第7章33話 雪下の死闘 3. 肥大化する狂気
強化・補助系の魔法剣は、ジュウベェが手にしていないと効果を発揮しない――それは新たな発見ではあった。
だが、その欠点を《獣魔剣》は完全に克服している。
それどころか、完全なパワーアップと言えるだろう。
新たに増やした腕にも魔法剣を持たせることが出来るのだ……今までは攻撃用と強化・補助用の魔法剣をそれぞれ一本ずつ持つのが限界だったが、計六本の腕にそれぞれ持たせることで同時に複数の効果を発揮することが出来るようになってしまった。
……今は使っていないが、《加速剣》《重撃剣》の同時抜刀あたりをされたら、本当に手が付けられないバケモノと化すんじゃないだろうか……。
そこから先の戦いは、防戦一方だった。
ヴィヴィアンはおろか、召喚獣も近づくことが出来ずに遠距離からほぼ一方的に攻撃され続けている。
「ふふふっ、《雷光剣》《操霊剣》――」
主な理由は、新しく呼び出した《操霊剣》にある。
この剣の効果は一目見ただけだとわかりづらかったが、どうやら形のないエネルギーを自在に操作することが出来るようになるみたいなのだ。
おそらく、これがウリエラの魔法・アニメートを奪ったものなのだろう。
雷撃を放つだけの《雷光剣》、そして強風を放つだけの《烈風剣》だけならば今まで通り対処することはそう難しくはない。
だが、それらが《操霊剣》によってコントロールされると……途端に対処が厳しくなる。
今、《操霊剣》によって雷撃が一か所に纏まり――『龍』のような姿となる。
自らの意志を持つかのように雷龍は蠢き、ヴィヴィアンへと迫る。
「くっ……サモン《イージスの楯》!」
「《烈風剣》《操霊剣》!」
何とか雷龍の突進を《イージスの楯》で防ぐことは出来たものの、間髪入れずに次の風の龍が別方向からヴィヴィアンに迫る。
この二つの遠距離攻撃――それも回避しようにもヴィヴィアンを追尾してくる攻撃によって、動きは完全に封じられてしまった。
《イージスの楯》で受け止めたら別方向から襲われてしまうため、迂闊に楯をリコレクトすることも出来ない。さっき《イージスの楯》をリコレクトして攻めようと思ったところで、今のこの状況だ。
仕方なしにヴィヴィアンは楯をそのままにして風龍の突進を止めるが――すぐさまジュウベェは再び雷龍を呼び出して攻撃を続けて来る。
こちらも召喚獣を呼び出してジュウベェに向かわせようとするものの……。
「《金剛剣》」
再度呼び出した《ペルセウス》がジュウベェに近づくと、今度は金色に光る直剣を地面に突き刺す。
すると、地面から何本もの結晶――名前の通りの『金剛石』か――が杭のように突き出し、《ペルセウス》を襲う。
この攻撃、一見すると地味だが威力がエグい。掠っただけで召喚獣の装甲が削れるほどだ。
救いは射程はあまり長くないことと、杭はすぐ消えてしまうので《操霊剣》で操られることはない、ということか。これでもしいつかのウリエラの『水晶ゴーレム』のようなものを作られたら、本当に手のつけようがなくなる。
《ペルセウス》も無駄に命を散らすようなことは出来ないのだろう、結晶の杭に阻まれ近づけないままだ。
「えぇえぇ、この程度でしょうとも」
「……」
嘲笑うジュウベェに反論することなく、ヴィヴィアンは迫りくる雷龍風龍から身を守り続ける。
まだ決定打こそ受けていないものの……間違いなくこちらは追い詰められかけている。
時間一杯まで逃げ切る、それすらこのままでは不可能……そう思えるくらい、ジュウベェの攻撃は苛烈だ。
「抜刀 《投擲剣》――くふふふふふっ!!」
《金剛剣》を手放して前回対戦の最後で使おうとした《投擲剣》を抜刀すると、手放した《金剛剣》を掴む。
――拙い、狙いは
”ヴィヴィアン、《金剛剣》が来る!”
「!? は、はい! リコレクト《ペルセウス》!」
私の言葉にすぐさま《ペルセウス》をリコレクト――となると、《投擲剣》が向かう先は……!
「ふふふっ、判断を誤りましたねぇ」
《投擲剣》が掴んだ《金剛剣》がヴィヴィアンに向かって投げつけられる。
シオちゃんのジャグリングと同じならば、これも狙った箇所へと確実に着弾する――アリスの《
私の予想通り、《金剛剣》はヴィヴィアンに向かって飛び……それを《イージスの楯》で防ごうとする。
……が、着弾地点は私たちの予想と異なりヴィヴィアンではなく、その手前の地面であった。
「――しまった……!?」
敵の狙いに気付いたがもう遅い。
地面から無数の杭が伸び、ヴィヴィアンの周囲を取り囲む。
足元から生えた杭は《イージスの楯》で防ぐことも出来ず、咄嗟に後ろへと跳んだおかげで串刺しにはならなかったものの、足にわずかに掠ってしまう。
「うぐっ……!?」
”ヴィヴィアン、《ペガサス》で逃げて!”
楯での防御が崩れてしまった。
その隙を狙ったかのように雷龍風龍が殺到する!
「――がっ……!!!」
《ペガサス》で飛んで逃げようとしたヴィヴィアンだったが、それよりも早く雷龍たちの直撃を食らい、悲鳴すら上げることが出来ずに衝撃で吹き飛ばされてしまう。
この一撃――いや三撃で一気に体力が危険域まで削れてしまった!
”ヴィヴィアン!”
「ま、だ……です……っ!!」
倒れたヴィヴィアンはすぐさま立ち上がり
が……。
「そぉぉぉぉれぇっ!!」
立て続けに《雷光剣》《烈風剣》、それにいつの間にか呼び出した幾つもの魔法剣をジュウベェは《投擲剣》で投げつけてきたのだった……!
「…………ぐ……うぅ……」
”ヴィヴィアン!”
投げつけられた魔法剣は、それも狙いを違わずヴィヴィアンへと向かってきた。
それも、両腕、両足を主に狙って……。
体力特化故にヴィヴィアンはまだ持ち堪えてはいるが、手足を潰されてしまったら自由に身動きが取れなくなる。この『ゲーム』の訳の分からないところで人体に忠実な面が、嫌という程悪い面で現れている。
「ふふふ……体力が高いのが災いでしたねぇ~えぇ」
くっ……!?
確かに体力が高いために何とか耐えきったけど、逆に苦しみが長引いているとも言える。
『ご主人様……わたくしは大丈夫です。問題ありません……っ!』
『”ヴィ、ヴィヴィアン……”』
気丈にも遠隔通話でだが自分は平気だと彼女は訴える。
目的は……私が『
元々のヴィヴィアンの目的からすれば、戦いが長引けば長引くほど都合がいいのだ。
でも、だからって……目の前でヴィヴィアンが苦しむのを見ているだけってのは、本当に辛い……!
でも、だからって、私が辛いからって
『”ヴィヴィアン、《フェニックス》をインストール!”』
『はい!』
ならば私に出来ることは決まっている。
ヴィヴィアンの作ってくれたこの機会にジュウベェの動きをひたすら観察して『不死身の謎』を解くこと。
そして、この戦いを目的通り長引かせる――ヴィヴィアンがやられないようにすることだ。
「イン、ストール……《フェニックス》!!」
自身の身体へと召喚獣を宿らせ、その全能力を得るヴィヴィアンの切り札である
ヴィヴィアンの身体が炎に包まれ背中からも炎の翼が出現、その場から飛んでジュウベェと距離を取ろうとする。
「くっ……けれど、これで何とか……」
《フェニックス》の優れた点は、何よりも『再生能力』だろう。
不死鳥は伊達ではない。召喚獣となってもその能力は健在だ。
インストールしてしまえば、ヴィヴィアン自身にも能力は受け継がれるのだ。手足の再生だって――見た目はともかくとして――出来る。
もっとも、傷の再生が出来るとは言っても体力の回復まではしてくれない。ジュウベェが追撃してきたらそれで終わってしまうだろう。それはわかっているため、身体の再生を進めると同時にヴィヴィアンはアイテムで体力の回復も行う。
……ただ、インストールしてしまうとサモンが使えなくなってしまう。それは大きな欠点だ。かと言ってサモンを使うためにアンインストールをしてしまうと、リコレクトと違って魔力は返ってこない。
このまま戦い続けるしかないか? 私もヴィヴィアンもそう思っていたが……。
「くふっ、くひひひひひっ!!」
もはや悪意を隠そうともしない、厭らしい哄笑……。
確かに《投擲剣》とかで空中に浮かんだ相手を攻撃することは出来るけど……?
「ああ、そうですよねぇっ!? 追い詰められた貴女ならば、そうするしかないですよねぇっ!?
くひひっ、でも
「……っ!?」
”こ、こいつ……”
いや……悪意どころではない。これはもはや『狂気』だ。
「ひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!!!! 抜刀――《開闢剣》っっっ!!」
呼び出したのはガブリエラから奪った《開闢剣》……だが、この魔法剣を使ったとしても、今のヴィヴィアンを倒すのは難しいような……。ジュリエッタの《
「更に更にぃぃぃぃぃ抜刀 《加速剣》、《飛翔剣》!!」
”!? 拙い、回避に専念!!”
《加速剣》の方はもう何度も見た、その効果は身に染みてわかっている。
でももう一つの《飛翔剣》――こっちは初見だが、見た目だけで効果がわかる。
刀身は短く、ナイフにしか見えない小ぶりの剣だが、問題は
ジュウベェの姿が消え――
「くひひっ!」
「こ、の――!?」
一瞬で空中にいるヴィヴィアンの傍まで移動してくる。
やはり《飛翔剣》は空中移動用の魔法……を奪ったものなのだろう。元々が『空中を移動する』だけの魔法のため、移動速度が異様に速い。
そんなことより、それを更に《加速剣》で加速させてまで使って、ヴィヴィアンのすぐ近くまで来たのだ。しかもその手には《開闢剣》を持っている。
振り下ろされた《開闢剣》を辛うじて手で受け止めるヴィヴィアン。切れ味自体はほぼない《開闢剣》ならばインストールで強化したヴィヴィアンならば難なく受け止められる。
「ああ……
「!? なにを――」
空中で鍔迫り合い――ではないけど、剣を押し込むジュウベェと、それを受け止めるヴィヴィアン。
だが、その最中ジュウベェは軽く微笑みながらそう言った。
言葉の意味がわからずヴィヴィアンも私も困惑するが、その答えはすぐにわかった。
「くふふっ、天地が別たれるが如く、貴女も別たれなさいな」
「――しまっ……!?」
ジュウベェの言葉の意味を私たちが理解した時、既に手遅れだった。
「《開闢剣・分割》」
剣で傷をつける必要なんてなかった……。
ヴィヴィアンの触れてしまった鍵のブレード部分から魔法の効果は伝わり……。
「こ、れは……!? ぐぅ、うああああああああっ!?」
体力ゲージは減っていないのに、ヴィヴィアンが突然苦しみだし、そして身体から炎が消えていく。
数秒もしないうちにヴィヴィアンの身体から完全に炎が消失――いや、ヴィヴィアンの中から《フェニックス》が分離されていく!
”こ、こんな使い方もできるの!?”
《開闢剣》……単に『開く』だけではないみたいだ。
名前の通りの『天地開闢』――神話にあるように、天と地を別つ能力、すなわち『合わさったものを分離させる』こともできるらしい。
「くっ……!?」
《フェニックス》とのインストールが強制的に解除され、ヴィヴィアンは地面に真っ逆さまに落っこちていく。
そこまで高いところまで昇っていなかったので落下ダメージを受けても体力が削られ切ることはないが、逆に別の召喚獣を呼び出して落下を防ぐ時間も取れない。
「ぐ、ぅ……」
地面が柔らかい雪に覆われていたのは幸いだった……が、それでも無傷とはいかない。
落下の衝撃でヴィヴィアンは地面に倒れ、動けなくなってしまった。
「ふふふ……」
一方で分離された《フェニックス》を別の魔法剣で始末したのであろうジュウベェは、悠然と着地してこちらへとゆっくりと歩いてくる。
まさか、切り札のインストールをあっさりと無効化してくるなんて……!
『……ご主人様、残り時間は……?』
『”えっ? えっと、1分半もないくらいかな”』
『…………でしたら、
……ん? 何かヴィヴィアンにはまだ考えがあるっていうのか……?
残り1分半なら頑張れば逃げ切れるかもしれない、と思いたいところだけど……六刀流となったジュウベェが攻勢に入ったら、時間稼ぎも難しい。
何をしようとしているのかはわからないが、倒れたまま霊装を呼び出しその手に握る。
「やはり貴女は地べたに這いつくばっている方がお似合いですわねぇ、くっふふふふ」
倒れたヴィヴィアンに襲い掛かって来る様子はない――もちろん慈悲でもなんでもない、余裕を見せているだけだろう。
「まだ……です……っ!」
諦めるわけにはいかない、とヴィヴィアンはジュウベェを睨み返しまた立ち上がろうとする。
さっきの《フェニックス》をインストールしたおかげで体の傷は治ってはいるが、体力自体は大幅に削れたままだ。一撃でも受けたらそれが致命傷となりかねない。
そんなヴィヴィアンの様子を見て、にやぁっと厭らしい笑みを浮かべるジュウベェ。
絶対に自分の優位は覆らない、それを確信して足掻くヴィヴィアンを嘲笑っている……本当にムカつくヤツだけど、それが実際に出来るヤツでもある。
「あらぁ? あら、あらあら~? まだ立ち上がりますかぁ?」
「ぁぐっ……」
立ち上がろうとしたヴィヴィアンを無造作に蹴り飛ばしてまた転ばせる。
これ自体は大したダメージではない、けど……。
「ま、残り時間も短いことですし、逃げられる前に終わらせてしまいましょうかぁ。抜刀 《大杭剣》」
その名の通り、巨大な『杭』の形をした剣――パッと見た感じだと超巨大な『釘』にも見える剣を手にし、それを逆手に持つ。
一体どんな用途なのかは明白だ……!
「くふふっ、
そう言いながらジュウベェが《大杭剣》を仰向けに倒れたヴィヴィアンの胸目掛けて振り下ろす――!!
”――やめろっ!!”
「ご、ご主人様……っ!?」
「あら?」
このままじゃいけない、そう思った私の身体が自然に動いていた。
振り下ろされた《大杭剣》へと、私が自らの身体を差し出すように体当たりを仕掛ける。
本来ならばヴィヴィアンの身体を容易に貫くであろう杭は、私を貫くことは出来ず――逸れて脇の地面へと突き刺さる。
”あ痛たたた……”
そんな必殺の杭を受けた私はというと、食らった衝撃自体はあったけれども、全くダメージを受けることなく済んだ。
……おお、さっきもちょこっと攻撃食らった時に平気だったからいけると思ってはいたけど、本当に無傷で済むとは……。
「――っ、くあぁっ!!」
ヴィヴィアンは気合の声を上げると共に横に転がった私を拾って、素早く距離を取りつつ立ち上がる。
……私のことは放っておいてもこの対戦では大丈夫なんだけど……無駄にヴィヴィアンに心配をかけてしまったか。
でも彼女を守れて良かった。残り1分くらい――貴重な時間を稼げたはずだ。
「……ふぅ、
言うまでもなく、私が楯となってジュウベェの攻撃を防いだことだろう。
まぁ『使い魔への直接攻撃不可』イコール『使い魔はダメージを受けない』というルールの『穴』を突いた行為であることは間違いないけど……。
”君に言われたくないね……!”
「……ふふっ」
チートの塊みたいなジュウベェに言われる筋合いはない。
とはいえ、これもそう何度も使える手ではないし、何よりも私の身を楯にしても防げる攻撃なんてそうそうないだろう。
そんなことはジュウベェもわかっているはずだ。
「まぁいいでしょう。でしたら、使い魔の楯なんて関係ない剣を使うだけですわぁ。抜刀 《流星剣》!」
”ヴィヴィアン、今のうちに!”
「はい!」
傷を治す時間はない。けれど、グミを口に放り込んで体力を回復するくらいの時間はある。
ヴィヴィアンが回復すると同時に、ジュウベェの手には柄だけの剣――《流星剣》が現れる。
この魔法剣はさっきも一回使ったから効果は何となくだけどわかる。
”! ヴィヴィアン、後ろから来る!”
振り返った私は自分の推測が正しかったことを知る。
《流星剣》は、
やはり、私が楯になっても防ぎきれない攻撃をしてきたか――!
「サモン《ヒュドラ》!」
「抜刀 《破壊剣》!」
《加速剣》を防いだ時のように《ヒュドラ》を呼び出し全方位を囲んで防御、《流星剣》を防ごうとするヴィヴィアンだったが、それに合わせてジュウベェが必殺の《破壊剣》を呼び出しながら自らも前進してくる。
「遅いですわぁ!」
触れたものを問答無用で破壊する《
「ぐぅぅぅぅっ!?」
《ヒュドラ》を破壊されたヴィヴィアンは新たな召喚獣を呼ぶことなく、自力で降り注ぐ流星を避けようとする。
……だけど、到底かわしきれるような攻撃じゃない。
ざくざくと何本もの剣がヴィヴィアンの身体に突き刺さっていく……。
「あらぁ、粘りますわね? では――こうっ!」
それでも足を止めず、必死に回避を続けるヴィヴィアンに対してジュウベェは《流星剣》を持った手を振るう。
すると、迫りくる流星の軌道が変化した。柄に向かって進んでくるという性質のためだろう、剣の位置が変えることで刃の動きを制御できるみたいだ。
下から上へ振り上げると、それに従って流星は下から突き上げるようにして飛び、左右に振り回せば大蛇のようにうねりながらヴィヴィアンを挟み撃ちにしようとする。
「もう……少し……っ!」
……ヴィヴィアン……?
辛うじて頭部だけは守り切っているが、ヴィヴィアンは召喚獣を使うこともなく自分の足だけで《流星剣》をかわそうとしている。
魔力はまだ残っている……たとえジュウベェが何か別の魔法剣を呼び出したとしても、召喚獣を使った方が受けるダメージは少ないはずなのに、どうして……?
私の戸惑いに構わず、ヴィヴィアンは私と霊装を強く胸に抱きしめたまま必死に回避を続ける。
「くふふふふっ!! 残り30秒ぉっ!! さぁ、さぁさぁ、終わらせますよぉっ!? 抜刀 《彗星剣》!」
「……
対戦時間は残り30秒。
ヴィヴィアンの体力は限界に達しようとしているが、アイテムで回復することさえすれば逃げ切ることも不可能ではない時間だ。
ジュウベェはとどめを刺そうと新たな魔法剣 《彗星剣》を呼び出す。
青く光る太い棒のような形状の剣が出現。その切っ先をヴィヴィアンへと向けると――
「――っ!?」
ヴィヴィアンの身体が後ろへと吹っ飛ばされた。
《彗星剣》――これも名前の通りの剣だった。青い刀身を弾丸として発射し、離れた位置にいたヴィヴィアンを撃ったのだ。
私と霊装を胸に抱えていたためそちらに命中したので直撃は避けられたが……砲弾の直撃を受けたのと同じだ。もし私たちがクッションにならなかったら胴体が潰されていたかもしれない。
”くっ……ヴィヴィアン……!”
《彗星剣》に撃たれた時の衝撃で、私と霊装は取り落とされてしまいヴィヴィアンから離れた位置へと落ちる。
いや、私のことはどうでもいい!
ヴィヴィアンは――
”……なっ……!?”
吹っ飛んだはずのヴィヴィアンは、それでも尚立ち続けていた。
だけど、もうまともに動くことも出来ない体だ。
両手両足、胴体……生身だったら生きていることが不思議なくらい、全身に《流星剣》の刃が突き刺さっており、《彗星剣》の直撃を食らったと思しき左腕は辛うじてつながってはいるものの、ありえない形に歪んでいる。
「サ……モン……」
満身創痍、瀕死の重傷を負っているにお関わらず、その目から戦意は消えず、真っ直ぐにジュウベェを射抜いている。
「……《エクス……カリバー》!!」
最後に残った魔力でヴィヴィアンが召喚したのは、かつて私が使用禁止を言い渡した虹色の光を放つ最強の聖剣……《エクスカリバー》だった……。
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