第7章5話 エンジェル・ハイロゥ 4. "殲滅の狂姫"アリスvs"破壊天使"ガブリエラ
ガブリエラ・ウリエラ・サリエラ……。
この三人、今まで見てきたユニットの中では限りなく『最強』に近いと言える。
まぁ基本逃げ回るだけだったウリエラ・サリエラはまだよくわからないところも多いけど、少なくともヴィヴィアン・ジュリエッタの攻撃を回避し続けている点から見ても、絶対に『弱い』ということはあり得ないだろう。
ガブリエラに至っては魔法すら使っていないというのに、《
こちら側もまだ全力を出し切ったとは言い難いが……それでも相手の力は未知数すぎる。
「さぁ、そろそろギアを上げていきますよ」
相変わらずにこやかな笑みを浮かべたまま、ガブリエラが右手で鍵を振るう。
あの鍵型の霊装……打撃武器としてもなかなか有用だとは思うが、それだけではないはずだ。
「ゲート!」
ガブリエラがついに魔法を使いだす。
彼女の背後に、巨大な『門』が出現した。
ヴィヴィアンの召喚魔法みたいな効果だろうか、おどろおどろしい、まるで魔王の城の門のようなものが出現したのだ。
「あら? うーん、まぁいっか」
期待した効果ではなかったのか、一瞬不満そうな顔をするものの、すぐに気を取り直してガブリエラは門へと鍵型の霊装を差し込む。
がちゃん、と大きな音を立てて鍵が開かれ――ゆっくりと『門』が左右へと開き始める。
『門』の先には……何も見えないくらいに濃い『闇』が立ち込めている。
「……む?」
立ち上がったアリスもそれを確認するが、一体どういう効果の魔法なのか測りかねているのだろう、怪訝な表情をする。
……そこで相手の魔法を待たずに攻撃を仕掛けない、というところがアリスのいいところとも言えるんだけど……今回に限ってはマイナス方向に作用しているとしか言えない。
開かれた『門』から、真っ黒い『闇』が溢れ出し周囲へと広がっていく。
「ではでは~い・き・ま・す・わ・よ~♪」
「チッ!?」
溢れ出した『闇』がアリスとガブリエラを包み込む。
スカウターで見ただけだといまいち効果がわかりづらかったけれど、これがガブリエラの魔法『ゲート』――
さっき召喚した門は、おそらく周囲の視界を遮る『闇』を吐き出すという効果なのだろう。
……ただ、視界を遮るのは相手だけではなく、ガブリエラ本人も同じはずだ。
だからか、さっき微妙な顔をしたのだろう。
「見えないなら……全部吹っ飛ばすだけだ! cl《
『闇』に包まれ視界を封じられたアリスの出した解決策は単純だった。
四方八方全てを爆撃する《赤・巨神壊星群》であれば、周囲の視界なんて関係ない。
単純だけれど、ベストな解決策かもしれない。
「ふふっ……オープン!」
だが、ガブリエラは全く動じない。
『闇』に包まれているため私からは何をしているのかは見えなかったけれど、何か魔法を使ったようだ。
すると、彼女の周囲だけ『闇』が取り払われる。
「うーん、やっぱりこの『門』は微妙ですね~。クローズ、っと」
更に今度は別の魔法を使う。
たまたま彼女へと向かって来ていたアリスの魔法に向けて、鍵を突き刺す形で。
鍵が刺さった瞬間――アリスの放った巨星がまるで見えない力で挟まれたかのように押しつぶされて行き……特に爆発も起きずに消え去っていった。
「なに……!?」
ガブリエラの周囲の『闇』だけが消えたのだが、それはアリスの方からも見えているらしい――この『闇』、どちらかというと『闇』に包まれている部分を見えなくする効果を持っているようだ。
それはともかく、アリスからもガブリエラの様子は見えているようだ。
……驚くのも無理はない。さっきアリスが使った《赤・巨神壊星群》は、《
だというのに、ガブリエラは鍵を突き刺しただけで、爆発が起こることなく巨星は消えてしまったのだ……。
「うーん……やっぱり違う『門』の方がいいですね~」
自分に向かってきた巨星だけ消すと、ガブリエラは空中へと舞い上がり他の巨星の爆発を回避する。
ガブリエラの使った二つの魔法――『オープン』と『クローズ』。これもなかなか強力な魔法だ。
最初のオープンは自分の周囲の闇を『開き』、クローズはアリスの巨星を『閉じた』のだ。
……ちょっと効果はわかりづらいけど、魔法を外側に拡散させるのがオープン、内側に収縮させるのがクローズ、と思っておけばいいだろうか。どちらにしろ、魔法そのものを無効化させるに等しい効果だと言える。
私から見えているガブリエラの魔法は
彼女はもう一つ魔法を持っているが、ギフトと合わせてマスクされていて見えない……。
本当に、底知れない相手である。
「ext《
アリスも黙ってやられるだけではない。
ガブリエラの魔法で《赤・巨神壊星群》があっさりと破られたことには驚いたものの、それで動きは止まらない。
すぐさま自身を《邪竜鎧甲》で強化すると、自らの魔法の爆風に乗って跳び、ガブリエラへと空中戦を挑む。
……いや、でもそれは結構無茶があるような気がする。《邪竜鎧甲》はアリスのステータスを強化してくれるものの、『飛行能力』を付与することはないのだ。
対してガブリエラの方は自在に空中を飛び回れる能力をデフォルトで持っているっぽい。
空中戦は分が悪いんじゃないだろうか――私が思い当たるくらいだ、アリスは当然わかっているとは思うけど……。
でもここで《
機動力特化の《神馬脚甲》を使ったところで、空中戦をやるのはそれはそれで無謀なのだ。
「mk《
空中へと飛び上がったアリスが、自らの足元へとマジックマテリアル製の壁――いや、小さな欠片を作り出す。
ああ、なるほど。ジュリエッタの《エアステップ》と同じようなものか。
空中に一瞬だけ浮かび上がる欠片なんて、普通は足場になんてすることは出来ないが、それが魔法の産物ならば話は別だ。
アリスの魔法が欠片を作り出したその一瞬だけ、欠片は空中に固定されているような状態となる。もちろん、そのまま放っておけば重力に引かれて落っこちてしまうけれども。
その一瞬を逃さず、足場としてアリスは空中を駆け上がってガブリエラへと接近する。
「あら?」
「オラァッ!!」
アリスの行動は予想外だったのか、ガブリエラは少しだけ驚いたような表情を見せる。
……が、やはり《竜殺大剣》はガブリエラの鍵によって受け止められてしまった。
「……あら?」
いや、さっきとは違う。アリスは《邪竜鎧甲》で自身を強化しているのだ。
受け止めはしたものの、ほんのわずかガブリエラが押されているようだ。
これが空中でなければアリスが押し切れたかもしれないが……そんなことを言っても仕方ない。
「落ちろ! cl《
そして更に至近距離からの《赤色巨星》。
これはかわすことは出来ず、ガブリエラはまともに食らう。
おそらく、彼女の魔法オープンとクローズは霊装がなければ効果を発揮しないのだろう。
それを予測したアリスは、切りかかって鍵を使わせ、オープンを使えない状態に追い込んで至近距離で《赤色巨星》を撃ち込もうとしたのだろう。
戦術としては間違っていない。それどころか正しい……と私も思う。
しかし……。
「!? 嘘だろ……!?」
アリスが驚愕の声を上げる。
至近距離から《赤色巨星》を受けたガブリエラは、そのまま地上に叩きつけられる――はずだった。
「ふふ、うふふ……」
ガブリエラは鍵を持っていない方の手で、なんと《赤色巨星》を
……これ、ちょっと信じられないんだけど……。
今までもジュリエッタがメタモルやライズを使って受け止めたこともあったし、テュランスネイルの殻とかも防いだことはあったけど……。
ガブリエラはそれらとは違って特に何の魔法も使っていない、素の腕力だけで《赤色巨星》を、それも片手一本で受け止めているのだ。
「チッ!?」
アリスがガブリエラを足場にして蹴り飛ばし、距離を取る――というか地上へと降りる。
「ふふっ、やっぱり貴女、いいですわね♪」
受け止めていた《赤色巨星》を弾き飛ばした後、アリスを追ってガブリエラも地上へと降り立つ。
さほどダメージを受けた様子はない。
「ふん……なるほどな。貴様、どうやら相当な化物みたいだな」
「あら? 化物なんて酷いわ。まぁ、そういう貴女こそ……怪物なのではなくって?」
どっちも大概だと思うけど。
それはともかく――ガブリエラ……彼女、未だかつてない強敵かもしれない。
スカウターで見る限り、彼女の持っている魔法は『ゲート』『オープン』『クローズ』……他にマスクされている魔法が一つ、それとやはりマスクされているギフトだ。
使われた魔法だけを見ると、アリスのような直接攻撃をする魔法ではなく、またジュリエッタのライズみたいな強化系魔法でもない。
だというのに、素手で《赤色巨星》を受け止め、《邪竜鎧甲》で強化した一撃を受け止める……。
このことからわかるのは――ガブリエラのステータスがアリスを遥かに凌駕するほど高い、ということだ。
ついつい忘れがちだけど、これはあくまで『ゲーム』なのだ。どんなに鋭い刃だろうとも、『ゲーム』のシステム上では『斬撃属性、攻撃力XX』となっているはずだ。
であれば、その攻撃力を上回る防御力……あるいはより高い攻撃力で相殺することは可能なのだ。
ガブリエラのステータスの詳細までは見れないけれど、おそらく攻撃力も防御力も、全てがアリスを上回っていると考えられる。それも、強化魔法を使って尚……。
「言ってくれる。
……ふん、このままでは拙い、か……であれば――pl《
いかにプライドが高かろうとも、自分のステータスが劣っているという事実から目を背け続けるアリスではない。
『冥界』で使った新魔法――plをここで使う。
対象はもちろん《邪竜鎧甲》、それに加えて《剛神力帯》を
アリスの両腕の装甲が一回り大きくなる。
見た目はそこまで変わったわけではないが、強大な腕力を発揮する《剛神力帯》を合成したのだ。今のアリスの腕力ならば、テュランスネイルの殻を力だけで砕けるほどかもしれない。
「ふふっ、ゲート!」
対するガブリエラも再度ゲートを使う。
今度現れたのは……鮮やかな青い門であった。
「あら? いいのが引けましたわね」
……ふむ? どうやら彼女のゲートはランダムで効果を発揮する魔法らしい。
門が自動で開かれるが……さっきと違い特に何かが門から溢れ出すということもないようだ。
これは一体……?
「リュニオン――《ウォーター・スピリット》!」
更にもう一つ、スカウターでマスクされていた四つ目の魔法を使用する。
一体どんな魔法なんだ……?
「……これは……!?」
「ふふ、うふふ……」
ガブリエラの姿が変わっていく。
まるで全身が『水』で出来ているかのように、半透明の姿へと変わっていったのだ。
リュニオン……名前から判断すると、おそらくは何かとガブリエラを『一つにする』魔法なんだと思う。
となると、あの見た目からして効果は――
「あまり時間も掛けられませんし、そろそろ決着をつけるといたしましょうか♪」
「ふん、こちらのセリフだ!」
アリスも強化を限界まで施したとはいえ、それでようやく素のガブリエラに追いつくかどうかというところだった。
だというのにガブリエラもまた自身を強化する魔法を使ってしまった。
……この戦い、かなりアリスにとって厳しいものになる。私はそう予感していた……。
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