第7章36話 不死の秘密を暴け ~20時間前
さて、やるべきことは決まった。
ありすと桃香が夜ご飯を食べている間、私は一人で桃香の部屋に残り『ジュウベェの不死身の秘密』について考えていた。
……いたんだけど……。
”むぅ……さっぱり思い浮かばない……”
全然答えらしきものが見えてこない。
そりゃまぁ私は別にバトルの専門家ってわけでもないし、『ゲーム』についても細かいところは相変わらずよくわかっていない。
対戦も横で見ているだけだったし……。
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ。
今のところ最有力なのは、やっぱり私たちが認識できていないだけで防御魔法を使って攻撃を防いでいた、という考えだ。
”……うーん、でもなぁ……”
最有力ではあるけど、まったく納得がいかない考えでもある。
ありすたちもこれについては同意見だった。仮に防御魔法を使ったとして、最初の対戦の時みたいに《
《イージスの楯》並の絶対防御魔法ならばあるいは――だけど、ジュウベェの魔法剣で果たしてそんな魔法が作れるものかは疑問だ。
誰かが絶対防御魔法を持っており、それをジュウベェが奪い取った、という可能性はゼロじゃないけど……そもそもこの『ゲーム』において、そんな防御が出来るようになっているのかは疑問だ。
《イージスの楯》にしろ、私の知る限りのもう一つの絶対防御であるミオの【
たとえば《イージスの楯》なら『楯』のある方向以外からの攻撃は防げない。【遮断者】にしたって、『遮断する』と決めたもの以外は素通しという割とガバい能力だった。
言葉は悪いが、ただの一魔法がそこまでの防御力を出せるとは思えない。《イージスの楯》にしても、
”防御専門魔法の使い手がいて、それをジュウベェが吸収した――うーん、たぶんない気がするなぁ”
もし仮にいたとして、だったらジュウベェに負けるとは思えない。
ヴィヴィアンもミオも結果としては負けてはいるものの、二人とも『防御魔法の専門家』というわけではない。さっきも考えた通り、どちらの防御も割とガバいところがあることだし。
だから、絶対防御魔法を専門として使うユニットがいて、それをジュウベェが倒した。この考えはあまり可能性は高くない。
となると――
”何だろう……? 何か引っかかる……?”
ちょこちょこと口に出しながら考えを纏めようとして、頭の中に『何か』妙なものが引っかかっている気がしてきた。
その正体はわからない。でも、その正体がジュウベェの秘密に関係しているような……そんな直観がある。
根拠はないけど、こういう時の『引っかかり』とか『違和感』って往々にして問題に対して関係しているものだ、って私は前世の経験から思う。
んー、深く掘り下げたいけど、具体的に『何』というのが私自身も掴めていない。もうちょっと別の角度からも考えてみよう。
もっともっと、深くまで集中して……。
「ん……ラビさん、考え事……?」
「うふふっ、真剣な表情のラビ様もぷりちーですわ♡」
防御したのでなければ、回避した、とかはどうだろうか?
例えば瞬間移動能力を持つ魔法剣があり、それを使って攻撃を避けたとかは……ありえない話じゃない。
”……んー、いや……?”
自分で考えて自分で否定。
回避はありえない話じゃないけど、それで話の筋が通るのは昨日の《グングニル》+《ケラウノス》の時だけだ。
さっきの対戦で、倒れたジュウベェに対して《ヘラクレス》がボコボコにぶん殴るという場面があった。
あの時は《ペルセウス》+《アンドロメダ》の鎖で動きを封じていたはずだ。もし瞬間移動とかで避けていたのだとしたら、そのことはヴィヴィアンにも伝わっているはず。
それに――もし瞬間移動能力があったとしたら、それを攻撃にも転用できるだろう。
しかし《加速剣》を使っての超スピードでの攻撃こそあれど、瞬間移動のような動きはしていない。
……となると、やはり瞬間移動なりで攻撃を回避、というのは考えにくいか。
「耳……ぷにぷにー……」
「素晴らしい手触りですわ……♡」
防御、回避、後は……『相殺』とか?
相手の攻撃に合わせて、同等の威力を持つ魔法剣を使うことで攻撃を相殺……ダメージを受けなかった、という可能性はどうだろうか?
”……あ、ダメだ。やっぱり今日のことに説明がつかない……”
やはり引っかかるのが、《ヘラクレス》にボコられていた時のことだ。
《ペルセウス》の鎖はジュウベェの両腕を封じていた。あの状態で魔法剣を呼び出したところで、自由に腕を振り回すことは出来ないだろう。
それにそもそも魔法剣を呼び出す『声』が聞こえなかった。
……もし、『発声せずに魔法を使える』ということがありえるとしたら……?
「ラビさんで一番
「そ、そんな……背徳的すぎますわ……!」
ぺちん
ぷるん
「……素晴らしいっ!」
「マーベラス、ですわっ♡」
……いや、やっぱり違うな……。
もしも『発声不要』で魔法を使えるのだとして、それを隠し続ける理由が思い当たらない。
隠すことで『不死身を演出』するとしても、やはりどちらかといえば攻撃に使った方が理に適っている気がする。
そうすれば私たちとしては、ジュウベェが何をしてくるかわからないという恐怖に晒されることになるだろうし、ジュウベェとしてもずっと戦いやすくなるはずだ。
まぁジュウベェが本当に『理』を度外視した無秩序な相手だったら……うーん、ありえなくはないけど。
ヤツは言葉を選ばなければ確かに『狂人』と言える印象だけど、質の悪いことに非常に理性的でもあるように見えた。
『理』度外視の行動をとるのは意外性こそあるものの、長い目で見れば大体において『損』することになると思う。こういうのが通用するのは、一戦か二戦程度だろう――だから次の対戦では通用しないと私は思う。私自身が注意するし、ありすだってそういうのは敏感に見切るはずだ。
ぺちぺちん
ぷるぷるん
「ふぉぉぉ……♡」
「ふぁぁぁ……♡」
…………。
”……んもー……何してんの二人とも……”
考え事にものすごく集中してしまったらしい。
ふと気が付いたら、私はありすに抱きかかえられた状態だった。
「……あっ」
ぺちんっ
ぷるんっ
”……あーりーすーっ!!”
ひどいや。いくら考え事に集中して気が付かなかったからって、お尻ぺんぺんするなんて……。
「……堪能した」
”堪能した、じゃないよっ!”
「素晴らしいひと時でしたわ……♡」
”桃香まで……まったくもう……”
いかん、この状況で二人を放っておいて考え込んでしまったこと自体は私が悪いな。
……かと言ってお尻叩かれて良し、とは全く思わないけど。
”まったく……声かけてくれればいいのに”
「んー……でもラビさん、全然こっち見てくれなかったんだもん……」
”えー? でもだからってお尻叩かないでよ……つんつんってしてくれたら気が付くって”
「あのぅ……その、怒らないでくださいね? …………ラビ様のお尻、わたくしもありすさんも結構叩いちゃったんですけど……それでも気が付かれなかったようで……」
”え、ほんとに?”
全然気が付かなかった……。
「ん、ほんと。そろそろお尻をかぷってしようかと思ってた」
”やめなさい”
マジで。
別に大して痛くはないけどさ、お尻かじられていい気分しないし。
………………え……?
”……
唐突に頭の中に浮かんできたイメージ。
さっきから頭の中に引っかかっていた『違和感』。
それらが一気に私の頭の中で形となる。
「……ラビさん……?」
「ま、また集中なさってる……?」
あ、ありえるのか……
自分で思いついて自分で否定したい考えだけど……。
でも、もし
”――うそでしょ……? これなら
対戦のことは別にして、一つものすごく疑問に思ってた――でも全く説明できない『超常現象』としか思えないことだったので心に蓋をして忘れていた――
唯一の問題は――それがとても
……いや、でもこれが正解な気がしてならない。
実現可否については置いておくにして、ジュウベェに纏わるあらゆる『謎』が解けてしまう、たった一つの解答――
”…………ありす、桃香”
「っ!? ま、まだかぷってしてないよ!?」
「わ、わたくしは止めましたわ!?」
「トーカ!? ち、違うもんトーカがやれって言ったんだもん!」
どさくさに紛れてなにやってんの、二人とも……。
あと、美しい友情見せつけないでくれる?
”二人とも、大手柄かも”
「……ん?」
私のお尻の前で不思議そうな顔をするありす。
だから噛みつくのはやめなさいって。しかもお尻に……。
”
「ん! ほんと!?」
「えぇっ!? どうしていきなり!?」
でもまだだ。
多分正解――なんだけど、そのレベルで全てを賭けて明日の対戦に臨むことはできない。
まずはピッピと話をしたい。
そして……可能であれば私の考えが正しいかどうかの検証をしたい――したいけど、うーん……流石にこれは検証不可能かもしれないな……。
ともかく私一人ではここまでが限界だろう。
自称・『ゲーム』開発者のピッピの意見が聞きたい。
”ちょっとピッピを呼んでくる!”
どっちにしても昼の話の続きをする予定だったのだ。
私とありすが桃香の家に来たことまでは知らないだろうし、もしかしたらありすの家にいないから、ということで一度帰ってしまったかもしれない。
とにかくピッピに連絡して、直接桃香の家まで来てもらおう。盗聴を警戒して、チャットではなく直接会話した方がいいだろうし。
……が、その前に。
”ありすと桃香は正座ね”
「「…………はい……」」
それはそれ、これはこれだ。
私のお尻で勝手に楽しんだツケは払っていただこう。
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