何をするつもりかはわからないけど、確かにアリスの言う通り退いてては勝つことは出来ないだろう。
《アスガルド》で攪乱、加速しながら――相手の死角からクロエラごと突っ込む!
……直撃すれば、ユニットどころかモンスターであっても一発で押しつぶされるであろう重量の突撃だ。
回避さえされなければジュウベェにダメージを与えることが出来るはず――だった。
「こ、こいつ……っ!?」
『う、うそ……っ!?』
さっきみたいに《防壁剣》で防いだのではない。
《感覚剣》を使って位置は探ったみたいだけど……でも、魔法剣での防御も回避も相殺もせずに……。
「くふふふふふふっ!!」
向かってきたクロエラを、
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