第7章4話 エンジェル・ハイロゥ 3. 天使の猛攻
今回の対戦、まぁいつも通りっちゃいつも通りなんだけど、相手の情報はアリスたちには知らせずに行うこととなっている。
負けても10000ジェムなので痛いことは痛いが払えない額ではない。
私としては見てるだけってのももどかしいものがあるんだけど……まぁ本人たちが対戦を楽しみたいというのであれば、それはそれでいいかなとも思っている。
ただし――アリスたち三人の中での相談までは封じないようだ。遠隔通話を使ってその場その場で作戦を組み立てていくみたいである。
私にも聞こえているけど、口は挟まない。ま、私が口を出したところで戦局が有利になるとも限らないしね。
ともあれ対戦開始だ。
開始の合図と共に、アリスとガブリエラが同時に動く。
「ext《
アリスはいきなり神装を使ってガブリエラに切りかかる。
相手の魔法の詳細まではわかっていないものの、敵三人の中で最も手ごわく、そしてリーダーであろうガブリエラへと速攻をかけて落とすつもりだ。
「ふふっ」
対するガブリエラは魔法を使う様子を見せず、手にした鍵をまるで剣のように振るって真っ向からアリスを迎え撃つ。
……霊装がやたら頑丈なのは差し引いて、何の魔法も付与していない鍵とアリスの《バルムンク》がぶつかり合ったというのに、全くの互角だ。
い、いや……?
「ぐっ……!?」
互角、ではない。
むしろアリスの方が押されている……!?
アリスは両手で《バルムンク》で切りかかったものの、ガブリエラの方は右腕一本でそれを押しとどめ――更には逆に押し込もうとしている。
これは……ガブリエラのパワーはアリスを圧倒していると思っていいだろう。
アリスだってステータス自体は結構高めだし、見た目の割にはパワーはある方だ。
だというのに片手で抑え込まれてしまうということは、相手は相当なステータスだということを示している。
……『天使』風の見た目に反した『パワータイプ』……ということなのだろうか。
「ふふふ……いきますよ~」
「うおっ!?」
余裕の笑みを浮かべたまま、ガブリエラが鍵をめちゃくちゃに振り回しアリスへと叩きつけていく。
まるで棒切れを振り回しているかのような、全く重さを感じさせない連打である。
だが一撃一撃の重さは棒切れなんてものじゃないのだろう、アリスは《バルムンク》で受けるのが精いっぱいで逃れることが出来ない。
確かに《
一体あのガブリエラというユニット、どういう性能をしているんだろうか……彼女も魔法らしきものを全く使っていないというのに、ここまでアリスを一方的に封じ込めるなんて……。
「こ、の……ゴリラ女め……!!」
憎まれ口をたたくものの、アリスは依然としてガブリエラに抑え込まれる一方であった……。
一方、別の戦場では――
「ヴィヴィアン、援護。速攻で片づける」
「ええ。手早く終わらせましょう」
最も厄介なのはガブリエラであろう、というのがアリスたちの一致した見解だった。
だから、まずはアリスが一人でガブリエラを抑え、その間にヴィヴィアンとジュリエッタでウリエラ・サリエラを片づけて三対一の有利な状態へと持っていく。
それがあの子たちの作戦であった。
まぁ間違いではないと思うし、私が口を出すにしてもきっと同じようなことを考えたであろう。
だが――
「にゃっはははははは!」
片方しか翼がないというのに、自由自在に空を翔けるサリエラ。
そのスピードは飛行系の召喚獣にも引けを取らない。
ジュリエッタが接近戦を仕掛けようとし、その援護にヴィヴィアンが《グリフォン》を出して援護しているのだが……すばしっこく動き回るサリエラに逆に翻弄されている感じだ。
「……みゃー」
しかも相手は一人ではない。
ウリエラの方もまた、サリエラ同様に素早く動いて攻撃を回避し続けている。
「むー……うっとうしい……!」
流石にこうも回避され続けるとイライラが募るみたいだ。
ジュリエッタも決して手を抜いているというわけではないのに、二人の天使人形を捉えることが出来ていない。
単に素早いから、というだけでは決してない。
私から見るとウリエラたちは攻撃する気は全くなく、回避にだけ専念しているようだ。その上での素早さを加味すれば、このように回避し続けることも可能となるのだろう。
……もちろんそれだけでもないだろう。ウリエラとサリエラは、どうもジュリエッタや召喚獣の動きを『先読み』している節がある。
「頭数を減らしたいのは、そっちだけじゃないにゃ! うりゅ、いくにゃ!」
「……いくみゃー」
どうやら相手も同じことを考えていたようだ。
確かに数の均衡が崩れれば、それだけ有利にはなるのだ。そのくらいは誰でも思いつくだろう。
「クラッシュにゃ!!」
サリエラの方が魔法を使う。
すると、彼女の霊装――ドリル槍のドリル部分が『ギュイィィィン!』と大きな音を立てながら高速回転し始める。
「メタモル……!」
迎え撃とうとするジュリエッタだったが――それはかなり拙い!!
「下がりなさい、ジュリエッタ!」
「!?」
こういう時、ヴィヴィアンの方が慎重だ。
危険を察知した警告に、すぐさまジュリエッタも従ってメタモルを中断、後方へと飛び退る。
ジュリエッタと入れ替えに突進していく《グリフォン》たちであったが……。
「……むー……危なかった……」
回転するドリルへと触れた《グリフォン》は、跡形もなく消え去ってしまったのだ。
もしもジュリエッタがアレを受け止めようとしたら、手足が無くなるどころか一撃で体力を削られてしまった可能性もある。
スカウターによれば、あの魔法は『クラッシュ』――破壊魔法とでも言ったところか、とにかく触れたものを問答無用で『破壊』するというかなり凶悪な魔法なのである。
ユニットはもちろん、モンスターや各種オブジェクトにも有効な、シンプルでありながら強力な魔法と言えよう。
「まだまだいくにゃー!!」
「くっ……」
迂闊にドリルに触れたら危ない。
かといってサリエラはかなり素早く動き回って攻撃してくる。
その上ドリルを突き立てる必要すらない――触れただけでアウトなのだ。攻撃の動作は最小限に出来、回避の動作は今まで通り出来る……これ、結構エグイ能力だな……。
ドリルを構えたまま縦横無尽に飛び回るサリエラに追い立てられ、ジュリエッタは珍しく防戦一方に追い込まれてしまっている。
硬そうな結晶でも触れただけでバラバラに崩してしまうのだ。食らわないように回避することしか出来ない。
「……みゃー……ビルド《ゴーレム》みゃー」
「こちらも……」
召喚獣すらもあっさりと打ち砕くドリルに、ヴィヴィアンも攻めあぐねている。下手に召喚獣を出して援護しようとしても、ドリルによって粉砕されてしまっては魔力を無駄に消費するだけに終わってしまう……そして回復アイテムの制限がある対戦において、ヴィヴィアンの魔力消費はかなり致命的だ。
頑丈さにおいては比類なき召喚獣を砕くことの出来る相手というのは初めてだ。ヴィヴィアンも次にどう手を打つか考えてしまった。
その隙をついて、同じく回避を続けていたウリエラの方も動き出す。
彼女の魔法が発動すると、サリエラが砕いていた地面や結晶の欠片が勝手に動き出し、一つの『形』を作り出す。
「アニメート……いくみゃー《ゴーレム》」
続けてもう一つの魔法を使い、ビルドによって作り出した『形』――大きさは2メートル程度の人型――を操る。
これがウリエラの魔法……生き物以外を自在に操り何かしらを作り出す
ウリエラの魔法によって作られた結晶ゴーレムが前へと出て、ヴィヴィアンへと襲い掛かっていく。
どうやらウリエラには直接相手にダメージを与える魔法はないみたいだが、それを補うためにゴーレムを作り出すような能力が備わっているみたいだ。
ウリエラは自力で逃げ回るのをやめると、結晶ゴーレムの頭部に乗っかって共に行動するようにする。
もし攻撃されたとしてもすぐにウリエラは飛んで逃げることが出来るし、結晶ゴーレムによって攻撃も防御も出来る……むぅ、結構こっちも鉄壁だな……。
「むー、早く片付けて
三対三の戦いではあるが、見た目のサイズからしてウリエラ・サリエラはそこまで格闘戦で手こずるとは思っていなかった。
だから、アリスがガブリエラを速攻で倒すか、あるいはヴィヴィアンたちがウリエラたちを速攻で倒すかすれば有利に対戦が進むと当初は想定していたのだ。
しかし現実はそうはならなかった。
ウリエラ・サリエラは確かに直接戦闘力は低いものの、それぞれが強力な魔法を持っている上にすばしっこい動きで巧みに攻撃を回避し続けている。これを速攻で落とすとなると結構難しいだろう。
そして何よりもアリスの方が問題なのだ……。
「ぐあっ!?」
《バルムンク》と鍵がぶつかり合い、鍔迫り合いをしていた。
しかしついにアリスの方が押し負けてしまう。
鍔迫り合い中にガブリエラが無造作に放った蹴りをかわすことが出来ず、アリスは後方へと派手に吹っ飛ばされ、更に結晶へと背中から叩きつけられてしまう。
「うふふっ。貴女、なかなかいいですわね♪ 楽しくなってきましたわ」
「……貴様……!!」
アリスが元々そこまでパワーが高いタイプではないにしても、決して低くもない。
だというのに、ガブリエラは涼しい顔をしてアリスを圧倒している。
……これ、ひょっとしてかなりヤバい状況なんじゃないだろうか……?
ヴィヴィアン、ジュリエッタが加わってから三人揃って全力の対戦というのをしたのは実はこれが初めてではあるが、決して三人が他のユニットに劣っているとは思えない。むしろ、他のユニットに比較して理不尽に強いくらいに思っていた。
……初めての『強敵』相手に、三人は次第に追い詰められ始めていたのだった……。
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